透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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作戦前日・ウサギと蝙蝠とエリート

 

 

 

 

 

『拝啓、皆様方。

 我らが愛しき先生の正妻であるこの私が、この度、此度の作戦のために、先生がいる牢の中へと行って参ります。

 

 

 

 外の皆様におかれましては、先生の身の安全はわたくしが全身全霊をかけてお守りいたしますので、どうぞご安心ください。

 

 

 

 先生の愛を一身に受けながら、最後の最後まで、最高の成果をお届けすることをお約束いたします。

 

 

 

先生の正妻、狐坂ワカモより、愛と感謝をこめて。

 

 

 

 

 

 

 

PS・お先に失礼致します♡

 

 

 

「お先に失礼します♡――ではなぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!!」ビリィィィィィィィッッ!!!!

 

「リーダーストップ、まだ傷治ったばかりなんだから暴れちゃダメだってば」

 

「案の定こうなっちゃいましたね……」

 

「大人しくしてようねって約束速攻で破っちゃったしね」

 

 

 

 ゲヘナ学園・校庭。

 

 

 人払いがなされて規制線が張られた一帯には、連邦生徒会の監視から逃れるべくゲヘナまで移動・潜伏していたシャーレの生徒達が集まっていた。事実上の顧問であるマッシュを失ったSRT特殊学園の生徒たちも、一時的にこの場へ招集されている。

 

 

 ゲヘナを選んだ理由は一つ、連邦生徒会どころか風紀委員会や万魔殿すら警戒監視が行き届かない混沌の場こそ、彼女たちが連邦生徒会の前から姿を隠すのにうってつけだったのである。

 なお、案を提示したのはマコトが初出である。

 

 

 シャーレは勿論のこと、マッシュの影響を強く受けているSRT特殊学園もまた、カヤが掌握した現在の連邦生徒会によって厳重警戒対象としてマークされた上で、内部での動向を細かく調査されて身動きが封じられている。

 しかしゲヘナ自治区まで逃げ込んでしまえば、『空崎ヒナ』という存在がいる限り連邦生徒会やヴァルキューレも安易に踏み込めない。
 彼女たちが反旗を翻す反撃の拠点、それがゲヘナ学園だった。

 

 

 そしてそこで、決戦のための準備としてトレーニングと武装の装備を行うことにしていた。

 

 

 

「……多重人格、覚醒した魔法……はぁ、めんどくさいことになってきた」

 

「まさか連邦生徒会にも魔法が使える人が出てくるだなんて…誰も予想できませんよね……で、でもその情報って信じてもいいんでしょうか。ゲマトリアが言ってたことですし…」

 

「先生への執着が気持ち悪いレベルに達しているアイツらが、そんな嘘をつくとも思えない。…せめて詳しい内容まで知れればよかったんだけど」

 

「そこは頑張るしか無いよね、慎重に動いて」

 

「そう、慎重に動かなければならないんだ。――そう……慎重に!!動かなければならないんだ!!」

 

「リーダー、声大きいよ」

 

「大きくもなる!!ご丁寧にこんな手紙まで事前に…………他の生徒に見せなくて本当に良かったが」

 

 

 ホシノがゲマトリアから聞き出した要点は三つ。

 
『不知火カヤは神秘を覚醒させ、魔法の行使が可能になっている』
『全学園に対して自らの力を及ばせ、武力で均等化することで学園間紛争や連邦生徒会への反発を押し潰し、名目上の“世界平和”の実現を目論んでいる』
『自らはマッシュや連邦生徒会長にも達成できなかった偉業を果たした救世主として名声を受け、確固たる地位の確率を目論んでいる』
 
途方もなく碌でもない野望と欲望に塗れた内容は、即座にアリウスとゲヘナの生徒たちの間に駆け巡った。

 

 共通の恩人が共通の敵によって、凶悪な魔の手と毒牙に蝕まれている現状。向かう道が一つとなった彼女たちの間で次段の作戦立案は急ピッチで進められ、幾度とない偵察とミーティングを重ねた結果────

 

 

 

 

 

『平和な世界は自分たちで掴む、個人の見解で全てを変えていいわけがない』

 

『自由を手に入れたのに、また束縛されるつもりはない』

 

『先生以外の命令を順当に聞くつもりがない』

 

 

 

 

 

 

 

『そして何よりも、いかなる理由があれ先生に手を出したのには変わらない』

 

 

 

 

 

以上の結論に収まった。

 
…現在、彼女たちは反撃とマッシュ奪還、そしてキヴォトスの均衡回復に向けた準備段階にある。しかし、救うべき存在はマッシュだけではない。

 

 

 

 

「――ハァ…ハッ……流石は、ゲヘナ最強……」

 

「まだやれる?」

 

 

 

 

 マッシュ緊急逮捕の直後、RABBIT小隊は救援を求めてやってきたニーナとともに子ウサギ公園で対策をねっていたのだが、その際に現れたSRT最強格のエリート部隊───全SRT生の憧れと尊敬の的でもあったFOX小隊との再会を果たしていた。

 

 彼女らはヴァルキューレ同様、既にカヤの手に落ちていた。今や捻じ曲げられた「正義」の名の下に、マッシュという「悪」をキヴォトスから抹消するために動いている。

 

 

 

 

『自分の正義に従い、我々に協力をしてほしい』

 

 

 

 

 そう言って手を差し伸ばしてくるFOX小隊のリーダー・七度ユキノに対し、RABBIT小隊小隊長・月雪ミヤコはしばしの沈黙の後……その手を勢いよく振り払った。そしてただ一言。

