透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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救いはもう直ぐ、しっかりとご覧くださいませ


マッシュ・バーンデッドとビックシスター

 

 

 

 

「………お待ちしていました、先生」

 

「ごめんなんでパジャマ姿?」

 

「申し訳ありません。緊張で夜も眠れず、徹夜となってしまったので」

 

「そんな状態で戦える?」

 

「ご安心ください、ミレニアムのロボットを使ったらなんとかなりました」

 

「なんと便利な」

 

 

 

 

 

 決戦当日。マッシュは指定された場所へとちょうどいい時間帯に到着、その場にはすでにトキがいたのだが……何故かパジャマ姿だった。

 

 

 

 

「リオ会長がお待ちです、こちらへ」

 

「……」

 

「ご安心ください。罠などはありません、あったとしても貴方を捕らえ切れるものなんてありませんし」

 

「そうかな…そうかも」

 

 

 

 

 トキの案内の元マッシュはミレニアムのあるビルの中に入っていく、人っ子一人もいない、いるのは家事などを行うロボットのみ……不気味だが、何かと自動化・無人化がトレンドなミレニアムらしいといえばらしい。

 

 

 

「リオさんって会長さんなんですよね、もっと他に部下とかいないんですか?」

 

「会長が真に信じる相手は私だけですので」

 

「成程」

 

 

 

 エレベーターを登り、到着したへの前には大きな扉が存在していた。その部屋の雰囲気には、何処かティーパーティーのテラスに近いものを感じられる。トキがノックすると扉が開き、中へ二人を迎え入れたc。

 

 

 

 

 

 

「……来たのね、シャーレ先生」

 

「…………」

 

「初めまして。私は調月リオ、ミレニアムサイエンススクールの三年生、セミナーの会長よ」

 

「………?」

 

「貴方をここに呼んだのは他でもない、これから起こる危機に…………ちょっと、聞いているのかしら。人が話している時はちゃんと目を見ないといけないと習わなかったのかしら」

 

「……あっ、ごめんなさい。ちょっと驚いちゃって」

 

「驚く……まあそうね、敵の親玉が」

 

「あーそうじゃなくて」

 

「?」

 

 

 

 

 

 マッシュははっきりと、曇りなき目と疑いなき表情をしながら悪気一切なしの質問を投げかけた。

 

 

 

 

 

「ヘイロー持ちの大人って初めて見たのでびっくりしちゃって。……成程、確かにビッグシスターって名前にふさわしい風格ですね」

 

「―――――――――」

 

「ブフッ」

 

「学園のトップが学生って当たり前のように流してましたけど、じいちゃん曰く異例らしかったので……なんかこうスッキリしました」

 

「―――――よ」

 

「ん?」

 

「私は、17よ‼︎」

 

 

 

 

 

 すごい剣幕でそう言われ、マッシュは頭に疑問符を浮かべながら腕を組み少しの間考える。自分と1歳差……にしては大人らしい顔つき、爆発しそうなスタイルと風格……。

 

 

 

 

 

「……えっ、生徒さんなんですか?ごめんなさい、どうしても大人にしか見えなくて」

 

「……大人」

 

「大体25歳くらいの」

 

「にじゅぅ……ご………」

 

「あっ、あとどことなくお母さん感が」

 

「先生、それ以上は言わないであげてください。最近道端で会った幼稚園児に"おばさん"と言われたことに対して、本気で悩んでいたので」

 

「トキッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 ヤベっとマッシュは思わず口を塞いだ、よく見るとリオは息を荒げ、半ば泣きそうになりながら何かを耐えているし、プルプルとも震えている。

 

 

 

 

 

「みんな……みんなそういうのよ……子供らしくないって、老けて見えるって。

この前なんて新素材開発部に少し顔を出しに行ったら、『あの人〇〇ちゃんのお姉さん?綺麗だねー、20歳くらい?』なんて言われたし…!」

 

「あー、えっと。ほら、大人っぽい女性って素敵ですよ?」

 

「そもそも老けて見えるって何よ、せめて大人っぽく見えるって言いなさい。みんな、みんなして老けて見えるって……」

 

「同い年の生徒さん達は全くでしたのにね」

 

「そうよ……同期のヒマリやウタハは全くそんなこと言われてなかったのに、なんで、なんで私だけ…!?」

 

「先生まずいです、リオ会長が本気で泣いてしまいそうです」

 

