今回トリコちゃんが出てきます。正実の話を書くんだから、せっかく出させたいなぁーと。
トリコちゃんのことを知らない方は、この小説の26話マッシュ・バーンデッドとシュークリームクラブをお読みくださいませ。
今回マッシュくんの出番は少なめ……ごめんなさい。
それでは本編へ……どうぞ
「どいてくださいツルギ……私は、私は行かねばならないのです」
「そうは行かないなぁ……ハスミ」
「どうしてもですか」
「どうしても……だ」
トリニティの治安維持組織として名高い正義実現委員会、その本部の会議室。そこでは、副委員長・羽川ハスミと委員長・剣先ツルギの二人が睨み合い、現在進行形で争っていた。
2人の常日頃から犬猿の仲……ではなく、寧ろ平時も任務時も問わず、その交友関係と信頼関係は他部員の比ではない……はずだが、今回は違う様子。
「そうですか……なら、力づくにでも押し通ります!!」
「良いぞ…こぉい!!」
「ちょちょちょ⁉ ダメですって‼」
「ハスミ先輩、だ、だめです!」
「ハスミ先輩、ツルギ先輩を相手にするのはあまりにも無謀です……ここは諦めた方が」
「トリコ、マシロ、お気遣いありがとうございます……しかし、ことは一刻を争うのです!」
「何もこんなことで必死にならなくても『こんなこと!?今こんなことと言いましたか!?』」
「これは私の人生!……いや、命を賭けるべきことなのです!ですからツルギ……どいてください!」
「断る……絶対にだ」
ツルギとハスミが互いの視線をぶつけ合い、自らの得物に手を掛けた。ツルギの瞳孔が猛禽のように鋭くなるとともに、その長髪と全身の毛が逆立つような闘志がツルギの全身から滲み出す。
「どうして……どうしてですかツルギ…何故……どうして⁉」
「………」
「どうして‼ 数量&期間限定・スペシャルシュークリームを買いに行くことを邪魔をするのですか‼」
「お前が今現在進行形でダイエット中だからだ」
ハスミは一枚のパンフレットを潰れるほど握り締めて叫んだが、やはりツルギは動かない。
ハスミは現在、正義実現委員会でもはや恒例行事や伝統芸能とまで揶揄されているダイエットの最中だ。しかし、今回ハスミが狙うスペシャルクリームは、幾層もの分厚いシュー皮と濃厚なカスタードとホイップを組み合わせた多種のクリームで作られた高カロリーの爆弾であり、こんな糖脂質の塊を食べてしまえばダイエットを行っている意味が泡と消える。
「やっと買える日が来たのです……スペシャルシュークリームの販売は不定期、しかも販売数量は最大2桁と少ない‼ そんな幻のスイーツを、私は三度も逃してきました……だから今回こそは、今回こそはっ‼ 買わなければいけないのですっ‼‼」(血涙)
「お前の気持ちは、よぉくわかった……しかしだ、数週間前──私はお前に『私がスイーツを食べそうになったら、なんとしてでも止めてください』と言われたばかりだ……だからお前を止めねばならない」
「くっ…恨みますよ過去の私‼‼」
「それに、ダイエット中に数量限定スイーツが発売される度、お前は一体何度同じことを繰り返してきた? 今回に至っては、見かねたイチカやマシロどころかコハルやトリコまでダイエットを手伝ってくれたんだぞ? お前は後輩の協力を無下にするのか??」
「うぐっ」
「トリコに至っては、シュークリーム屋でバイトをしながらもここまで手伝ってくれたじゃないか」
「うぐぐっ」
「それでも……行くのか?」
ハスミは食欲が揺らぐとともに僅かにたじろぎ、銃口をやや俯かせた……しかし
「――だとしても」
「……ハスミ」
「だとしても‼ 譲れないものが私にはある‼私は……スこのペシャルシュークリームを手に入れるまで……決して止まりません‼‼」
(そのセリフ多分使い所間違えてるっすよ)
(こんな真剣な顔をしてるの……いつぶりだろう)
(やっぱりハスミ先輩は風格があってかっこいい……けど……状況とセリフがなぁ……)
半ば蚊帳の外となった後輩三人衆が心の中で各々の感想を呟く中、食欲に取り憑かれたハスミは、愛銃・インペイルメントをその手に構え、ツルギの眉間に照準を合わせる。息を吐いて狙撃体制に入ったハスミは、状況には似合わない声色で断じる。
「断言します……病めるときも、健やかなるときも、いついかなるときでも……スイーツを嗜むこと、これは私の正義です」
「そんなわけないっすよ、絶対」
「……そうか、しかし…それがお前の正義だとしても、私は止めなければならない――友達としてな、それが私の…正義だ」
「カッコいい……カッコいいんだけど……これ…スイーツを食べに行くか行かせないかの話だったよね?」
「2人とも、とりあえず離れよう……多分巻き込まれたら生き残れない」
