「ハーハッハッハッ‼︎ 知識開放戦線並びに、旧校舎の生徒達も我が配下となった……さらにマッシュ・バーンデッドという存在も加わり、オイラの勢力は格段にパワーアップした……もう勝ちは目の前だな!」
「ほぼ先生のおかげなんだからそんなに威張らないの」
「あの本、結局モミジさん個人が預かることになりましたね……NTR本?というのはもうほとんど先生が引き裂いてしまいましたが」
「戦力が増えたのよかったですね、仲間は多い方がいい」
「後でリーダーに説教されても知らないからね」
「死なば諸共」
「却下」
多くの同人誌を粉砕したマッシュらは、ここに至るまでの経緯をモミジに説明した上で、政権奪還のため協力を求めた。しかし彼女らの目的はあくまでも『本を読むこと』であり、武力衝突による争いは極力避けたい。
『さっき言ってたミカって生徒、先生と殴り合えるレベルで強いよ』
『ちなみに僕レベルの人たちが沢山いるのがトリニティだよ』
その二言を聞いて掌を返した。代案の条件として、マッシュがトリニティやゲヘナに話をつけて稀覯本の貸与を申し込むこととしたため、本に目がない彼女らはそれを受諾した。
新たな味方をつけたマッシュは、政権復帰に向けた偵察を行うため、レッドウィンターの中央学区近くにまで戻って来た。
「もうこれで怖いものはない‼︎ 早速本陣へ…」
「……お言葉ですがチェリノ会長、後一箇所だけ、どうしても仲間に引き込めないといけない組織がありまして…」
「まだ何か?」
「頼むからあの二つの部活以上にカオスなのはやめて」
「おそらく今現在進行形でクーデターを起こそうをしている組織で……マリナさん率いる保安の生徒達がトップに立ってしまったことによって、さらにそのクーデターが激化しているであろう組織……」
「――工務部の方達です」
「絶対無理」
「トモエ流石にそれは無理だ」
「私もそう思いますが……何卒」
もう露骨に無理だろと言う顔をするトモエとマッシュ以外の者達、工務部というのは……そう、マッシュがここに来た時にクーデターを起こしていた者達である。
「どうして無理なの?」
「ああ言うのは話が通じないし我が道を押すって感じの奴らばっかりだからだよ」
「ならまた僕のパワーで」
「残念だがそれは逆効果なんだカムラッド、奴らに武力行使を行ったとしても『我々は決して、暴力には屈しない‼︎』って言うタイプなんだ」
「脅したとしても『ほら見ろ!権力者の本音が出たぞ!』とか『見ろ、邪悪な権力の犬が本性を現したぞ!』とか、決まり文句のように言い出しますので……」
「ナギサさんが聞いたら泡吹きそうだ」
「と言うかそれが何回もあるなら対策しなよ」
「できないんだ。意味がないんだ」
「どんだけクーデターしたいの!!?」
クーデターやデモを起こす者達にとって、脅迫という手段に効果はない。特定の思想に染まった集団に対して武力による脅しは無意味であり、状況を悪化させる事態にもなりかねないのだ。
「とにかく奴らには絶対に頼れん……そもそもこうしてオイラが外に出ている時点でかなりまずい―『私達は決して奴隷ではない!!!』っ!!?」
「びっくりした……あっちの広間から聞こえて来たね」
「なんでこうも最悪のタイミングで…」
「あそこに集まっているのは……工務部の方達ですね。そしてメガホンを持ち、前に立っているのが工務部の部長、安守ミノリさんです」
凍っている噴水広場には、件のレッドウィンター工務部が集まり、その部長である安守ミノリが演説を始めていた。その手にはメガホンが握られ、ミノリは口元に近づけたメガホンから力強く宣言する。
「イワン・クパーラはどんな祝祭だ? 冬の間ずっと食べていたあの乾いたパンや塩漬けの肉を捨て、太陽から贈られた新鮮かつ豊かな果実を楽しむ、新緑の祝祭ではなかったのか⁉︎ これはレッドウィンターのどの生徒にも例外は無い。私達にも、この祝祭の連休を楽しむ権利があるはずだ‼︎」
「そうだそうだー!」
「こんなの間違ってる‼︎」
「思ってたよりも数倍デモっぽいやつだ」
要するに「休みをよこせ」とミノリは言っている。マッシュはそれを聞き、工務部の労働環境に対する疑問をチェリノに問いただす。
