セカイガヲワッタソノアトデ   作:めんつゆ

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序章 燃える海~彼女の場合~

 

体が、痛い―――やっぱり、私は……“ホテル”でしかなかったのかな。

 

そう呟いた私の耳に、彼らの怒号が響く。

 

西暦1945年 4月7日 14××

 

 黒々とした噴煙がいくつも立ち上る中、曇り空を切り裂いてやってくる敵に取り囲まれた、紺青の海の上……私は、“そこ”にいた。

 

「左舷浸水著し、傾斜回復急げぇぇぇ!!!」

「うぉぉおおおお!!!」

「あぎぁぁあ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁあ!?!?」

「弾を、弾をくれぇぇぇぇ!!」

「衛生兵ぇぇぇ!!」

「……ぅう―――う―――――――」

 

“私”を1分1秒でも長く生きながらえさせようと必死に叫ぶ声。

“私”に雲霞のように群がる敵を近づかせないように抗う声。

負った傷の激痛を堪えて泣き叫ぶ声。

戦う闘志をみなぎらせた雄叫び。

仲間を助けるために鳴り響く叫び。

そして―――途切れゆく命の声。

 

 そんな声に包まれて、私は静かに“ここで終わる”ことを自覚した。

冷静に自分の最後を自覚しているというのに……胸には苦しいほどの想いで満たされていた。

 

この海に来る前からわかっていたことだけれど―――私たちは、負ける。

そのあとの国はどうなるのでしょう?

蹂躙された街の再興にどれだけの時間がかかるのかしら?

民たちはひどい扱いをされないといいのだけれど……その時、不意に耳元に声が届く。

 

「……かぁ……さ―――――」

 

 また、一人……逝った。まだ、幼さを残すほど若くて、戦いの恐怖に顔をこわばらせながら……ここにはいない母親に助けを求めて。

 

彼らに私は……なにができたんでしょう。

何をしてあげられたのでしょう。

そもそも……何か、できたのでしょうか。

 

私を守るために命を散らしていく彼らを、見ていることしかできず……つらい現実から目をそらして―――あきらめてしまっている、私に。

 

 ふと思い出す。今まで出来事を……

 

今はぐちゃぐちゃに破壊されて、ところどころ黒煙を上げている私も、5年前にはピカピカの装甲と、最大にして最強の砲を備えた最高の戦艦として生を受けた。

皆は口々に私の事を褒め称えた。

 

「国の希望」

「正義の象徴」

「連合艦隊の切り札」

「最終決戦兵器」

「護国の盾」

 

しかし……実態はどうだ。

 

地獄のミッドウェー―――私は、赤城や加賀、蒼龍……飛龍、炎の中に沈んでゆく仲間たちを、指をくわえて見ていることしかできなかった。

 

決戦のマリアナ―――世界最強の一撃(46cm三連装主砲)は群がる敵艦載機を蹴散らすさえできず、燃え上がる大鳳と翔鶴……そして飛鷹を見捨てて逃げ出した。

 

反攻のレイテ―――私は、“決戦”を行わず、“希望”としての役割さえ果たせぬまま……逃げ帰った。勝利のために身をささげた、扶桑や瑞鶴……武蔵達の骸に背を向けて。

 

その結果がこれなの?

“切り札”だ。“象徴”だ、“希望”だとおためごかしを言って温存してきて……その結果が、“大和ホテル”とさげずまれ……挙句の果てには“一億総特攻の魁となれ”ですって!!

 

 “総員死方用意”と押し付けられて……敵中の真っただ中を風の中に揺れるろうそくの火のような、戦場に送り出された彼らを……

 

 地獄さえも生ぬるいほどの苦境で餓え嘆き恐れ苦しみ震え、それでも必死に抗っている沖縄の民や兵たちを……

 

 何も知らない本土の民を、歳若の少年や少女、経済を支える女たちから死に体の老体まで……

 

唯の一人も残さず、絶望の淵に叩き落とすためだけにここに送られたというの!?

 

ふざけないで!私は……私に……

 

私を信じた人達は何を信じて死んでいったの!?

私を守るために散っていた武蔵に赤城、金剛や信濃達にどう顔向けすればいいの?

どうして、今も彼らは私の勝利を信じて今も苦しんでいるの!?

私がもっと、もっと……誰よりも強かったら―――

 

こんな“運命”なんて叩き潰して、私の愛する民や国、仲間たちを守ることができたというの……

 

 

 私の血を吐くような叫びは……誰に耳にも届くことのなく、砲火と爆撃の轟音轟く潮間に消えて行った。

 

なんで……なんで……私には何もできないの……

 

私は―――やくたたずで、能無しで、無駄飯ぐらいの……木偶の坊だからなの?

