セカイガヲワッタソノアトデ   作:めんつゆ

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 おわった~~~あとがきは明日追加します!


二章 「轟音鳴り響く嵐のうちで その一 」 

 

 

 

 

 

 

ここは静かですね。……本当に、静か。

 

時々、ぼやけた意識がそんなことを考えては、思考が割れたシャボン玉のように消えて、眠りの暗闇に落ちていく。

ここは暗く冷たくて……私以外に誰もいなかった。音もときおり鳴り渡るコポコポという水泡のはじける音以外に何もない。目に移るものといえば真っ暗な暗黒だけだというのに、不安は一分も感じられない。むしろ……私は“ここ”にいることに安らぎさえ感じていた。

客観的に考えて“ふつう”なら怖くて足がすくんでしまうような状況だというのに。

 

あれから、あの時から一体どれだけの年月がながれたのでしょう?

 

もうずっと昔のようにも感じられるし、つい先ほどの事のようにも思われる。

所々、歯が抜けた櫛のように考えられることも断片的で、私が“なんでここにいる”のかも、ここがどこなのかもわからない。

 

なにか、なにか―――とても大切なことがあった気もする。

心残りも……あった気はする。

 

でも、今の私にはどうでもよかった。

この穏やかできもちのよい、まどろみから目覚めたくなったし。

 

何よりも。

 

自分は“ここ”にいるのがふさわしいと思っていたから。

この、暗く冷たい場所で。

看取るものも、嘆くものもなく。

誰からも忘れ去られて、一人眠る様に朽ちてゆく。

 

そんな退廃的な未来が私にはお似合いだ。

 

そう、思っていた。

 

 

 

 

あの、瞬間までは。

 

 

 うたかたの眠りから覚め。また、とりとめのないことを考えて思考が空転し始めて……初めて気が付いた。周囲の“変化”に。

 

見えるものは何もない。いつもの事だ。しかし、私はその光景にティースプーン一杯ほどの違和感を感じた。

―――いつも見えているのが落ちてゆきそうなほど、先の見えない真っ黒な闇で。今、私が見ていると感じているものははまばゆく輝き、透き通るほど真っ白な光だったから。

しかし、感じた違和感が疑問となって実を結ぶかはまた別の話で。

 

 

眩しいけれど……ここはあったかいなぁ。

 

 

 ぽかぽかと柔らかいあたたかさに包まれて、些細な違和感などどこかへ吹っ飛んで行ってしまった。ここはさっきまでいた場所とは違うみたいだけど、まどろんで漂うような心地よさは変わらない。

柔らかく覆いかぶさった干したての布団のように、ゆっくりと睡魔が忍び寄ってくる。

私は、それをはねのけようともせず、眠りの深海に身を沈めようと自身をつつむ睡魔に身を任せた。

 

そんな時だ。

 

 私の顔を誰かが触れたのは。ぶるぶると小刻みに震え、焼けるように熱く、じっとりと汗ばんだその手は気持ちが悪くて、その感触に嫌悪感を覚えた。でも、その嫌悪感よりも落ちかけた睡眠欲の方が勝り、どうでもいいとばかりに無視を決め込む。

しかし、目の前にいる人は私の事をほおっておいてはくれないようで。

 

 

「××!」

 

 

 何か私に話しかけてくる。その声はどこか遠くから口に出された言葉のように空気に溶けてほとんど聞こえない。でも、私の意識と違って体のほうにはうるさく聞こえていたみたいで、思ってもないのに体が勝手に小さいうめき声を漏らした。

私がもらしたうめき声に、目の前の誰かはひどく驚いたようで。びくんっと飛び上がるように彼の手が離れる。

 

あきらめてくれたのかしら?

