透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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RABBIT小隊with.ニーナと事件捜査の不審点

 

 

 

 

「落ち着いたか…?」

 

「ああ……ごめん、流石に頭に血が上りすぎてた」

 

「ムカつき過ぎて思考がちゃんとして無かったし、冷静さもなくなってた〜…めんごめんご」

 

「えっ…撃ち抜かないの」

 

「ニーナさんすみません、半分冗談です」

 

「一名だけ本気のやついただろ」

 

 

 ニーナが必死に宥めたことで冷静さを取り戻したRABBIT小隊は、テントを移設して公園内の雑木林に拠点を張ることととした。岩肌に似せた迷彩を施した大型テントに、草木を模した緑色の偽装ネットを被せた拠点に集った5人は、改めて状況を整理する。

 

 最悪の場合、というよりも確実に連邦生徒会と敵対することは避けられない選択だが、それでもRABBIT小隊は迷うことなくマッシュの救助とシャーレ救援を絶対条件として指定した。

 ヴァルキューレ本部へ突入を敢行した彼女たちにとって、このような作戦を二度三度繰り返したところで気にするべきものなどない。

 

 

「ま、先生見つけたらさっさと退かなきゃ駄目だろうけどね〜」

 

「これでひとまずは安心です……不自然ではありますが、今のうちに話し合いを進めましょう」

 

「協力……感謝する」

 

「我々はシャーレに助けられたも同然の生徒。その恩を今やっと返せるのですから、お礼は不要ですよ」

 

「……ありがとう」

 

「――んじゃ、話の内容を私の方でも記録しておくから、じゃんじゃん話し合ってこうよ。最初の題材は……この事件で不審なこと」

 

 

 

 

 モエが個人的に利用しているノートパソコンに記録する形で、5人が今回の事件についての状況を整理しつつ不審点を洗い出していく。最初に挙がった疑問点は、この事件において提示された証拠の中でも、明らかにマッシュの行動にそぐわない状況だった。

 

 

 

「一つ目、先生のアリバイについてです。ニーナさん、あの日の先生は何をしていたのですか?」

 

「夜遅くまで筋トレをしていたらしい。相当にハードな内容を繰り返して、帰ってきたのも遅かったみたいだ」

 

「その時間帯って、犯行時刻と被るよね」

 

「…ほんの少しだけずれていたんだ。だいたい、5分くらい」

 

「それなら……犯行は無理なんじゃ?」

 

「普通ならそうだ、ハイランダーの終電だって走ってない……しかし、今回の容疑者は先生だ」

 

「あーなるほど。先生が本気を出せば1分もかからずに連邦生徒会の本部まで到着できるって考えたわけか……それが全然できるだろうって予想できるあたり、先生のフィジカルも問題だね〜〜」

 

 

 

 マッシュはその日夜遅くまで、近郊のトレーニング施設でいつもより強度の高いトレーニングを行っていた。

 同じ時間帯の利用者やスタッフも彼を目撃しており、加えてシャーレへと戻るマッシュを見た者の証言もSNS・ニュース番組問わず確認されていることから、事件発生の直前、それも5分前までマッシュがトレーニングを続けていたことは確かだ。

 

 普通の事件であればこの時点で現場不在証明───事件現場にいなかったことの証明、つまりアリバイは成立しているのだが……ここで惜しむらくは、知っての通りマッシュが超人だったことだ。特急列車で15分かかる百鬼夜行自治区まで徒歩(徒走)1分で到着した実績のあるマッシュならば、連邦生徒会本庁まで5分で走り抜けることも不可能ではない、というのがヴァルキューレの発表だった……さらに言えば。

 

 

 

「そもそもアリバイ自体も……信憑性が薄いって事になってた。目撃した人の人数も少なかったからな…」

 

「トレーニング場所に防犯カメラにはどんなふうに映ってたの…?」

 

「……確かに、先生がものすごい勢いでどこかへと走っている姿が確認されていた。その先の映像はないらしいが……映像上の先生にフレームレートが追いつかず、ブラーを起こしていて不鮮明だったこと、その先の帰路上に監視カメラがなかったことを理由に、ヴァルキューレと連邦生徒会の合同捜査本部は先生がリン行政官のもとへ向かったものと結論づけたらしい」

 

「先生はなんて?」

 

「時間も時間だったから急いで戻った……と証言していたらしいが、容疑者本人の証言は偽証や虚言の可能性がある、などと言って黙殺されたらしい」

 

「ずっとそれじゃん……どんだけ先生を閉じ込めておきたいんだか」

 

 

