「ひっどい雨だな……解せぬ」
マッシュ・バーンデッドは現在、子ウサギ公園を吹き飛ばす勢いの台風に襲われていた。キャンプに使われていたテントを死守し、物資を水濡れから守るために抱えたマッシュは、吹き飛ばされないようにしゃがみ込んでいた。
「まずい、地面がぬかるんで来た。……やっぱり一度ここからテントを持って離れた方が……でも」
―――ここはミヤコちゃん達のお家なんだよなぁ。
マッシュはRABBIT小隊のためにも、この場から離れるわけにはいかなかった。このテントはミヤコ達が頑張って建てたものであり、集めた物資は彼女らが節約を重ねて溜め続けている……そして。
「……よかった、写真は無事だ」
何よりも、彼女たちの宝物が沢山あるのだ――それを、ぐちゃぐちゃにするわけには行かない。そしてマッシュは次第に──
「……なんか腹たってきちゃったな。天候に」
彼は自然災害にキレていた、自然なのだから誰にも罪はない……が、それでも許せなかった。
思えば、シャーレ初の公式任務の場となったアビドスを襲ったのは砂嵐だった。例え自然現象だとしても、もたらす被害が大きくなれば生徒たちに様々な苦しみを背負わせることになる。
ここで思い出して欲しい、マッシュは自分の大切なものに手を出す、危害を及ぼす存在は全てを殴り飛ばすことを誓っている……それは森羅万象関係なし。
「生徒達を怖がらせる、僕のことを信じてくれている人達に危害を加える。そんな存在……ぶっ飛ばすしか無いでしょ――グーパンで」スッ
マッシュは人生で初めて、自然と闘うことを決めた。はっきり言って無謀、はっきり言って愚かとしか言いようがない。なぜなら自然には何者も勝てない、それが摂理。
「天候を変える、一回やってみたかったんだよね」
このマッシュという規格外の人間以外は。マッシュは両手に付けている腕輪を外し、地面に置く。そして高速移動で物資とテントを避難させ、元いた場所に戻ってくる。
「フルマスクルズ魔法・アンリミテッドフィジカルモード………そして色々トレーニングをしてわかったのは、今この段階で動いた後の後遺症が軽い時間は……30秒。――十分」
目指すは台風の目。マッシュは右手に力を込めながら、筋肉を脈動させて円運動を行う。
「さらに回転――もっと回転」
ぬかるんだ地面、しかしマッシュにとってそれは問題ではなく、そのぬかるんだ地面ごと回転し外へと弾き飛ばす。その回転のエネルギーはすごいものであり、その場には竜巻が発生していた。
「名付けて、アンリミテッドバイセップス魔法」
遠心力により強化したその右拳を、自身が発生させた竜巻ごと空に向かって放つ。
「セントリフューガル・トルネードパンチ」
目でわかるほどの竜巻を載せた風圧パンチが空高く飛んでいったその数秒後――パッ!!と、眩しい光がマッシュの目に差し込んだ。
「台風、打ち取ったり」
曇り空だったその空が、真っ暗だった天が晴れ、隠れていた太陽が差し込んだのだ。降っていた雨や勢いよく吹いていた風すらも消し飛ばし、マッシュは天候に勝利した。
「……やべっ、拳打った時に周りの泥が体についちゃったんだ。拭かないと」
――――――――――――――――――――――――
【そ、速報です‼︎たった今……いえ、先ほど、キヴォトスを襲っていた台風が全て消滅いたしました‼︎ 何やらとんでもない勢いの何かが空にぶつかり、それで雲が全て吹き飛んだ……と――どういうことですか?】
「こっちが聞きたい‼︎ さっきのアレはなんなんだ⁉︎あの飛んでいった竜巻はなんなんだ⁉︎」
「アレが飛んで来た方向ってさ……子ウサギ公園だよね?」
「もしかして…せ、せせ、先生が台風をパンチで消し飛ばしちゃったんじゃ」
「んなバカな話が…………いや、あり得るな、あの先生なら」
「なぜ……逃げずに、自然に争ったのでしょうか」
「それが先生だから、生徒を困らせるものは森羅万象吹き飛ばす、それがあの人だ」
「もはや神話だ…―アハハッ」
マッシュのあまりにもあり得なさすぎる所業に驚き、思わず笑いが出てしまったサキ。ミヤコは快晴と言えるその空を皆が、いてもたってもいられなくなり、サキらを置いて子ウサギ公園へと走っていった。
「お、おいミヤコ‼︎」
「追いかけるぞ」
「は、はい!」
「休憩もすぐ終わったな〜」
無我夢中で公園へと走るミヤコ、その間様々な思いが募っていた。なぜ逃げなかったのか、なぜあんなことをしたのかと……そして最終的に、『子ウサギ公園にあるキャンプ地を守る為に自然に立ち向かったのだと』結論つけた。
(どうして荷物を置いて逃げなかったんですか……どうして立ち向かったのですか――あのパワーはなんなんですか……私たちには、手加減をしていたというのですか⁉︎)