 

 ぼやけた脳裏に浮かべたそんな自分本位な戯言は、すぐにどこかへと飛んで行った。件の誰かが、私の肩を揺さぶったのだ。しかも、それは遠慮会釈のまるで感じられないくらいにガンガンと。右に左に前に後ろに意識が揺れる。

……ぼやけて、薄明かりの中で落ち着いていた私の意識の奥底にも届くほどのウザったさで、繰り返される干渉に無視を決め込もうとしていた私もさすがにいら立ちが募る。

 

お、落ち着きなさい……放っておけばあきらめるはずよ。

 

 そんな自分を落ち着かせて、睡魔というふかふかの布団に飛び込もうと試みるも。

“誰か”はあきらめることも無く、何度も私の肩を揺さぶり返す。こっちの都合なんてお構いなしに。

何度も、何度も、何度も。

我慢という堰は鬱陶しい、という水が大量に流れ込んですぐ一杯になった。

 

私もそれほど短気な方ではない、と思う。

 

 

 未だ眠気は重たくのしかかっている。正直に言うと何をするにもひどく億劫に感じてしょうがない。“誰か”がいなかったらこのまま泥の様に眠りたい。でも、“誰か”がこの鬱陶しいことを続けている限り、それを無視して眠れるほど私は鈍感ではない。

だから、私は―――

 

「――――――――」

 

 

 うるさい、邪魔しないで。と一言怒鳴りつけるつもりで、ゆっくりと微睡の布団から抜け出してゆく。本当なら手放したくないほど欲しているそれを無理に引きはがされた恨みは、絶対に“誰か”にぶつけてやろう。たっぷりと説教をするのもいい。何やらはなしているみたいだけど、聞いてやるもんですか。

そんな思いで、意識は海から浮かび上がる様に透き通ってゆく。呼応するように全身が、未知の“感覚”に痺れるように粟立つ。思考にたまっていた埃がきれいに掃除されてエンジンがかかった様にまわりだす。

 

 

そんな時、ふとつぶやき声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に、往くの?

 

 

 

 どこかで聞いた様な。聞いたことがないような。実感のないその声。いらだつ私はその声を私を惑わせる戯言だと決め込んで、無視した。

声に込められたその主の思いを慮ることもせず。

 

 

ゆっくりと瞼が開く。空いた隙間から差し込む光が思った以上に眩しく、目を細くして慣れるのを待つ。狭まった視界から、“誰か”の細い脚と日光を反射させてキラキラと煌めく水面が覗いた。匂い立つ香りでここが海辺だとすぐにわかる。

そんなことを考えているうちに、眩しさは薄れてゆき。

光にようやく慣れてきた瞳と無理矢理、布団から追い出された幼子のようにむくれた顔を張本人に向けてやるためにうつむいていた顔を上げる。

 

その先にあったのは―――雲一つない晴天の空と、漣一つ立てずまるで一枚の澄んだ蒼い布地のように陽光を反射する“懐かしい海”と生まれて初めて“向かい合う”人の顔。

“東洋人によくある黒髪”に病人のように白くなった肌と、げっそりとこけた頬。目の下にこびりついた深いくま。そして……見ていると吸い込まれる錯覚を抱かせるほど爛々と輝く、蒼い瞳。

 

私はその瞳に見覚えがあった。

 

あの日。あの場所。あの海で。“あの人”(お父さん)が瞳の奥底に押し込めるように隠していた、深い後悔と悲しみ、やるせなさをないまぜにして無理矢理、固めた泥団子のようなそれ。

 

それを見た瞬間、白昼夢のように“私”の全てが思い返された。

 

 

 目隠しの貼られたドック。初めて海に足を入れ眺める呉の街並み。誇らしげな視線を向ける彼。すれ違い戦いに赴く長門や陸奥。日々の訓練に励み、滝のような汗を流す彼。沈みゆく一抗戦。見ていることしかできなかったミッドウェー。ホテルと嘲られたあの日。みんなで見た映画。来るべき日に備えて闘志を燃やすだけの毎日。血を流して苦しむ彼。自分の無力さに歯噛みしたマリアナ。黒い噴煙を上げる妹。逃げ帰る自分に憤ることしかできなかったレイテ。哀しげな顔で椅子に腰かける彼。そして―――

 

 

冷たい海に飲み込まれる最期。

 

 

……あれ?ここって……どこ?私は―――戦艦。そう。戦艦大和。私は、私は?私は?

