「……こちら
「猫に小判って必要?」
「燃やしましょうか」
「お前達散々言いすぎだろぉ!! そもそもいきなり現れ―─」
「何か言いましたか? このクソ猫」
「いえぇ!!? なんでもありません!!!」
現在、シャーレの生徒達は、例のトンデモ記事を書いた会社へと足を運んでいた。以前なら銃を片手に爆破だろうがなんだろうが、手段を問わず会社を襲っていただろうが…今回はマッシュにこれ以上の悪評や誤解が広まる事態を防ぐため、あくまでも単なる"訪問"を行うのみになった。
そして、主犯である社長を見つけて拘束した彼女たちは、ヴァルキューレと連邦生徒会の双方から許可を得て、会社内を徹底的に調べ上げ、今に至る。
「それで、なんの目的であんな記事を書いたの。ちゃんと、一から十まで話してもらおうか」
「こ、こんなことをしてただで済むと思っているのか!? 上の連中が…」
「ヴァルキューレと連邦生徒会からは許可を得ている。『死ぬ気で調べてとことん追い詰めろ』、とも言われた」
「ふ、ふざけるな…! 所詮シャーレなど、拾われた不良の吹き溜まりのくせに…! 職権濫用だ、越権行為だぁ!!」
「やかましい、そもそも上がここまで動くことになったのは自業自得でしょ。あんな記事書いたそっちの責任」
「うっ…言わせておけばぁ…!」
先にちょっかいを出して来たのはあちら、ならばこちらはやり返すだけ。目には目を、歯には歯を。これぞキヴォトスの不文律。酒樽のように肥えた猫の獣人を縄で縛り上げたサオリは、叩きつけるように床へ転がす。
会社内を色々と調べていくうちにわかったのは二つ。一つはこの会社がグレーどころか真っ黒ということ、もう一つは――誰かと取引を行っていたということ。
「違和感は最初から少しあった。そもそもあんな記事を書くメリットが、この会社には無いと言うことだ……誰かに書くことを強要されていたが、それとも断ることができない理由でもあったか……そのどちらかだな」
「し、知らない‼︎ 私は何も知らないぞ‼︎」
「まだシラを切るつもりですか……仕方ありませんね」
「な、なんだ、拷問でもする気か⁉︎ 言っておくが、そんなことをすれば記事の内容が裏付けられるだけだ! お前達だって
猫獣人は強気でいた。これでも長年大人の社会で生き、他を蹴落として伸し上がってきたことで、自らを強者だと勘違いしている典型的なキヴォトスの"悪い大人"だ。彼はこの状況になってもなお、「そんな自分がたかが子供に負けるわけがない」「文字通りの子供騙しで口を割るわけない」、と心の底から思っていた。
「例え腕をもがれようと、私は何も…――おい、そこのピンクのガキ、その左手に持っているのはなんだ…?」
「お刺身のお皿」
「なんで…?」
「ねえ、貴方ってお刺身は好き?」
「ま、まぁ……」
「ならよかった♪これ私からの謝礼、アポ無しで来ちゃった負い目もあるし♠」
「は……はぁ…?」
「いきなり何を言い出すんだこいつは…?」と困惑していたのも束の間、アツコは胸元に手を入れると、マッシュがシュークリームを取り出すときと同じように、そこから"あるもの"を取り出した。
「―――ハチミツ?」
「これを……えい♪」
「なっ―貴様、何を考えている⁉︎ 刺身はそうやって食うものではないだろ!?」
「ねぇ、お魚好きなんだよね? なら、はい、これをあげる。アツコスペシャル……多分美味しいよ?」
「正気か!!?!?」
刺身の上にハチミツをかけるという暴挙、はっきり言って気が狂ったとしか思えないソレを、アツコは伏せられた猫男の前に差し出した。当然、このようなゲテモノを食べられる舌の持ち主がこの場にいるわけがなく*1、猫男は必死になって抵抗を始める。
「や、やめろ貴様!!」
「食べたくないなら答えて、誰に頼まれてあんな記事を書いたの? そもそもなんの目的で?」
「そ………それは………っ言えない…」
「ふーん……ワカモ、口開けて固定」
「了解です♪」
「わー待て待て待て‼︎ な、なぁ、頼む! 勘弁してくれ! あれを話せば我が社は終わりなんだ、これが最後のチャンスなんだ…!!」
「もう終わってるようなもんでしょ」
「と、とにかく言えない‼︎ 例え何をされても――」
「言わないと、このお刺身をあなたの████にねじ込むよ?」
「あっ、話します」
遂に猫男は観念し、洗いざらい全てを自白した。そして、それを聞いたシャーレの生徒達は絶句した。真犯人の目論見はあまりにも残酷であり、非道でもあり──
「バカだ」
「おバカだね」
「無謀でしょ」
「相手が悪すぎますね…」
「嗚呼あなた様…! ご安心を、あなた様の身と名誉はこのワカモがお守りいたします!!……それはそうと、犯人は大間抜けですね」
──あまりにも無謀、あまりにも相手が悪すぎる物であった。
――――――――――――――――――――――――
場面は変わり、崑崙山・門前。マッシュ&玄武商会Top2 vs 近衛ミナ&玄龍門執行部。開始早々ミナがマッシュの方へ向かって突っ込んでいき、それに釣られて構成員達も走ってゆく。
「先手――必勝」
マッシュは地面に向けて拳を放ち揺らした。勢いのまま駆け出していた構成員達は衝撃に足が揺らぎ、将棋倒しとなって地面へと倒れてしまう。しかし、ミナだけは倒れずに踏みとどまっていた。
「っ、地面を揺らすとは…中々どうして、やってくれる!!」
ミナは愛用武器・玄龍&白虎という名の二丁拳銃を走りながら構えマッシュに向けて発砲。マッシュは避けることなく銃弾を素手で掴み取るが、それを狙ったミナは姿勢を低くしたまま、マッシュの懐まで飛び込んで足を蹴り上げる。
「あぶね」
「まだまだ!」
「させません…‼︎ 会長は倒れている者達の確保を!」
「わかった!」
蹴り上げた足を、そのままマッシュの顔に向けてかかと落としを繰り出して来たので、レイジョが割って入りその足を両手をクロスさせて防ぐ。
「…やるな」
「そちらも、いい重さです」
「重…⁉︎私は太ってはいないぞ!!」
「そういう意味ではありま……せん!!」
クロスさせた手を振り払うと、ミナは空中へと後転しながら発砲。レイジョはそれを避け、ミナの足元へと入り拳を振おうとする
「――戦う時も、クールさを忘れずに」
(私達の拳を、踏み台に…!)
