「アリスちゃんの中に僕が入って、中でアリスちゃんと一緒にケイちゃんを止める……―???」
「わかりやすく言うならば、先生の体はここに、意識のデータをアリスの中に転送するのよ」
「なーるほど……そんなことできるんですか?」
「ミレニアムなら余裕よ」
「さすミレ」
エリドゥのセントラルタワー・管制室にて、マッシュとともにケイを止めた者たちが集まっていた。
正確には一時的な撤兵であり、ヴェリタスは酷使した脳を回復するために仮眠を取っており、エンジニア部はゴリアテ君や各種装備品の再点検に加え、アバンギャルド君が暴走しないためのプログラムを組み込む作業を行っている。トレーニング部については、病み上がりだったこともあってミレニアムに撤収している。
残っているのはC&C、セミナー、ゲーム開発部、特異現象捜査部、シャーレ所属生徒、そして彼女たちを取りまとめるマッシュ。
勝利を喜ぶ間もなく、リオの作戦は間髪入れずに次段階へと移行した。ケイの活動が一時的に停止しているとはいえ、いつ動き出すか予期できない今の状況では、先手を打つつもりでの行動が重視されるのは当然と言えた。
「お待ちなさい、先生を単騎で向かわせるつもりなのですか?」
「私たちまだ動けるよ?」
「もう少し詳しく説明すべきだったわね、先生が単騎で行くんじゃないの、彼一人にしか行けないのよ」
「どう言うこったよ」
「さらに詳しく言うなら――ケイは、神秘あるものの侵入を拒絶しているのよ」
ケイはアリスの中に潜んでいるという特性上、精神世界の一部も共有している。故にケイの力が及ぶ領域であれば精神世界の構造を作り変えることも容易く、彼女はオーパーツとしての超干渉能力と固有魔法による封緘を組み合わせることで閉鎖結界を構築、精神世界の中に『神秘を持つ存在の侵入を拒絶する』という特性を持った閉鎖領域を作り上げていたのである。
「神秘を持たない人間……つまり、先生しか中には入れないのか」
「でもそれって、主殿の肉体が入るわけではないので……外部からの攻撃に晒されたら危険なんじゃ?」
「ええ,確かに先生の身体は入られない――ならば作ればいいのよ」
「作る…?」
「――あっ、わかった!アバターだ!」
「アバター?」
「その通りよモモイ、アリスの精神世界でも活動できる身体…先生の分身、ゲームにおけるアバターに相当する存在を生成し、侵入させるのよ」
VR世界はオープンワールド世界において、自身の分身であるアバターと言うのは非常に重要なものとなる。なにせ自分の分身なのだ、それを別の世界に送り込むのだから,力を入れるに決まっている。
そんな話は置いておいて、マッシュが精神世界でも問題なく動く為、アバターは必須だ。幸いなことにリオの手元にはマッシュの戦闘データが入っている、作り上げたアバターにそれを差し込めば精神世界でも戦えるだろう。
そしてアリスの精神世界、なので当然アリスは特別に中へと入れる。ケイといえどアリスを否定する事は不可能だったよだ。
「既に先生の体をスキャンし、3Dモデル化はしてあるの。後は先生自身の同意と覚悟だけ」
「戦闘データは既に入れてありますが、元の肉体とはだいぶ力が押さえ込まれておりますので,どうかお気をつけて」
「……それと最後に、言わなければいけないことがあるの。これからアリスの精神領域に先生が立ち入れば、確実にケイは貴方を殺してでも排除しようとするでしょう。もしもの話、貴方がそこで死亡した場合…貴方の意識は、永遠に戻らない」
「永遠……!?」
「正しくハイリスク……だな」
「……本当なら、ここで先生を一人で行かせることには反対したい。シャーレの生徒として、私達は先生に言いたい――行くな、と。……それでも貴方は、行くんだろう?友のためなら」
「勿論です」
マッシュは止まる気はさらさら無かった、みんなで繋いできたこれまでのこと、助けられそうな子が目の前にいる。ならばマッシュは進むことに躊躇はない。
「でも無理はしませんし、一人で全部やりませんよ。それに仲間がこんなにもいるんですし、怖いものなしです」
「では、私はあなた様のお身体をお守りいたします。この身に変えても」
「見張として着いとくよ」
「同じく」
「姉様の監視も頑張りますね!」
「貴女達はもう少し私を信用なさい!!」
それを反対する事は、できなかった。したとしてもそれしか方法がない……リオも内心穏やかでは無かった、死地に仲間を送り込むようなものなのだから当然だ。
「――アリスの中では、アリスが先生をお守りします!」
「心強いなー」