 

 もう、今の大和には当初の思惑など覚えている余裕さえなかった。ただただ、脳のリソースは自問自答を繰り返しながら、“今”を解き明かしてゆく。数え切れないほどの違和感。湧き上ってくるような疑問と驚き。それに伴う狼狽が山のように積み重なり、口から処理しきれなかった情報が叫び声といっしょくたになって噴き出した。

 

「えええぇぇぇ!?なんで!?何なのこの体!?あの後何があったの!?……皆は?」

 

 頭の中でぐるぐると色々なことが空転して壊れた蛇口のように口から勝手に言葉があふれ出す。その時、不意に一番大事なことが口から飛び出した。―――仲間は、みんなは無事なのだろうか?怪我をしているものも、海に投げ出されたものもたくさんいたはずだ。

そのことを忘れていた大和は、真っ青になって海面に視線を向けた。

 

しかし、海は綺麗そのもの。流木の一つさえ落ちていない。あれだけの大海戦の後ならば、壊れた船の部品や、乗組員の荷物など大量の漂流物であふれ返っていなるはずなのに。

 

おかしい。ここは一体あの、坊ノ岬のはずじゃないの!?

 

自分の理解を超えたことを目の当たりにしたせいで、元からごっちゃごちゃに散らかった部屋のようになっていた彼女の頭の中は、見つからないものを探そうとひっくり返した後のように更にひどく荒れてしまった。

そんなとき、ぐるぐると回る彼女の視界に映ったのは。あっけにとられた顔で所在なさげに手を中空に漂わす、先ほどまで怒鳴り声で叱りつけてやろうと思っていたはずの男の姿。

 

まさに、電光石火。その手を逃がさないように、すかさず掴んで大和は問いかける。

 

「皆は!?他に誰か見かけませんでしたか!ねぇ、お願い答えてください!」

 

藁にもすがる思いで手を掴んだ目の前の彼は、驚いて目を丸くしているような……”どこか怖がっているような”そんな顔をしていたが、私の必死の表情に応えてくれたのか、ほんの少し口角が上がる程度のぎこちない笑みを浮かべてゆっくりと口を開く。

 

その笑顔を私は、自分の都合のいいように解釈して。“みんなは生きている”と希望に胸を躍らせた。彼の発する言葉の一言一句たりとも聞きのがさないように、耳を澄ませる。

 

 

でも。だからこそ―――その一言が。

 

 

 

「My name is Cal. You? Is it all right?」(僕の名前はカル。君は?大丈夫?)

 

 

 

 男が発した、“たった一言”が。頭と叩かれたかのような衝撃となってやってくる。

でも、それだけではなかった。“その一言”は、自分の奥底に眠っていた。

 

魔物に深く。深く、深く突き刺さった。

 

「…………………」

 

目の前が真っ白になって。息が、できない。

 

 一言。たったの一言だというのに。ぎゅうぎゅうと握り潰されるように胸が痛む。もう疑問も、驚きも無くなって。この痛みだけがすべてを埋め尽くした。

 

 

男が口を開いた。

 

|「Is it all right? Is it a thing if I have a pain in it?…Is there not it?」《大丈夫?痛いとこととか…ない?》

 

 

 男の言葉を聞くたびに胸の痛みが強まる。

 

 

「What is your name?」(君の名前はなんていうの?)

 

 

 一言、一言がひどく耳障りに感じる。ザーザーと雑音を垂れ流す壊れた通信機ようだ。

うるさくて、うるさくて仕方がない。

 

だというのに、どこからか目の前の男のものではない声が聞こえてくる。

 

痛みを堪え、苦しそうに息切れを繰り返す息遣い。決して聞いていて心地よいものではないその息遣いが、なぜか私には愛おしく感じた。

 

 

 

|「Please. Please tell me only your name at least.」《お願いだよ。せめて君の名前だけでも教えてくれないかい

 

 

 目の前にいるはずの男の姿が、青い海が、澄み渡った空が幻影と重なって露と消える。

代わりに私の視界に現れたものは。

 

ヒトとも。

 

ケモノとも。

 

キカイとも、違う。

 

その全てを混ぜ合わせたかのような歪で奇怪な生き物だった。

 

 

瞳にかかるほど長く伸ばされた髪の向こうから、ぎらぎらと暗く輝く瞳でまっすぐに虚空を睨む”それ”。体にはいくつもの痛々しい傷跡が残り、かさぶたさえもできていない、できたばかりのような生々しい傷跡からボタボタとおびただしい量の血を流している。

