透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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マッシュ・バーンデッドと酔拳

 

 

『"魔法界の異端者"ッテ呼ンダ方ガイイノカナ?』

 

「異端者……?」

 

「……何でそれを知ってるんですか。少なくともそれを知ってるのは……エデン条約に関わった人や、アビドスや便利屋の皆…じいちゃんと話したことがある人だけです」

 

『サァ、なんでだろうねえ』

 

「……異端者云々は後で説明してもらうとして、これは何の真似じゃ……カイ」

 

 

 

 

 

 七囚人、かつてワカモにもそのあだ名がついており。カイと呼ばれる生徒もその一人で五塵の獼猴の名を持つ、七囚人の中でもとびきりやばい存在である。

 

 焦点の合っていない目をしながら、ゆらりと立っている主犯格の生徒。その首元には異形の蟲が噛み付いており、そこからカイの声が発せられているらしい。

 

 

 

 

『ヤァキサキ! 久シブリダネ………体ノ調子ハドウダイ?』

 

「…おかげさまで最悪じゃよ」

 

『ソレハヨカッタ、チャント薬ガ効いてイルミタイダネ。アレハ我ナガラ自信作ダッタカラネェ』

 

「……貴様……よくも、そのような…!」

 

 

 

 

 

 怒りにまかせてミナ、しかしそれをレイジョが手を掴み静止。ミナはレイジョに振り返るが──

 

 

 

 

「っ……」

 

(――ッそうだった……相手は、あの…カイだ。レイジョは彼女のことを詳しくは知らないとは言え……武闘家として、その本能が叫んでいるんだ――奴は危険だと)

 

『オヤ、飛ビダシテコナイノカイ?…オシイナァ』

 

 

 

 

 飛び込めば殺す、そんな圧を匂わせレイジョとミナを彼女は静止した。そんな中一切の怯みを見せないマッシュは呟く。

 

 

 

 

「七囚人……ってことは、ワカモちゃんと同じ?」

 

『アンナ破天荒デ、無茶苦茶デ、頭ノオカシイ狐ト同ジニシタイデモライタイネ』

 

「おいコラ、僕の大事な人になんてこと言うんだ」

 

『大事ナ…アァ、ソウイエバ駒トシテ扱っテイルンダッタネ、失敬失敬』

 

「……訂正しろ。ワカモちゃんは駒じゃない、大事な友達だ」

 

『友達……私ガ言エル事ジャナイガ、友ハ選ンダ方ガイイヨ?フフフフッ』

 

 

 

 

 

 とことん人を小馬鹿にするカイ、しかしここで飛び出してはいけない。マッシュは内にある思いを抑え込みながら、彼女に質問。

 

 

 

 

 

「僕のことについてはどうでもいいんです…カイさん、でいいんですよね。なんでこんなことを?」

 

『色々ト説明ヲシナケレバイケナイガ……ソノ前二――』

 

「ガッ、アガッ…‼︎」

 

 

 

 

 首元についている蟲が動き出すとともに主犯格の生徒が苦しみ始め、再び脱力してからすぐに立ち直り、焦点をまっすぐにしたまま、人形のような無表情になる。

 

 

 

 

『これでいい、実にいい。……この蟲、素敵だろう? 私がうまいこと調教してね……私の意のままに動いてくれる。この蟲の動きは、私の動きと思ってくれていい』

 

(言葉が鮮明に……)

 

「カイ……先輩、先輩に会えて嬉しいのだ……でも、一つ聞きたいのだ……あの植物を密売させて、手に入れて……何を作っているのだ?」

 

『君ならよくわかっているんじゃないか?――天地をひっくり返す…とは言わないが、そこにふんぞり帰っている竜を地に落とす……そのための薬作りさ』

 

「……カイ先輩」

 

 

 

 

 

 残念そうな顔をしながらサヤが呟き、それにカイは反応。カイはもともとサヤの先輩であり、彼女が尊敬している先輩というのがカイである。

 

 

 

 

『もう先輩じゃないよサヤ……でも嬉しいよ、私が植え付けたマンドラゴラを、君は上手いこと培養してくれたからね』

 

「あの変な植物は貴女が…!?」

 

「……わざと見つかるような場所に植え付けてサヤに採取させて、そこで培養…薬のあれこれを私に作らせる……ここまで計算済み?」

 

『さあ、どうだろうね。少なくともマンドラゴラの培養方法はわかった時点で、もうサヤには用はない』

 

