マッシュ・バーンデッドとあらぬ誤解からのスタート
「――お待ちください門主様!」
「いいや、待たぬ」
龍の柄が入ったマフラーと共にロングコートを肩に羽織った少女が、自分の目の前を歩いている小柄な少女を必死呼び止める。しかし小柄な少女、竜華キサキは足を一向に止めず歩み続ける。
「今回はあくまでも我が校の問題!部外者をこの問題に関わらせるなんて、私は反対です!!我々の問題は我々で解決すべきです!!」
「一理ある。しかしのミナ……今回ばかりは、そう言ってはいられぬ。内部で解決できないから、他から手を借りるしか無いのじゃ」
「だとしても……あの、よりにも寄ってあのシャーレの先生を頼るなどと!―……何度でも言いましょう、あの男は危険極まりない存在です!」
その言葉にキサキは足を止め、振り返る。ミナと呼ばれた生徒は、必死に抗議する。
「いくら門主様といえど……今回ばかりは、賛同できません。貴女もよく知っているはずです――あの男の危険さを。それに、あの記事を見たでしょう!!?」
「……ミナ、その件は何度も話をしたはずじゃ。シャーレの先生は人情に厚く、誰よりも優しく誰よりも強い……妾に危害を加える様な相手ではないと」
「何故そう言い切れるのですか――あの男は、犯罪者どもを手駒にしているのですよ!? それも……それも、あの女と同じ七囚人の1人を!」
「しかし多くの者を救い、導いているのも事実じゃ。それにシャーレとはあの連邦生徒会長が作り上げた物……これを機に、外部と上の者達とも交流をするのも、これからの山海経に必要なことなのじゃ。……これは決定事項、覆ることはな――ケホッ、ゲホッ…!」
「門主様!」
突如咳き込み、地面へと手をついてしまうキサキ。ミナはすぐさまキサキの元へと向かい、彼女を支える。
「今、救急を…!!」
「良い……良いのじゃ」
「しかし…!」
「いつものことじゃ……もうじき、先生がここへ来てくれる……さすれば、我が校も救われる」
「…………っ」
「…ミナ、妾を思うてくれる気持ちはありがたいが――少し熱くなりすぎじゃ、お主らしくもない」
「………申し訳、ありません」
「分かれば良い、分かればの……ケホッ…っ…コホッ…」
キサキはひどい咳をしながら立ち上がり、ゆっくりと前へ進んでゆく。たとえ己の体が病に侵されようと、動けなくなろうと、彼女は足を止めることを許されない――何故なら彼女は山海経高級中学校、その
(例え妾が消えようとも……きっと、あの者が)
己よりも山海経の為、そこに住む全ての者たちのため、彼女は働き続ける。――いつか必ず、先生が自分の代わりに、皆を救ってくれると信じて。
(あの男の力は危険そのもの……絶対、絶対に――門主様に危害など加えさせない。例え我が身を犠牲にしても……必ず!!)
シャーレ・オフィス内
「何故トレーニングをするのか?ですか……」
一つのスポットライトが、マッシュ・バーンデッドを照らしている。彼は前かがみでソファに座っており、ドキュメンタリーめいた真剣な表情で言葉を告げていく。
「始まりはじいちゃんに言われたからでした。最初は重いし疲れるし、すごく嫌でした……でも嫌々やっているうちに持てる重りが増えてきて、今では胸を張って言うことができます。僕が筋トレをする理由……それは――」
ターーン♪
「そこにダンベルがあるから……ですかね」
「なんですかこの状況」
部屋の明かりがつき、スポットライトでマッシュを照らしている早瀬ユウカと、何故がバイオリンを弾きはじめる秤アツコの姿が目に入った七神リン。
「〜♪」ギギギギィィィーギギギィィ!!*1
「アツコさん弾けてません。それもう音色じゃなくて悲鳴ですよ」
「何故人間に腕がついているか知ってますか?それはダンベルを持つ為です」
「違いますよ? あと誰に向かって言ってるんですか?」
「何故人間に足がついているか知っていますか? それはバーベルを担ぐ為です」
「ぜんっぜん違う!!」
「〜♪」キキキッギギギィィィ!!
マッシュとアツコの謎行動にツッコミを入れまくるリン、シャーレ所属生のリーダーであるサオリや、こういった場を収めているミサキやヒヨリ、ニーナといったメンバーは用があり、少しシャーレを離れている。実質、ツッコミはリンたった一人の状態だ。
「何故重い女であり続けるか、ですか?」
「2人目始まった…!」
また部屋が暗くなり、今度はいつの間にか待機していたワカモの方へとスポットライトが当てられる。その顔は本気、ハイライトが入っていない。
「最初は、全然重い女ではなかったのです」
「嘘を言わないでください」
「でも次第に、相手の行動を一喜一憂する様になって……」
「もともとでしたよね?」
「そんな私が重たい女であり続ける理由があるとすれば、それは――」
ターーーン♪!!
