メリークリスマスです。
今年ももう……一週間ぐらいですね、早すぎますよほんとに。
(―――ありえない、聞いたことが無いぞ‼︎首を殴られ、無事でいる人間なんて‼︎ しかも上半身の筋肉が迫り上がって―)
「―退避‼︎」
「っ‼︎」
「フッ」
軽い一回転、しかしその勢いはさながら遊園地のコーヒーカップ。サキとミヤコはそれに負け後ろへと飛ばされる、上半身裸のマッシュ、その筋肉を見ただけで、彼がこのキヴォトスにおいてどのように戦い抜いてきたか、そしてその力が自分たちに何をもたらすかが一発で分かった。
「――サキ、作戦『そんなの無意味だ‼︎』ッサキ!」
「お前の考えた作戦全てがあのめちゃくちゃな筋肉の前だと無意味になったんだ‼︎ だから、もう何も考えても無駄だ‼︎」
「たとえそうだとしても、なんの作戦無しには‼︎」
「お前の作戦に従った結果が今の惨状だ!……ここからは、私、一人の考えで動く」
「サキ…!今はそんなわがままを言っている場合ではありません! 私の指示に――『うるさい‼︎』…」
「そのリーダー気取りはやめろと言ったはずだ……連邦生徒会長もいない、策もなくなった……私がお前の命令を聞く義理はない」
(めっちゃ仲悪くない…?……え、相手にしづらいんですけど)
「……勝手にしてください」
「最初からそのつもり……だ‼︎」
サキはマッシュの視界を奪うべく地面を蹴り上げ、小石や砂などをマッシュの顔にぶつける。その隙を狙いマッシュの腹筋、鳩尾を狙おうとするが、それは悪手だとすぐに気づく。
(男の弱点、決して鍛えることのできない部位……その馬鹿げた肉体を持つお前でも‼︎)
狙うは、男という生き物の最大の急所、つまりは金的。勢いをつけたサキは、下から体を抉るようなパワーでマッシュのソレを蹴り上げようとした。
「フンッ!」ゴッ!!
「させぬ」ピョン!
(っ目を瞑った状態で………瞑ってない…⁉︎)
「ここを狙ってくるのは君が初めてだよ、先生びっくりしました」
「ならもっとびっくりさせて………あれ…⁉︎」
「これ探してる? 危ないので先生が取り上げました」
(――いつのまに…‼︎)
マッシュはサキの金的を避けるために上へとジャンプ、その瞬間に手を伸ばしサキの手榴弾を奪取。ピンを抜きどこか遠くへと飛ばした後、地面へと着地。
「ッシイ!」
(下昆)
「ラッ!」
(からの人中に天突……いい動き)
(当たらない―なら!!)
サキは着地しマッシュの体制を崩そうと彼の膝を攻撃するが、ソレでダメージを負うのは相手ではなく自分。
「イッヅヅダァァァァァッッ!!!!?」
「あっごめん」
「なんっで、膝、蹴っただけなのに私の足にダメージが…‼︎」
「立てる…?」
「慈悲をかけるな…‼︎」
「とりあえずはこれで再起不能……でいい?」
「ふざけるな…!こんな痛み、なんとも……づ!」
「無理に動かさないほうがいい、当たった感じやばかったから」
「―――くそっ…‼︎」
マッシュの膝を蹴った結果、右足を痛めてしまったサキ。ちなみに腹筋を蹴っていたら確実に折れていたので命拾いをしたとも言える、マッシュの膝に限らず、その骨の硬さは『鉄そのもの』……と、ゲヘナ風紀委員会の某隊長とトリニティの某ホストが言っていた。
「残るは、君一人」
「………」
「このまま投降して……っていうのは、無理っぽいね」
「………」
「……あのごめん、敵を見る目としては合ってるんだと思うけど……そんなじっと見られたら怖いよ」
「…………」
「…聞こえてない? おかしいな、これでも声は張って『理解しました』……何を?」
ミヤコは持っていた武器を捨て、つけていたプレートキャリアを外し始める。目を見ただけでやる気を察知したマッシュは、正面戦闘を想定して身構える。彼女はいきなり仕掛けるのではなく、ゆっくりと口を開き、理解した事を告げている。
「他を寄せ付けない圧倒的な力、早さ、耐久力……きっと、我々が想像できないような鍛錬を積んで得たものなのでしょう」
(普通の筋トレをやり続けただけなんだけどな)