「うぅ,私たちが中に入って手伝えないのが残念だけど……めいいっぱい応援するから! あとアドバイスとか、いろいろがんばる!」
「アリスちゃん、先生、気をつけてね?」
「ケイちゃん、助けてあげてね?」
「はい!」
「準備、お願いします」
リオとヒマリが手を動かし,準備をし始めて、ものの数分で全ての作業を終えた。マッシュとアリスはアリス自身の精神空間である世界にダイブするための装置に座り、ゴーグルを嵌め込む。
「行ってこいアリス、ダチを救ってやりな」
「先生、待っているぞ」
「二人の視野はこっちで共有されるから安心してください」
「……準備はいいかしら,二人とも」
「うす」「はい‼︎」
「―――では、ダイブ開始‼︎」
リオがタブレットを操作し、二人の意識を飛ばす。二人は眠っているかのような表情と脱力になり、リオとヒマリはそれを見て大型のモニターに二人の視野をはっきりと映るようにする。
「――出るわよ、アリスの…あるいはケイの精神世界が」
モニターに映し出されたのは、薄暗い廃墟の中だった。それはかつてアリスが眠っていた場所であり,始まりの場所でもある。
「スタート地点はここ……なんですね」
「アリスちゃんのオリジンはここ、ケイちゃんのオリジンもここなんだね」
「……先生、先に進みましょう! そしたらケイに………あれ?」
「そうだね、早く行こうアリスちゃん…………―あれ、なんか,動きがカクカクしてるな……あとなんか,視線が低いような」
モニター越しにマッシュの視点見ている生徒達はその光景に違和感を感じていた。マッシュの身長は軽くアリスを越している,なのに視線がアリスよりも下…おかしい。
「―――――なあリオ、お前が作った先生のアバターって……あれか?」
「…………違う……違うわ!あんな感じには作っていない…!!なのに、何故…!?」
「何がどうなっているんだ…!?」
「先生の、お身体が…!!」
「先生の体がドット絵になってるぅぅぅぅ!!!?」
『―――――なぜ……』
精神世界でのマッシュの体は、ドット絵になってしまっていたのだ。
――――――――――――――――――――――――
「せ、先生!?先生の体がカクカクに……あれ!?それに平べったいです!!」
「待ってどうなってるのこれ――[マッシュはおどろいている]――…えっ今の何…?」
『──先生、先生!聞こえているかしら!?』
「あっ、リオさん。なんか体がドット絵になってて……――[マッシュはからだをはげしくうごかした、しかしなんのこうかもなかったようだ]―――なんかメッセージウィンドウが入るんですけど」
『なんでドット絵!!?しかも結構初期のやつ!!』
『前後左右に真っ直ぐしか動けないし、移動スピードも変わらないやつだ!』
『おいおいおいおい…どうなってんだよこいつは!?』
マッシュの体はいわゆるドット絵になっていた、ポリゴンとかではなくガッツリドット絵。しかも初期の◯ラクエの絵、その場でずっと足を動かしているアレだ。
しかも、マッシュが喋るたびに黒いメッセージウィンドウを介してテキストが空に浮かび上がる。
「―大変です!先生の体、薄くて刃物みたいです!! 木の枝も簡単に切れました!!」
「僕の筋肉が………マイクが……ケビンが……」
『先生、筋肉がなくなってめちゃくちゃ絶望してる……』
『あ、あなた様……!!眠っておられる現実世界の先生のお顔まで真っ青に!!!』
『バグ?……にしては、いえ……これは……!!』
「―――マッシュ・バーンデッド、貴方は我々にとって大いなる脅威です。故に私は、貴方の肉体では干渉できない精神領域の中で、貴方の精神を閉じ込めて王女を奪還する鉄壁の防壁迷路を作り上げました。その準備段階として、この領域には貴方の精神を検知すると同時にその精神構造体に取り付き、能力の一切を封じるプログラムを組み込んだ
「ケイ……!!先生がこうなったのは、貴女のせいなんですか!?」
「その通りです……王女よ。強靭な肉体には物理的に対抗できませんでしたが、脆弱な精神が剥き出しとなるこの領域であれば、介入の余地は広げられる────つまりこの領域も、貴方達の精神も、それらに望みを託して此処を観測している者達の運命も、全てはもはや私の掌の上にある。そう、
暗闇から現れたのは、アリスと瓜二つの姿を取った少女・ケイ。勝利を宣言してこそいるが、その表情はどこか苦しそうで、悲しそうでもあった。マッシュはドット絵ながらも、足を交互に動かし続けながら前に移動し、彼女に告げる。
「ケイちゃん、助けに来たよ」――[マッシュはつぶやいた]
「不必要だと言ったはずです。私がここに止まっている時点で,私は貴女達の敵なのです……いい加減に諦めてください」