「絶対さっきの言葉がトドメになったでしょ」

 

 

 

 

 遂に椅子の上で膝を抱え、肩を震わせて縮こまったリオ。先ほどから頭を膝に埋めて何かを呟き始めている。

 

 

 

 

「リオさん、あの…あれですよ。大人に見えるってことはそれだけリオさんが魅力的に見えていいってことですよ」

 

「そうですよ会長、会長の美貌はモデルにも匹敵するくらいなんですから」

 

「………」ピクッ

 

「先生もっとです、もっと会長を褒めてください」

 

「ごめん先に確認なんだけど、僕ら敵同士だよね?」

 

「このままだと話が進まないし、しばらく拗ねて何もしなくなりますよ」

 

「なんでそんな状態で僕を呼んだの」

 

 

 

 

 

 マッシュはリオの悩みやトキのマイペースさに振り回されながらも、彼女を褒めちぎることでメンタルの立て直しを試みた。その過程で、マッシュは一つの疑問を脳裏に浮かべていた。

 

 

 

(なんでこの人悪役演じてるんだろう)

 

 

 マッシュは既に、リオが悪人ではないことを見抜いていたのである。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「……来たるべき終焉の日について話をしましょうか」

 

(さっきのことがなかったかのように……)

 

「先生、まず貴方には告げなければいけない事実がある」

 

「……」

 

 

 

 

 リオとマッシュは対面で座り、互いに話をし始める。何が来ようとマッシュは受け入れる気でいた……既にマッシュは、信じ難い現実に幾度となく直面したこともあって、何を言われようとも驚くことはなくなりつつある。今回も、マッシュはリオが口にする内容に関わらず、基本的には動じないつもりだった。

 

 

 

 

「先生──貴方が受け持つゲーム開発部の生徒、天童アリスは――キヴォトス人ではないの」

 

「……そうなんですね」

 

「彼女は少女の姿をしているけれど、実態は違う。貴方がアリスと呼んでいたアレは、未知から侵略してくる『不可解な軍勢』の指揮官であり、『名もなき神々』を信仰する無名の司祭が崇拝した『オーパーツ』―――名もなき神々の王女AL_1S

 

「……?」

 

「要するに、世界を滅ぼすために作られた……魔王なのよ」

 

 

 

 

 アリスの正体は作られた機械、そして世界を滅ぼすために生まれた存在だとリオは告げた。信じられなかった……「アリスちゃんがそんなわけ」、そう思ったが、マッシュはここで思い返す。

 出会った頃に見たとてつもないパワーと、学習途上のAIのような振る舞い……納得がいくといえばそう。

 

 

 

 

「近いうちに、貴方の元へとある機械がやってくるわ……名を、Divi:Sion(不可解な軍隊)。彼は貴方を殺害しにくる…そのDivi:Sionは、あのデカグラマトンと同等の力を有しているの」

 

「アレと同じレベル……か」

 

「アレは……1人ではないの、アリスの中にはもう1人……真の人格が眠っている。その人格が貴方を本気で、殺そうとしている……もっといえば――キヴォトスを滅ぼそうとしている」

 

「………ふむむ、なんだか難しいんですけど要するに、アリスちゃんの中に全部を終わらせようとしているもう1人のアリスちゃんがいるってことですね」

 

「その通りよ」

 

「そして貴女は、その人格が目覚めて動き出す前に……あの子を破壊すると」

 

「まさしく、その通りよ。理解が早くて助かるわ」

 

 

 

 

 

 アリスの中にいる、もう1人のアリス……それこそが名もなき神々の王女AI_1S。その危険性はデカグラマトンとほぼ同じ、危険すぎる……目覚めてからでは遅すぎる、だからリオはアリスを破壊し世界を救おうとしていた。

 

 

 

 

 

「先生。信じられないかもしれないけれど、これは事実よ。その証拠に……アレと存在を廃墟の奥に隠したのは、他でもない連邦生徒会長なのだから」

 

「僕をここに呼んだ人だ」

 

「そう……そして私はこう考えたの、彼女が貴方を呼んだのは、その危険すぎる遺産や兵器をその力が破壊してもらうためなのではないか…と」

 

「…………合点はいきますね」

 

「失踪した連邦生徒会長の、最後の希望──それが貴方なのよ、先生。はっきり言ってここキヴォトスにある兵器や神秘だけで、アレらを完全に破壊することはできない……だからこそ、貴方が必要なの――貴方しかいないの」