「まさか――僕様のところにも裏切り者が!?」

 

『その通り……人気者は困ってしまうよ』

 

 

 

 

 

 踊らせれていた、サヤは少し傷ついたのか俯き、そんな彼女をルミが抱きしめて慰める。キサキは鋭い目線を向けながら強く言い放つ。

 

 

 

 

「其方の目的は、其方を山海経から追放した妾への復讐か?」

 

『最初はね……でも今は――君なんてどうでもいいんだ、キサキ』

 

「なんじゃと?」

 

『地に落とすのは、ただただ私がやってみたいだけ、そこに恨みなんてない……私の目的は、…君さ、マッシュ・バーンデッド』

 

「貴方も僕の体目的なんですか?」

 

(字面がひどい)

 

『そうだ』

 

(そうなの!?)

 

『君の体は特別も特別、並のキヴォトス人を上回る存在。そんな……そんな君の体が、私は欲しい』

 

 

 

 

 

『僕の体ってほんっとになんなんだ』と少し呆れやうんざりの気持ちが増えてきていたマッシュ、生まれつきとはいえ、鍛えたとはいえ、そんなに欲しいか…?と。

 

 

 

 

『君のその肉体に、私の作ったありとあらゆる薬を試したい。神秘を超えた、神の肉体……それは私の薬を使った瞬間、どんな反応に、どんな効果が、どんな結果が出るのか……それを私は知りたいのさ』

 

「そんなに薬が好きなら、自分の体で試してみればいいのに」

 

『残念ながら、私の体ではもう面白い結果は出なかったんだ……所詮はキヴォトス人、よくある反応しかしなかった』

 

「――己の体を、もう使ったのか!?」

 

『当たり前じゃ無いか、使えるものはなんでも使う……それが私だ』

 

 

 

 

 

 引きを通り越して絶句、カイはもうすでに自分の体を薬の被験体にしていた、しかしそれでは面白い結果が生まれなかった為……マッシュの体を欲していた。

 

 

 

 

『私は知りたいんだ、私が生涯をかけて作った薬が君に通用するのか。どんな効果が得られるのか、どんな結果になるのか―――私はただ‼︎それが知りたい‼︎』

 

「キヴォトスの悪人って変態しかいないのかな」

 

『せっかく魔法界から君のようなイレギュラーが来てくれたんだ、試さない手はない。――先生、私には君が必要なんだ、生徒を頼み聞く…それが先生の仕事なんだろう? なら是非、私の頼みを――』

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしな!!!」

 

 

 

 

 

 

 突然怒号を飛ばすルミ。その表情は、普段の優しい会長でも料理長でもない、義憤に震える者の表情だった。

 

 

 

 

「さっきから、ペラペラと……先生を、物みたいに……先生の命をなんだと思ってるんだ!?」

 

『……君には興味がないんだ、ルミ。黙っててくれないかい?』

 

「魔法界だが、異端者だが知らないけどね――この子は私の友達だよ……それ以上変なことを言うのなら、容赦しない」

 

『―いい目をするようになったねぇルミ……でもね、君じゃ私は……この子は倒せない』

 

「ン、ギッ!」

 

「会長!」

 

 

 

 

 

 フラフラとしていた主犯格生徒が飛び上がり、ルミへ向けて殴りかかる。撃ち抜いてやろうと考え武器を構えた彼女だが、操られている生徒の苦しんでいる顔を見てしまい手を緩めてしまう。

 

 ルミは優しく、まるで母親のような存在……母性に溢れ、女神のような彼女にそれを撃ち抜く勇気はない――ならば

 

 

 

 

 

「必殺普通のビンタ」ブンッ!

 

「―⁉︎」

 

『これはこれは……愛のビンタ、随分と古臭い』

 

 

 

 

 

それを止めるのはマッシュの仕事。マッシュは普通の力で操られている生徒をビンタし飛ばすと、ルミの前に立ち守るように構える。

 

 

 

 

 

「ルミさん、怒ってくれてありがとうございます。ここからは僕が」

 

「でも……先生」

 

「相手の目的は僕です。なら僕が相手してやります」

 

『可愛い生徒を、苦しんでいる生徒を殴れるのかい?』

 

「苦しみから解放するために闘うんですよ……貴女みたいな人から」

 

『流石は暴の化身、今まで何もかもをそれで解決したきただけのことはある……そんな君の体に、私の薬品が―』

 

