透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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筋肉令嬢でもう大体察した方もいるでしょう………その通りです。


閑話5
マッシュ・バーンデッドと筋肉令嬢と忍者の始まり


 

 

 

 

(――周囲……良し、……うふふふっ、ついにこの時がやってきました。とても長く険しい道でしたが…今日……その努力が報われます)

 

 

 

 

 ある日の夜。

 シャーレは久方ぶりの激務が数日に渡って続き、仕事を終えたマッシュやシャーレ生達は疲れ果てたあまり、今夜は何もせずに眠ることにしていた。しかし、愛に生きる生徒・狐坂ワカモだけは違った。
 彼女は今、以前カンナの来訪によって未遂に終わった目論見を今度こそ達成するため、赤のネグリジェを着込んでマッシュの部屋の前に立った。

 

 

 

 

(あの泥棒狼にはデートで先を越されてしまいましたが……このワカモはあなた様と同じ場所に暮らしている生徒――つまり、いつでもあなた様の寝床にこっそりと入り込めるのです……うふふっ♡)

 

 

 

 

 普段はサオリ・ミサキ・イズナなどが邪魔をしてくるのでこんなことはできないが。今日は皆一様に完全に疲れて眠っている。サオリに関してはミサキ・ニーナ・アツコを見守る形で共に眠っているので、そうそう起きることはないだろう……つまり今回は、完全なる彼女の独壇場。

 

 

 

 

(少し前、あなた様のお隣へと入ろうとした瞬間に防衛本能に触れてしまい、危うくビンタをされそうになった事がありますが…今回はそうならないように気配を極限にまで消して近づきます……あっでもあなた様にビンタされるのも……いえ、流石にこれ以上は変質者ですね)

 

 

 

 

 人の寝袋に入ろうとしている時点で変質者だろうと言うツッコミはどうか置いておいて欲しい。ともかく彼女はクソボケ鈍感無知無知なマッシュに少しでも意識してもらおうと必死なのだ。

 

 

 

 

(さて……そろそろ行動に移すと―――!)

 

 

 

 

 扉に手をかけた瞬間、伝わる気配。それも複数だ、ワカモ眉間に皺を寄せたまま扉を開き、部屋の明かりをつける。

 

 

 

 

「何奴!!」

 

「ぴゃぁ!!!?」

 

「み、見つかっちゃった……」

 

「その服装……百鬼夜行の者ですね、先生から離れな――――――」

 

 

 

 

 そこにいた二人の生徒──うち一人には狸の耳と尻尾、もう一人はワカモよりも高身長。双方共に、くノ一のような姿をしていた……しかし問題はそこではない。

 

 たぬき耳と生徒がマッシュの手を握っていた、しかもしっかりと………ワカモは恋する愛する乙女、だが今まで一度もマッシュ手をしっかりと握ったことはない…あったとしてもシリアスな場面が多かった。――ということで。

 

 

 

 

「――ハイクをヨメ。ジヒはナイ(血涙&口元に髪)

 

『きゃああああ!!?』

 

「うひゃあぁぁ!?何ですかこの声ってうわぁぁ!!侵入者ぁ!?」

 

 

 

 

 マッシュの布団から出てきたのはヒヨリ、ワカモが察知した気配の一つはヒヨリだった……しかし今はそんな事どうでもいい。

 

 

 

「選びなさい…」

 

「な、なにを!?」

 

「ポン酢か麺つゆか……選びなさい」

 

「美味しく食べられるぅぅぅ!!!」

 

「そういえば今って夜中ですよね……夜中……鍋……この前ウサギ鍋を本で見たんですよね、この二人でも美味しくなるでしょうか」

 

「ヒィィィィッッ!!?」

 

 

 

 

 一方はガチもう一方は腹が減り限界が来ている、これはまずい。このままではカニバリズムが起きてしまう……くノ一達は身の危険を感じ、直ちにその場から脱出しようとする。

 

 

 

 

「一回引き返そう!とりあえず…!」

 

「忍法!」「に…忍法!」

 

「えっ!?それって…!」

 

「っ、印結───っ!?…(…実際に見たことのあるものよりも大分下手ですが)」

 

 

 

 

 二人のくノ一が印を結んだ直後、何処からか何かを取り出し、それを地面に向かって投げつける。

 

 

 

「一時退散の術!」ボンッ!

 

「ひゃあぁぁ!煙は勘弁してくださ~い!」

 

「煙…!?ここはマッシュ先生のお部屋なのに…!先生が起きたらどうす…………」

 

 

 

 

煙にむせるワカモとヒヨリ。煙が晴れたその先には!

