透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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鬱とオリジナル設定の注意です。今更ですが


マッシュ・バーンデッドと仮説の真実

 

 

 

 

 

『――つくづくお前は面白いな…マッシュ・バーンデッ』

 

 

 

―─フンッッッ!!!

 

 

 

 

ドォォォォォッッ!!??――っ…この…!いきなり殴る奴があるか…!!』

 

 

―─うっさいわい、こちとら貴方のせいでとんでもなく迷惑してるんですよ。責任取れバカヤロー

 

 

『やはり貴様は大っ嫌いだ…マッシュ・バーンデッド…!!』

 

 

―こっちもですよ

 

 

 

 

 

 真っ暗な世界──エデン条約事件においてもマッシュやセイアが目にした、魔力で形作られた夢の中の空間。そこで開幕早々マッシュに殴られた相手……イノセント・ゼロ。

 

 

 

 

―……それでなんの用ですか? またあの解釈違いな夢でも見せる気なんですか?もう聞きませんからねそんなの

 

『フンッ…もうあんな真似はせん。お前の意識が遠くへと飛ばされた、その反応を検知してな……今回は特別に、お招きできたわけだ』

 

 

―─それで、僕を殺そうと?

 

 

『できるのならもうしている……今ここでお前を殺しても、私が困るのでな』

 

 

―─……?あなたって僕の心臓を狙ってるんですよね?なら今殺して心臓を持っていった方が楽でしょ

 

 

『いいや、今お前を殺すのは賢明ではない』

 

 

―─……どゆこと?

 

 

『学園都市キヴォトス、かの世界を生きる生徒たちの正体……それをお前は知っているだろう?』

 

 

―─……神様、って聞いたことはあります

 

 

『その通り、その末裔が彼女たちの正体だ……いいか、あの眠り姫の仮説は大当たりだったと言っていい。選抜試験だったら特待生として我々の組織(無邪気な淵源)に迎え入れてやりたい程「…………」……冗談だ、そんな顔をするな』

 
 マッシュに睨まれたイノセント・ゼロは、咳払いを挟んで解説を続けた。
 
 
『さて、我々の世界の神とは――太古のキヴォトスに生きていた、その世界の常識においては"何の変哲もなく"身に神秘を宿した少女たちだった……いい機会だ、教えてやろう――世界の真実をな』 

 

 

 

 

 

 

 未だ殴られて右頬が腫れ上がったままのイノセント・ゼロであったが、空間を満たす空気が変わるとともにその目つきに淀みが消えた。飄々と冗談めかした物言いは嘘のように消え、口を開いたイノセント・ゼロ。その言葉が示す内容は、紛れもない「信じがたい真実」の記録だった。

 

 

 

 

『現在の歴史では語られない古代の話だ。我々の世界に迷い込んだ古代のキヴォトス人、その姿や種族は様々だった。翼や羽、角や耳、あるいは尻尾を生やした者もいれば、人間とほぼ変わりない姿をした者もいた。今のキヴォトス人と、特徴においては大差ない……格好はいささか卑猥だったがな。彼女らは……そうだな、今日のキヴォトスにおける学園の領主たち、その先代に相当する存在と考えてくれればいい。それぐらいの地位を持っていた』

 

 

 

 

卑猥って言うあたり貴方にもそういう感性とかあるんですね

 

 

 

無知同然の貴様に言われたくはないな……話を戻すか。その者達は本当に、たまたま世界を跨いでしまっただけだった。いわば奇跡が起きたのだ。当然のことだ、キヴォトスは魔法界や他世界とは異なる"奇跡に満ちた世界"、神秘と崇高の転炉なのだから。空が風を生み、海が波を立てるように──キヴォトスと魔法界が互いに干渉して空間の揺らぎを広げ、物理的な繋がりを得ることは自然の成り行きだった訳だ……しかし彼女らの力を見た民衆は口を揃えて一様に言った、それこそ馬鹿になったように同じことを言った―――─彼女達は神だ、と』

 

 

―─そこまで言われてたんだ、ナギサさんやリオさんたちのご先祖様って凄かったんだなぁ……それから?