後輩たちが退避したことを確認するとともに、ツルギは愛銃・ブラッド&ガンパウダーをハスミの方へと構える。
「その正義故に―─やはり私は、お前を止めよう」
「その正義故に……やはり私は、貴方を倒します」
正義実現委員会の2トップ、その二人が激突するという前代未聞の戦いが……今
『ツルギィぃぃぃぃー!!!!』
『ハスミィィィィィー!!!!』
始まった。
――――――――――――――――――――――
「それで……ハスミさんはツルギさんにボコボコにされて、今ここにいると」
「ぼ、ボコボコって程では……狙撃の……腕は、ハスミの方が、きっと上ですから」
「
「私の方が上です」
「インファイトは得意ですよ?……でも、でも‼ 近距離でツルギに勝てるわけないじゃないですか‼‼」
勝負の結果は、ツルギの勝利だった。両者はトリニティ最大の治安維持部隊において委員長と副委員長を担うだけあり、総合能力は拮抗している。特に狙撃においては、トリニティにおいてハスミの右に出る生徒はいない。
しかしそんなハスミでも、正面切ってツルギを相手取った場合は勝てるはずもない。結果、ハスミは麻縄で縛り上げられていた。
「うぅ、私のスペシャルシュークリーム……」
「あの……一応買ってあるんですけど、食べます?」
「いいんですか⁉」
「ダメだ」
「うっ……うぅ……」
「アッハハ……実は昨日っからこんな調子なんすよねぇ」
「先生、どうにかならないでしょうか」
「どうにかって、僕に言われても」
「こ、このままじゃハスミ先輩が…ちょっと、かわいそうで……私は、泣いているハスミ先輩を見るのは嫌です」
「と、トリコ……」トゥンク
「うーーーん………あっ、なら僕がトレーニングをしてあげましょうか?」
「……え」
「いいっすねそれ」
「え? え⁉」
「賛成」
「賛成だ」
「さ、賛成です」
「三人とも⁉」
マッシュはこの問題を解決するにあたって、最も手っ取り早い手段を思いついた。ハスミのダイエットをいち早く成功させるために、自身がインストラクターになればいい。
「僕がハスミさんのトレーニングを見てあげます」
「そ、そこまでしなくても……ほ、ほら! 先生もお忙しいですし」
「あっ、お構いなく。外回りの時は当番の子たちに協力してもらってます。もうほとんど終わってるんで」
「しかし…ダイエット程度に、先生を付き合わせるのは…」
「生徒が困ってるなら手を貸す、それが先生ですから」
「先生らしいですね」
「キヒャヒャヒャ、そういうことだハスミ……頑張れ」
マッシュと部員たちがハスミを応援する…が、ハスミは絶望していた。当然のことだろう、インストラクターは他ならぬキヴォトス最強の人間兵器マッシュ・バーンデッドだ。キヴォトス人ですら手が届かないような膂力を実現するために、マッシュが一体どのようなトレーニングを行ってきたのか…ハスミのみならず、正義実現委員会の誰もが想像できないのは確かだ。
そんな人間兵器の指導の下でダイエットを行ったら、もはや落とすものは脂肪や贅肉だけにとどまらないだろう。多分、自分は自分でいられなくなる。
「――正義実現委員会という組織は、助け合いの精神で成り立っています…そうですよね、皆さん?」
「…ハスミ先輩?」
「仲間が困っていたら…助けるのも、正義ですよね?」
「ハスミ先輩、あの、ちょっとま──―」
「そうです…そうです、いいことを考えました‼」
「ハスミ副委員長っ‼ 私は全力で拒否しますよ‼」
「私だけが一人で運動する必要はないのです‼ 皆さんも、先生と一緒にダイエットをすればいいのです‼」
『どうして‼⁉??』
「いいですねそれ、みんなでやったほうが絶対楽しいし」
『先生⁉??』
あろうことか、ハスミはその場にいた4人を
「ハスミ、流石にそれはな『ツルギ!』な、なんだ」
「先生と共にトレーニングをする……それはつまり、先生と一緒に、同じ時を過ごせると言うことですよ?」
「――‼」
「共に汗を流し、自らの肉体を洗練し、同じ時間を健やかに過ごす……これぞまさしく」
「青……春」
「そうです、その通りです」
「先生と一緒に……青春……キ、キ、キキ――キエェェェェェッッ‼‼‼‼‼‼‼///」
「ふふっ…作戦成功です」
「そこに正義は……あるんすか?」
「ツルギ先輩が上手く丸め込まれちゃいました……うう、どうしよう…」
「おち、落ち着いでください、トリコ……大丈夫ですよ――死ぬ時は一緒で」
「全然大丈夫じゃなぁぁぁぁい‼‼」
「じゃあ早速いきましょうか、手っ取り早く……僕が考えたメニューの手加減バージョンでいきますね」
