透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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錠前サオリと謎のピエロ

 

 

 

 

 

(私は……人生を闇の中で生き、死と背中合わせで生きてきた。その足音を、冷たさを知っている。そして……ベアトリーチェという強大な存在を前に、常に冷静に、常に機械のように、表情を崩さず、臆さず生きることをを徹底してきた───しかし)

 

「こんなにも簡単にバレるなんて想定外、今まで全くなかったのに……ドゥウム兄様は嘘つきだ」

 

(この男を前にして、それを貫くことはできないな。一眼見ただけでわかる…この男は)

 

「……まあ…いい。どうせあのまま連れ去るつもりだったし……手間が省けた」

 

(私と同じく……裏でずっと生きてきた……いや、それ以上の怪物だ!!)

 

 

 ミカの姿から一変し、色鮮やかなサーカスのピエロのような姿へと変わった一人の男。 

 目の下には涙模様と星を模った二つのアザがあり──すなわち二本線の魔法使いであり、不気味な目が瞬き一つせずにサオリを見つめる。

 

 

「いつから気づいていたんだ?」

 

「やけにシャーレのことに対して深掘りをしてきたり、幼馴染である桐藤ナギサをナギちゃんと言わずにナギサちゃんと言った頃だな。時折D.U.まで頻繁に顔を出すティーパーティーのホストが、今更私達について改めて深堀りしに来る理由などないだろうに」

 

「だから喋りたくないって言ってたわけか、賢いな」

 

「化けるのならば、もう少し化けた相手のことを事細かく演じるべきだったな」

 

「あいつの情報通りやったつもりだったが……やっぱ、仕事できないやつはいらないな」

 

 

 サオリはそのピエロの言葉や動向を目や耳に入れつつも、愛銃のトリガーに指をかけ、いつでも攻撃できる体制を崩さない……それはもちろん周りの生徒らも一緒。

 

 

「……所で、お前のそのマスク…カッコいいな。くれよ」

 

「やるわけがないだろう。このマスク大事な人からもらった特別な物だ。他人に…それも敵に易々と渡すものでは無いんだ」

 

 

 

 

 

ズバッッ!!!

 

 

 

 

 

「いいから黙ってよこせ」

 

「血気盛んだな」

 

 

 

 ほんの一瞬……瞬きひとつするかしないかという短時間の間に、二人はそれぞれ音と共に怪我を負っていた。

 サオリは左腕、ピエロは右頬に切り傷ができていた。ほんの数センチという傷ではあるが、その傷はその場にいる全員の緊張感を煽るのには十分だった。

 

 

(―い……今、ピエロの腕が少し動いたと思ったその瞬間に……サオリさんが隠し持っていたピストルでピエロの顔に向かって撃ったのは…理解した。でも…ピエロの方は…何を…したんだ…⁇)

 

(なんてすごい反射神経…!)

 

「…舐めてたな、そうだよ、はっきり言って舐めてた。やっぱりこの世界の女は要注意すべき存在だったな」

 

(トランプ……魔力で作り出したのか、それともそういう素材なのかは知らないが、それを飛ばすだけならば先生にも、それこそ私達にだってできる……だが、キヴォトス人の肌を引き裂く威力のトランプとは───ベアトリーチェといいケイといい、魔法使いというのは本当に厄介で仕方ない)

 

 

 サオリは手で合図を送り、生徒達を下がらせる。そして再度銃口をピエロに向け攻撃の体制へと入る……ピエロの方はトランプを見せた後、手を少し左右へと揺らす、するとトランプは綺麗に消えてしまった。まさしく手品。

 

 

 

「くれないなら、殺して奪うだけ。それに…新しいショーを思いついた、どっちが早く相手を殺せるのか…って言うショーだ」

 

「ショーだと?ふざけるのも大概にしろ」

 

「早速やろう。一対一、武人同士真剣に」

 

 

 

 サオリは引き金を引きながら前進しピエロを攻撃、無数の弾幕がピエロの方へと向かったのだが。

 

 

 

「…」スッ――ピタッ!

 

(なんだ…不自然な動き……確かに…パントマイムだったか?)

 

「!」

 

(弾丸が弾かれた…!)

 

 

 

 ピエロがパントマイムのような動作をしたかと思うと、サオリが放った弾丸が全てピエロの目の前で弾かれた。

 

 

「びっくりしたか? したよな? 」

 

「今更驚くと思うか。これまで何度も攻撃を弾かれる経験をしてきた、当て方は知っている」

 

「――なら」

 

(…くる!!)

 

 

 ピエロがトランプを出したかと思うとその次の瞬間、サオリの両腕と足に無数の切り傷が生じた。血が数珠のような飛沫となって飛ぶ中、赤く染まったトランプが周囲を飛び回る。

 

 

「それならどうだ?」

 

(早すぎて見えなかった……にしては不自然だ。それにこのトランプ…一体いつのまに……ここは距離を置く。攻撃をしながら奴の力を探らなければならないな)

 

「…情報を掴むために俺の出方を攻撃しながら観察、合理的な判断だ……だがつまらないな」

 

「つまらない?」

 

「俺は、お前の様な何かに縛られている奴が大嫌いだ。見てるとこっちまで息苦しい、はっきり言って迷惑だ」

 

 

 

 ピエロは手に出したトランプを今度は直接飛ばした。銃撃戦においてはもはや切手に等しい大きさに見えるそれらを、サオリは5.56mm弾で正確に撃ち抜いて無力化し、爆発的な踏み込みでピエロに肉薄する───が、その過程で再び、切創がサオリの身体に刻まれる。

 しかし対するサオリも、その程度では止まらない。ピエロ目掛けてインファイトを仕掛ける中で、サオリが放ったのは明確な否定の言葉だった。

 