「流れるような動きとキレ、この世のありとあらゆる格闘技を身につけたであろうその技術力…賞賛します。きっと幼い頃からずっと戦って来たのでしょう」
(ごめんなさい、めちゃくちゃ甘やかされながらもしっかりとぬくぬくと育てられて来ました。後戦い出したのここに来てからです)
「聞くとこによると、貴方は異世界からここへやって来た救世主だとか……きっと貴方がいた元の世界でも貴方は、そう呼ばれているのでしょう」
(いやむしろ排除とか差別の対象だし、なんなら存在そのものが悪で人権ない人間なんだよなー僕)
色々と過大評価をしているミヤコ、いやむしろ思い込みと言った方がいいのだろうか。マッシュは嬉しくなるも少し複雑な気分となってしまう……そして極め付けは。
「だからこそ理解しました。七囚人……災厄の狐狐坂ワカモ――彼女をその力で倒し、服従させたという事実を」
「……………………」
「あのワカモを捕えることのできる技量……そこは、本当に尊敬し、讃えます」
「…………………あ、ありがとう」
「いえいえ」
(―――言えない、ワカモちゃんとは正面から戦ったことがないなんて言えない)
力で服従とかそんなこと一切なく、ただ惚れられてスカウトした結果今の状況になりました……なんて普通に言えないマッシュ。ここでそれを言ってしまうと、何故かミヤコに悪い思いをさせてしまうと思ったからだ。
「…………それでも、そうだとしても……認めたくありません。災厄の狐は……私の憧れていた先輩達が決死の思いで捕えたほどの相手――その憧れた人よりも強いと……どうしても認めたくありません」
「認めたくないって言われてもなぁ」
「だから……全力の貴方と、戦わせてください」
「――その言葉も意味は、分かってるよね」
「タダでは済まない、それはそうです……しかし」
ミヤコは体制を低くし、ほぼの四つん這いに近い状態になる。その目は逃げ回るウサギの目ではなく、獲物を刈り取る獣の目と、覚悟を決めている人間の目。
「ここで逃げては、SRTとしての正義、誇りに傷が付いてしまいます――足掻けるのなら何度でも、いくらでも足掻いて見せます」
「その覚悟――受け取ったよ」
マッシュは構えを取り、本気で迎え撃つ準備を整えた。そこまでの覚悟があるのなら、こちらも本気で迎え打とう――例えどんな技を使われようとも。
「私は貴方を……倒す気で行きます」
「なら僕は君を捕えるつもりでいくよ」
「――行きます‼︎」
「ばっちこい」
ドッ…‼︎と、地面がえぐれる音が聞こえ、今、ミヤコとマッシュの戦闘が始まった。
――――――――――――――――――――――
戦闘が始まると、二人は互いに移動しながらの攻防を続けていた。ミヤコは攻、マッシュは防を徹底しており、速度も申し分ない。
(――早すぎる…‼︎今までの訓練相手とは比べ物にならない程に…‼︎)
しかし不利になりつつあるのはミヤコ、マッシュの動きを読もうとするも、その読もうとする動きを読まれ避けられる。急所を狙おうにもそんな暇を与えられず、わかりやすい位置にしか攻撃できない。
「テイッ!」
「フッ」
「イヅッ――くない‼︎」
「ナイスタフネス」
繰り出されたミヤコの拳、それを防ぐようにして彼女の手首に、自身の甲をぶつける。キヴォトス人でなければほぼ折れていた程のパワー、それを食らってもなお彼女は喰らい付いていた。
(目突き‼︎)
「――避けぬ」
(指の間に腕を入れて防がれた…‼︎)
「パンチ」
(ガード…‼︎)
二本指をでマッシュの目に攻撃しようとするミヤコは、その二本指の間に腕を入れられて防がれ、追加で彼の拳を左手で受ける。防いだとしても、そのまま押し込まれるのがマッシュの拳。
「くっ…!!」
「……カモン」
「当たり前です‼︎」
裏回し蹴り、ブレーンバスター、勝身技、どれもこれも当たれば一撃必殺の威力を持っていたが。マッシュはそれらを目で見て対処、ブレーンバスターに至っては石頭すぎて逆にミヤコの腕が負傷した。
それでもなお戦い続けるミヤコ………そんな姿を見て、近くで退避していたサキはあることを思った。