「普通にある……今は、イワン・クバーラに使う巨大な人形を燃やすための祭壇を設置する仕事を頼んでおいたはずなんだ」
「でも周りのみんなが休んでいるのに自分達はなんで働いているんだ……と疑問に思い、クーデターってわけね………いや、そういう仕事なら仕方ないでしょ」
工務部の仕事は祭りに使う祭壇を作ること。しかし、「周りが連休に浸っているのに、自分達だけこうやって働いているのはおかしい」……と、彼女らは言っている。
「しかし私達は連休はおろか、一日二人交代制の過酷な環境の中、昼夜を問わず作業に動員され、労働力を摂取されているではないか‼︎――これは私たちレッドウィンター連邦学園の理念である、自由と平等の精神に反する!! 私はこの状況を、強く非難したい‼︎」
『うぉぉぉぉ!!』
「チェリノ会長含めたレッドウィンター事務局は、私達『工務部』に労働者としての権利を保障しろ‼︎ 私達に十分な休息時間と、追加の手当てと、そして……えっと…あっそう、ぷりん!プリンを二つずつ支給しなければ、デモとストライキは継続していくことにする‼」
『わぁぁぁぁー!!ストライキだストライキ‼︎』
言ってることは何処となく理解するし気持ちもわかる……が、仕事とはそういうもの……しかも自分で選んでしまった仕事なのだから文句なんて言っている暇はない。
「仕事って何か知ってる⁉︎」
「言ってることがめちゃくちゃだぞ……周りが休んでいるんだから自分達に任せられた大事な仕事を休んでも良いに決まっている……は無理があるだろう⁉︎」
「どうしましょうかチェリノ会長……このままでは祭壇が完成せず、祝祭の日までに間に合う可能性も…」
「な、なんとかして仕事に戻させなければ…‼︎」
「……こういう時は、なにも考えず」
『――突っ込む‼︎』
「あーもうやると思った‼︎」
マッシュとチェリノはストライキを起こしているもの達の方に向かって歩み寄る。それにいち早く気づいたミノリはメガホンを片手に、それが来るのを待ちながら疑問符を浮かべる。
「チェリノ会長?なんでこんなところに……それに……あれはシャーレの先生か?」
「おい‼︎誰の許可を得てこんなことをやってるんだ!仕事はどうした仕事は!」
「そのことについてのストライキだ!! おかしいとは思わないか、これは明らかな労働搾取だ‼︎」
「全国の工務関係者の人達に謝って来た方がいいよ」
「むっ、今度は知らない顔が」
工務部の元へとやって来たマッシュ達、ここからが正念場だ。彼らはなんとかしてミノリ達を落ち着かせ、祭壇を作らさなければいけない。でなければ祭りが台無しになる。
「みんなの気持ちはわかります、でも君達は祭壇を作らないとみんなが楽しみにしている祭りが台無しになるんです」
「その祭りのための犠牲になれと?」
「犠牲……っていうか、責任?……ごめん、難しいことは言えないけど。君たちがやらないと他のみんなが悲しい思いをしちゃうと思うんですけど」
「私達だって現在進行形で悲しい思いをしている‼︎ 他の皆が休み、楽しそうに日々を過ごしている中、我々は休日もない、こんな劣悪な状態で働いている……それはおかしいとは思わないか!?」
『そうだそうだ!!!』
仕事とはそういうものである――ついつい声を大きくしてしまった、申し訳ない。
さて困った、圧が強過ぎる。ゲヘナの二大規テロリストよりも俄然強い我の強さ、ちょっとやそっとの言葉じゃ響かない。
「『他の皆が休み、楽しそうに日々を過ごしている中、我々は休日がない状態で働いている、それはおかしいとは思わないか』……って、言ってましたよね」
「そうだ」
「それなんですけど」
マッシュは不思議そうな顔を浮かべながら、ある一つのことを聞く。それは当たり前すぎて誰も言わなかったもの。
「何かの職についている人と、そうじゃない人……そこで差が生まれるのは当たり前じゃないですか?」
「―――――――――」
まさにその通り。働いているものと、普通の学生として過ごしているものとで休日があるか無いかや、時間帯がズレるのは当たり前であり普通のこと。
「そんなに働くのが嫌なら辞めればいいじゃないですか」