 

 

『崇め奉り崇拝し、持ちうる財を見境なく投じて彼女らを饗した……言い方を変えれば、供物を利用して媚び諂った訳だ。……彼女たちが持つ神秘、それがもたらす祝福を手に入れるために、な』

 

 

 

──……ふむ

 

 

 

『―─キヴォトスと魔法界の交流が始まってから数十年の時が経つと、魔法界を訪れるキヴォトス人の中には男に惚れる者が現れるようになった。神と崇められていても彼女らはただの娘……恋愛なんぞいくらでも夢見るさ』

 

 

──……大丈夫なんですか、それ。そう簡単に神様と結婚するってわけにはいかないでしょ

 

 

 

『全く持って当然のことだ。相手はただの人間、神との交わりを得ることなどできようはずもない』

 

 

 

 

 

 予想通りの答えに、マッシュは少なからず暗いものを感じさせられた。イノセント・ゼロは構わず、歴史の授業を進めていく。

 

 

 

 

『しかし、無力な人間がいくら抗ったところで、神秘を身に満たす彼女らに人間が勝てるはずはなかった。彼女たちが愛を求め始めたことで魔法界政府の重鎮共は頭を悩ませ、最終的に彼女たちの願いを"神の思し召し"として受け入れることとなった。一度(ひとたび)、異界の者同士の婚姻が許されれば後は早かった。彼女たちは子を身籠り、夢にも見た生活を手に入れることができた。彼女たちから生まれた世代によって、魔法界からキヴォトスの民が放逐されるという皮肉な運命を辿るとも知らずに』

 

─―……何故?

 

『その子供達には、ヘイローが存在していなかったんだ。代わりと言うべきか、その顔にはお前もよく知る黒いアザが出来上がっていてな……分かるか、マッシュ・バーンデッド。腹の子へと色濃く受け継がれた神秘は胎内で未知の変化を遂げ、魔法界の理や人の身体構造に合わせてその出力が発現するように進化していた。これが、魔法の始祖だ

 

 

─―………

 

 

『そしてそこから、彼女らの人生は苦痛の日々だった。家庭内ではぞんざいに扱われ、これまで彼女らを持て囃してきた召使からは無視され、子供の顔すら見られない……存在しないもののように扱われ始めた。方舟(箱庭)で生きてきた彼女(子供)たちは、そこで現実を知った(大人になった)んだよ』

 

 

―─……トリニティやじいちゃんの話で聞いた政略結婚、ってやつに似てますね……まさか

 

 

『そのまさかだ、おおよそ認識としては間違いではない――夫共の狙いは初めから、自分の後継者が祝福を受けたまま成長し、血を広げていくこと。言い換えれば自分の子や孫、その先の子々孫々が世界の強者として、能力的にも政治的にも優位に立つに足る力を得るためだったのさ。目的を果たす道具として、無知で純真なキヴォトスの少女たちは余りにも都合が良かった。彼女たちはお役御免、だ』

 

 

 

 

 家計の血を反映させるため、絶やさないため、力をつけるために彼女らは利用された。夫達は妻を愛していなかった。奇しくもイノセント・ゼロの力を求めたベアトリーチェと同様、求めていたのはその力を使う血統因子……そして、生まれた子供がもたらす自分たちの利益だけだった。

 当然、人道に反して彼女たちを蔑ろにする行為であることに、疑いの余地はない。

 

 

 

 

 

『やがて子供達は成長していき、力をつけるようになって行ったが……母親たちはその生活を支える道具として、奴隷同然の扱いを受けるようになった―――理想から引き剥がされた苦痛、不当な使いに対する怒り、周囲との軋轢や格差が生む不満、子を守れなかった悲しみ。それらを煮えたぎらせた彼女たちの激情はその身に満ちた神秘(Mystery)恐怖(Terror)へと反転させ、内に潜んでいた神の力を暴走させたんだよ』

 
──力が、暴走……それってもしかして
 
 
『察しがいいな、マッシュ・バーンデッド。機械の鎧や音速の魔法を用いてお前と戦ったあのメイド、彼女が見せた感情の高ぶりや理性の喪失による暴走が、最も近い現象かもしれんな。彼女たちの身には、それが何百倍という規模と出力のエネルギーを伴って発生していたと見て間違いないだろう。それだけ彼女たちの苦しみは強かったのだろうな』

 

 

―─……当たり前ですよ、そんなの

 

 

『これが、現史では語られることのない御伽噺として扱われている魔法大戦の勃発を引き起こした。暴走した彼女らに勝てるのは彼女たちから生まれた世代のみであり、子供達は自分の国を守るため、あるいは父親を守るため、最精鋭の魔法使いとして戦った……例えその相手が、自分の母親であったとしてもだ』

 

 

―…結果は

 

 

