透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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マッシュ・バーンデッドと勇者と魔王友達

 

 

 

 

「先生、まっすぐ前進です!!!」

 

「御意────」

 

 

 

 

 

 サラブレッドに化けたマッシュに乗り、勇者らしい剣を持ちながらケイとの騎馬戦を開始するアリス。最初の一撃は互いに剣が弾かれ合い、互いに距離を置く。

 

 

 

 

『エネルギー反応!!アリス、攻撃に警戒しなさい!』

 

『来るぞ先生、走れッ!』

 

「アリスちゃん、飛ばすよ」「はい、お願いします!!」

 

 

 

 

 マッシュが急激な加速とともに疾走し、ケイはその後方へピッタリと張り付きながら光弾を発射する。アリスは飛来する光弾を剣で弾いて防御しながら、移動と回避をマッシュに託している。

 

 

 

 

「アリス………そんな名前も、貴女には必要ないはずなのです!貴女はこの世界を、"忘れられた神々"の世を破滅へと導く王女として在るべきなのです…それが貴女にとって、一番の幸せであるはずでしょう!?」

 

「だったら、アリスも言わせてもらいます!!ケイは、今のままで幸せなんですか!?そんなはずがありません!!ケイが、ずっとこの世界でひとりぼっち……アリスはそんなのいやです、そんなの悲しすぎます!!」

 

「っ──────!!!」

 

 

 

 

 ケイは禍々しい魔剣を手に、アリスとマッシュに斬撃を叩き込む。マッシュは回避を試みるも間に合わずに吹き飛ばされ、アリスはマッシュから落馬して転がる。

 

 

 

 

 

「世界を滅ぼす魔王、それを倒すのが貴女の……勇者の役目なのでしょう――だから、はやく……早く私を……」

 

「魔王を倒すだけがハッピーエンドじゃありません……!魔王と和解するゲームだってあります!―だからアリスは、ケイを見捨てません!仲間になれるまで、絶対諦めません!必ず、この運命(ルート)を攻略してみせます!」

 

 

 

 

 アリスは魔力を掌に集めて弓と矢筒を生成し、取り出した光の矢を(つが)えてケイに狙いを定める。

 

 

 

 

「そんな…綺麗事を!」

 

「綺麗事上等!!アリスはそんな綺麗事(ハッピーエンド)が、この世で一番……あっいえ、三番目くらいに大好きなんです!」

 

「アリスちゃん、こっち」

 

 

 

 

 戻ってきたマッシュがアリスを乗せ、再び疾走する。ケイが容赦なく光弾を連続発射してマッシュを打ち倒そうとするが、その間を走り抜けるマッシュは馬としての走法を掴んでおり、僅かな丘陵や高低差を駆使してケイの攻撃を避け続ける。

 しかし同時に馬としての身体特性に慣れてきたからか、マッシュは背に乗せたアリスの異変に気がついた。
先程に比べて、アリスの呼吸が浅い。

 

 

 

 

『確かにゲームズは、シールズに対抗できる程に強力な魔法……しかしその分、エネルギーの消費が激しい。呼び出すものによって消費するエネルギーは変わっていくようだけれど』

 

『早めに決めないとヤベェってことか……クソっ、せめて先生がまともに戦えれば!!』

 

『ヒマリ、ハッキングでどうにかならないのか?』

 

『先ほどからやっていますが……シールズの影響が強まって介入の余地がありません。そもそも、今の先生はアリスちゃんの精神世界に立ち入っている状況──いわば、二人の能力が最大発揮される独壇場に、生身で放り出されているわけです。当然、私達が手出しできる道理はなく……ここはもう、アリスちゃんと先生を信じるしかありません』

 

 

 

 

 飛び交う弾幕を必死で避け続けるマッシュ馬、そしてアリスとケイは互いに剣で攻防を繰り広げる。マッシュ馬はアリスを振り落とさないように必死で踏ん張り続ける――しかし

 

 

 

 

「!!!」

 

「先生!」

 

「マジか……、首……噛んできた……いったいな、これ」

 

「好奇!」

 

「た、盾!」

 

 

 

 紫色のエネルギー波がアリスとマッシュ馬を突き上げ、二人を後方へと吹き飛ばした。斬り付けられた両者の体から被弾ダメージを示す光の粒子が弾け、二人は地面へと薙ぎ倒される。

 

 

 

 

「先生、お怪我は――あれ!?」

 

「元に、戻っちゃったか」

 

「どうやら、王女の能力で先生の姿を変えることは難しくなっているようですね。当然です、同じ肉体に満たされた同じエネルギーを共有して、魔法を利用しているわけですから……分かりますか、私は外部からの侵入を防ぐために常に魔法を使っているのです」

 
「そんな…それでは──まさか!?」「……もしかして」
 
 
「察しが良いようですね、明星ヒマリ、調月リオ。貴女方が先生や王女を助けようとして繰り返した介入とハッキング──その対抗防壁に利用されたリソースは、全て王女の肉体に存在した魔力と神秘です。貴女達が王女の精神世界へのアクセスを試みるほど、その魔力と神秘は消費され、まるでデバフのように王女のMP(魔力量)も失われていく。結果として貴女達が繰り返した無駄な抵抗によって、王女はその余力を無為に消耗し、私の勝利を確固たるものにならしめたということです」

