透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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全2話とか言ったくせに3話になってしまったアホです………ごめんなさい。

神秘と魔法……これこの先重要になってくるので、どうぞ覚えておいてください。とりあえずココが中間、次回がラストになりますのでご了承ください。

でも深く考えずにほーーんってかんじで受け止めてくれるとありがたいです。

その次が、ラビット二章です


レグロ・バーンデッドと生きている感覚を思い出した聖女

 

 

 

「いやぁ、ほんとにすまんのぉ。この家はずっと孫とわしの二人だけじゃったから、女の子物の服というのかなくてな……マッシュのお下がりじゃが、少しの間我慢しておくれ」

 

(い、いえ…!寧ろお召し物までお貸しいただいて、本当にありがとうございます……ただ、その──今の私が着ても、問題ないことに驚いて…その、胸周りと腰周りなど)

 

「あぁその服はの、マッシュがまだ13歳の頃に買った物なんじゃがな。急に胸筋が…その、グワッ!!──となり出しての…」  

 

(じゅ、13歳から…!?)

 

「わかる、わかるぞ。そうはならんやろって思うじゃろ。わしもそう思う」

 

 

 

 傷だらけだったバルバラを家に運んで、簡単な回復魔法で治療を施したレグロ・バーンデッド。ヘイローを持つことからキヴォトスの生徒であることは確からしいが、その身長や肌の色は明らかに異質で、少なくとも今の彼女が人間であるとは考え難い。

 
 が、そこはあのレグロ・バーンデッド。艱難辛苦を味わってきた彼が、バルバラを蔑みや不信の目で見ることはなかった。
 
 ミメシス故の異質な姿を気味悪がることもなく、レグロは自らの息子がシャーレの先生──バルバラを倒し(救い)、現在のアリウス分校を救った存在──であることを明かした上で、バルバラについて聞き取りを行うことを試みた。

 

 対するバルバラは、現状に対する理解が追いつかないまま、困惑と混乱の中にあった。浮かんだ疑問を大別して整理すると、以下の形で挙げられる。

 

 

1.本来は数百年前に死んだはずの自分が、倒された後も消滅していないのは何故か

 

2.ここはどこなのか、どんな場所なのか

 

3.自分を救ってくれた青年の養父があまりにも肉体的に脆弱であり、本当に祖父なのかどうか疑わしい

 

 

 これに限らず、疑問を挙げれば尽きない。

 バルバラは今、これまで直面したことのなかった状況の中で、頭の中を埋め尽くすようなクエスチョンに身の振り方すら分からなくなってしまっている状態にあった。
 ミメシスの肉体は生命活動で動くものではなく、その実態は生物よりも人形(ひとがた)の形代に近い。しかし宿った魂は未だ能動的に活動している状態であり、それに伴って肉体に何かが流れる感覚も感じられる。

 

 肉体に関しても変化が起きつつあり、嗅覚・味覚・触覚が失われたミメシスの肉体であるはずが、今のバルバラは全身に痛みを感じている。

 ベッドに寝かされた際の肌触りや温かみ、そして手や頬をつねって確かめた感触、何よりマッシュとミカの拳を受けた際に感じた痛み──……自分の体が、失ったものを取り戻しつつある。そこにバルバラは、一つの希望を見出した。
 
──もしかしたら、また人生をやり直せるかもしれない。
 
 どのような変化が起こっているにせよ、バルバラにとっては眼前の老爺とコミュニケーションを取るのが先決だ。声を出すことも敵わなくなていったバルバラは、手話や身振り手振りで可能な限り自分の意志を伝えようとした。
 
 手話を用いて話しかけられたレグロは始めこそ驚いたが、何かを思い出すと「ちょっと待っててくれ」と言いながら家の物置を探り始めた。戻ってきたレグロは、物置で見つけた木箱からある物を取り出し、バルバラの首にかけた。それは───

 

 

 

 

(……綺麗なペンダントですね)

 
「それは魔晶石を使った特殊なペンダントでな、事故や病気などで発声が難しくなった者の会話を助け、考えたことを念力のように伝えることができる優れものじゃ。ワシがもっと年老いたときのために、マッシュと会話する最後の手段として残しておいたのじゃが…こうして役に立って本当に良かったわい」
 
(凄いですね……こんな発明、キヴォトスにはありませんでした)

 

「そう言えば、まだ話しておらんかったな。ここは魔法界、お主がいたキヴォトスとは違った世界なんじゃ」

 
(魔法界…つまりここは、キヴォトスの外?)
 
