透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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マッシュ・バーンデッドと台風

 

 

「う〜〜〜〜〜‼︎やっぱりあの時に先生とお話ししたかったよ〜〜〜‼︎」ギリギリ

 

「ミカさん、抱きつくのは構いませんが力加減を考えてはくれませんか? しまってます、お腹がしまってます。ロールケーキが口から出てしまいます」

 

「あれ、ナギちゃん太った? プリンくらいぷよぷよしてるよ?

 

「ミカ」

 

「やめないかミカ、ナギサは最近ストレスでやけ食いを何度もしてしまっているんだ。羽川ハスミと一緒にね、そっとしておいてあげるんだ」

 

「ホストの権限を使ってお二人の食事をロールケーキオンリーにして差し上げましょうか?」

 

『ごめんなさい』

 

 

 

 

 

 Sにデータチップを渡し、それから少しの時が経ったある日。ミカはティーパーティーのテラス内でナギサとセイアに絡んでいた、あの時やはりマッシュと話をしておけばよかったと後悔しながら。

 

 

 

 

 

「先生のご様子はいかがでしたか?」

 

「相変わらず無表情だったけど、SRTの子達と仲良さそうに追いかけっこしてたよ」

 

「SRT……成程、それはまた難しい難題に挑戦しているようですね…無理をしてないと良いのですが」

 

「無理と言うか無茶苦茶やってそうだよね〜」

 

「それが先生だからな……そうだナギサ、今日はゲヘナの風紀委員と正義実現委員会が合同訓練を行う日だったね」

 

「ええ、ツルギさんも張り切って励むとおっしゃっていました」

 

「ねえねえナギちゃん!私も『ミカさんは絶対にダメです』え〜なんでぇ〜⁉︎」

 

「貴女手加減とかせず本気でやるでしょう? ヒナさんが相手ならいい勝負をするかもしれませんが……その場の被害が大きくなるのはもうごめんです――特に体育館の時のような」

 

「アッハハ〜!⭐︎……あれホントごめんね」

 

 

 

 

 ティーカップを一口飲みながらセイアはゆっくりと空を見上げ、ナギサに告げる。その口ぶりは完全に何かを警告する時の口ぶりであった。

 

 

 

 

「その訓練だが、今回はやめておいた方が良い」

 

「? なぜですか?」

 

「あっ、もしかして……なんか見ちゃった?」

 

「エデン以降うまく予知夢を見れなくなってる……が、感覚は優れるようになってきてね……今回は凄くまずい」

 

「その内容は?」

 

「一言で言えば、大地が水で溢れかえり、背中を押してくれるはずの風が押すのではなく吹き飛ばす……まあ要するに」

 

 

 

 

 セイアは空をキッと細めで見つめ、少し強めの口調で要約した言葉を口に出す。

 

 

 

 

「嵐が来るってことさ………ふふん、どうだい2人とも、決まったかな?」

 

「セイアちゃん変な本でも読んだ?」

 

「セイアさんかっこいいですよ、可愛らしいの方が勝ちますが」

 

「百合園青龍拳をご所望かな2人とも」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「――はい、今日はここまで……各自休んでね…」

 

「休むべきはそっちだろ」

 

「普通に死にかけてるじゃん」

 

「こう言う問題を教える事は苦手なようですね」

 

「真っ白になってる……」

 

「先生、よく頑張ったな」

 

 

 

 

 

 場面は変わり子ウサギ公園、マッシュとラビット小隊達は今日も今日とて勝負を行い、マッシュが勝利したことにより、いつもの如く課題に取り組んでいた。そしてマッシュは案の定それで参っていた。

 

 

 

 

 

「1×1=1みたいな問題ばっかりだと助かるんだけどなぁ」

 

「何年生の問題なんだそれは」

 

「他言語だってギリギリ教えられるレベルだし……トリニティ語とかゲヘナ語って、魔法界の言葉と発音が若干違うんだよね……古代語とか意味不明だよ、聖書なんて読んだこともないのに」

