「うぅ……結局いい方法が見つかりませんでした」
トリニティ総合学園の敷地内にある公園にて、宇沢レイサは1人ブランコで揺れていた。マッシュとスズミから事情を聞かされ、今のカズサのことを知ったレイサ。カズサは、過去を忘れようとしている――自分との関わりが無かった事になりつつある、という事実を。
「………彼女にとって私は、忘れたい過去の一部だった……その程度…だった……そう思うと――少し、悲しいですね……アハハ」
レイサにとってカズサは、自警団以外での知人……友と認められてなくとも、自分との関わりがある唯一の人物。そんな彼女が自分を忘れようと、今までのことを無かった事にしようとしている……その事実は、かなり心にきていた。
「……ま、まあでも、仕方ありませんよね。人は変わるし、杏山カズサにとって私はただの……迷惑人…って事でしょうし……――もう諦めて」
「スゥゥゥゥゥ……宇沢レイサぁぁぁぁぁぁ!!!」
「わぁ!?」
突然自分の名前を呼ばれ、驚いたレイサはブランコから落ち地面に尻餅をつく。「一体誰が自分の名を…?」と思ったレイサは声の方へと顔を向ける。
「きょ、杏山カズサ!?なんでいきなり私の名を……ってその格好は!」
「もう着たく無かったんだけど……今回ばかりは、仕方ない。キャスパリーグ……一時的に、復活…的な感じで……よろしく」
「え、え?なんでいきなり、え?」
「色々説明したいけど……まずは――フンッ!」
「アイタッ!――これって…挑戦状…?」
かつての呪われた姿、怪猫キャスパリーグの格好で突如としてレイサの前に現れたカズサ。よくあるスケバン姿、その状態のまま彼女はレイサの顔に向かって挑戦状を叩きつける。
「今日の昼、その紙に書かれている場所に来て……そこで、勝負を申し込む」
「ど、どうしていきなり?」
「色々あるの!……勝負の内容は……ただのスイーツ作り、審査員に私たちが作ったスイーツを審査してもらって、より高い点数を取った方が勝ち」
「スイーツ作り…?……え、ええ!?いきなりそんなことを言われても」
「散々勝手に勝負を挑んできたんだしお互い様でしょ!――とにかくそこに来て!以上!」
「待ってください杏山カズサ!どうしていきなり私と勝負を………ってもういない‼︎」
カズサは言いたいことだけ言ってその場から退散、レイサは困惑し、しばらくその場で座り続ける…が、叩きつけられた挑戦状を手にし、中を見る。
「場所は……〇〇広場、時刻はお昼過ぎ……ホントに、どうしていきなり勝負だなんて―――っ、いえ」
レイサは考えるのをやめ立ち上がり、カズサの勝負を受ける事に決めた。理由がなんであれ彼女がまた自分と関わってくれたのは事実……このチャンスを逃す手はない。
「待っててくださいね杏山カズサ!今日こそあなたに………勝って見せます!!」
カズサとの勝負に胸を躍らせながら、レイサは広場へといく準備を整えていくのであった。
――――――――――――――――――――――
「――さあ始まりました、第一回スイーツ作り対決。実況、並びに審査を務めるのはこの僕、"シュークリーム my love"のマッシュ・バーンデッドと」
「え、えっと……成り行きで参加することとなりました、守月スズミです」
「カズサちゃんを助けようと色々準備してたけど、必要がなくなった私アイリと、ナツちゃん、ヨシミちゃんの三人がお送りします――が、頑張ろうね2人とも!」
「ちょっと待って!?その前に説明して!?なんでいきなりカズサとあのレイサって子がスイーツ作り対決をする事になったの!?」
「長年の因縁を血を流しながら解決するのではなく、スイーツ作りという可愛らしいもので終わらせる……フフッ、考えたね先生」
「ホントにこれで解決するの…?」
トリニティの敷地内にある広場、そこにはちょっとしたコンテスト会場のようなものが作られており、二つの台所が左右に用意され、それぞれの場所にコック姿のカズサ・レイサが立っている。
2人の近くには長い長い台所があり、とにかく使えるだけの材料が揃っていた。
その解説をするような形で椅子に座っているスイーツ部三人とスズミ、そしてマッシュ――そして広場の真ん中にポツンと座っているのが。
「審査員はタダでスイーツが食べられると聞いて飛んできた、正義実現委員会・副委員長の羽川ハスミさんに行ってもらいます」
「朝とお昼ご飯を抜いてきたのでお腹がぺこぺこです」
「何引き受けてんのあの人!?」
「むっ、あれが噂の『スイーツモンスターハスミ』か……これはかなりの強敵だな」
「トリニティ内で人に変なあだ名をつけることでも流行ってるの?」
涎を垂らし「早くスイーツを!」と言わんばかりの顔で座っているハスミ、もうツルギに怒られてもいいのでスイーツが食べたい、それしか考えていない目だった。