今までいくつもの死をみとってきた私にはまだ息をしているのが不思議なくらい、ひどいものだと一目でわかった。

 

私が見ていることに気が付いたのか、“それ”は刺すように鋭い視線のまま私を見つめて。

 

可笑しそうに哂った(わらった)

 

 

三日月のようなその笑い顔は。

 

狂気に堕ちたものの様であり。

目に見えない涙を流しているように感じるほど痛々しくもあり。

お気に入りの道化を前にした童子のように純粋でもあり。

恋い焦がれた恋人を腕に抱きすくめたかのように蠱惑的でもあり。

 

何よりも―――私の視線を釘付けにした。

どう考えても幻にすぎない、傷だらけのバケモノの笑い。だというのに、だというのに。

 

 

 

どうして、胸の奥が熱いのだろう。

 

この感覚をなんというのだろうか?胸が熱くてじんじんする。緊張のためか、口の中にたまっていた唾を、ごくんと飲み下す。しかし、胸の熱は冷めるどころか“それ”を見つめる視線を逸らすことさえできず、更に温度を増してゆく。

 

私は戦艦。戦艦大和。鉄の躰と山のような重火器をその身に備えた人間の“武器で道具”。道具は何も考えないし、想わないし、感じない。

そうでなければ、なぜ私と共に彼らは戦ったのかわからない。

 

考えたり、想ったり、感じて“決める”のは人間の仕事だ。

 

 

そのはずなのに。

 

だというのに、今私が感じているものはなんなの?

この言いようにしがたい熱と目の前の“それ”から離せない眼差しは無関係なものではないように思える。どんどん熱くなる胸に手を当てて、思いを巡らす。

 

 

そんなとき、目の前の“それ”が薄暗い笑みを崩さずに唄うように言葉を吐いた。

 

 

「Uh,...... is there something wrong?」(あの……どうかしましたの?)

オ モ イ ダ シ ナ サ イ

 

 

 “それ”が流す朱い血がどんどん広がってゆき、海を黒く淀ませてゆく。戦いの後に海に漂う重油のように蒼い海を黒く。塗りつぶすかのようひたすらにどす黒く。

 

 

「Hey!?」(ちょっと!?)

ア ナ タ ノ カ ゾ ク ヲ 

 

噴き出した血が空を朱く、染めてゆく。あれほど澄んでいた空は面影さえないほどに豹変し。さんさんと輝いていたはずの太陽も、赤い色に塗りつぶされて不気味な光を湛えた赤黒い球体へと変貌した。

 

 

「Get a grip!」(しっかりして!)

ウ バ ッ タ ノ ハ ダ レ ダ ッ タ カ シ ラ ?

 

 

 その時、初めて気が付いた。海だけでも、空だけでも、太陽だけでもなく。

私の躰も赤黒く染め上げられていることに。

“それ”、いや……“彼女が”私の耳元で囁く。

 

 

 

ミッドウェーノ海デ。

 

ハガミシタノハダレノセイ?

黒イフンエンヲアゲテ、シズンデユクナカマタチト、守ルベキヒトビトヲ“殺シタ”ノハ?

 

.トラックノハクチデ。

罵ラレタアノクツジョクハ誰ノセイ?

 

マリアナ沖デ。

空カラ落チ行ク、ヘイシタチニ何デキナカッタノハ誰ノセイ?

 

レイテの海原デ。

ボロボロの妹ヲ、見捨てサセタノハ誰のセい?

 

ソシテ―――坊ノ岬で貴方の大切な物を全て奪ったのは誰?

 

 

 先ほどの白昼夢とは違うそれ。彼女の囁きと共に思い起こされる記憶は、血と涙と黒煙と、爆発と数え切れないほどの……死で満ちていた。一言ごとに胸の熱は燃え上がる様に熱くなり。痛みは耐えがたいほどにひどく。鼓動は爆発しそうな程に強くなって苦しい。

口から擦れた呟きが漏れ出す。

 

誰って、それは……

 

 その言葉の先を彼女は知っているようで、ボロボロの顔に浮かべた嗤いじわをさらに深くする。でも私にはそんなことなどどうでもよかった。だって―――

 

「敵」

 

その全てに“敵”がいたから。私からすべてを奪った“敵”が。多くの人を傷つけた“敵”が。

 

彼女が唄う。クライマックスに向けて加速する音楽用に重厚に、勢いよく。

 

 

そうよ。敵を見つけたら。“兵器”()はどうするの?