 

 

 

 

 リオはそう告げながらも表情は変わらない……だが目が覚悟が決まりすぎている人の目になっていた………『本気だ、本気なんだと』マッシュは認識した。

 

 

 

 

「……先生、ここまで聞いて何を感じたのかはわからないけど……最後にお願いを聞いてちょうだい――お願いよ、マッシュ・バーンデッド。キヴォトスを救うために……貴方の力を貸して」

 

 

 

 

 その願いに対しマッシュは――一言。

 

 

 

 

「わかりました、キヴォトスを救うという願い……聞き届けます。でも――あくまでもそれは皆を、生徒全員を救う、という意味です」

 

「……アリスを破壊するのは嫌だと?」

 

「アリスちゃんが何者でも、僕の友達なんです。その友達を、壊させたりしない……何がなんでも絶対に。連邦生徒会長さんだってきっと、そんなことのために僕を頼ったわけじゃないと思います」

 

「……そう、残念だわ。先生、やはり個人の感情を第一に考えているのね」

 

「心がなければ、人は動きません。感情を失ったら何もできないし、心がなければ人は救えません」

 

 

 

 

 

 マッシュとリオは互いに立ち上がり、じっと目を見続ける。キヴォトスが危機というのは分かった、だがアリスを破壊する行為だけは絶対に許容できない。それでは、マッシュが先生である意味が、連邦生徒会長が彼を頼った意味が、なくなってしまう。

 

 

 

 

 

「マッシュ・バーンデッド、貴方は先生よ。先生という存在なら……もっと視野を広げて、合理的に動くことこそ先決なのではないかしら」

 

「先生としてキヴォトスを守って、マッシュ・バーンデッドという存在として友達(アリスちゃん)を守ります」

 

「アリスの危険性については告げたはずよ」

 

「リオさんの気持ちを否定するわけじゃないです。危険なものをあらかじめ取り除くのは当たり前ですし、僕だってリスクをそのままにするのは間違ってると思います。そう考えなければいけないのも、確かです……それでも、友達を傷つけるのは嫌です」

 

「……現実逃避かしら、事実から目を背けるのは思いやりではないのよ、先生」

 

 

 

 

 

 マッシュよりも少し長く生きた先輩として、リオはそう強く告げた。都合の悪いことから逃げたり忘れたりするのは、後々何か悪いことを招く……何度も経験している彼女だからこそ言えること。

 

 

 

 

「負うべき責任の放棄は、極めて非合理的な行動よ」

 

「責任………ここに来てから何度も聞いたし、何度も経験してきました」

 

「知っているわ、エデン条約での一件を……貴方がそこでどうなってしまっていたのかも――ならわかっているはずよ、責任の重さを」

 

「分かっています」

 

「ならば尚更、考えてちょうだい。アリスが暴走し、事態が悪化した場合の責任は……どうするつもりなのかしら、貴方1人が首を括ってどうにかなることではないのよ?」

 

「その時は何をされても文句は言えません、殴られようが撃たれようが罵られようが、殺されようが、僕は全てを受け入れます」

 

「ッ…………貴方は────!」

 

「――でもそうはなりません、させません」

 

 

 

 

 

 マッシュは懐からシュークリームを出した。シュークリームを手に、彼はゆっくりと告げる。

 

 

 

 

「シュークリーム作りは簡単そうに見えて意外と奥が深いんです、一度の失敗で全てが崩れてしまうほどに」

 

「だからこそ、その失敗をしないために行動するのよ。失敗という罪を犯さないために」

 

「それでも失敗は誰だってしまう、大事なのは――そうなる前のフォローです」

 

「───―!!」

 

「アリスちゃんが暴走する、その変な集団がアリスちゃんに接触する前に、キヴォトスが滅ぶその前に、元凶をぶっ飛ばすんです─―グーパンで」

 

 

 

 

 シュークリームを一口で平らげ、自信満々に言い放つマッシュ。フォロー、有するに失敗という工程をする前にみんなで協力しようと言っているのだ。

 

 

 

 

 

「リオさんの合理的な考えを否定する気はありません。それが、貴女なりに導き出した結論(正しさ)なんですから」

 

「……だったら」

 

「だから僕も、僕が思いつく限り合理的で最適な行動を取ります。全部を守るという、最終目標に向かって」

 