(――私と模擬戦をやる時よりも……はるかに……強い…?―――なんだそれ……なんだよそれ…‼︎私は、そのレベルだって言いたいのか⁉︎――くそっ‼︎)
自分と模擬戦を行った時よりも素早く、強く、激しい彼女を見て自分は手加減をされていた、自分よりもミヤコの方が強いのだと確信してしまった。それが、とてつもなく悔しかった。
(……行ける、狙える――あの技を‼︎)
「隙……あり」
「――そこっ‼︎」
「おわっ」
マッシュが振るった拳を受け流し、そのまま彼の首へと足を組むことに成功したミヤコ。そのまま彼の首を足で締め、体全体を横に向け締めようとするが――彼は直立不動。
(どんな、体幹を…‼︎)
「――えいっ」
「いっ…!!」
「お返し」
軽くミヤコに向かって頭突きを放ち、後ろへと回り込んだマッシュは、軽く彼女の首に腕を回し締めようと形を作る。
「…チェックメイト……かな?」
「――いいえ、勝負は…ここからです!!」
「?――‼︎」
「えいっ………やぁぁぁっ!!」
ミヤコは両脚が壊れる程の負荷をかけジャンプ、そして体制を倒し、マッシュと共に頭から落ちる。身長はマッシュの方が上、なので先にそれを食らったのは……マッシュ。
―――――――――――――――――――――――
「はぁ……ゲホッ、ゴホッ……どう…ですか!!」
「…………………」
脳天をモロに地面へと打ち付けられたマッシュ、彼は地面に寝そべったまま動かず倒れていた。動く気配も全くない――呼吸音も聞こえない。
「………かった………勝った…?――っ…勝った…!!!」
彼が起き上がらず、倒れたまま呼吸音もしない……つまりそれは彼が気を失ったということ。勝利を確信し、喜びを全面的に出す。
「――いえ、まだです……念のため、脈を……」
負傷した部位を抑えながら、マッシュの方へと向かい、彼の首に手を出す……しかしそこで違和感が発生。
「――冷たい……脈が……無い……⁉︎……まさか、うまく、入りすぎてしまった…⁉︎」
マッシュからは脈が全くなく、体温も冷え切っていた。やりすぎてしまった、取り返しのつかない事をしたと焦り、彼の体へと触れるミヤコ――その瞬間。
プニッ
「―――シュークリーム!!?」
彼の頭がシュークリームへと変貌した、驚きのあまり思わず尻餅をついてしまい、彼が立ち上がるの許してしまった。そしてマッシュが頭についていた巨大シュークリームを外し、中にある普通サイズのシュークリームを取り出し、彼女の口へと放り込む。
「シュークリームパ〜チ、シュークリームパ〜チ、シュークリームパ〜チ」
「あ、貴方、どうやっムグゥッ!?」
「シュークリームパ〜チ、シュークリームパ〜チ、シュークリームパ〜チ、シュークリームパ〜チ」
(い、息が…‼︎カスタードが逆流……して‼︎)
お久しぶりのマッシュのシュークリームを喰らい、息がどんどん続かなくなってゆくミヤコ。やがて白目を剥き、シュークリームパ〜チという単語が鳴り続ける。
「シュークリームパ〜チ、シュークリームパ〜チ、シュークリームパ〜チ、シュークリームパ〜チ、シュークリームパ〜チ、シュークリームパ〜チ、シュークリームパ〜チ、シュークリームパ〜チ」
(く――くる……し…い――――)
「お久しぶりのバイセップス魔法・パイソン・チョーク」
「………」ブクブクブクッ
マッシュはミヤコの首に腕をかけたその時点で、首を締め上げて、その爆発的な筋力により1秒とかからず低酸素血症にして失神させた。
ミヤコは泡を拭きながら倒れ、気絶。
「……これしか君を止められなかった、後でいくらでも責任は取るよ」
(――ミヤコが負けた………なんだよ、それ……そんなの――どうやって……勝てって言うんだ…?)
(……ここからが本番だな……大っ嫌いって言われたら、僕血を吐きそう)
筋肉vsウサギ……勝者――筋肉。
百花繚乱後に見たい話
-
まだ交流がない生徒との話
-
アイデェア箱から選んだお話
-
ラビット2章
-
愛が重い生徒との話