「ケーブルはここで、デバックは……ここにはこのプログラムを……データは…………」
―――キヴォトスの危機。それに誰よりもいち早く気づいた会長は、寝る暇も惜しんでそれを阻止しようと働いていました。用意したご飯も食べず、ただただパソコンと睨めっこ。
「エイッ」ゴッ!
「⁉︎――……」バタッ
「さてと」
――なので首元をちょっと叩いて強制的に眠らせては、そのままソファへと運んだりするのはほぼ毎日の日課になっていました。
「会長、お昼ごはんの用意ができました」
「これじゃダメなのよ……だから,これを……して……こう……って」
「トキスペシャル、お食べください………仕方ありませんね」
「――トキ、この後試験にムグッッ!!?」
「はいお口開けてください」
「んーんんー!!!(そんな強制的に…!!)」
――ろくにご飯も食べようとしないので、半ば無理やり口の中に食事を入れ込みました。仕事中はいつもエネルギー食で終わらせるので……心配で心配でならなかったんです。
「……トキ、当て身をして眠らせるのはやめてちょうだい。時間がないの」
「ではこちらをお飲みください、睡眠薬(通常の3倍)です」
「わかったわ…ちゃんと寝るからせめて当て身をやめて、そろそろ首にあざができるのよ」
「キヴォトス人なので大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃ無いから言っているの!」
「じゃあ行きますよ、3、2、1」
「や、やめなさいってば!」
――私がやるおもてなしを注意することはあっても…会長は、私自身を否定したり意見を飲まずに拒否したり、最初からすべてを受け入れないような姿勢のとり方は、絶対にしませんでした。セミナーの皆様に少し冷たい態度を取ることはあっても、暖かさは残ったままでした。
「会長、連邦生徒会からの連絡が………」
「違う……違う……ダメ、それだとダメ……これだとキヴォトス……みんなが………っ……」
「………」
――時々、会長はキヴォトスが滅ぶと言うことに対し心から恐怖の感情を抱き、机の下に三角座りなどをしながら震える事があります。知り合った者が消えていく、それを知り恐怖が拭い取れなかったのでしょう。
「会長」
「トキ……………トキ……!」
『ハイ、貴女の完璧メイドトキです』
「お願い、今は……そばにいて、離れないで……」
「大丈夫です。私はどこへも行きません、ずっと、貴女のそばにいますよ」
――世界の真実、私達の流れている神秘が他世界に多大なる影響を与えた事。私たちがただの人間ではない事実、そして今まさにキヴォトスが危機の渦中にあり、それを知っているのにも関わらず有効策が見出だせず、終わりに向かってただ時間だけが過ぎていく不安と責任感……その全てに、会長は押し潰されそうになっていました。
「………」
「会長、少しお休みになってください。隈が「これは、ミレニアムの初等部の生徒が、私へのプレゼントとして渡してくれた工作なの」───………」
「ボタン操作で動く簡単なロボット、私が少しアイデアを与えただけで、その後はこれを作れたらしいわ。そして言ってくれたわ……ありがとう、と」
「…会長……その目は」
「エンジニア部達が作る物は全てキヴォトスにおいて有力なものとなっていき、ヴェリタスはその技術に何回も助けられてわ、C&Cも同様に……
「…………」
「ゲーム開発部だってそうよ、あの子達も必死になって頑張ってるの―――だから守らなくちゃダメなのよ。例え結果として……あの子達の友達を消すことになったとしても」
「会長……後戻りはできませんよ」
「最初から、顧みる気など毛頭無いわ」
――会長は心からミレニアムを愛している。ミレニアムのトップとして,最優先で守らなければならないと言う責任感もありますが――単純に、大好きだから守っているのです。
――会長は私を愛してくれています、他のセミナー生徒達も同様に……そして心から心配しているのです。連邦生徒会長が任命した,異世界からの先生……マッシュ・バーンデッドを。
「あの子は、あの力を持って生まれたからと言ってここを救うように頼まれた。それでも私よりも年下の子供なの……ならばあの子も守らなければいけない」
「そのために動く…ですね」
「そうよ。例え私があの子に嫌われたとしても、憎まれたとしても……守るのよ。セミナーの会長として、調月リオとして」
――会長、ああ会長。
「だからトキ……貴女の力を借りたいの。私と貴女で、みんなを助けたい――ついてきて、くれるかしら?」
「……勿論です、この飛鳥馬トキ」
「貴女のために――この命を使いましょう!!」
「……させないよ、そんなことさせない。君を、死なせはしない」
だから――ここで貴方を止めます、マッシュ・バーンデッド………私が大好きな、会長の笑顔のために!!!