「そうじゃ。この世界では全ての人間に魔法の力が与えられ、神様からの贈り物とされている。君たち生徒が不思議な力を使えるように、こんなワシにもほんのちょっぴりじゃが、魔法の力が備わっているんじゃぞ?」

 

(なるほど……でも、彼は──)

 
「あぁ、マッシュのことか……あの子はちょっと訳ありでな。もともとは拾った子だったんじゃ。それについては、後で詳しく説明するとしよう」

 

 

 レグロの表情に現れた翳りに、バルバラはまるで滲んだような悲しみを見た気がした。彼の孫(あるいは息子)に関しても気になることはあるが、まずはバルバラ自身が置かれた状況について把握するのが先だ。

 

 

『………』

 

 

 自分の体を見て、様々な仮説を考えたが。最も有力なのは、キヴォトスにおいて自分は、未来の少年とトリニティの少女に敗北を喫し(救い出され)、肉体が消滅した……そう、肉体は消えた。

 

 しかし魂は残っていた。正確には元々なかったと思っていたものがそこにはあり、あの二人との戦闘の最中に自分を思い出し、自分が自分であると確信できたのだ。そして彼らによって肉体が消滅した後……その魂はどういうわけか魔法界へと流れつき、そこで肉体が再起した。

 

 それしか考えらないが、なおさらバルバラは頭を悩ました。魂だけとなった自分の魂がどうして魔法界に送り込まれたのか、どうやって体が復活したのか……。

 

 

 

「それにしても、本当にこの転送というのは厄介な物じゃな……ワシも何回も勝手にキヴォトスに送られたりしておるし、なんならワシの孫そこで教師やっとるし……」

 

(お孫さんが先生を…一体、どうして───)

 

「いや、ワシに聞かれてもよく分からんのだが……キヴォトスと魔法界、この二つの世界の境界線…あるいは時間軸が、何かの理由で繋がってしまっとるんじゃろう、とワシは考えておるんじゃ」

 

(…………繋がり)

 
 バルバラが両手の人差し指を重ねて、「交差」のイメージを示す。

 

「そうそう。そんなふうに二つの世界を行ったり来たりできる道ができてしまっておるんじゃないか……とも思っとるんじゃが、あんまり詳しくはわからんのじゃよ」

 

(そう、ですか……)

 

「孫と生徒さんの話では、この世界に存在している魔法があちらの世界でも使える生徒がいた…ということじゃから、何かしらの力は働いておるんじゃと、ワシは思う」

 

 

 紅茶を淹れながらそう話すレグロの言葉を聴きながら、バルバラ再度深く深く考えた。魔法、魔法界、繋がり、その言葉を彼女は知っている――しかしその知識は、現状を理解するには決して十分ではないだろう。

 キヴォトスはどうなったのか。アリウスはどうなったのか。あの少女は、青年は無事なのか。
 今はそれが、気になって気になってしかたなかった。

 

 自分の体が復活したのは、おそらく自身の体の中にあった神秘が、この世界で自然に循環している魔力に接触し、変化を起こした結果なのだろう。傷ついているのは、まだまだ完全に体が出来上がっていないから……ということに、しておいた。

 

 

「ま、まあとりあえず。色々あったんじゃろうし、今はひとまず休むべきじゃよ。……紅茶とか、飲める?」

 

(は、はい…!)

 
 バルバラはコクリと頷いた。

 

「それならよかったよかった!それじゃあこっちに座っておくれ…そうじゃ!折角お嬢さんが来てくれたからには、ついでに菓子も出さんとな!」

 

 

 バルバラに対するレグロの反応や態度は、これまで孫の友達と接してきた時と変わらなかった。バルバラはレグロという人間の本質が分からないために不安を覚える点もあったが、今はとりあえずレグロの前に座り茶を飲もうとした。

 

 

バキャッ!!

 

 

「『――――』」

 

 

 

 

木製の椅子を引いたつもりが、手をかけた背もたれを引き千切ってしまった。

 トリニティで史上最強とされた聖女であるバルバラの膂力は、ミカ・ツルギ・ミネ、そしてマッシュといった強豪たちに勝るとも劣らない。加えて、マエストロが手を加えた『教義』によって兵器化されたその肉体は絶大なパワーインフレーションを経ており、日常生活においてその力を扱うには相応の特訓で力加減を弁えなければならなかった。

 

 

 

「ど、どうしたんじゃ!!?――あっ、椅子が壊れちゃったんじゃな〜、変わりはいっぱいあるから安心しておくれ」

 

(あっ…!?…も、申し訳ありません…!!)

