透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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錠前サオリと………

 

 

 

 トリニティ総合学園。ゲヘナと並ぶ巨大学園も、今やゴーストタウンと見紛うほどに静まり返っていた。

 

 マッシュが逮捕されたという報道がキヴォトス全体に広がったその日、内部の各派閥が活動を開始し内乱に近い状況に陥ったものの、ティーパーティーが出した戒厳令と「とある事件」によって状況が変化してからは、学園自治区は水を打ったように静まり返った。……お察しの通り、聖園ミカが単身で連邦生徒会へと向かおうとしていたのだ。

 

 

 

 

「けれど…よく踏みとどまったな」

 

「あんなに強く言われちゃったらねぇ〜……サオリちゃんだってやる気満々だったって聞いたけど?」

 

「……ああ、しかし先生が大人しくと命令を出されたからな。従わざるを得ない」

 

「従順だねー⭐︎」

 

「…!」

 

「あれ、どうしたの?」

 

「ああ、なんでもない。知り合いからメールが届いていたんだ…返信するから少し待ってくれ」

 

「いいよー」

 

 

 

 トリニティとゲヘナの自治区の境に位置する運河上の大型鉄橋に、サオリとミカはいた。

 かつてマッシュと補習授業部が第二次学力試験に際して突破したこの橋の上では、パラダイス機構に所属する風紀委員会や正義実現委員会の生徒達が、両岸の入口に分隊規模の警備隊を置いて監視を行っている状態である。
 流石の生徒達もサオリとミカが現れた際には動揺する素振りを見せたものの、引き止める権限も理由もない彼女たちはすんなりと橋へ通した。そこにはミカとサオリを救ったマッシュに対する信頼に留まらず、サオリ含むアリウス生徒への信頼も多分に含まれていたのは事実だろう。

 

 

 

「それでそれで、シャーレのみんなはどう?」

 

「……あまり、言いたくはない」

 

「えぇ〜、友達なのに教えてくれないのー?」

 

「友達…だったとしても、ダメだ」

 

「こっちのことは話したのにー?」

 

「言えば、お前はもっと怒る…そうなっても私一人では止められない」

 

「……ふーん」

 

 

 潜伏中のアリウス生徒達とは一時別行動を取っていたサオリは、偶然にもミカと遭遇してこの橋の上に行き着いた。両岸から離れた橋の半ば、誰もいない鉄橋上で身の上話を交えて現状について語る両者。

 

 

「先生がいなくなり、連邦生徒会からも動きを止められ……あの頃に逆戻りした気分というのが本音だ。正直にいうと毎日が不安が仕方ない」

 

「トリニティもおんなじ感じかなぁ……ツルギちゃんはいつも以上に顔が怖くなってるし、サクラコちゃんも……あの子は元々だった。とりあえずみーんな暗い顔のままだよ……特に、ナギサちゃんはね」

 

「……アズサは、大丈夫なのか?」

 

「ヒフミちゃん達がそばに居るから大丈夫、それにあの子は強いもん。きっと気持ちを切り替えて、先生のために何かできないかって頑張ってるはずだよ」

 

「フフッ…そうだな、アズサは、そういう子だ」

 

 

 マッシュの逮捕が与えた衝撃、そして事後の不安はどこにも同じだけの影響を与えていたらしく、特に政治的思惑が絡まり合うトリニティ内部では波紋を呼んでいるらしい。

 トリニティ・ゲヘナ・アリウス含め、キヴォトスにとっての光が失われて雲の中に取り残された状態、それが今の彼女たちが置かれている状況といっていいだろう。

 

 

「……今回の事件、なんとしてでも解決し…先生を救い出す」

 

「黒幕について何か検討があるの?」

 

「不知火カヤ…奴以外あり得ない」

 

「他には?」

 

「断定はできないが……カイザー、奴らも怪しい。犯行の際に使われたのは奴らの武器だからな」

 

「…他は?」

 

「残念ながら…何も掴めていない。……いや。そもそも協力者がカイザーだけなのかも分からない…すまないな、詳しいことはまだわかっていない」

 

「全然大丈夫!それだけ分かれば満足だし」

 

 

 

 ミカは空を見上げながら、ゆっくりとその口を開く。

 

 

 

「……ねえ」

 

「なんだ?」

 

「先生がいない世界ってさ……つまらなくない?」

 

「つまらない……はよくわからないが、寂しくはある。いつもの調子が出ないというのだろうか……彼にあっていないと…不安で仕方がないんだ」

 

「だよね〜わかるわかる⭐︎」

 

「そして、そんな彼を私から引き離した黒幕に対して……殺意に近い感情すらも抱く」

 

「そうだよね……抱いちゃうよね、先生自身なーんにも悪くないのに、勝手に連れて行かれて悪者にされてるんだし……憎いよね、ぶっ飛ばしてやりたいよね」

 

「…ああ」

 

「――ならさ、サオリちゃん」

 

 

 ミカは彼女の手を優しく握り、笑顔でとある提案をした。

 

 

「これから一緒に連邦生徒会へ乗り込まない?」

 

「……本気なのか?」

 

「勿論⭐︎……そりゃ、ナギサちゃんとかには止められちゃってるし怒られちゃってるけど…でも我慢できないもん⭐︎」

 

「気持ちはわかるが、相手は油断ならない相手で何を隠しているのかもわからない相手なんだぞ?」

 

「うん、だから…一緒に行きたいの。お友達であるサオリちゃんと」

 

「……いや、私よりも…他の者の方が」

 