 

 

 

 

 リオが奥歯を噛み締めるとともに、彼女が左手に持っていたタブレットが地面に落ちた。リオの口ぶりに怒りが滲み出し、悲しみとも苛立ちともつかない色が表情に浮き上がる。

 

 

 

 

「私も助ける……実に非合理的ね……貴方には、私と対立して世界をも敵に回すか、私と協力してミレニアムとキヴォトスを守るか、どちらかしかないの!!」

 

「いいえ、道はいくらでもあります。僕はみんなを救う道を切り拓いてみせますよ、絶対に」

 

「だったら、私という悪を成敗し」 

 

「貴女が悪なら、貴女を悪と罵る世界なら――そっちの方が間違ってる」

 

 

 

 

 

 

『君は悪じゃない』そんなことを言われ、リオは脳がおかしくなりそうだった。もっと敵意と殺意を向けられるものだと思っていた……なのに、なのにそれがない――むしろ助けようと手を差し伸ばしてくる。

 

 

 

 

 

 

――――私にそんな資格はない

 

 

 

 

 

「――やめて!!」

 

「………リオさん」

 

「私は貴方の敵……相反する存在なのよ!」  

 

 

 

 

 リオはタブレットを拾い、操作すると、大画面のモニターが壁に映し出される。そこにはとある場所の一室の映像が流れていた。

 

 

 

 

「私は、同期であるヒマリを人質にすることだって厭わない!ご覧なさい、彼女の、弱った……姿……を……?」

 

「……確認しますけど、人質っていうのは――あの部屋で僕の生徒と一緒に、トランプで遊んでいるヒマリさんのことを指して言ってますか?」

 

「――んなっ……そんな……!?トキ、一体どういうこと!?」

 

「……ありえません、あの場所の警備は高度なシステムによって管制されています。それに場所だって……どんなハッキングも無効化するプログラムを……」

 

「――僕には、これ()がある。いつでも頼れる、心強い味方(アロナちゃん)もいる」『へへーん!』

 

 

 

 

 

 マッシュは自分の手にあるシッテムの箱を出す。シッテムの箱もいわばオーパーツ……デカグラマトンをも殴り飛ばす、アロナならばヒマリの現在地を炙り出すのも簡単だ。

 

 

 

 

 

「あの子はイズナちゃん。百鬼夜行からシャーレに来てくれた、僕の一番弟子です。知ってるかもですけど」

 

「それは把握していましたが、まさかここまでは……会長。アレでは、人質の意味が」

 

「人質を匿う部屋じゃなくないですか?普通にドリンクサーバーと冷蔵庫も置いてるし、本もいっぱい……パソコンまで置いてある」

 

「………いつから、気づいていたの……私がヒマリを匿ったことを」

 

「2日前くらいです。ヒマリさんに一応相談しようと思って電話をかけたらなんの返事もなくて、ヴェリタスの皆やエイミちゃんにそれを伝えたら、何か用事があるのかと思いきや『部長と連絡が取れない』って大慌てになったので……誰かに連れ去られたんだなって。なので権限をフルに使って、シッテムの箱でヒマリさんの車椅子の位置情報を探し出しました」

 

 

 

 

 

 モニターの先では、イズナがヒマリと共にトランプをして遊んでいた。映像上のイズナはどうやらヒマリの術中で転がされているようだが…

 それでもイズナは忍者、それもマッシュが認める生徒だ。セキュリティが無効化された施設程度であれば、潜入任務の完遂などお手の物である。

 

 

 

 

「リオさん、勝負しましょう。文句なし、なんでもありの一本勝負」

 

「……………トキ」

 

「はっ」

 

「先生と、戦いなさい……指定座標はここ────廃墟に存在する大型商業施設の駐車場よ。ここなら、数十キロ圏内を破壊し尽くしても二次被害は発生しないし、他の生徒にも気付かれない。全力で、やりなさい」

 

「――了解致しました。コールサイン04、任務を執行します」

 

 

 

 

 正義と悪ではなく、正義と正義の衝突でもない。マッシュがこれから行うのは、善悪の概念を超えた――ただの人助け(リオとアリスのための戦い)である。






次回・パワードスーツvs筋肉

百花繚乱後に見たい話

  • まだ交流がない生徒との話
  • アイデェア箱から選んだお話
  • ラビット2章
  • 愛が重い生徒との話
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