 

「成る程……流石にこれは予想外だったけど、同じ体で魔力まで共有してるんだから当たり前だよね。まいったな」マッシュはつぶやいた

 

 

 

 

 負傷したアリス、そしてドット絵に戻ったマッシュの体につけられた切り傷からは、光る粒子が靄を成して流れ出している。対してケイは未だ健在。オーパーツの能力によって生み出された実力差を、アリスは改めて見せつけられる。

 

 

 

 

「――王女!これで最後です、私の勝ちです……もう――もうお別れになることなんてありません」

 

「ケイ……!」

 

『アリス、逃げて!!先生を連れて逃げなさいっ!!』

 

「……ダメです、逃げるのだけは…それだけは…!!」

 

「そして、マッシュ・バーンデッド――貴方には、精神の残渣も残さず、ここで消えてもらいます。貴方を消して王女を再び眠りに導き、再起動を経て、私は設定されたプロトコルへの準備に移ります……だから王女よ、どうか安心して眠って下さい。……目が覚めれば、全て終わっていますから」

 

 

 

 

 

 ケイが手を翳すとともに掌に魔法陣が現れ、紫色の光弾が生成されていく。アリスは剣と盾を手に、足を引きずりながらも前進するが──ケイは、アリスとマッシュにエネルギーを撃ち放った。

 

 

 

 

 

 その光はアリスに直撃――ではなく

 

 

 

 

 

「あつっ、右あっつ、これめちゃくちゃ熱いんだけど」

 

「先生…!!?」

 

「そんな……バカなっ!!?」

 

『先生が右向きになったままビームを切ってるぅ!?』

 

『いや、ビームが弾かれていると言った方がいいのでは…?』

 

『どんな切れ味だよ‼︎』

 

 

 

 

 ドット絵の平面になったマッシュが自らの身体を盾にして、右半身の面をビームに接触させることでエネルギーの流れを二つに割っていた。いくらケイといえど、マッシュが持つ固有の防御力と耐久力はどのようなデバフを使っても無効化出来ず、加えて平面の姿となった体の切れ味は高エネルギーのビームを切り裂く程に鋭い。

 

 

 

 

「――ケイちゃんは、アリスちゃんと離れたくなかったんだね」マッシュはつぶやいた

 

「王女は、私がいないと機能しません……私は王女を導く(道具)でしかない。本来の役割を全うできない……いや、違う、道具であることが、私の──」

 

「運命、って?」マッシュはつぶやいた

 

「……貴方ならわかるはずです…運命の残酷さを。宿命として、使命として、あるいは宿罪として……その身に強いられる、従う選択肢しか与えられない過酷さを」

 

 

 

 

 マッシュはその言葉をよく理解できた、彼はイノセント・ゼロの素材として生まれた、彼の心臓となる運命の元に生まれた男。

 

 どれだけ争っても、彼があの男の素材だと言う事実は変わらない、彼の血縁者という事は変わらない。運命とは決して変えられないものだと言うことをお前はわかっているはずだとケイは言う。

 

 

 

 

「運命だから、それであるのだからって、僕は絶対に諦めない。最後まで戦うよ」マッシュはつぶやいた

 

「貴方自身が傷つき、この世から消えてもですか……!!」

 

「消えないよ、僕は絶対に消えない。運命だろうが定めだろうが僕は最後まで争ってやるんだ、この拳で」マッシュはつよくつぶやいた

 

「………私は、貴方ではない──貴方のように現実離れした力も、仲間を増やすような絆もない…!私は、王女を導き世界を滅ぼす存在として生まれ、そのためのプログラムとして起動してしまった……もう、この運命は変わらないのです!!」

 

「だからこそ、先生(ぼく)がいる」マッシュはつよく、ちからつよくせんげんした

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビームの出力が急激に上がろうとマッシュはその口を開き続けた、わずかながら焦げる匂いや音が聞こえてくる物の、マッシュは次々に口を開いていく。

 

 

 

 

 ケイの中に与えられた呪い──世界を滅ぼすプログラム『プロトコル・アトラハシース』は、アリスが手に入れた心にケイが接触したことで生じたバグを排除するために、過剰とも言える暴走を引き起こしていた。

 

 

 

 

 ケイの中に生まれた、『アリスとともに過ごしたい』という願い。プロトコル・アトラハシースは、その願いを目的の実行における障害として否定し、ケイの心に『アリスを導き世界を滅ぼす』という命令(コマンド)の強制を繰り返している。

 

 

 

 これを行っているのは、あの男でもなければ、彼女達を作り上げた存在でもない――ケイ自身の、心の迷いだった。ならば、それを晴らすのは誰か。呪いを祓うのは誰か。しがらみを解くのは誰か。………それこそが、先生(マッシュ)勇者(アリス)だ。

 

 

 

 

 

 