 

 

 

 

『――自分の正義には従います。……先生を守る事が、私の正義です!』

 

 

 

 それを聞き、『―それが答えだな』とだけ呟いたユキノは、FOX小隊のメンバー達を連れ、黙ってその場から去っていった、まるで機械のように、表情ひとつ変えずに。

 

 

 

「当たり前です、先生の生徒である以上…!簡単には諦めません…!……それに、あの人達の目を覚まさせるためにも―もっと、上へ!!」

 

「いつまでも、いい顔をしている不知火カヤにも一泡吹かせてやりたいからな!!」

 

「怖いけど……この先のことを考えたら―そんなに怖くない………かも!」

 

「やれるとこまでやってみる、先生から教わったからねえ!!」

 

 

 そんな先輩達の目を覚まさせるのと同時に、彼女らを超える為、ゲヘナ最強かつマッシュと背中合わせで戦える実力者の空崎ヒナに鍛えてもらっていた。

 

 

 

「…フフッ、とても良い友達が増えたみたいね。でも一つだけ伝えておくわ」

 

「各自体制を立て直してください! タイミングを見計らいながら慎重に行動を――」

 

 

 

 

 

 

 

「私は先生と海辺でイチャイチャした事があるわ」

 

「作戦変更!!ガンガン行きましょう!!!!」

 

「おいコラ司令塔!!!」

 

「少しは隠すってことしようよ!?」

 

「で、でも心なしかいい感じになってきているような……!」

 

「ものすごく楽しかったわ」

 

「サキ!二人で行きますよ!!!」

 

「私を巻き込むな―って早!?」

 

 

 

 実のところ、ヒナもまたRABBIT小隊との手合わせを楽しんでいる節があった。

 理由は単純、マッシュが己の身一つであらゆる身の振り方を教えた相手である事実に加え、自身にはない熱と決意を宿した目がヒナには眩しく見えていたことにある。

 

 それはそれとして『でも先生と付き合いは私の方が長いし、私の方が先生との友情は深いし先生の隣に立って戦うのは私だからね』と言うちょっとした嫉妬心を諸に表に出したりもした。

 

 

 

「――いや無理」

 

「まっ……はぁ……はぁ…?…はぁ?」

 

「息ができ…ない…」

 

「足と胸が…裂けそう…!!」

 

 

 

 そして同じくゲヘナのグランドに集まっているSRT特殊学園はそれを見て『戦えるレベルじゃ無いだろ!!!!』と心の底から思っていた。なので彼女らは仕方なく、仕方な〜〜く、マッシュがシャーレの生徒達のために組んだトレーニングを行っていた。

 

 結果は言わずもがなである。勿論シャーレの生徒達が付き添いながらなのだが……エリートの集まりといえどマッシュのトレーニングメニューはまさしく『無茶振りの極地』、それを慣れてしまっている者達に彼女らは尊敬と引きと二つの感情をぶつけていた。

 

 

「…そろそろ私達も参加しよっか」

 

「くっ…苦しいですけど、苦しんだ後のご飯ってとっても美味しいんですよね」

 

「お前達、やる気満々だな」

 

「当たり前、相手は先生を嵌めただけじゃなくて……リーダーをあんな目に合わせた。そのせいでニーナも泣いた、ミレニアムだって大変なことになった…アリスも泣いてた」

 

 

 静かに立ち上がり、覚悟を決めたその顔で、ミサキは力強く言葉を放つ。

 

 

「だから…アイツらをボコボコにするまで私は止まるつもりはない、それはみんな同じ」

 

「ミサキ…!」

 

「抱きつく体制に入らなくていいから」

 

「私がボロボロの時、サオリは頑張ってくれた。なら今度は私が頑張る番…そうでしょ?」

 

「久々にみんな、本気で怒っていますから……リーダーの分も乗せて、ぶ、ぶっ飛ばしてやります」

  

 

 みんなのリーダーであり姉的な存在でもあるサオリに怪我をさせただけには飽き足らず、誘拐してやろうなどと言う考えを持った存在に対して本気で怒りを抱いていた。

 

 

「―先生が解放されたその時、きっと先生は奴を倒すはずだ……だがそれだとわたしの気が済まない。正直に話すと今すぐにでもアイツの顔に拳を叩きつけてやりたいんだ」

 

(目…こわ)

 

「奴の力は本物だった…今の私ではきっと先生のお荷物でしかない。だからもっと強くなる必要がある……今以上に」

 

「付き合うよ、いくらでも」

 

「…ぜひ、そうしては欲しい」

 

 

 サオリは愛銃とナイフを持ちながら、ゆっくりと歩く。自分もそのトレーニングに混ざるために

 

 

 

 

――プルルルルルッ

 

 

 

「……!」

 

 

 

 しかしそこに、一つの連絡が入った彼女は端末を確認する。宛先は『レッドウィンター連邦学園』

 

 

「錠前サオリだ」

 

『怪我の具合はどうだ!』

 

「完治とまでは行かないが、動けるようにはなった」

 

『それはよかった!……そして嬉しい情報だ!』

 

「聞こう」

 

 

 電話先の相手、レッドウィンター連邦学園のトップ連河チェリノは凛々しく告げた。

 

 

 

『工務部がデモの準備を完璧に整えた、つまりは作戦の第一段階!それの準備が整った!』

 

「――感謝する」

 

『これも我が友カムラッドの為だ!――今こそ見せてやろう、我が校の力を!!』






人格が二つになったと言うことは、胃痛も2倍だよね❤️

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