 

 

 

 

 

「………」プルプルプルプルッ

 

 

 

 学芸会で使われそうな壁に変身したツクヨと壁紙(姿見え見え)に隠れたミチルがいた。何故それでバレないと思っているのだろうか。

 まるで顔はめパネルのようにくり抜かれた穴から二人の顔が見える上、明らかに体が震えている……全てにおいて不自然なあまり、ワカモとヒヨリは拍子抜けしてしまった。

 

 

 

 

「……」

 

「えっと……」

 

「私は壁…壁です…壁と言ったら壁なんです…だから早く部屋から出てって下さい…」

 

「ちょっとツクヨ静かに!バレちゃうよ!」

 

「ど…どうやら侵入者は部屋から出てったみたいですね…まだ遠くには行ってないかもしれないのでここは一旦外に出て…」

 

「本気で言ってます?」

 

「いやだってですよ…こんな必死に頑張って隠れているのにすぐに見つけたらかわいそうかと…」

 

「「同情されてる!?」」ガーン!

 

「侵入者は逃さず生け取りにし色々と吐かせるのが我々のやり方ですよ」

 

「初耳ですけど!?……あーいや、アリウス時代ならあったような」

 

 

 

 

 逃がさないし許さないと言う目をがっつり向けているワカモ、そんなワカモをどう止めようかと考えているヒヨリ

 

 

 

 

「ケホッコホッ……なにこの煙……エイッ」

 

 

 

 

 そして部屋に残っていた煙を手を振るうことによって全て晴らし,自分の部屋がどうなっているのかを確認したマッシュ。

 

 

 

 

「……何事?」

 

「あああなた様!!この者達は侵入者です!!」「違うんですお話聞いてぇぇ!!」「こんな時間帯に来ちゃった私たちが悪いですけど…!!」「先生〜お腹すいちゃいました〜」

 

「うんとりあえず一旦落ちついて、ゆっくりお話ししよっか」

 

「ワカモの馬鹿は何処だぁぁぁ!!!」

 

「姉様!!今日は一緒に寝ようってお約束を……あれ、ミチル部長!?」

 

「………平和だな、うん」

 

 

 

 

 現在時刻23:20、シャーレはいつも通り平和です。

 

 

 

 


 

 

 

 

「イズナの知り合いだったのですか……危うくペロリと食べてしまうところでした」

 

「イズナ!!この人ほんとにイズナのお姉さんなの!?」

 

「ふ、普段は本当に優しくて、後輩たちの面倒も見てくれる人なんです!」

 

「それにしても百鬼夜行の忍術研究部……そんな物聞いたこともありませんが」

 

「最近結成された部活なのではないか?」

 

 

 

 

 場所は変わり、シャーレのオフィス。マッシュの部屋に乗り込んだ侵入者達──千鳥ミチル・大野ツクヨの二人は、マッシュ・ワカモ・ヒヨリの三名、そして駆けつけたサオリとイズナに状況を説明していた。

 なお、ワカモとヒヨリの両名はサオリによって丁寧に縄縛されている。仕方ないね。

 

 

 

 

「イズナは…彼女らの部活に所属しているのですか?」

 

「はい!毎週三日は必ず一緒に活動をしています!」

 

「忍術研究部……っていうのは具体的にはなにをしているんだ?」

 

「忍者の研究を行い、その魅力をキヴォトス中に啓発することを目的に活動をしています!」

 

「へぇー、イズナちゃんにピッタリな部活だね」

 

「最近はこっちに顔を全然出してくれてないから心配したんだよ?『主殿の危機なので少し開けます!』って言ってどっか行ったきりだったし」

 

「そ、それについては──その、色々とありまして……」

 

 

 

 

 イズナは多くの時間をシャーレで過ごしている、いわば常駐生に次ぐ"準レギュラー"とも呼べる存在であるが、それは基本的に放課後や休日での話である。

 普段のイズナは百鬼夜行で生活しており、休日や任務予定日にはシャーレに泊まり込んでワカモやアリウス生と共に行動している。そんな彼女が百鬼夜行の中で所属しているもう一つの部活、それが忍術研究部―─なのだが

 

 

 

 

「なんでまた侵入なんて事を?」

 

「―そ、そうだ……お願い先生!私達に、手を貸して!!」

 

「手を?」

 

「何かあったのですか?」

 

「………実は……その、忍術研究部っていうのは、正式に認められてない部活なんです…」

 

「なんだって?」

 

「陰陽部に認められていない部活が存在していたとは……もしや、先生のお力を使って部活動の正式な承認を得るために、ここへ?」

 

「それは違う!最初はそうしようと思ったけど……イズナから話を聞いて無理そうだって、諦めて…」

 

「ダメなの?」

 

「陰陽部は他学園における生徒会に相当する組織です、部活動としての存在を陰陽部に認められていないということは……部活動として承認されるに十分な活動実績がない、という事です。そんな部活は、シャーレの権限を行使してもどうにもならないでしょう」