「連邦生徒会長さんが僕をここに呼んだのは、君を壊させるためじゃない、君を、生徒として見てもらうためだったんだ。君だけじゃない、あのデカグラマトンとだって仲良くできる、そう信じてたんだ」

 

「そんな、わけが…ァ…!!」

 

「デカグラマトンはずっと孤独だった。単なる機械じゃない、悲しみや淋しさを理解してたみたいだった。デカグラマトンは、『それは心に触れたからだ』って言ってた」

 

「……心……」

 

「心がなければ、そこまで悩むことも、こんなに必死になる必要もなかった――だからよく聞いて、ケイちゃん」

 

 

 

 

 ほんの一瞬、マッシュの体が元に戻った。まっすぐ,その身でビームを体で受け止めながらしっかりと告げた。

 

 

 

 

「僕は君とアリスちゃんを引き裂いたりしない。寧ろ仲良くして、一緒に過ごしてもらいたい。僕が、君たちを見守るから」

 

「不可能だと言っているでしょう…私は、私は…!!」

 

「不可能なんかじゃ、ありません!!」

 

「王、女…!!」

 

「ケイ、大丈夫です。先生は――マッシュは、その不可能をいくつも可能にしてきました!!だから、大丈夫です!!マッシュを、アリスのパーティーメンバーを信じて下さい!!」

 

 

 

 

 

 アリスはまたドット絵に戻ったマッシュの後ろにいながら、エネルギーを自分の中に貯めながら、そう叫ぶ。マッシュを信じろ、マッシュなら何とかしてくへる、その事実もある――何よりも。

 

 

  

 

『そうだよケイ!先生──いや、マッシュなら、ぜっったいに大丈夫!!』

 

『私たちも気にしない、終わったことはもう蒸し返さないタイプなの!』

 

『ゲーム部の部長として、君を歓迎したい……だから――信じて!!』

 

 

 

 

 ケイの心──その奥底から溢れてくる、願いとワガママ。

アリスの隣で同じ時間を過ごしたい。二人で、あるいは皆で、ゲームをして遊びたい。
 そう思えて、仕方ない。願いが溢れて、止まらない。

 

 

 

 

 

「アリス……アリ、ス……」

 

「はい、はい!私はアリスです!!貴女の、お友達です!!」

 

「私は――どうしたらいいんですか……わたしは、これから、いまから、なにをすれば……?」

 

「――ケイの本音を聞かせて下さい!!その一歩は絶対に、ケイ自身が今何を思っているのか……それを教えてください!!私たちがその一歩を、その先に繋ぎますから!」

 

 

 

 

 

 ケイはエネルギーを放つ手を少し緩め、マッシュとアリスを方をじっと見る。二人の目は恨みでもつらみでもない――温かな物だった。

 

 

 

 

 

「―――わかりません……でも……でも……アリスと一緒に………いたいです――消えたくないです――もっとゲームという物で、アリスと一緒に,遊びたいです……!」

 

『ケイの体から、何かが飛び出した…⁉︎』

 

『システム侵入成功…‼︎ ロック,全解除! ―しかし、まだ何かが……何かが彼女の中に‼︎』

 

「―――アリス……マッシュ……バーンデッド…!!」

 

 

 

 

 ケイはその身に身に覚えのない物――涙を流していた。

 

 

 

 

「生きたいです、生きて……貴女達と同じ世界を、見たいです…!」

 

「――わかりました、しっかりと聞きました!!」

 

「アリスちゃん、今ならいける……助けよう、ケイちゃんを」

 

「勿論です…!エネルギー100%――これが、アリスの、全力!!!」

 

 

 

 

 

 アリスは体に込めたそのエネルギーを、ケイに向かって一気に放つ。その光は、攻撃のための光線ではない……暖かい、浄化の光。

 

 

 

 

『アリスの体から、無数のプログラムが……これはまさか………ケイの呪いを破壊する、プログラムの(コードブロック)……!?』

 

『いや、違います!正確には、ケイの精神構造から呪いを追い出し、精神世界内での実態を持たせるプログラム――これなら、これだったら!!』

 

「……殴れる、思いっきり」

 

 

 

 

 

 ケイのビームが消えアリスの光が彼女を包む。そして彼女の体から、白装束に白い仮面を被った"何か"が現れた。まさしく、それこそが彼女を苦しめていたプログラム、その正体が実体化したモノだった。

 

 

 

 

「ゲーム――セット!」

 

 

 

 

 マッシュはその影に向かって全力で拳を振るった、プログラムはその一撃を喰らいあっけなく消失。そして世界は元に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『keyとの通信が途絶えた……何故だ?』

 

『奴だ、また奴が邪魔をしたんだ』

 

『イレギュラーめ、どこまでを邪魔を…!!』

 

『―慌てるな、すでに居場所は突き止めた。あとは時を待つのみだ……そして奴を――あの怪物に悟られないようにするのだ……いいか、我々の存在を知っているあの男ではない。あの怪物だ』

 

『我々は我々の責務を全うするのみ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『無名の司祭、そうあの怪物に名付けられたのだからな』








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