 

 

「縛られているだと?今の私は、私たちはあの頃とは違う、自由に生きられる。誰にも縛られてなどいない」

 

「縛られているさ。誰かへの贖罪に過去の自分への決別、そして…自分のためではなく、救ってくれた恩人のために生きている今……馬鹿みたいに自分で自分を縛って、どうしようもないほどに雁字搦めになっている」

 

 

 ピエロは指に挟んだトランプをコンバットナイフや鉤爪のように振り抜いてサオリに斬りかかるが、サオリは髪の毛数本を切らせるに留めて紙一重で回避する。ダメージを抑えつつ回避動作を可能な限り最小化することで、瞬間的に反撃に転じて攻防を入れ替える────が、その拳は、ピエロの正面に張られた“見えない何か”によって阻まれていた。

 

 

「別に私達は縛られているわけではない。誰かに何かを強制されることもなく、自分たちのやりたいことを、やりたいように出来る自由───その中で私達が取った選択が、『先生のために生きること』として一致しただけだ。私達にはもう、何かを強制されて、誰かの道具として命を使い潰すような生き方をする必要はないからな」

 

「そんなの自由じゃない。お前みたいに青臭くて見た目まで青い子供(ガキ)はそこを勘違いしやすい、知らないなら教えてやるよ」

 

 

 ピエロは攻撃の手を止め、何処からとも無く紙を複数出現させた。表情一つ変えず、ピエロは同様に出現させたハサミを手に、畳んだ紙を切ってゆく。

 切られた紙が再び広げられると、そこには簡単な人形(ひとがた)を模った紙人形が、両手を広げて手を繋ぐような形で十数個ほど連なっていた。しかしその人形は、本来の紙が持っていた面積を超えて更に広がると、一体につき人の丈ほどの大きさとなり、50人ほどの人形の群れに化ける。

 

 

「俺はお前みたいなキチキチとした人間と、自分のためじゃなく他者のために時間を使う人間は嫌いだ。さっきもいった通り、見ていて息苦しい。生き物はもっと、本能と衝動に身を委ねて生きるべきだ」

 

 

 すると次は、その一体の人形が刃物や袋を用意し始め、それが動き出した。

 

 

「欲しい物は奪い、周りに気分が悪い奴がいれば殺す。もっと楽しめるように、自分本位に人生を歩めばいい」

 

 

 ナイフを手にした紙人形が他の人形から財物を奪い取ると、その後に次々と周囲の人形を切り裂き始め、その後自分も切り裂いて自滅した。そんな様子を作りながらもピエロは無表情と無感情のまま語り続ける。

 

 

「故に、お前の生き方は面白くない。面白くもない人生を歩み続けてて、俺は心底同情する……可哀想だな」

 

「……随分と、勝手なことばかり言ってくれるな。お前にとっては面白くないのかもしれないが、私はお前を楽しませるために生きている訳ではない。お前のように他者からの簒奪を是とする下衆如きに、同情される筋合いなど微塵もない────私は今の人生に満足しているし、今を生きることを全力で楽しんでいる」

 

「…なんだと?」

 

「言い方を変えよう。お前の価値観をこちらへ押し付けてくるな。私の生き方は───もう、決まっているんだ。私は何にも、何者にも縛られてなどいない───誰かに隷属する必要もない、何か手放す必要もない、そんな真の自由の中で選び取った『私のやりたいこと』のために、今を生きているんだ!!

 

 

 

 叫び上げたサオリが、取り出したコンバットナイフを旋風のごとく振り抜く。ピエロはまるで呆れたような表情で、サオリの動きを制止するように手を翳した。しかし、今度はサオリの身体に切創が生まれることはなかった。

 振り抜いたナイフが“見えない何か”を切っ先に捉え、切り裂き、最後の一枚をその刃で刺し貫いた。その“何か”の存在によって刃先がぼやけ──正確には“何か”によって光が屈折し──た直後、その切っ先には中央を刺し貫かれたハートのエースが現れた。

 

 

 

物を透明にする魔法、突然現れたトランプの正体はこれを応用した攻撃だったというわけか。弾丸や打撃を防いでいたのも、このトランプを動かして透明の障壁を使っていたわけか」

 

「……こんなにも早く俺の魔法の正体に気づけるなんて……お前…いいな。面白い、今まで会ってきた奴の中で一番面白いぞ」 

 

「それは光栄なことだな」

 

「ああ。だから――お前が欲しくなった、その前に少し遊ばせろ」

 

「誰が貴様の玩具になってやるものか……私の身は、この命は──仲間たちと、先生のものだ!」

 

「全く、縛られるのが好きそうだから俺のものにしてやろうと思ったのに……そういうの、本当に勿体無いぞ」

 

 

 

 ピエロはトランプを持ちながら構えを取り、告げる。

 

 

 

「俺の名前はファーミン、無邪気な(イノセント・)淵源(ゼロ)の一人だ。お前が気に入ったら、個人的に手に入れる」

 

「シャーレスクワッド分隊長・錠前サオリ───私は、お前を捕らえる者だ」

 

 

 

 

 

 姿なき道化師ファーミンと、連邦捜査部S.C.H.A.L.E.名誉部長・錠前サオリ。

 激闘必至の一騎打ちが今、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はぁ、全く。兄様にはつくづく頭を痛めますね…今はまだ私も動けませんし……仕方ありません、我が愛しのプリンを食べて待っているとしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「P・U・R・I・N!!P・U・R・I・N!!」

 

 

 

 

BIG LOVE for  プリン

 

 







お前が(オモチャとして)欲しいbyファーミン


聞こえるぜ……みんなの地雷を踏んだ音が

百花繚乱後に見たい話

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