『魔法界側の勝利……と言えば聞こえはいいが、実際は決着した段階で文明のほぼ全てが崩壊していたようなものだった。有り体に言えば引き分け、その中でも最も後味の悪い終わり方を迎えたと言っていいだろうな。荒れ狂う女達を追い払った代償として戦地となった魔法界は荒廃し、生き残ったのは彼女らの実子の中でも特に優れていた極一握りの魔法使い、そして焼かれた街や都から逃げ出した僅かな民人だけだった。対する魔法使いの母親達も、それとほぼ同じかそれ以上の浅からぬ深傷と出血を強いられ、魔法界から駆逐されるに至った』

 
 イノセント・ゼロは顕現させたワイングラスを揺らしながら、恐らくその戦いの内容が記された禁書(またはそのコピー)と思しき本を手元に現出させ、ゆっくりとメージをめくる。
 
 
 
「母親達は邪神や悪魔などと罵られ、最終的にはキヴォトスへと逃げおおせた。そして彼女らは魔法界との接触を断つべく、神秘の力で世界を分断して二つの世界を隔てる壁を作り上げたのさ。そんな殻の中に閉じ込められた、狭く矮小な箱庭……いや、結果的には"邪神と悪魔の牢獄"に近い場末となった世界こそ、今お前が生きているキヴォトスの正体だ」

 

 

―─…………酷すぎませんか

 

 

『全くだな。いわば我々は、その身勝手な人間共の末裔に当たる。我々が信仰していた神というのはまさしくその女どもだったわけだ――ああ、可哀想にな』

 

 

―─思ってもいないくせに

 

 

 

バレたか?──まぁ、一定の同情はしてやってもいいつもりでいるがね』

 

 

 

 

 人類の愚かさを見せつける、身勝手極まりない現実がそこにあった。文明の復興を進めた魔法界の政府は魔法局へと再編され、彼らが犯した罪を隠蔽し、歴史を都合よく書き換え、真実を記した内容はごく一部の者しか存在を知らない禁書に収められた上で永久に封印された。

 そんな人間どもが生み出した歴史が、常識が、社会が、今のイノセント・ゼロやベアトリーチェを生み出し、マッシュやレグロを追い詰めた最大の理由でもあった。

 

 

 

『そしてここからが本題だ、お前が戦ってきたオーパーツ………あれらは誰によって、何故造り出されたと思う?』

 

 

―─キヴォトスを支配とか、滅ぼすためって聞きましたけど……あと、僕を殺すためとか

 

 

『それは目的の一部か、ただの目的外利用でしかない。そもそも現存するオーパーツは、魔法大戦中に試作・実戦投入されて魔法界を焼き払った戦略兵器の数々、その中でも奇跡的に散逸を免れたほんの一握りの痕跡に過ぎん。本来の標的は、我々の世界だ。オーパーツの存在意義とは、今のキヴォトスと魔法界を滅ぼすことに他ならないのだ

 

 

―─……何故だろう、納得しかしない

 

 

『神々に背いたのだ、当たり前だ。"名も無き神"……その正体は、世界最初の魔法使い達の母親達だ。彼女らは魔法界を呪った、そして悲しみ嘆いていた……それに対して怒り狂ったのが──あの王女を作り上げた者達、名もなき神を崇拝・信仰していた無名の司祭の一派だった』

 

 

―─なんでその人達はキヴォトスや僕らを滅ぼそうとするんですか?

 

 

『魔法界との衝突後、惨敗を喫した名もなき神は余力を投じて世界を分断した。戦傷や戦病はその力を衰えさせ、さらなる負担は彼女たちの寿命を縮め、その影響力はキヴォトスにおいても小さくなった。後に、彼女たちの力を色濃く受け継ぎながらも様々な概念と結びついた、魔法界の民が知らない(から忘れられた)第二世代──"忘れられた神々"が出現すると、居場所を失った彼女たち(旧世代)は滅亡の一途を辿って消えた。最後まで彼女たちを信奉していた司祭たちは、死に体となった神々の助けを借りて世界の外に脱出することに成功したのさ』

 

 

―─…………

 

 

 

『命からがら戻ってきた名もなき神を滅亡に追いやった、忘れられた神々。その末裔である生徒共(第三世代)も、原因を生んだ人類の現世代──すなわち私やお前、あの祖父を含めた人間も……それらの全てを破滅と終焉に導き、抹消し、報復を完遂することこそが司祭共の目的だ』

 

 

―─……僕に、その話をした理由はなんですか

 

 

『その無名の司祭が真に恐れているのが、お前だからだ……マッシュよ。理由はわからないが、奴らはお前のことを心の底から恐れている。奴らの拠り所となっている存在──私でも触れることに躊躇し、ベアトリーチェがキヴォトスへ呼び寄せたという()()……それに対しても、お前なら太刀打ちできるのかもしれんな』

 

 

─―会ったこともないのに?