「あの、もういいんで……ささっとかかってきてくれませんか?」

 

『……なに?』

 

「貴女が作った薬が僕の肉体に効くのかを試してしたい、別にそれはいいんですけど……わざわざこんな卑怯な手を使って、勝負しにきてるって事はつまり――

 

 

 

 

 

 

 

自分が作った薬じゃ、僕を倒せない、自分では僕を倒せないって確信付いてるんじゃないですか?」

 

『………言うねぇ、年下の癖に』

 

「それ関係ないでしょ」

 

 

 

 

 操られている生徒の動きが変わり、ファイティグポーズを取り始める。それをみてマッシュも構えを取る、自分の作った薬に自信があるのなら、自分自身に自信があるのならわざわざこんな手を使って来るわけがない……ようはビビっているんでしょ?そう彼は言っていた。

 

 

 

 

 

「はっきり言いますと、僕は貴女が嫌いです。理由がなんであれ罪のない園児達を利用した、僕の友人を馬鹿にした。そんな貴女を好きには、今のところ慣れません」

 

『ならなくて結構さ……例のゴシップ記事、あれは私が君を追い込むために書かせたんだが…まったく効果がないとは』

 

「余罪追加」

 

『いいよ、もうどうせ君との衝突は避けられないんだ……見せてもらうよ君の力を、ただ気をつけたまえ。今この娘の力は限界を超えている……ただでは倒せない』

 

 

 

 

  

 

 操られている者は飛び出し、その拳をマッシュに向けて放つ。その速度は周りが目で追えないほど……しかしマッシュにとって避けるなんて造作をもないこと。彼はその腕を掴み、投げる、その後少しだけ体を動かし――準備に取り掛かる。

 

 

 

 

 

「……だったら見せてやりますよ、僕のまだ見ぬ可能性を」

 

『それは興味深いな、遠慮なく見せてくれ。そしてそれをまた参考にし、私は新たな薬品を―――ん?』

 

「……何をしておるんじゃ、あやつ」

 

「体を大きく退け反らせて……」

 

「――回った?」

 

 

 

 

 マッシュは体を大きく回し始める、その勢いはまさに竜巻。キサキ達は飛ばされないようにお互いを掴み、支え合いながらとどまり続ける。

 

 

 

 

 

『風圧でどうにかするつもりだったのかい…?残念だったね、その程度の風は想定内…………?』

 

「……よ……し、目が、回った……これで良し」

 

「な、何をやってるんだ先生‼︎自ら目を回し、不利になるなんて‼︎」

 

「――いえ、違います……先生は、先生は―カンフーをやるつもりです」

 

「……はぁ!?」

 

「目を回す、酔う……酔っ払う――えまってまさか」

 

 

 

 

 

 マッシュは目を回しながらを立ち続け、動きが全く読めない動作を行いながら構え戦闘体制を整える。

 

 

 

 

「―あれって酔拳!?」

 

『ただ目を回しただけで…!?』

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

酔拳

 

 

 

それはまるで酒に酔ったような、独特な動作が特徴的。 予測できない変則的な動作で相手を翻弄しながら攻撃する武術。

 

 

 

本来ならば酒を飲み、それを利用して闘うのだが……マッシュは未成年なので酒は飲めない、そのために代用したのが――手を回しまくることである。

 

 

 

 

 

 

 

『――ふざけているのかな』

 

「やってみないとわかんな……やれ、回りすぎたかも」

 

『…‼︎』

 

 

 

 

 カイは操ったものを勢いよく飛び上がらさせ、かかと落としを繰り出す。それをマッシュは口を押さえながら、フラフラとしながら右に避け、裏拳を繰り出す。

 

 

 

「え、えいや…」ビュン!