 

 

 

 

 百鬼夜行連合学院の実質的な生徒会、陰陽部。マッシュにとっては、百夜ノ春ノ桜花祭で起きたニャン天丸による開催妨害・委員会奪取未遂事件で、僅かに話を聞いた部活だった。

 まだ生徒たちとは会ったこともなければ顔も合わせていないことに気づきながらも、マッシュは忍者研究部をどうしようかと考えていた。一先ず今は、話を聞かなければ今後の指針を決めることも出来ない。

 

 

 

 

「それで、本当の目的って?」

 

「私たちはまだ正式な部活じゃないから、部室は誰も使っていない百鬼夜行第38旧校舎の教室を無断使用してたの…」

 

「え───え、えぇぇっ!?そうだったのですか!!?」

 

「ご……ごめんねイズナちゃん、隠してて……部長に言わないでって言われてて」

 

「無断利用は許されない、それでは認められることはないぞ」

 

「ほ、本題はここからなの!陰陽部の人に時間談判して認めてもらえるように必死に頼み込んだの……そしたら」

 

 

 

 

 

 

『んー……そうですねぇ……――あっ、それじゃあ!忍者の底力というのを是非見せてください♪ 内容は簡単……この二人を見つけ出して捕まえてきてください、そうすれば……認めてあげますよ、にゃはは♪』

 

 

 

 

 

「って言われて、最初こそ『やってやろうじゃん!!』って息巻いてたんだけど……相手が相手でぇ!」

 

「ほむほむ……それで、その相手って誰?」

 

「一人は……えっと、この人です」

 

 

 

 

 ツクヨが出した一枚の手配書、そこに書かれていたのはマッシュやイズナに馴染みのある、いやむしろ印象が強すぎる程の関わりがあった顔だった。

 

 

 

 

「あ…あーっ!?イズナ、この人知ってます!」

 

「ニャン天丸……またこの人が何かやらかしたの?」

 

「陰陽部からヴァルキューレに身柄が引き渡されて、それから釈放された後も、何か企んでたみたいで……」

 

「ニャン天丸だけなら、なんとかなったの……でも――でもこの人だけは……無理‼︎」

 

 

 

 

 ミチルが、マッシュ達の眼前に手配書を見せる。そこに掲載されていた者の顔と名に、マッシュとワカモは度肝を抜かれることとなった。予想外の存在に、最も反応したのはワカモだった。

 

 

 

 

「こ……この者は…」

 

「ワカモ、知ってるのか?」

 

「……私と同じ七囚人に数えられる生徒の一人、『伝説のスケバン』の異名で知られる者です……正直なところ、このワカモも、正面切っての戦闘は避けたいほどの実力者です……名を、栗浜(くりはま)アケミ

 

「姉様が、戦いを避けたい相手…!?」

 

「な………なんて……」

 

 

 

 

 

 世界観離れしたレベルに筋骨隆々のビルダーボディが特徴的な生徒、伝説のスケバンこと栗浜アケミ。それがニャン天丸と手を組んでいる……その事実に、ワカモは言い知れぬ嫌悪感と不気味さを感じ取って渋面を見せた。その隣でマッシュは

 

 

 

 

 

 

「なんて逞しく美しい筋肉なんだ…!」

 

『そこ!!?』

 

 

 

 

「は?」*1

 

「姉様、お顔!お顔がすごく怖いです!!」

 

 

 

 

 

完璧に近い肉体美に感嘆するあまり声を漏らした。ワカモは嫉妬のあまり、マッシュの横顔とアケミの手配書に赤く灼けた視線を交互に突き刺す。しかしマッシュはその視線すら気にせず、心ではなく筋肉を通して知覚していた──

 

 

 

 

(――この人は見せかけだけの筋肉なんかじゃない……本物だ)

 

 

 

 

このアケミという生徒が――とんでもない存在だということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうそろそろですわね。連邦捜査部シャーレの顧問にして、筋肉の貴公子、マッシュ・バーンデッド先生……フフッ……貴方との筋肉勝負、とても腕が鳴ります。彼と筋肉を分かち合えれば…それでいい……ふふふっ」

 

 

 

 

 

 何かとんでもない異名がまた誕生した事を、マッシュ達はまだ知らない。

 

*1
「私まだそんなこと言われてないのに?」と言う顔





ニャン天丸っていう悪のキャラを使わないのはもったいなと思ったので…

アケミさんはどの筋肉キャラと関わらせないのは勿体無いって思ったので!!

次回からもお楽しみに

百花繚乱後に見たい話

  • まだ交流がない生徒との話
  • アイデェア箱から選んだお話
  • ラビット2章
  • 愛が重い生徒との話
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