 

「なんというか、大変なんですね」

 

「もうこんなのは懲り懲りなのに……ウップ」

 

「吐きそうにもなってるし、どれだけ苦手なのさ」

 

 

 

 

 

 ここに来てから長いとはいえども、マッシュにとって高難易度の問題を解くような内容は未だ困難だった。補習授業部の顧問として必死に授業内容を覚えて奮闘していた経験は、決して無駄にはなっていない──……はず、なのだが。

 

 

 

 

「少し休憩を挟んだ後、今度は私のトレーニングだ。2人1組でペアを組み、二人三脚で走るぞ……そうだな、ここから少し離れた廃墟までだな」

 

「うげっあそこまで……ミユ、とりあえず頑張ろ」

 

「う、うん」

 

「前々から思っていたが……Sさんってかなりスパルタだな」

 

「その分やりがいや達成感は段違いです、頑張りましょうサキ、目指せ先生超え‼︎」

 

「無理だろ」

 

 

 

 

 キャンプ用の椅子に座りグデェン…としているマッシュをよそに、各自休憩を挟んでいくラビット小隊達。そんな時、ミヤコが自身の荷物からあるものを見つけ、取り出した。

 

 

 

 

「……懐かしいですね」

 

「ミヤコ、何を見てるんだ?……これは……FOX小隊と、お前か?」

 

「はい。入学式を終えた後、私が一緒に写真を撮って欲しいと無理を言ったところ、心よく受諾してくれたんです」

 

「はへー、あのFOX小隊がね〜」

 

「ミヤコちゃん……良い笑顔」

 

「FOX小隊…って言えば、確かワカモちゃんを捕まえたって言う?」

 

「ええ、私達の先輩で……私が心から尊敬している人達です」

 

 

 

 

 FOX小隊の話題を話している時、ミヤコはこれまでに無いほどの笑顔を見せていた。それだけ尊敬し、慕い、敬っていると言う事なのだろう。真ん中にミヤコ、その周りにFOX小隊と言う、なんでも無いその写真……彼女にとってこれは、宝物だった。

 

 

 

 

 

「FOX小隊の皆さんに追いつくためにも……ここで、止まっていられません」

 

「その熱意、良し。ならば少し時間が経った後、早速始めるぞ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「留守番は任せておいて」

 

 

 

 

 

 そしてそれから数分後、ラビット小隊達はSを先頭に走っていき。子ウサギ公園から離れて行った……ポツンとマッシュはその場に座りながら、シッテムの箱を起動。

 

 

 

「へいアロナちゃん。この前渡したデータチップ。何かわかった?」

 

『はい先生! とても気になることがありました‼︎』

 

「ぜひ教えて欲しいな」

 

『お任せください‼︎では先生でもわかるように、とっても簡単に、絵で教えてあげますね!』

 

「僕園児が何かだと思われてる?」

 

 

 

 

 

 シッテムの箱の画面に写っているアロナが、おそらくは自分の手で書いたであろう絵を取り出し、それを紙芝居のようにしてマッシュに色々と伝えていく。

 

 

 

 

『カイザーインダストリーと、カイザーコンストラクション。この2人の会社を取り仕切っているのは、カイザーの幹部であるジェネラル』

 

「僕を襲ってきた奴か」

 

『はい、でも最初からこの二つを仕切っていたわけではなくて。最近になってその地位を獲得したみたいです』

 

「成程成程」

 

『そしてこのジェネラルさんって人がかなりすごい人で、受けてきた仕事や作戦を確実に何度も成功させて行っている実力者で、トップであるプレジデントの右腕とも言われているようです』

 

「………その右腕さんの計画全部ぶっ壊しちゃったんだけど」

 

『それはもう先生がおかしいだけですね!』

 

「めちゃくちゃはっきり言うね」

 