 

 

『奴らの目的の邪魔になる存在、それがお前だ……神々の住まう楽園だったこの世界が今こうして学園都市の体裁を成しているのは、忘れられた神々を生徒という存在に位置づけることで、それを庇護する存在(先生)としてお前のような者を招き入れるための生存戦略だったのかもしれないな。そう考えれば、これまでキヴォトスを治めていたという例の女が、かつて名もなき神がキヴォトスと魔法界の間に作った時空の壁を超えてまでお前を引き入れた理由についても辻褄が合う』

 
──連邦生徒会長さんが……?
 
「まぁ、真意は本人にしか分からんだろうが……いずれにせよ、ここで一つ忠告だ。マッシュ・バーンデッド」

 

 

 

 

 

 イノセント・ゼロは、その実態からは考えられないほどまっすぐに、マッシュに忠告を与えた。

 

 

 

 

王女(AL-1S)(Key)を止めた時点で、お前は確実に奴らの敵となった。そして私が真に恐れている存在にも、お前は敵として認識された』

 

―─……何が言いたいんですか、結局……そもそもなんで、何処でそんなことを知ったんですか

 

『こちらでも色々と調べていたんだよ。当然だが私の配下の中には、秘匿された黒魔術の伝道書を探して法に触れた者もいれば、闇に葬られた歴史を記した禁書の在処を探して投獄された者もいる。彼らの力を利用すれば面白いようにネタが集まったよ……

それらを網羅し、記憶し、理解した私が、今ここではっきり言ってやる。今のままではお前達は全滅する。強力な神秘を持つ存在……例を言えば親友のなかでもひときわ強い存在を覚醒に導き、対策を講じろ。そうでなければ、奴等には勝てん』

 

─―成程……僕が負けて貴方の目的が達成されなくなるのが嫌だと。ついでにその存在とやらが魔法界に来たらまずいから僕らに倒してもらおう、と

 

『その通りだ……いいか、徐ろにだが事は進み初めている。魔法が発現した生徒、その生徒は注意するとともに保護しろ……いいな』

 

 

 

 

 その忠告を終えた途端、イノセント・ゼロの姿が半透明となり、ノイズが走り始めるとともに周囲の空間にヒビが入った。アリスの精神世界から離れてイノセント・ゼロの魔法の影響下にある状態から抜け出し、マッシュの体が目を覚まそうとしているのだ。

 

 

 

 

『時間か……いいな、マッシュ・バーンデッド。今回はなんとかなったが、次はそうもいかないだろう。危険因子はすぐにでも消せ……それか、どんな対価を支払ってでも仲間につけろ』

 

――それが生徒なら保護します、絶対に 

 

『私の夢のために貴様の心臓がどうしても必要なのだ………死ぬなよ、マッシュ・バーンデッド』

 

――もともと死ぬつもりありませんよ……でもそれは貴方……いや、お前のためじゃない。そもそもお前のことは、今は許してやる気はない

 

『別にそれは構わんが、覚えておけ。お前が例の一派(アリウス)を更生させるまでの一悶着が起きたように、怨恨や怨嗟というのは侮れない存在だ……無名の司祭のその怒り、それは簡単には拭い切れない――なんとしてでも足掻いて勝て、マッシュ・バーンデッド………私の息子よ』

 
──勝ちますよ、絶対……あと言わせてもらいますけど、僕は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前の息子じゃない…………あれ」

 

「――あ、あなた様…!!お目覚めになられたのですね!!」

 
「戻ってきたか、先生…!リオ、ヒマリ!先生が目を覚ましたぞ!」
 
「主殿っ!!」
 
「先生、お帰り。プロテイン用意しといたけど飲む?」
 
「えへへ…お疲れ様でした、先生。タオルをどうぞ」
 
「「「「せんせ〜〜〜っ!!!」」」」

 

「……また、このパターンか」

 

「はい?」

 

「いや…なんでもないよ」





この作品の無名の司祭はアレです、推しが酷い目にあったのは生まれた世界と酷い目に合わせた世界のせいだから何もかも全部無くして一からやり直そう‼︎

って感じです

百花繚乱後に見たい話

  • まだ交流がない生徒との話
  • アイデェア箱から選んだお話
  • ラビット2章
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