こうして4人は、マッシュが指導を行う減量トレーニング───通称『マッシュ・ブートキャンプ』に強制参加を余儀なくされた。ハスミのダイエットを行うはずが、いつの間にか後輩まで巻き込んだ筋トレになっていた。
―――――――――――――――――――ーー
予想通り、というべきか。マッシュがこなしたトレーニングメニューは、彼の親であるレグロが考案したものが原型となっている。
「あ、あしが…動か、ない………」
「ひぃ……ひぃ………」
「トリコ……ぶ、ぶじ?」
「あぅ………あ…、ステュクス川の向こうに、シュークリームクラブの皆が見え…る――おーい……」
「幻覚を見始めてる…⁉ トリコ、トリコ‼ しっかりして‼」
肉体的にも精神的にも、瀬戸際に至るほどに追い込まれていた。しかしこれでも、マッシュが「手加減バージョン」と称していた通り、常人にとってはまだマシになった方である。その一部、ハスミたちが実践したのは以下の内容である。
腹筋500回
走り込み30分
そしてバーピージャンプ500回
これを5セット繰り返す。
イチカ・マシロ・トリコの三名は、回数を重ねるたび、極度の消耗によって動きを鈍らせていった。それでも全てのメニューをクリアした彼女たちは、酸欠でトリコが失神するハプニングを交えながら、何とか休憩にありついた……そして、肝心のハスミは───
「もっとリズムに合わせて‼」
「は…い……」
「もっとタイミングよく‼」
「は、はいぃ…」
「そして煩悩を捨てろ‼‼」
「はい!―――…あっ、パフェが食べたくなってきましたね」
「煩悩を捨てろぉぉぉッ‼‼‼」
「す、すみません……」
「あと100回、ファイトですハスミさん」
「あぅぅぅぅっ………」
人間離れした勢いでメニューをクリアしたマッシュとツルギによる監視の元、バーピージャンプの最終週を死に物狂いで行っていた。ツルギは完全なスパルタ方式でハスミを
「…お二人とも……何故あの2人は……あのメニューをやって、あんなに元気なんですか?」
「トリコ…よーく覚えとくっすよ……あれが人間を卒業した者たちってやつっす」
「マッシュ先生なんて汗一つかいてませんよ? ……なんなんですか…あの人」
いくらマッシュといえども、この内容がハスミにとって極度に厳しいものであることは理解している。しかし、こうでもしなければ、この先ハスミはきっとダイエットに成功しない。つまり、スイーツを心の底から楽しむこともできなくなってしまう。
「スイーツの……ため、私自身と…付き合ってくれた、みんなのためにぃぃ‼‼」
「そうだ、その意気だぁ‼ それでこそ……私の親友だ」
「あと50回、ファイトです」
ハスミは自分のため、
「やっ…と……終わり……まし…た」
「お疲れ様です。どうぞ、これ差し入れです」
「スイーツですか⁉」
「いえ、プロテインです」
「何故‼⁉」
「トレーニング後にプロテインは必須、少なくとも30分以内に摂取すること。これは基礎中の基礎です………あと、ダイエット中にスイーツはダメって、今日ツルギさんに言われたばっかりでしょ」
「……その通り、ですね……フフフッ、しかしこれで───」
「じゃあ次回、またこの時間に来てくださいね」
「……え…あの、これで終わりじゃ?」
「ダイエットに限らず、運動が一日で終わるわけないじゃないですか。これから一週間、僕も一緒に頑張りますから」
「―――そん……なぁぁぁっっ‼‼」
その後一週間、ハスミたちはマッシュのトレーニングに励み続けた。その結果──
「や……痩せられた……⁉」
ハスミは目標値への減量に成功し、他メンバーも一定のシェイプアップを実現して大団円──
──………というわけには行かず、
「先輩……しばらくスイーツ、禁止っすよ」
「………え?」
「私達を
「あの、これマッシュ先生から……また増えた時のための、メニュー…と…」
「リバウンドしないように……しっっっっっかり見張っておくからな」
ハスミはしばらくスイーツを食べることを禁止され、絶望の淵に立たされるのであった。
「みなさんも……食べ過ぎには気をつけましょう」
なお、スペシャルシュークリームはなんとか食べられたらしい。めでたし……めでたし?
正実モブのトリコちゃんがはあはあ言いながら筋トレをしている…‥かわいい、可愛くない?かわいい(断言)
ハスミさんのメモロビでまじかヨースターと叫んだのを今でも覚えております。ありがとうヨースタ。
励みになりますのでコメントと評価、どうぞよろしくお願いいたします!
追記・マシロちゃんのことをコタマと書いてありましたので修正いたしました……コタマは別の子だ。
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