『そしてこのジェネラルさん、最近どうも様子がおかしいみたいで……ことあるごとに何処かへ電話をかけて、慎重に何かや相談している様子が何度も目撃されて行っているみたいです』

 

「ふむふむ……怪しいね」

 

『はい、なので私は、誰かと何か取引しているんじゃ無いかと思っています。それもかなり重大な』

 

「なるほどね―――要するにあの人に要注意ってことだね」

 

『その通りです‼︎』

 

 

 

 

 子供の落書きレベルの絵でようやく理解したマッシュは、なんとなく誰を怪しむのか、何をする気なのかを理解してきた。信じたくは無いが、黒と認定されているカヤの取引相手はジェネラルその人……ジェネナルは優秀オブ優秀、そのプライドに傷をつけたの、他でも無いマッシュ。

 

 つまりマッシュ嫌いな2人が手を組んでいること自体、なんの疑問も浮かばなくなってきていたのだ。

 

 

 

 

「……それでも最後まで信じるけどね、先生だから」

 

 

 

 それでもマッシュはカヤを信じる、たとえ嫌われていても最後まで生徒を信じ切るのが、先生なのだから。

 

 

 

 

ポタッ……ポタッ………

 

 

 

 

「……あやや?」

 

 

 

 

 

そんな心優しいマッシュに―――自然が襲いかかる。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

【えー速報です、ただ今キヴォトス全土に渡って台風が発生いたしました。皆さん危険ですので、絶対に外に出ず、室内にてお過ごしください】

 

 

 

 

 

「っっっ最悪だ…!!!」

 

「中に着いたのは、運が良かったけど……」

 

「も、ものすごい雨と…っ、風…‼︎」

 

「天候がここまで急に変わるとは……自然とは恐ろしいな」

 

 

 

 

 子ウサギ公園から少し離れた場所にある廃墟にて、ラビット小隊とSは雨宿りをしていた。と言っても台風の影響で建物が揺れまくれ、安全とは言い難いが。

 

 

 

「………この、嵐では……キャンプ地は……」

 

「確実にやばいだろうね〜、雨で土がぬかるみまくってるだろうし」

 

「あそこには……あの、写真が……あの場所は私たちの……」

 

「…ミヤコ、気持ちはわかるが。ここで飛び出すのは危険だ。いくらキヴォトス人とは言え台風は台風……ヘタに動けば、命に関わるぞ」

 

「しかし…‼︎」

 

「キャンプ地なんていくらでも建て直せば良いし、それにあの場所が破壊されたから何って話じゃん。私たちがそれでデモを諦めるわけが無いだろうしさー」

 

「‼︎」

 

 

 

 

 それは当初、でも云々どうでも良いと思っていたモエからは信じられない言葉であった。ここまできたのなら、ここまで先生が色々としてくれたのなら、もう後戻りはできない……そんな思いが、モエだけではなく他の全員が思っていた。

 

 

 

 

「で、でも先生はどうなるんだろう……?」

 

「先生が台風程度で倒れるわけが無いか……心配だな」

 

「……皆、ここから絶対に動くんじゃ無いぞ。雨が止むまで、ここでしばらく待機だ……絶対にな」

 

「Sさん……も、内心穏やかではありませんね」

 

「当たり前だ……しかしここ出て、被害を増やすわけにもいかん。お前達を引っ張っていかなければならないからな……」

 

「………っ‼︎」

 

 

 

 台風に巻き込まれているマッシュを心配し、内心かなり穏やかではない一同。キャンプ地が、居場所が無くなろうとそれはまたやり直せば良い……しかし、マッシュは一人なのだ。

 

 

 

 

「……先生」

 

 

 忌々しそうに空を見ながら、彼女達は天気が元に戻るのを待ち続けるのであった。

 

 

 

 







次回、空に向かってパンチ

百花繚乱後に見たい話

  • まだ交流がない生徒との話
  • アイデェア箱から選んだお話
  • ラビット2章
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