 マッシュは超人すぎる故に、どんなに不可能な犯行とできてしまうと言う事になってしまっている。そこに今のヴァルキューレ……マッシュを犯人としか見ていない彼女らがいる。この状況からマッシュの無実を証明して罪状を覆す方策はなく、実質的に悪魔の証明でしかなくなってしまった。

 

 

 

「じゃあ二つ目……これは私が一番不思議、と言うか不信に思ったんだが。先生が七神行政官を襲うのに、わざわざ凶器を使うのか、についてだ」

 

「私もその点に関して疑問に思っていました、先生は基本的に己の肉体のみで戦う人です…武器二関しては、時と場合によって使うことがある、と聞いてはいますが……はっきり言って七神行政官に対して使う意味がありません」

 

「銃を使ったって、いうのも…おかしいと思う。だって…あのエンジニア部が専用設計した武器じゃなきゃ耐えられないような先生の筋力で、銃なんて使ったら……銃が先に壊れちゃう」

 

「加えて、犯行に使われた金属バットに至っては、高級な特別製でもないただの市販品。なのに、握り込まれたグリップに傷や凹みはなかった……先生の力とバットの強度を比べれば、この時点で証拠は破綻する。……なのに、相手を確実に仕留める為にやった……なんて言いがかりをつけられた」

 

「……呆れてものも言えないな」

 

 

 マッシュは確かに戦闘において、プロテウスやゴッドキラーなどの特別な武器を使って戦った事例がある。しかしそれらは基本的に強敵を相手取るために使った特例中の特例だ。

 今回の相手は七神リン、いくら彼女がマッシュに負けまいと鍛えたとしても表立って戦う姿を見た者はおらず、彼女自身も戦闘が不得手であることを明かしている。
 そもそも彼女に限らず生徒とマッシュの間には天地ほどの力量差があるにも関わらず、それを知っているマッシュが、自分の上司を鈍器で殴りつけることがあるのだろうか。

 

 

「その武器について私もちょっと思ったんだけどさぁ?行政官を撃って気絶させたって言われてる銃なんだけど……これ、リボルバーなんだよね。しかもさ……これ、型番見れば分かるけどカイザー製。『カイザーと因縁のある先生が、敵対企業の武器を使った』ってのも疑問が残るし、『そもそもリボルバーをちゃんと使えている』って点…ここか引っ掛かってさー」

 

「……言われてみれば、先生が弾薬の装填や照準の合わせ方を知っているのか疑問だな……いや、その点で比較的分かりやすい構造のリボルバーを使った可能性はあるが」

 

「そこまで来たらさ、誰かが貸し与えたって考えた方が可能性あるよね。てかさ、他にも使いやすそうな武器とか威力の高い銃とかあるのになんでリボルバーなんて使ってんだろ」

 

 

 マッシュは基本的に、火器の工学的構造や分解整備の方法、取扱についてほとんど理解していないに等しい。基本的に戦う際には自分の肉体を使うか、転がっている石礫や薬莢を投げたほうが早い上、相手の武器を無力化するにしても握り潰すかスライドを引き抜くだけだ。

 自分が使う機会はなく、武装した敵を相手取るにしても無力化は簡単であるため、いずれの場合も正確な構造や動作原理を把握しておく必要などない。
 
 加えて、そもそも行政官一人を気絶させるためにリボルバーを選んだ意味とは何か。生徒会役員を狙うのであれば、サプレッサーを装着した自動拳銃やスナイパーライフルを使ったほうが適切であり、威力も十分で攻撃の確実性が上がるはずなのだが……

 

 

「……私もおかしいと思ったことがある。ドアの壊れ方だ」

 

「ドアの壊れ方?」

 

「先生がドアを壊すことはよくあることなんだが」

 

「あっちゃダメでしょ」

 

「今回は……ドアじゃなくて────電子錠だけが破壊されていたんだ。そしてドアは…普通に…開いていた」

 

「……そっか、先生なら普通にドアごと破壊するよね」

 

 

 マッシュがドアを壊してしまうのはよくあることだが、それは基本的に開ける向きを理解していないことによるもので、結果として鍵だけではなくドアが枠から外れる形で壊されてしまう。

 電子錠だけを器用にピンポイントで破壊する、それこそ特殊部隊が使うブリーチングショットガンのようなことがマッシュに出来るのかという点について、その疑問は今までの事例が既に答えを出しているようなものだ。

 

 

「私は、『そもそもどうして先生が七神行政官を襲う必要があるのか』です。先生は友達を大事にする人です、それに七神行政官には大変お世話になっているとも…聞きました」

 

「善人の先生が……あの人に向かって、そんな酷いことをする必要も、メリットも理由もありませんよね」

 

「ここまでの事をまとめてわかったことは……まあ一つだよね」

 