 

『なに…!』

 

「から〜の…えい」

 

『っ、この…‼︎当たら……あーやりづらい‼︎』

 

 

 

 

 

 酔いながらの動き、それはどう動くか全く予測できない物。相手がいかに強力なパワーを持っていても、驚異的なスピードを出してきても

 

 

 

 

「ウップ、あぶね、目が回る……あれ、電柱が見える」

 

「全然攻撃が当たらない、当たりそうになっても全部防がれてる……あれって本当に酔拳なのだ?」

 

「あの動きはまさしく酔拳です、方法は違えど、酔いながらの攻撃はまさしくそれ」

 

「あんな方法で酔拳を使えるのだな」

 

「いやあれ先生限定だから」

 

「カイが……遊ばれとる」

 

 

 

 

 波のように流れる動きと、それ故に繰り出される驚異的な攻撃。脱力、言葉だけで見れば弱い物だが、脱力した腕や足から繰り出される攻撃はかなりの脅威。

 

 

 

 

『ダメージは無いとはいえ……鬱陶しいね…!』

 

「あれ、余裕無くなってきましたね―怒ってます?」

 

『……言ってくれるじゃないか!』

 

 

 

 

 操り人形となっている生徒の力を無理やり強化し、動かしているカイ。そこら辺の生徒ならば相手にもならないであろうが……相手は酔拳を使っているマッシュ、動作が不安定、次に何が来るかわからない、そんな環境の中でまともに戦えるはずもない。

 

 

 

 

「――好奇…」

 

『まず…!』

 

 

 

 

 マッシュは相手がろくに反応できない速度で体を揺らし、隙を晒させた後。左手で操られている生徒の手を掴み、背負い投げを繰り出す。

 

 

 

 

「ギッ!!」

 

「ごめん、ちょっとだけ我慢してね」

 

 

 

 

 そして右手で首に噛みついている蟲を引き剥がす。だが蟲は金切り声をあげマッシュの口の中へと侵入。

 

 

 

 

『――引っかかったね!その蟲は寄生した相手から離されると、その相手に向かって飛び出し口から侵入する。体内じゃどんなに鍛えているある人間でも攻略は不可能!――さあ、先生、死にたくはないのなら私の指示に…‼︎』

 

「う、ウゴゴゴッ…」

 

「先生…‼︎」

 

『さあキサキ見るがいいさ、君の大切な先生が――』

 

 

 

 

 

 

 ここで一つ、皆に問いたい。目を回すほど酔っぱらった人間は最終的に何をすると思う? しかも目を回しながら、口の中に何かある状態で……その答えは一つ。

 

 

 

 

「ウブェェェェェ…」ドバァァァ!!

 

『――――はっ』

 

「吐いたぁぁぁぁ!!!?」

 

「綺麗に虫だけ吐き出したのだ!」

 

「しかもなんか……絡まってない?」

 

「うわぁ……バルーンアートの犬みたいになりましたよ」

 

 

 

 

 カイが操っていた蟲がただ目を回した相手に吐き出され敗北した。薬で限界を超えたはずのキヴォトス人が、酔った相手に負けた――あまりも酷い結果。

 

 

 

 

『……今回は私の負けだね……はぁ、もっといい結果が出ると思ったんだがね』

 

「……カイさん」

 

『なんだい、先生』

 

「僕が、貴女を死んでも捕まえます。逃したりなんてしません」 

 

『あっそう……それは、首を洗って待っていないとね』

 

 

 

 

 カイは余裕そうに笑い、マッシュの言葉をまともに聴こうとしない――が。

 

 

 

 

「貴女のことは片時も忘れません、貴女という存在は……ずっと、頭の片隅に入れておきますからね」

 

『……ほう』

 

「同時に僕は貴女を見捨てません……絶対にひっ捕えて――何が何でも更生させます」

 

 

 

 

 お前のことは見捨てない、カイが悪人でなければこの言葉はおそらくカイをいい方向に導いていただろう……現実は真逆。

 

 

 

 

 

『そうか……そうかそうかそうか‼︎ それは楽しみにしているよ‼︎ その体で私を捉え、無茶苦茶にするといい‼︎ あぁ欲しいな……欲しいなぁマッシュ・バーンデッド‼︎ より一層君に興味が湧いたよ‼︎』

 

 

 

 

 

 次第に蟲が動かなくなっていき、カイの声も聞こえずらくなってくる――そんなカイが一言。

 

 

 

 

『まだこの物語は終わっていない……必ずや、私はそこへ舞い戻る。その時はよろしくね……キサキ』

 

「望む所じゃ……カイ」

 

 

 

 

 

 蟲は完全に消え去り……決着。黒幕逮捕とまではいかなかったが……一先ずは一件落着。

 

 

 

 

 

「――あっ、なんで魔法界のことを知ってるのか聞くの忘れてた」

 

 

 

 

謎が深まってしまった、しかし進歩はあった。この勝負――マッシュらの勝ちだ。







 次回、いよいよラストです…‥長かった。

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