 

全身に拵えられた、武装の数々―――

三基の46cm三連装主砲(世界最強の主砲)

二基の15.5cm三連装砲(主砲サイズの副砲)

積めるだけ詰め込んだ対空機銃の山(針鼠のような砲火)

最硬の防御力を以て建造された装甲(大鎧のような躰も)役に立ちません。

 

敵は浮塵子(うんか)の群れ。虫けらのように矮小で、鬱陶しく私に纏わりつき、蜂のように刺してくる―――“戦闘機”達。

戦艦(私達)の時代を、終わらせた鉄の鳥。

でも、私は知っています。覚えています。全ては私達から始まったことを。“あの真珠湾で”赤城や加賀の放った航空部隊の一撃がこの戦争の口火を切ったことを。

 

私たちは見せつけました。いえ、正確には見せつけすぎてしまったのかもしれません。

 

航空機の有為性を。

 

その結果が、回りまわって“ここ”にやってきただけの事なのです。

 

 

 

 

黄金色に染まった稲穂の海を刈り取る様に……私の、私たちの戦争を終わらせるために

 

 

 

―――だから、だから……

 

もう……無理、なんです……

 

 私に貴方達を守る力も、貴方達が縋る希望になる力も、ない。

私を守る価値なんてないんです―――貴方達が無駄死にする、必要は……ないんです。

 

それだというのに、彼らは抗う。

 

 甲板を駆けずり回る。銃火と爆煙の中、弾薬を銃座に運びこむ。バラバラになった死骸を座席から放り捨て、自らが引き金を引く。傾いた露天艦橋で血まみれのまま望遠鏡を覗き込む。半ば効かなくなった舵を行使して舵輪を回す。注水作業のために艦内を走り回る。負傷者の、途絶えそうになる声を励ましながらメスを振るう。負傷兵を探して各充座を走って回る。

 

彼は……彼らは、誰一人としてあきらめていない。

 

私を信じる人々の生きる勇気を与える篝火を……希望を守るために。

敵に取り囲まれた沖縄で待つ人々。

内地に残してきた家族や恋人を……何の罪のない無辜の民のために。

 

血と噴煙で赤黒く汚れに染まり、所々に傷を負ったボロボロの体で

その双眸を爛々と輝かせて

自らの死を覚悟して……戦い続けている。

 

 

 

「まだだッ!まだ終わらん!!こんなところで―――大和を終わらせてたまるか!!」

 

叫びたい。もういいと―――でも、私には言葉を伝える口はない

 

「……だ、誰か……誰でもいい……銃、座を……変わ―――」

 

助けたい。生きて、と―――でも、私には差し伸べる手がない

 

「うぅぅうぉぉぉおおおおおお!!!」

 

泣きたい。どうして、と―――しかし、“それさえ”も私には許されない

 

私は(ふね)だから?だから、私は見ていることしかできないの?

 

守りたいものを守る資格も

誰かを想う言葉も

誰かをいたわる腕も

涙を流す瞳さえもない

 

私には観て―――想う……それしか許されないの?

 

私の巨体を見て子供のように目を輝かせていた彼らを。

訓練に明け暮れて上官から叱咤されながらも必死に食らいついていた彼らを。

静かな潮の音と優美な月夜を見つめて、身の上話を語り合う彼らを。

目の前で沈んでいく仲間たちを歯噛みして見送ることしかできなかった彼らを。

最後の、最後の出立だと知って……死ニ方を準備するように、めいいっぱい騒ぐ彼らを。

 

 

“私の家族”に……何もしてあげることができないの?

 

私の呟きは、またしても誰に届くことなく爆音に消えていく。

 

視界に映るのは、血にまみれた骸を晒す“彼ら”。少し離れた海の中には黒煙を上げて海にのまれていく浜風。ボロボロになった躰を晒す凉月。そして今……ゆっくりと、矢矧が逝った。

 

不意に、声が響く。

 

「―――長官。左に傾斜20度……もはや、傾斜回復の希望は……」

「…………わかった。電信室に連絡。駆逐艦に乗員の救助を要請しろ」

 

 そうか.本当に、これで……

 

「注排水装置、全損!!傾斜復元……不能ぉ!」

「……わ、かった……総員最上甲板、離艦……用意!!」

 

終わるんだ。この胸をのた打ち回る苦しみと、全身を貫くほどの痛みと、つもりに積もった敵に対する憎しみ―――それらをすべて飲み込むほどの“自分”に対する怒り。状況をうらやむ妬み。そして……何もできなかったことへの後悔を胸にしまいこんで……

 

私は逝く。

 