「そこに愛しているお人がいるから、ですかね」
「なんですかこの無駄に流れるだけの時間………それから、ユウカさん、貴女はさっきから何をやっているのですか」
「勢いでこうなっちゃったのよ」
「流されすぎですよ!」
「仕方ないでしょ!?いきなり『爆熱大陸』*2の真似がしてみたいだなんて言うから!」
「ちなみにこのバイオリンの価格、軽く6桁は超えてました」
「お小遣いの無駄遣い!!」
久しぶりのツッコミ。最近はあんまりしていなかったので忘れていたが、マッシュがいる空間ではこう言うふうな空気がずっと流れていたのだ、と再認識したリン。しかしこの空気も、悪くないのではとも考えていた。
「――あっ、そういえば今日、山海経高級中学校にお邪魔する予定だったの忘れてた」
「山海経……っていうと、色々と黒いって噂の?」
「トリニティぐらい?」
「流石にそこまでじゃないわよ」
「最近はあまりいい噂を聞きませんね……『麻薬の取引を行っている』だなんて噂もよく聞きます。――貴方様もどうか、厄介事に巻き込まれた際には無理をなさらない様に」
「了解」
マッシュはそそくさと身支度をし始め、ワカモもそれを手伝っていく。そんな中リンは少し迷いながらも、彼にあるものを見せる。
「先生……こちらを」
「どれ?――『シャーレの先生、超危険な筋肉で他校を手中に収め、キヴォトス全土征服を画策』……なんだこれ」
「先日、キヴォトス中に発信されたネット記事です……すぐさま連邦生徒会の権限で記事を消去しましたが、少なくとも何人かの目には止まってしまったでしょう」
「――ネームバリューに
荒唐無稽なゴシップ記事、「マッシュがキヴォトスをその筋力で支配しようとしている」といった身も蓋もない虚贋の記事をつらつらと書き連ね、金を稼ごうとしている……そんな会社に、ワカモだけではなくその場にいた全員が怒っていた。
「こう言うゴシップ記事を作る人達の人間性を疑うわ………儲かればなんでもいい、そんな汚い思考しかできないだなんて……クロノススクールを見習って欲しいわ」
「どうする先生、この会社〆る?」
「そんなことしなくてもいいよ。僕どうでもいいし」
「ですが先生、おそらくこの記事は、貴方が今から向かう学園の生徒達にも目に入っていたはず……それでも向かうのですか?」
「僕はそんな事をしない、リンさんはそう信じてくれますよね?」
「当たり前です」
「なら、それで十分です」
マッシュは大型のリュックサックに荷物とトレーニング道具を詰め込んだあと、それを担ぎ扉の方へと向かっていく。
「誰か1人でも自分を信用してくれる人がいる、それだけでもう十分です。それにほら――そういう誤解を力づくで取っ払うのが、僕のやり方なので……それじゃあ行ってきまーす」
「あなた様、お気をつけてー!」
マッシュは手を振りながら外へ出ると、今回の目的地・山海経高級中学校へと向かっていくのであった。彼の姿が窓から見えなくなってきた頃、リンはとある提案をする。
「先生はああおっしゃっていましたが――被害が拡大する前に、根本を断つと言うのはどうでしょうか」
『異議なし』
恩人に手を出したらどうなるのか――知らないわけではないであろう。そんな思いで彼女らは動いていくのであった。
「――これから始まる物語は、本筋のほんの序章に過ぎない」
「これからさまざまな事が、この序章では起きるだろう……笑い? 結構。涙? 結構。友情、努力、正義…結構。……いくらでも、そんなくだらないものを育むといい――しかし」
「最後に待っているのは、君の勝利ではない……この私の、私と言う悪の勝利――つまりはバッドエンド」
「さあ魅せてくれ先生、君の可能性を……君のその無機質な表情が崩れ、怒りに満ち溢れ、暴力の化身となる……そんな姿を……ククッ、フハハハハッ!!」
「裏でじっくりと見せてもらうよ……君の、肉体をね」
すげぇ今更なんですが、カイさんってマッシュ君の地雷踏み抜いてません?
ベアトリーチェほどじゃないでしょうけど
励みになりますので、これからもUA、コメント、どうぞよろしくおねがい致します
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