「ダメダメ! サオリちゃんとじゃないと嫌なのー!」

 

「わ、わかった。わかったから、乱暴に手を上げ下げするなこっちが痛い…」

 

「行ってくれる?」

 

「……見に行くだけなら、いいぞ」

 

「―やったー! ありがと〜サオリちゃん!」

 

「…別に…そんなに力強く握らなくてもいいだろう」

 

 

 

 サオリが一緒に行動をしてくれるということで、元気いっぱいになり飛び跳ねるミカ。サオリは少しの息を吐いた後、覚悟を決め、アリウス時代とは違ったデザインのマスクを付ける。

 

 まさしくそのマスクは覚悟の表れ、先生のため、シャーレにいる仲間達のために……サオリは今、覚悟を決めた。

 

 

「作戦は?一体どうする気だ?」

 

「真正面から言ったまず無理だから、動くとしたら夜……その時間帯なら、夜の暗闇に紛れて動けるし、警備している人たちを倒しちゃっても気づかれにくいし」

 

「成程……侵入した後はどうする」

 

「先生を助けて、その後黒幕であろう不知火カヤを…ぶっ飛ばす!」

 

「シンプルだな」

 

「一番手っ取り早いでしょ?」

 

「…その通りだ」

 

「それに、先生が動いてくれればすぐに終わっちゃうし⭐︎」

 

 

 ミカは体を伸ばし、武器に弾薬を込めた後、それを持ちながら歩く。そしてサオリはそれについていく。

 

 

「…ありがとうサオリちゃん、やっぱり持つべきものは友達だよね⭐︎」

 

「友達……そうだな、ミカは…私の友達だ」

 

「そんな真剣な顔で言われたら逆に恥ずかしいんだけどー…?」

 

「いいや、言わせてくれ」

 

 

 サオリは彼女の後ろを歩きながら、真剣な表情と声で凛々しい雰囲気で告げていく。その雰囲気は…アリウス時代のものと酷似してきた。

 

 

「ミカを追い詰め、苦しめた私を…何をされても文句はないだろう私を、ミカは先生と共に助けようと手を差し出してくれた。命をかけてくれた…その後も話をしによくシャーレに来てくれて…相談にも乗ってもらったな」

 

「大袈裟だって〜」

 

「大袈裟な物か、先生に続き…ミカは恩人であり……最高の…友達だ」

 

「も……もーう!顔熱くなっちゃうじゃーん!!」

 

「お互いのことを少しづつ理解し、親しみやすく気楽に呼び合ったりもした……ミカのためならば、私は嫌っていた自分にでもなれる気がする」

 

「…私もだよ、サオリちゃん。私も…サオリちゃんのことは大好き――だから、この先よろしくね!」

 

「ああ」

 

 

 二人は笑い合い、自身の大事にしている存在を、暗闇に沈みそうになっている者達を助けるため、前へと一歩踏み出す。

 

 

 

 

「その前に一つだけ聞いておきたいんだ」

 

「もーうなーに?今から気合い入れていこーうってした所なのに〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチャ

 

 

 

 

 

 

 

 しかし次の瞬間

 

 

 

 

 

「貴様は何者だ」

 

「………ぇ…?…ね、ねぇ……なんのつもり…なの?サオリちゃん…冗談はやめてよ」

 

「黙れ」

 

 

 サオリはミカに向けて銃口を向けていた、そして気づけば、周りでは両岸を警備していたはずの生徒達──あるいは応援を呼んだのか、それ以上の規模の部隊が彼女を包囲していた。

 

 

「さ、サオリちゃん!?なんのつもり…!?」

 

「なんのつもり……か、笑わせてくれるな。一ついいことを教えてやろう、今の聖園ミカはな────私のことをサオリンと呼んでいるんだ。桐藤ナギサに対してはナギちゃんと呼んでいることも、周りの人間は知っている

 

「そ、そんなの」

 

「それにさっき、私の手を本気で握っただろう?……聖園ミカは先生と戦える程の実力者、そんな相手が本気で私を手を握ったら…きっと私の手は大変なことになる、なるはずなのに……見ろ、なんともない

 

 

 

 サオリは銃口を向けながら近づき、額に銃口をを当てながら告げる。

 

 

「それと…気づいていたか? さっきからその羽……ぴくりとも動いていなければ…どうも不自然なんだ…少し動かしてしてくれ」

 

「や、やめようよ…サオリン!今は早く先生を」

 

「それと……さっき、私の仲間からメールが届いたんだ、しかも写真付きのな。――…ここに写っているのは…誰だ?」

 

 

 

 サオリの端末に映っていた写真には、三角座りをしながらも下を向き落ち込んでいるミカが写されており、そこを慰めているナギサやセイアの姿もあった。明らかに、この場にいるミカとは別人、かつ本物であることは明らかだろう。

 

 

「さ…サオリン…」

 

「その姿で私の名を呼ぶな。その姿で何をする気だった、その化ける力で誰を陥れた……一体、誰と手を組んでいる!!!」

 

 

 

 

 サオリは激昂し、喉から血が出るのではないかという声量で声をあげる。

 

 

 

 

 

「答えろ……貴様は…誰だっ!!!!」

 

 

 

そんなっ……誰だ……なんて……ひどい……ひどいよ…サオリン…!!!本当に……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

せっかくショーが始まる予定だったのに……本当にひどいな……俺の楽しみを奪いやがって。……てかこの薬不良品だろ、後で兄様に文句言ってやろ」








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