トキの動きが、攻撃が、一瞬にして全てが変わる。
一撃一撃の威力がもはや人が出せる技ではない。だがそれを、その一撃を。
(――なんで……タイミングに合わせて、ガードを…!?)
「だいたいのタイミングは、掴んだ」
マッシュは全て防いでいた。腕、足、顔、それぞれでその全てを受けていた。人間技ではない。四方から飛んでくる音速の攻撃、それらを全てまるでゲームのジャストガードのように防御していた。
「―何故……!!」
「死にゲーって知ってる?何度も死んで何度も挑戦するようなゲームを、僕は何度もやってきた。
「それだけで…この動きを!?」
「トキちゃんみたいな能力も、ゲームでは当たり前のステータスだよ――だからこそ、自分の目を鍛えた……ついでに精神が何回もすり減った」
ゲームでは、現実であり得ない能力や技、道具が登場することが当たり前である。雷と同じ速度で飛んでくる飛び道具、ガードをする指の連打が追いつかなくなるほどの攻撃、ほぼ一瞬と言ってもいいほどの一撃――それら全てが別パターンで何度も襲ってくる。
「ゲームでは苦戦したけど、現実ならやりやすいんだ。自分の体を動かすだけで済むんだから」
「っ…ならば――──そもそも動きを封じれば済む話です!!」
「!!」
トキの目が紫電に光った瞬間、彼女は強烈な踏み込みとともにマッシュの体に飛び込み、しがみついた。そして馬鹿力で彼を持ち上げ、地面に叩きつける。僅かに地面にめり込んだことを確認したトキは、全力でマッシュを引きずりながら疾走した。
まさしく筋肉雑巾である。通る道はアスファルトもコンクリートもめくり上がり、加速が生む衝撃波が廃ビルの合間を乱反射しながら轟音を発生させ、容赦のない摩擦がマッシュの背中を削り落とす。
「イテテテテテテテテッ」
「体力を消費させるだけなら、私にだってできます……!!!!」
裂けるトレーニー、抉られる地面。トキは結界内をひたすら、マッシュを引きずりながら走っていく。もはや息ができるているかも怪しいほどの速さ……しかしこれも、彼女にとって悪手であった。
「―!!」
「捕まえた、離さないよ」
マッシュは引きずられながらも手を伸ばし、トキの事を抱きしめ捕まえた。動けない、まるで蛇にでも締め付けられているかのような感覚に襲われ、トキは焦りに呑まれた自分の失敗を悟る。
「――っぐ…‼︎」
「エリクトリアスパイン魔法」
(しまった…!これは───)
マッシュは彼女を抱きしめたまま、身を翻すように大ジャンプ、弾道飛行を経てパイルドライバーを叩き込んだ。
「ヘルフォール!!」
地面が大きく割れ,衝撃で結界が破壊される。回避不可能,防御不可能の掴み技……ゲームで何度も救われた技だ。
「………ケホッ……ゴプッ……」
「おしまいだよ、トキちゃん。僕の勝ちだ」
「………まだです……まだ、やれますよ……!!」
「それ以上は君が危ない。残念だけど、無理やりにでも止めて――」
刹那、マッシュの顎が強烈な運動エネルギーで殴られた。マッシュは後ろへと少し飛びながら『まだ動けるのか』と驚いといた―――そしてトキを見た瞬間、彼は目に映る光景を疑った。
「勝つんです、カッテ、カッテ……!!」
「……どうなってんだこれ」
「会長ヲ………守ル!!」
トキの目が白く染まり、魔力のオーラに似た青い光を放つ放射体が溢れていた。ヘイローの色は黒ずみ、ネガフィルムのように色が反転している。
『―――ダメッ!!!!』
「―─リオさん…!?」
「会…長…!?」
しかし、その間にリオが割って入ってきた。マッシュはリオを胸元に抱え込むと、トキの攻撃を背中でガードする。その威力のせいか、マッシュはリオを抱きしめたまま吹き飛んだ。
「――あいったたた……受けたのが背中でよかった……」
「っ………」
「リオさん、無事ですか?」
「……ええ……大丈夫…ありがとう……先生…――…トキ…トキは!?」
「会長………何故……ナンデ…!」
「――トキ…!」
リオはトキの方へと駆け寄った。折れたヒールを脱ぎ捨てて、ストッキングが破れることも気に留めず、ただひたすら走る。
「トキ!!腕は、足は…!?」
「会長,下ガッテクダサイ、マダ,勝負ハ――」
パシンッ!!!!