 

「大丈夫大丈夫、そんなんじゃワシ怒らんから」

 

(え、えぇ…!?そ、そこは怒ってください!!!)

 

 

 

 顔と心の声で訴えたバルバラだったが、今度はレグロが用意した新しい椅子にゆっくりと、丁寧に腰をかける。そして一度落ち着こうと紅茶のティーカップを持つ……が。

 

 

バギィ!!

 

 

『―――』

 

「ンブッフ!?だ、大丈夫!?手を切っておらんか!?」

 

(い、いえ!私は大丈夫なのですが…!本当に申し訳ありません、助けられた身でありながら、大切な食器を壊してしまうなんて……!!)

 

「なーに心配することはない、代わりなんていくらでもあるからの」

 

 

 

 レグロはバルバラがティーカップを割ったことよりも、それにより手が切れていないかを心配していた。割ったことに対して何も言わないレグロに、流石にその訳を聞きたかった彼女は必死にそれを伝える。

 

 

「キヴォトスに住む子供達は体が強いから、こっちの世界の物を誤って壊してしまうなんて普通にあるじゃろうし、そこまで怒ったりはせんよ」

 

『……』

 

「あとはの」

 

 

 レグロは割れたティーカップを片付けながら、少し顔を下に向け、活力のない顔をしながら告げた。

 

 

「もうこんなこと何十年もあったから、慣れちゃった。ワシの孫ったらそれはもうとんでもない数のティーカップとか扉とか天井とか床とか椅子とか壊したんじゃよ……アハハ」

 

 

 バルバラはレグロへの認識を180度改めることとなった。力加減を全く覚えていなかった頃のマッシュを育ててきた大人ということもあり、耐性がついた精神は「何かが壊れること」に対して至極冷静な対応を見せる程に鍛え上げられている。バルバラは心配を覚えたが、勧められるままにティーカップに口をつけた。

 

 

「……」

 

「お味はいかがかの?」

 

(っ……!美味しいです…!)

 

「そうかそうか、お口にあって何よりじゃな。フォフォフォっ……あっつ…!」

 

(その…こちらも頂いて、よろしいでしょうか)

 

「勿論じゃ、そのクッキーも食べていいんじゃよ。遠慮するでない」

 

 

 

 サクッ……と、音を立てて食べる。紅茶の匂いを楽しみながら、飲む……香ばしい、とても味わい深い…味。かつて生きていた頃の自分が何度も、何度も何度も経験してきたことだが、この肉体となった自分は今まで一度もそんな経験がなかった。

 

 赤い魔女の食事を前にした時も、自分は何も思わず言わず時間を経つのを待つのみ……それはもう生き物ではなく、ただの糸繰り人形―――でも今は違った。

 

 

「よぉく食べるの〜…お腹が空いていたんじゃな」

 

 

 食べられる、味がする、熱を感じる……今自分はちゃんとここに存在し、生きているのだと、実感できる。

 

 

「詳しいことはまだ分からん。故に、らしいことは言えないんじゃがの、お嬢さん……ここは、単なる老人が一人住んでいる家じゃ。なーんにも気にせず、ゆっくりしていくと良い」

 

(ありがとうございます…こんな私を、置いてくださるなんて)

 

「肌の色が違うくとも、かたくとも、冷たかったとしても。こうしてお嬢さんは紅茶を飲み、たべ、過ごしている……ならばワシは、お嬢さんを『ただの女性』として扱う、寧ろそれ以外ないんじゃ」

 

 

 

 皆に慕われる聖女の身から一変し、兵器に改造され、破壊以外に存在価値がない形にされしまったバルバラ。そんなバルバラは今、人間としての情緒を取り戻しつつある。

 

 そんな彼女をレグロは何にも疑わず、ただの女性として扱った。……理由は一つ。

 

 

 

『───ッ!』

 

(こんなにも幸せそうな顔をする子を、どう疑うんじゃ………この子は紛れもない、普通の女の子じゃ)

 

 

 

 彼女の表情が、とても悪人のような物には見えなかったからである。レグロとバルバラは、ゆっくりと、紅茶と菓子を楽しむのであった。





肉体をいじくりまわされた挙句、肉塊とも言えない存在にされたのがあまりにも苦だったのでこういうことにさせていただきました。息返させるのは…‥ちょっと難しかったので、いじくりまわされた後の姿のまま肉体は再構築という結果になりました。

百花繚乱後に見たい話

  • まだ交流がない生徒との話
  • アイデェア箱から選んだお話
  • ラビット2章
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