透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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ハッピーバースデー、私。


杏山カズサと経験者の助言

 

 

「……来ちゃった」

 

「来ちゃったね」

 

 

 

 

 キヴォトスにおけるマッシュの家とも言える場所、シャーレへとやってきたカズサ。成り行きで来てしまった形とはいえ、いざ今晩をこの場で明かすとなると、年頃の少女の頭では緊張が押し寄せて沸騰しそうになる。

 

 

 

 

「後なら、変な噂とか流れたりしない?」

 

「友達を家に連れてくるなんて普通のことだから、大丈夫だよ」

 

「ほんとかな…」

 

「では改めまして、ようこそマイホームへ。とりあえず中に入ろうよ」

 

 

 

 

 マッシュはカズサの手を引き、中へと案内する。目に映るのは、噂で何度も聞いていたシャーレの拠点となる高層ビル……これを連邦生徒会長から与えられ、現在もここに住まう立場となったマッシュの影響力が一目で理解できるという面で、カズサは圧倒されてしまう。

 

 

 

 

 

「…………あっ」

 

「え、何、どうしたの?」

 

「しまった……サオリさん達に出かけてくること言うの忘れてた」 

 

「サオリさん……って、例の?」

 

「う、うん。やばい……本当にやばばばばばば

 

「顔色がもう白とか青を通り越して紫になってる…!」

 

 

 

 

 

 夕方ぐらいに生徒に会ってくると、事前に連絡をしていなかったマッシュ。話が長引いてしまっていたこともあり、時刻は夕食や夜食の時間を当に過ぎていた。サオリはアリウス分校で教官を務めていたこともあり、時間や規律に対して非常に厳格だ。

 つまるところ――サオリは確実に、門限を破った息子を叱りつける母親よろしく、途方もない怒りとともに待ち構えているはずだった。

 

 

 

 

 

とり……あえず、こっそりと、部屋の中へ『先生』あっ終わった」

 

「随分と、夜遅くまで出歩いていたみたいだな――私達に黙って」

 

「ど、ドーモ…サオリ=サン……失礼します」

 

「先生」

 

「……はい」

 

「座ろうか」

 

「……うす」

 

 

 

 

 叱りつける3秒前としか思えない表情になっているサオリを見て、マッシュは全身を青紫に染めて冷や汗を流しながら縮こまる。気の毒に思ったのか、マッシュの不憫さを見ていられなくなったカズサが二人の間に割って入り、理由を説明した。

 

 

 

 

「あの、先生は私が呼びつけたんです。だから…悪いのは私なんで、許してあげてくれませんか?」

 

「カズサちゃん…」トゥンク

 

「……心配し過ぎて、少し冷静ではなかったな。すまないな先生」

 

「い、いえいえ」

 

「しかし次からはちゃんと連絡を入れておいて欲しい、あまりにも遅いからワカモが暴走しかけるところだった」

 

「以後気をつけます…」

 

 

 

 

 完全に我が子を心配する母親……とは違い、姉のような雰囲気を出しているサオリ。

 そんな彼女を見て『大人の女性…』と少し憧れを抱いていたカズサは、改めて自己紹介する。

 

 

 

 

「…えっと、今日一日、事情があってここに泊まらせていただくことになりました…トリニティ総合学園・一年生の杏山カズサです、よろしくお願いします」

 

「泊まり……そうか、先生の友人だったか。錠前サオリだ、ここシャーレ所属の生徒で……三年生に…なるのか?」

 

「じゃあ、先輩ですね」

 

「そうなるのか、先生の友であり――でもある、よろしく頼む」

 

「はい、どうぞよろ……………姉?」

 

「違うからね」

 

 

 

 

 

 サオリの姉発言に疑問を抱いたカズサだったが、すかさずマッシュがその言葉を否定した。

 カズサはやや遅れて『姉を名乗る不審者』の正体を知って驚愕しつつ、若干引き気味になった。

 

 

 

 

 

「何を言うんだ先生。私はレグロさんに先生を任された、そして一緒に暮らしている……これはもう実姉と言っても過言ではない」

 