「なおかつ強力に!」
落ちる自分へ向けて放たれたその拳を踏み台に、もう一度空へと舞うミナ、そこから回転を加えた360°キックをレイジョに向けて放つ――それを防ぐのは我らがマッシュ。
「させぬ」
「っち‼︎」
彼は飛び蹴りでミナの足を蹴り飛ばし、そのまま後方へと飛ばす。体制を立て直しながら地面へと足をつけながらも静止、両手に持つ拳銃を横に構えながら、マッシュ達を見る――のだが
「……ふっ、なかなかやるではないか――さすがはキヴォトスの英雄、その名に恥じぬ力だ」
「足めっちゃ震えてますけど?」
「武者震いという奴だ」
「汗かきまくってるじゃないですか……もしや先生の蹴りがいいところに入ってしまったのですか?」
「違う、この程度で――このていどでわたしはやられない…‼︎」
「泣いてるじゃないですか」
蹴りを行った際、かなりいいところに足が入ってしまったのでミナは涙目になる。さっきのスタイリッシュな動きと振る舞いはどこはやら、必死になって涙を隠しているのがどこか痛々しくも思える。
「んじゃ、これで全員……ねえミナ、もうやめない? さっきのでわかったでしょ、先生には勝てないって」
「まだそう決まったわけではない、決めつけはやめてもらおうか」
「その顔と足でカッコつけても意味ないってば」
「クールとは……そういうものだ、それに世の中なことは我慢すれば大抵どうにかなる‼︎」
「それだめな考え方ですよ?」
「ううぅうるさい!」
ミナは震えている足を必死になって止め、気持ちを持ち直し、もう一度二丁拳銃を前に構える。
「私は門主様の右腕、ボディーガード……そんな私がこんなことで倒れるなど、断じてない!! 例え何があっても、私は倒れない!!」
「なんかくっころ感がすごい」
「どこで覚えて来たんですかそれ」
「シャーレの先生なんぞに、私は負けない!」
「そのセリフはまずいよ!!」
ギャグらしく抜けた具合はあるものの、鍛えられたミナの強靭さは本物だった。門主たるキサキへの敬愛と忠誠心、それがある限りミナは倒れず屈しない。文脈だけ見れば、完全に女騎士だが……それは置いておいて、このまま戦闘を続けて彼女を止めるのもいいが、マッシュは彼女を最低限傷つけない方法を模索していた。
「貴方はキサキさんにとって大事な存在です、だから最低限傷つけません」
「舐めたことを言ってくれるな……生徒相手に本気を出せない、とでも言いたいのか?」
「そうとも言う、まあ時と場合によりますけど」
「――ならやってみろ、そんな方法があるのならな‼︎」
ミナはマッシュに向けて発砲、そしてまた近づこうとするが――そこにはもうマッシュの姿はなく、呆気に取られているレイジョだけしかいなかった。
(奴はどこ――『捕まえた』…―!?)
「気配って意外と消せるもんなんですよ」
発砲されたと同時に、マッシュは服を脱ぎ捨てミナの背後に回った。服が脱がれていることに気づかない速さ、あまりの速さにルミもレイジョも、ミナも驚いて思考と行動がフリーズしてしまう。
「所でミナさん」
「っなんだ…‼︎」
「高いところって平気ですか?」
「……はっ、何を言って――」
次の瞬間、ミナの体が宙に浮かんだ。それも少しの距離とかではなく――地面が小さく見えるほどの高さにまで飛ばされていた。
「ウワアアアアァァァァァァッッ!!!!??!?!?」
『隊長ぉォォォォ!!!!??!??!?!??』
「たかいたかーい……なんて」
「先生飛ばしすぎです!! ミナがもう地上から見えません!!」
「うーん……あれは結構怖いなぁ」
まっすぐ、一直線に落ちてくるミナ。勢いよく飛ばされたのでうまいこと体勢を整えられず、慌てふためきながら落下。
「――我が魂は!! 玄龍門と共にありぃぃぃぃ!!!」
爆弾が落ちたような衝突音と共に、ミナは地面へと叩きつけられて意識を失った。落下点にはクレーターが形成され、ミナはその中央で横たわっている。しかし相手は玄龍門No.2、気を失う程度の傷で済んでいたのは確かな強者の証だ。
「……一瞬で終わっちゃったね」
「違和感は感じます、まるで……本気じゃなかったような」
「まあその辺は後で教えてもらいましょうよ、今は……とりあえずここから運び出しましょう」
「…そうだね」
斯くしてマッシュ達はミナに勝利した…しかしそのあっけなさがあまりにも不自然であり、謎がまた増えてしまった。
オチが無い、そろそろ本気でオチのネタが無くなって来た……
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