「まさかスイーツ作りで、勝負するなんて……考えたこともありませんでした」
「私も……てか、こうやってあんたと真剣に勝負すること自体……夢にも思ってなかった」
「――今日こそは逃げないでくださいね、杏山カズサ!どんなものであれ勝負は勝負、今日こそ決着をつけます!」
「……もう逃げないって決めたの、ぶつかって真意を、あんた自身を見極める……だから――かかってこい!」
互いに互いの思いをぶつけてやろう、そんな思いを胸に始まったスイーツ作り対決。早速マッシュは、最初に作ってもらうスイーツを発表。
「最初に作ってもらうスイーツは……こちら、パフェ」
「王道中の王道だね」
「結構な難易度だと思うけど……」
「あっ、レシピは最初からあるので、それに沿って頑張って作ってね」
「親切ですね」
「それでは――初め」
マッシュの合図と共に、カズサとレイサは互いにマッシュが用意したレシピを見ながら、最初のお題パフェを作ってゆく。
「おっと、カズサ選手は王道パフェ、苺パフェを作っていくようですね」
「対してレイサさんは……ミックスパフェでしょうか、とにかくたくさんの果物を切って行っていますね――持ち方と切り方がとても危なっかしいですが」
「カズサの方は……アレだね、切り方は完璧だけど、生地を作るための材料を混ぜる動作があまりにもガサツ……流石はキャスパリーオゴゥ」
「次それ言ったら本気で怒るから!」
「カズサさん、審査員の口に果物を突っ込む行為は規定違反ですのでご注意を」
「…んもう!」
レイサの方は不器用ながらも持ち前のエネルギッシュでそそくさとパフェ作りの工程を進めていき、カズサは不器用ながらも慎重にことを進めていき、2人は真面目にパフェを作って行った。
「……ねえ先生、これであの2人が仲良くなれると思う?」
「少なくとも,今の関係よりかは良くなるはずだよ」
「ずっと喧嘩してたのに?」
「喧嘩するほど仲がいいってよく言うでしょ? ホントに仲が悪い関係だったら、もっと陰湿で、そもそも話してたりしないからね」
「何それ……経験談?」
「マジかで見てたからさ、そういうのわかるようになっちゃったんだ。今まで2人の関係性が良くならなかったのは…『互いに互いのことをちゃんと分かってなかったから』だと思うんだ」
「……片方は一方的に決めつけ、片方は一方的に避け続けていた……成程、だから今回の勝負を……でも、何故スイーツ作りに?」
「ある人に教えてもらったんだけど、料理を作る人は、その作る工程によってどんな人か分かっていくって」
「ほう?」
「たとえば、ほら」
マッシュはカズサの方に注目させ、ある長期間の労働を余儀なくされている料理人の言葉を,そのまま彼女らに伝えていく。
「カズサちゃんの切り方を見て、レイサちゃんはそれを真似ていて。逆にレイサちゃんの豪快な動きを、丁寧に見て,それをカズサちゃんが真似ていたりしている」
「……これってつまり」
「そう――この料理はいわば、互いのことをよく理解し、よく知るための工程なんだ」
「先生――少し感心しました、まさかこれほどの策を用意しているとは…………ん?」
「料理は人をつなぐ、いい文化だね」チラッ
(――違う、あまりにも難解な言葉が並んでいるから、カンペをチラチラと読みながら解説をして行っている! 多分作戦自体は単純に料理を作って仲良くなろうだったんだけど、それだと味がないから……なんとか難しい言葉を引っ張り出して知的に見せているんだ!)
たかだか料理、されど料理。人のことを知るのなら、まずは相手の動作を見るべし……ある人がマッシュに教えた物である。
関係性を変えようにも、相手を知ろうとしなければ話にならない……2人は相手に対し『決めつけ』を行っていた――今回の料理はその決めつけを正すために行なっていたのだ。
(……あいつ、熱血バカだけど…ちゃんと次どうするかとか、一つのことに集中して真面目にやってる……ホントにただの猪突猛進な子じゃなかったんだ)
(杏山カズサ――昔よりも冷静で、横暴でも適当でもなく,真面目に真剣にパフェ作りに専念してますね……以前の彼女ならそもそもこんなことしなかった………やっぱり,心を改めて…)
2人は一言も喋らないが、心の中で何度も相手のことを褒めていた。お互い誤解だらけの関係性――今この瞬間が、それを正すチャンスなのだと、2人は確信しながら、パフェ作りに勤しむのであった。
(――……実は最近また体重がかなり増え、ツルギに怒られてしまって,食べてはダメだと釘を刺されていたのですが――――後輩の友情を育むためには仕方ありませんよね!!)
歳をとるのが嫌になってきた作者です……今年中にパヴァーヌ二章行けるか怪しくなってきました。どうしよう。
百花繚乱後に見たい話
-
まだ交流がない生徒との話
-
アイデェア箱から選んだお話
-
ラビット2章
-
愛が重い生徒との話