「ああ――」

 

 

 サキは拳を地面に叩きつけ、はっきりと叫んだ。

 

 

「防犯カメラに写っているのは先生では無い誰かで、指紋も証拠も、全部そいつが仕組んだことだ……連邦生徒会とヴァルキューレは、それを知っていながら、先生をこのまま犯人に仕立て上げて“勝ち逃げ”する算段でいる…!!!」

 

「犯人とヴァルキューレは共犯……か。それも意味わかんないよね、先生って実質的にヴァルキューレにとっても英雄なわけだしさ」

 

「………なんにせよ――そのヴァルキューレを指揮している、現生徒会トップの不知火カヤ……奴が、裏で何かをしているに違いないんだ…!!!」

 

 

 事件の鍵を発見し、不審点から結論を得たRABBIT小隊とニーナの5名。

 現在のヴァルキューレ警察学校、特にその主力である公安局と警備局、そして連邦生徒会行政官代行となった不知火カヤを相手に、今後の方針と作戦展開についての決定に移ろうとした───その時、公園内に近づく存在に、ミユが気付いた。

 

 

「―だ……誰か来てる」

 

「ここまで近づかれてるのに気づかなかった…だなんて…!!」

 

「しかもドローンのレーダーにも反応しなかった…!」

 

「……ニーナはここにいろ、絶対に外に出るな」

 

「けど…!」

 

「いいから―任せておけ」

 

 

 小隊は武器のないニーナを残すと、各自の装備を握って勢い良くテントから飛び出し、警戒を強めたまま武器を向ける――しかし、現れた予想外の顔ぶれに、彼女たちは動揺して動きを止めてしまった。

 

 

「――……先……輩…?」

 

「…久しぶりだな、ミヤコ……そしてRABBIT小隊」

 

「嘘……みんないる――なんで、なんでこのタイミングで…!?」

 

 

 

 そこに現れたのは、ミヤコが心から尊敬し、その者達の後を追ってSRT特殊学園へと入学を決めた精鋭部隊────FOX小隊。長い間…消息を経っていた、彼女らの先輩――――だが。

 

 

「単刀直入に言おう――我々と協力して、正義を実現して欲しい」

 

「……正義?」

 

「この世界が本来あるべき形から逸脱した原因、我々にとってのイレギュラーである存在の排除だ」

 

「…それって…」

 

 

 

 

 

「マッシュ・バーンデッドは犯罪者であり……ただの破壊兵器。我々は彼を、このキヴォトスから抹消するために動いている」

 

「―――…何を、言っているんですか?」

 

「これは、我々FOX小隊の使命であり……我々を拾い、ここまで導いてくれた、不知火カヤ室長の願いだ」

 

 

 

 

 目の前にいたのは―――確実に、自分たちの敵に回った……憧れの存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして……同時刻。

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着けって言ってるでしょ!バカマコト!!」

 

「黙れッ!!この状況で踏み止まっていられるか!!いられるものか!!!」

 

「マコト議長!いい加減にしてください! これ以上の続けるのであれば───」

 

「勝手にするが良い……だが…このマコト様は止まらんぞ。例え…誰が相手であろうと、私はもうこの怒りを収めることなどできん…!!!

 

「マコト…!!」

 

「あの腹黒い雌山羊めがッ……我らゲヘナ学園が、目に物を見せてくれるッッ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャァァァァァァアン!!!!

 
「───ミカッ!!!いい加減にしなさい!!」
 
「離してよ!こんなの認められるわけないじゃん!!」

 

「落ち着け、聖園ミカッ…!!サクラコはそっちを抑えろ…!!」

 

「ミカ様…お気持ちはわかりますが…ここはっ…抑えて、ください!!」

 

うるさいっっ!!――なんでマッシュ君がこんな仕打ち受けないといけないわけ!?ねぇなんで……なんで!!?そういうのは……そう言うのはさ!私みたいなのが受けるべきな物でしょ!!?」

 

「………ミカ」

 

「セイアちゃん、力を貸してよ!!マッシュ君が……――私達の王子様が、大事な後輩がピンチなんだよ!!??先輩(わたしたち)があの子を助けてあげなきゃ、他の誰に一体何が出来るっていうの!?こんな時こそ、生徒会(ティーパーティー)として出来ることをするのが私達の役割じゃないの!!?!?」

 

「………すまない、それは…今はできない」

 

「―――こんなのあんまりじゃん………先生は私を救ってくれたのに――なんで私は、救いに行っちゃダメなの!!?――ねえ!!答えてよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 両翼の頭は怒りに身を焦がし、まさしく嵐の渦中にその身を置いていたのであった。








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