 本当は……もっと、もっと……色んなことをしてみたかった。色んな海を往って、みんな(家族)の笑い話に耳をそばだてて、仲間たちと轡の並べて空をみて、トラックの時のように甲板でみんなと一緒に映画を見るのもいい。あんまり、あの時の言われようは好きじゃないけど……あのお昼に聞いたクラシック音楽も嫌いじゃなかった。

 

なんだか……眠く、なって……きたな……

 

あれほど大切だった、家族の声も……もう、ほとんど聞こえない。

 

「……すまない。大和……お前に何もしてやれなかったのは、全て我々上層部の責任だ」

 

聞き覚えがあって直に思い出せるはずのその名前が……どうしても、思い出させない。

 

「兵もお前も……よく、戦ってくれた。ありがとう」

 

誰の声だっけ……?

 

「私なんぞにできることと言えば、お前や兵たちの奮戦に報いることぐらいしかない」

 

……すごく、優しい声。

 

「私の決断、のために……これから、よりは多くのものが命を落とすのだと思う」

 

この声色には聞き覚えがある。たしか……そう、たしか……

 

「願わくば……早く戦争が終わってくれることだけを望むよ」

 

……みんなが、陸に残してきた人のことを話している時に似てるんだ。

 

「ちとせ、重ね重ねになるが……すまんな」

 

愛する恋人や妻を想って―――違う。

 

「叡、お前は……まだ、くるんじゃないぞ」

 

愛する息子に向けて―――これも、少し違う。

 

「レイモンド。……もう一度、あって話がしたかったよ」

 

愛する友に乞うように―――やっぱり、違う。

 

「そして……大和。おつかれさん。本当によく頑張ってくれたな……“正しいことなんて何一つもない”、戦争の……しかも負け戦の最中で、まさに“国の希望”にふさわしい戦いぶりだったよ。それを利用してる俺達に言えた義理じゃないけどな」

 

違う……私は、“希望”だなんて言われる資格は―――

 

「本当に……よく頑張ったな、大和」

 

 霞んできた視界と、抑えることのできないほどの眠気の中で、私はみた。

 

 柔らかく笑う、“彼”の顔を―――そうだ。これは……この顔と、声は……

 

「お休み―――やまと」

 

 その瞬間。彼がいつの間にか頭にかけていた拳銃の引き金を引くのと、まったく同じタイミングで……私の視界がはじけた。

 

真っ暗になった空間に私だけがふわふわと漂ってくる。

 

瞳に映るのは、真っ暗で何もない場所だけで……耳の届く音は何もない。必死にこらえている眠気はもう限界だと、私に告げている。

 

私の、世界が終わると。

 

でも……あの顔を、まるで……父が娘に語りかける様なあの顔をしてくれた“彼”、いや……“第2艦隊司令長官 伊藤整一 海軍中将”に言葉を残したい。

 

 

ただ……一言だってかまわない。

 

「―――」

 

私には、震える咽も、喋る口も、歪める唇だってないけれど―――せめて、一言。

 

「――――――」

 

これだけは言ってから、逝きたい。

 

 

「―――――――――お」

 

その言葉は、さらりとした感触と共にここに響き渡った。

 

「おとうさん……おやすみなさい」

 

 

 

 

その言葉を最後に―――私の意識は眠りの海に沈んで行った。

 

深く……深く、底が無いように落ちていくその感触の中で……すっと閉ざされた私の瞼にまばゆい光だけが瞬いたようにも思えたが、落ちていくこの身には……関係がないことのように思えて。

 

きっとここは海の中なんだろう。温かくて気持ちがいい。

 

そう―――“ここ”を言葉にするならば……

 

 

ヲワッタシマッタセカイノ海で

 




ドーモ、めんつゆデス。

 いかかだったでしょうか?セカヲワ?楽しんでいただけたのであれば幸いです。

 書くにあたって、必要な知識は大体ネットで調べましたのでその辺に対してのツッコミはご勘弁ください。

 さてこの作品なのですが……更新不定期になります。一応メインの連載もやってますので。ま、長くても10話か……もしかしたら5話ぐらいで終わる作品に創ってますので、ご安心を。

 次の投稿は、連載の次の投稿が終わってからとなります。ご了承ください。

めざせ、アニメ終了まで完結!

さて……艦これファンの皆様には、つながりなんてほとんどないであろうアメコミ。しかし!皆様誰であろうと一度は聞いたことのある大御所()ですのでご安心を!!

 え、誰だか速く知りたいって?

―――では、ヒントだけ。ヒントは……さっき申し上げた大御所と、引火点、ですかね?

これでわかったあなたは立派なアメコミファンです。誇りましょうw

では、感想、ご指摘などはいつでもお待ちしております。

失礼します!

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