そんな大きな音を立て、リオはトキの頬を引っ叩いた。2人に近づいていたマッシュは、そこで空気を読み立ち止まる。もはや話が耳に入らないレベルだったので……リオは心を鬼にして、彼女を叩いた。
「………?」
「――どうして……どうしてアレを使ったの!!」
「…会長…?」
「アレは絶対に使わないでと、何度も何度も釘を刺したはずよ!!アレと演算装置の同調は貴女自身を傷つけるからと……ヘイローが壊れる危険性があるからと、何回も言ったはずよ!!」
「……………負けたく、ありませんでした。貴女が立てた作戦が、計画が…泡と消えることが嫌だったんです……貴女の……貴女が作り上げたこの装備が、積み上げた努力が……負けるだなんて…!!」
「……装備なんて、いくらでも作り直せる。元々そういうつもりで開発したのよ……でも……でも!!」
リオはトキの両手を掴み、自分の顔の方へと引き寄せる。その目からは大粒の涙が溢れており……トキはハッとした。
「貴女のヘイローが壊れてしまったら、もう治せないのよ…!!」
「…リオ……様」
「私の唯一の味方、仲間である貴女が消えたら!―私は……何も……‼︎」
「……………」
「私のことを案してくれるのはとっても嬉しい、でもお願いよ………もっと………もっと…‼︎ 自分のことも思って…‼︎」
その言葉は、マッシュにも響いていた。過去にミカやリンに言われた言葉だ――ズキッと、彼の心が痛んだ。
「………ごめんなさい……リオ様」
「……いいのよ、アビ・エシュフが破壊された時点で…止めるべきだった。――甘かったのよ……私の全てが」
「そんなことは…‼︎」
「リオさん」
「………先生…負けよ、私達の…負け」
リオはトキの手を掴んだままそう呟き、負けを認めた。トキの顔は自分への怒りと後悔により、苦い表情に染まっている。
「アリスは破壊しない……先生のやり方で……キヴォトスを…」
「リオさん――貴女は悪人じゃない」
「…また、その話かしら。私は」
「貴女が言葉通りの悪人なら、トキちゃんがここまで本気になるわけがありません。悪人ならトキちゃんをそこまで大事にしませんよ……それに」
マッシュは膝をつき、告げた
「リオさんは世界を救うために働いてたんですよね。そんなリオさんが負けないように、リオさんの努力が無駄にならないように、トキちゃんは頑張った。その時点でもう貴女は悪人じゃありませんよ」
「………私が悪人じゃなかったとして、どうするというの…私はもう後戻りできない所にまで来たの…そんな私は」
「僕、難しいことはあまりよく理解できません。なので一言だけ」
マッシュを手を差し出し、力強く告げた。
「リオさん、トキちゃん、僕を頼ってよ。僕なら、二人のためになんだってやってのけるから」
「マッシュ……」
「勝負には勝ったけど、覚悟と努力では確実に2人の勝ち……まあつまりは引き分け」
「…………」
「リオさん、その滅びの運命に向かって僕と一緒に戦いましょう、死んでも見捨てたりしないので」
「………おかしな子よ、貴方は」
「よく言われます」
マッシュはトキを担ぎ上げ、リオも持ち上げ、ゆっくりと歩いていく。
「――助けてちょうだい……先生」
「勿論――死ぬ気で助けますよ」
本当の戦いは、ここからだ。
「所であの装備ってどれくらいの価格なんですか…?弁償します」
「いいのよ別に」
「大体シュークリーム5000個くらいですね」
「トキッ!!!」
次回,おそらくはギャグ回
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