「過言だよ」

 

「なら武器の方が良かったか?」

 

「同じ立場の友達ってのじゃダメなの?」

 

「待って、脳が追いつかない……先生、この人本当に先生の仲間なの?」

 

「ああ勿論、先生の仲間であり――姉だ」

 

「そこ絶対強調するんですね!」

 

「違うってば」

 

 

 

 

 

 

 マッシュの立場が心配になってきたカズサだったが、不思議なことに「きっとサオリさんは悪い人じゃないんだろうな」、という妙な確信があった。そのやり取りを見ていく中で、カズサは程なくして錠前サオリという名前に対して聞き覚えのあることに思い至る……それはかつてトリニティとゲヘナ、そしてシャーレを襲ったテロリストのリーダー──アリウス分校の生徒の名前だった。

 

 

 

 

 

「他の者はもう夜食を終え、それぞれの部屋に戻っている。消灯時間まで間もない、後で顔を出してあげてくれ」

 

「うす」

 

「……サオリさん」

 

「なんだ?」

 

「……サオリさんって、元はアリウスの生徒だったんでしたよね?」

 

「!」

 

「――少し、お話がしたいんです」

 

「……わかった。先生、少し席を空けてくれ」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 忘れたい過去、それをおそらくサオリも持っていると思ったカズサは、何かいい話が聞けないかと思い誘った。サオリの方もどことなく、何かを抱えているであろうカズサを見て、真面目に話をする事した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 ローテーブルを挟んで対面で座るカズサとサオリ。マッシュは機転を利かせてシュークリームとミルクコーヒーを二人に差し出すと、部屋から退散した。オフィスに残っているのは、この二人だけだった。

 

 

 

 

 

「さて……何から話せばいい?」

 

「相談みたいになっちゃうんですけど……サオリさんは、忘れたい過去ってありますか?」

 

「無いといえば嘘になるな、アリウス生徒として生き……悪行を繰り返して来た過去……できるものなら、忘れたい」

 

「やっぱりサオリさんも、過去を忘れて……今を生きようって…?」

 

「そうした方がいいと、先生に諭されたからな……全く、先生には感謝しかない」

 

 

 

 

 

 シュークリームを軽く食べ、カズサの相談に乗るサオリ。姉御属性というのだろうか、少し大人びているカズサを前にしても、サオリの大人らしさには敵わない。  

 

 

 

 

「そちらにもあるんだな、消したい過去が」

 

「……はい、私……過去にちょっとやんちゃしてて、自分が特別なんだとか思い込んで、好き放題やっちゃって……そんな自分が、今になって恥ずかしく思えて来て」

 

「それを忘れて、今を生きていきたい……という事だな」

 

「そうです……これって、悪い事なんでしょうか。先生と話をしていくうちにそう思えるようになって来て…」

 

「悪いことでは無いとは思う、辛いこと悲しいこと、恥ずかしいことは忘れた方が今を生きやすく、人生が楽しみやすいのは事実だからな」

 

「じ、じゃあ『しかし』」

 

「全てを忘れる……それだけは、あまりお勧めしないな」

 

 

 

 

 

 

 ミルクコーヒーを飲みながら、サオリは人生の先輩として少しのアドバイスを彼女に送った、彼女が苦しむ必要のない方向へと進むために。

 

 

 

 

 

 

「過去を忘れたい気持ちはよくわかる、だが、中には忘れたくないものもあるんじゃないか?」

 

「……少しは」

 

「ならそれぐらいは、忘れないでいて欲しい。楽しい思い出が消えてしまった瞬間……人は虚無になる」

 

「虚無…」

 

「何もかもがどうでも良くなってしまうんだ、今を生きようとする気力も、何かを打開しようと、変えようとする考えも……全てな」

 

「………」

 

「誰かと関わった記憶、それだけは忘れない方がいい……経験者は語る…というやつだ」

 

 

 

 

 

 

 誰かと関わった記憶――それはかつて自分がキャスパリーグなんて名前で好き放題やっていた時……それを止めようとしてくる者との記憶。

 