様々な思いを胸に、ミヤコは子ウサギ公園へと辿り着いた。マッシュは何処に、と探す必要も無く彼は泥だらけになりながらキャンプのテントを立てていた。
「我ながら完璧、物資も……しばらくしたら乾くかな。よし」
「……先生」
「ん?――あっ、ミヤコちゃん。そっちは大丈夫だった?すごい雨と風だったよね」
「それらが全て吹き飛んだのだ、先生の力なのでしょうか」
「うん、なんとかなったよ」
「……何故あんなことを?」
「いやぁお恥ずかしい話なんだけどさ、あの風と雨でこの場所がめちゃくちゃになるのがどうも嫌でさ。ここって今はミヤコちゃん達の家でもあるわけでしょ?だから―」
「だから守る為に……アレを、使ったと?」
「うん…………あれ、ミヤコちゃん怒ってる?」
側から見れば、自分たちのために自然災害を消そうと動いていた先生、というあまりにもパワーワードすぎる出来事。ミヤコがどうにも納得できなかったのが、自分たちのためという点。
「なんでそこまでするんですか、なんでそんな、泥まみれになってまで私達を助けようとするんですか‼︎ 貴方は私と同じ子供です、たった一つ上の先輩です! なのになんで………なんで‼︎」
「理由なんてないよ、僕はただ困っている人がいるなら助ける――それが僕の正義だから」
何も言えなかった。誰かが困っていたら助ける……それがマッシュの正義。理に通った正義、SRTの正義を心に動いてきたミヤコ……正義に人情は不要、そう何度も言い聞かせてきたが。
「ごめん、教材類は完全には守り切れなかったんだけど。これだけはなんとか守り抜いたよ」
「――私の……写真……」
「宝物を無くすなんて残酷なこと、経験させたくないからさ」
「貴方はあるのですか……そんな、経験が」
「無くしかけたことなら何度かある、夢の中では実際に無くしてた。胸が張り裂ける、何もかもがどうでもよくなりそうなほどの痛みや辛さ――そんなのミヤコちゃん達にはもう不必要だよ」
マッシュはミヤコ達の痛みを心の底から理解していた。かつて生徒達を無くしそうになった時、彼の胸の痛みは他の何よりも勝っていた……一度戦い、話、ほんの少しだけ絆を紡いだ相手が、最近消えた。その時の痛みも、凄まじいものだった。
「僕はみんなにハッピーエンドを迎えてほしい、そのためなら台風だろうが地震だろうが津波だろうがぶっ飛ばすよ」
「…………」
「まあ大事な者が守れるなら誰だって相手してやるぞこのやろーってこと」
「誰だって……相手をしてやる………」
「僕の場合は……なんていうかな――」
『私たちFOX小隊は、相手がどんな存在だろうと逃げはしない。どんな相手になって立ち向かい、使命を待っとする、それこそ私達の正義なんだ』
――私も、先輩達のようになれますか?
『……ミヤコ、それは違う。私達のようになるんじゃいけないんだ。私達は私達の正義を……お前は、お前の正義を見つけ、それに従うんだ』
―…………?
『あーいや、もっとやわらかく言おう。自分の正義というのは自分の思いや思念から生まれるんだ……だからミヤコ。お前は』
『「正義よりも、自分の心に従って動く。これを大事にするんだ」』
「……………!!!」
繋がった、憧れていたあの先輩と……繋がった。正義とはなんなのかをずっと考えていた――それに答えなんてなかった、自分の心に従い、自分の意思で動き続ける……それができるから、マッシュもFOX小隊のあの人も、強いのだと。
「だからある意味、SRTもこれを大事に……ミヤコちゃん?」
「……先生、ありがとうございます」
「…?気にしないでよ、宝物を守るのは得意」
「私は、私の意思で、ここにいます」
「……んん?」
「己の正義とは、己の意志や想いなどと……気付かされました」
「う、うん」
「SRTも、己の正義に従い動いていたのだと…今、気づきました」
ミヤコは何かスッキリしたかのような表情で腕を広げながらマッシュに近づいていき、腕を広げた。
「先生、私は貴方に敬意と尊敬を表します」
「大袈裟だと思うけど?」
「なのでこれは……せめてものお礼です」
「ギュッとするのがお礼……?」
「―先生!」
ミヤコは自分を諭してくれたマッシュに対し、感謝と尊敬の気持ちを込めて腕を広げたまま彼に向かって走って、飛び込んだ。
ゴンッ!!!!!!
「ムギュッ!?」
「ごめん言い忘れてた、今僕筋肉痛で全身固くなりまくってるから、飛びつくのはヤバいと思う」
「早く……いって……ください……後全身筋肉痛ってなんですか…?」
「その名の通りだよ」
次回、敵を騙すのならまずは味方から。
お楽しみに
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