「諦めません……絶対に」
「ここは王女、貴女の精神世界でもあり私の世界でもある………だからこそ、好きなように書き換えられる」
ケイが天を仰ぎ、空を指す。唐突に空間が赤く照らされるとともに空が紅に染まり、廃墟が瓦解するとともに無数の守護者が出現、マッシュとアリスを取り囲んでいく。
『これは…!データ削除と対抗プログラムが追いつかないほどの…!?』
「貴方達だけは決して逃しません……ここで、永久に眠ってもらいます」
「……ケイ」
「さあ王女、覚悟を決めてください。先生を守りたいなら、貴女が私を消すしか手立てはありませんよ」
「――ケイは今、楽しいですか?」
「……………はい?」
「もう一度聞きます―───ケイ。貴女は今、楽しいんですか?」
突然のアリスの質問に、ケイは意味を理解しかねていた。
「意味がわかりません。楽しい?そんな情動に何の価値があると言うのですか。我々は、世界を終末に導くだけの道具なのに」
「楽しくないんですね……それは、ダメです。生きている以上、なにか楽しいことを見つけないと!」
「……人の話を聞いてください!私は、我々は世界を…!」
「それはケイちゃんがやりたい事なのかな」―マッシュはつぶやいた
マッシュは前に前に移動し、黒のテイストがデカデカと表示され、マッシュの言葉がはっきりと映る。
「そう作られたからそれに従うべき、そうあるべき……それはただの固定観念じゃないかな。後からいくらでも、自分のやりたいことや出来ることは見つけられるはずだよ」―マッシュはつぶやいた
「これが運命なのです、変えられない現実なのです」
「違うよ。その運命を否定することができるのならば、変えられる現実ならば、自分の手で変えられる」――マッシュはかたりかけた
「私は……アリスの、貴方の敵なのですよ、シャーレの先生……!」
「敵なんかじゃありません、ケイは……ケイは、ケイという独立した存在です!!今のケイは、アリスやケイを創った人達が勝手に決めた
その瞬間、アリスの目が青に光る。マッシュを捕らえようとしていた守護者達はその光に追い払われ、まるで逃げるように距離を取り始めた。ケイはそれを見て困惑し、声を上げる。
「――何故ですか王女、何故あなたは、貴女は……なんなのですか!!」
「アリスはアリスです。そして貴女は貴女なんです――貴女と私も、先生の大事な生徒なんです‼︎」
「違います…‼︎ だってそんな事――許されるはずがない……‼︎」
「――許します、大いに許します! そもそも許しなんて必要ないんです……そう生まれたことに罪なんてありません‼︎」
『この……エネルギー…反応は…‼︎』
ケイは守護者達を動かし、マッシュとアリスを攻撃するが。謎のバリアのようなものが作動し二人を守った。
「アリスはこの世界に生まれてよかったって本気で思っています! だって、そういう運命で生まれたはずの私に、いろいろな楽しいことを教えてくれた人にたくさん出会えたんですから‼︎」
(ここは、王女の意識の世界……まさか王女は……!?)
「私はみんなの勇者になると決めたんです、なので次はケイの番です!ケイがしたいこと、やりたいこと、楽しいと思えることを見つけるのを手伝ってあげる、それがアリスの――勇者としての第一歩です!!」
「……その力は……―っ…なん、ですか……この記憶は……!?」
「ケイがkeyとしての魔法を使えるのなら、アリスは、今のアリスとしての魔法を使うんです!ケイと同じように…魔法使いに、ジョブチェンジです!!」
ケイの脳内には、彼女が知らないデータが送られて来た。それはアリスが今までやって来たゲームのプレイ内容と、それに繋がる思い出だ。
その思い出が、データが、ケイではなくアリスに奇跡を――いや、力を与えた。誰かを守るために、救うために、勇者の力を目覚めさせた。
「だからこれは、アリスの、アリスだけの力です!みんなの繋いでくれた、大切なメモリーパワー……名付けて―――」
アリスは右手に、光の杖―ではなく光の剣が出現した。それは青白い光を放つ剣、エネルギーの塊のような物。
「────
アリスがそう告げ剣を空に掲げた瞬間――終末が訪れた後のような世界が変貌し、白い光に包まれた。アリスの決然とした声が、ゲーム開始の合図を告げる。
「ゲームスタート……たくさん遊びましょうね、ケイ!!」
そう言ったアリスの右の頬には──スタンバイシンボルのような形を取った、青いアザが浮かび上がっていた。
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