 鬱陶しく、イライラもした……でも心の底から、その者を嫌いになろうとは思えなかった。

 

 何故なら――彼女は、周りから距離を置かれている自分に対して、積極的に関わってくれたのだから。

 

 

 

 

 

「サオリさんは、関わるなと言っているのに、積極的に関わろうとする人って……どう思いますか?」

 

「……昔は、そういう奴が死ぬほど嫌いだった。自分たちのことを何も知らないくせに、痛みを何も理解できないくせに、私たちに同情して関わろうとしてくる存在……鬱陶しく思えて仕方なかったな」

 

「その人って…」

 

「どこまでもお人好しで、どこまでも愚かで、どこまでも子供思考……そう思えて仕方なかった。何故そこまで自分たちと関わろうとしてくるのか、全く理解できず……一方的に、彼を否定し続けた」

 

「否定は、やっぱりしますよね」

 

「あまりにも諦めが悪いことに私達も苛立って、心無い罵倒を繰り返して斬り掛かり、彼の友に対しても見せしめ紛いの暴挙を働き、あまつさえ毒を盛って死の淵に追いやった……今となっては、悔やんでも悔やみきれない。私は恐らく、終生に渡って自分を許せないだろう」

 

「そんな……ことが、あったんですね」

 

「あぁ………でも、その人はそれでも死の淵から立ち直ると、何事もなかったかのように私に手を差し伸べたんだ……その人がいたから、救ってくれたから、私は今こうしてここにいる」

 

 

 

 

 

 

 サオリは軽く笑い、彼の姿を思い出す。勇ましくも心優しく、素直で、強い力を持つ―彼のことを。関わろうとしてくる相手に悪意がないのなら……ほんの少しだけ、認めてみよう。それがサオリの見解だった。

 

 

 

 

 

「これは経験談になるが……杏山カズサ、お前にも、もし、そう言った相手がいるのなら、面と向かって、何故そこまで自分と関わろうとするのか、何が目的なのかをはっきりさせておいた方がいい、絶対にだ」

 

「話をしようとは思ってるんですけど……中々、相手の方も、会話じゃなくて勝負で白黒つけようとしてくるし」

 

「――それだ、その勝負を利用するんだ」

 

「勝負を…?」

 

「そうだ、昨日の敵は今日の友……というだろう?」

 

「で、でもそれ成功するんですか?」

 

「する。絶対する。私と彼はそうして出会ったんだ」

 

「食い気味…!」

 

 

 

 

 

 勝負(本気の戦闘)を得てマッシュと仲良くなったサオリにとって、この方法は絶対に成功するという確信があった。特にカズサからは、そんな雰囲気を感じ取れていた。

 

 

 

 

「まあ、その者といつまでも争いたくないと思うのなら、やってみればいいと…私は思う」

 

「………やってみないと、わかりませんよね」

 

「何事にも挑戦は必要だ」

 

「――ありがとうございます、サオリさん……私、やってみます。先生にも、ちゃんと相談して」

 

「フフッ……その勢だ」

 

 

 

 

 

 

 2人はシュークリームを食べ、ミルクコーヒーを飲みながら対談続けていく。

 

 

 

 

 

「――これから迎えるのはハッピーエンドなどではない……これから迎えるのはバッドエンド……これは、絶対だ………なんてセリフを……人前ではないとは言え……くっ」

 

「私も……そんな感じのことを言ってたりしました」

 

「あの時の私は、よくあんな恥ずかしいことを言えたなと…………うっ、こればっかりは…忘れたいな」

 

「わかります――本当にわかります!」

 

 

 

 

後輩を可愛がる先輩、先輩を慕う後輩――今日会ったばかりだが、なんとなく、2人は仲良くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

(――よし、僕も準備するか)




お待たせいたしました……仕事のミスって、キツいんですよね。

一応そろそろこのイベストも終わりです、このお話本来の目的は、原作以上にカズサちゃんとレイサちゃん、そしてスイーツ部のみんなを仲良くさせると言った感じなので、あしからず……言うのが遅い? それは……そう。


あっ、新作の方も、ぜひよろしくお願いいたします

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