「働きたくないとは言っていない‼︎ ただ私たちも他のみんなと同じに様に連休が欲しいなーって思っただけだ!」
「でもやらなきゃダメな仕事なんですよね」
「だかな、私達だけがこの祭壇を作り続け、休みが無いと言うのはおかしいだろう」
「じゃあ他の、工務経験ゼロの人達に頼んでみますか? 多分怪我人続出すると思いますし、確実にちゃんとした物作れませんよ?」
「ならばせめて手当を増やして貰いたい‼︎」
「作らないと貰えませんし、確か工務系の仕事ってお手立て結構貰えましたよね?それ以上よこせ……ってのはちょっと」
「ならばプリンだ!プリンをもっと寄越してもらいたい!」
「みんなで食べる用のプリンしか無いみたいなのでダメですよ、他のみんなを困らせたいのならいいんですけど」
正論の連打。レスバを開始したり、単純に罵倒しているわけでもなく、マッシュはただ正論を突きつけている。だからこそ、相手の意見を強引に押し潰すミノリの常套戦法がまるで通用しない。
「先生だって思うだろう!? 『何故周りは休んでいる人ばかりなのに、自分だけが働いているんだ!』って!」
「教師舐めないでください」
「他のものが楽しむための贄になれ、それを良しとするのか?」
「僕も一緒に楽しみたいから頑張ってるんだもん」
「………話にならない!」
「ブーメラン」
意見が完全に平行線となっており、対話が続かない。怒りに煮えたミサキがロケットを撃ち込みかねない状況になったところで、マッシュは強硬手段に出た。
「もうわかりました、なら僕がその祭壇を作り上げるので。それでストライキはやめてください」
「……先生一人で終わらせる?………先生、ハッタリはやめて方がいい、あの祭壇は私達が数週間かけてやっと一つの工程が終わるほどに難しけ、大変な作業なんだ、それも構造の一つ一つが難しく大きさも違う……それを一人でなどと」
「できたら、僕達に協力してくださいね」
「やれるものならやってみるが良い!」
「……先生、音質とったよ」
「――――なにっ⁉︎」
「じゃあ後は任せて、設計図借りるね」
マッシュは工務部一人の手から設計図を拝借し、それをじっくりと見る……みんな忘れているので無いだろうか。―――彼は赤ん坊の頃、自分で壊してしまった家具を自分で作り直した工具の天才なのだ。
「作業開始……えいやっ」
マッシュはダッシュで祭壇に使うための木材やその他装飾を持ってくると、それを設計書どうりに作り始める。高速で移動しながら木材を運んだり、釘を打ち込んだり、組み立てたり、色を塗ったり……そんな工程を全て一人でこなしていた。
「そ―――そんなぁぁぁ!!?」
「さ、祭壇がみるみる内に作り上げられていっている!」
「しかもメッッチャ綺麗‼︎」
「すごいぞカムラッド‼︎一人で工務部数十人分の労働力とは!!」
「ほんとに何処で身につけてきたんだろうこんな技術」
作業開始から5分――なんと祭壇が完成してしまった、たった一人で。ミノリは唖然とし、両膝をつく……こればっかりは相手が悪い。
「ミノリさんミノリさん」
「……好きにしろ、権力者の犬に成り下がるのは癪だが………仕方ない」
「チェリノさん、いま会長じゃ無いですよ」
「――――なに?」
「マリナのやつに全てを奪われたんだ……ミノリ、そして工務部よ」
チェリノは仁王立ちをして、その場で宣言。
「私と共にクーデターを起こしてもらう‼︎ もしこのクーデターが成功した暁には……一ヶ月間の休みだ‼︎」
「――言ったな、言ったな!?」
「ああ言った‼︎だから思う存分マリナにクーデターを起こしてくれ!」
「今のを聞いたかみんな!これはあまりにも、あまりにも魅力的すぎるものだ!!――決めたぞ!」
ミノリは立ち上がり、チェリノを肩に乗せてメガホンで叫ぶ。
「我々はこれより‼︎マリナ会長にクーデターを起こす、そして休日を勝ち取るのだぁ!!」
湧き上がる歓声休みの力とは恐ろしい……そしてこの時より――クーデターの準備は整った。
「やっっっっっっと―終わる!!!」
ミサキは心の底から嬉しそうであった。
ミノリさんのこの言葉を聞いたら怒りそうな人、リンさん。
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