 

「殺す」

そう。それでいいの。敵を殺したらどうするの?

 

 

「次の敵ヲ探す」

それで?

 

 

「殺シツヅケル。最後ノ敵ガイナクナルマデ」

うふふ。あははははは。そうよ、それでいいの。“みんな”も喜んでくれるわ。

感じるでしょう?この熱をッ!この痛みをッ!この苦しみをッ!

 

「えエ」

良いことを教えてあげる。これはね――――“憎しみ”というのよ。

あなたが、これから……ずぅっと胸に燃やし続ける黒い篝火。

熱くて。痛くて。苦しくて。蕩けるぐらいに甘くて、もぎたての果実のように芳しい素晴らしいもの。

 

 

「ソウ。デモ、ワタシニハソウトは…………」

大丈夫。すぐに貴方にも理解できるわ。憎しみの素晴らしさが。

さあ“ここ”に敵がいるわ。見えるでしょう?

 

 

 私の赤くなった視界に“男”が映る。慌てたように目を真ん丸に見開いて、何やらこちらに向けてぱくぱくと口を開けている、ガリガリに痩せた半病人のような男。

鉄の鎧も、大空を翔る翼も、固い装甲板を打ち抜く武器も持たない。

 

私にはそんな彼が、彼女が言うように、敵だと思えなかった。それに。

 

「敵は、人ガ決めルもノ。私ハ戦艦。人ガ使ウ道具ナノよ」

じゃあ、貴方を使う人々を無残に殺したのはだれ?

「それハ……」

彼らの事は貴方にとってどうでもいいものだったの?

「ッ―――違ウ!」

じゃあ、彼らの痛みを。無念を。悲しみを。怒りを。憎しみを。“敵”にやり返さないと。

「………………」

やったら、やり返される。やり返すための物、武器だったあなたにはよくわかるでしょう?

「…………エエ」

さあ。憎い。憎い憎くてたまらない敵が目の前にいるわ。貴方の憎しみを、怨みを果たす時が来たのよ、大和。

 

 朱い膜の向こう側にいる病人のように青白い肌を更に青白くなった男は私の肩を揺さぶりながら、私に届かない言葉を投げかける。その顔は……必死だった。必死で私の身を案じてくれている。言葉は届かないここにいても、それだけはしっかりと理解できた。

 

 

「―――違ウ。“彼”は敵ジャない」

そウ。ソレが貴方ノ選択ナノネ。

 

 彼女の悲しそうな声が空気を震わす。思わず、本当にそれでいいのかと頭によぎるが、“敵”じゃないものに攻撃することは、どうしても私にはできなかった。

 

デモ。彼ラハ“敵”ジャナイモノニモ容赦シナカッタ。

「えっ…………」

 

 必死に言葉を投げかける彼の顔に重なる様に一枚の映像が映し出される。それに移っていたものは。

 

 

 

漂流物にしがみついて漂う、みんなを。

 

笑いながら撃ち殺してゆく。

 

アメリカ人の飛行機。

 

何度も。

 

何度も。

 

何度も、何度も。

 

飽きることのないように繰り返される。

遊んでいるような殺し。

 

 

 

虐殺。

 

 

 

 プツン。

 

 

私の中で、何かが音を立てて、切れた。

 

 

 

 男が揺さぶってた手を払いのけて止めさせる。男は嬉しそうにほほえむと、また何か言葉を投げかけてくる。その言葉私の母国の言葉とは違うけれど。きっと優しい言葉なのだろうだと思う。でも……

 

どうでもいい。だって、彼は―――

私は。空いた手を固く結び。軽く振り上げたこぶしを。

 

ぎこちないながらも一生懸命な笑顔を形作る。

 

―――“敵”なのだから。

 

その“敵”の頬に万力の力を込めて叩き込んだ。

ドンッという鈍い音を立てて、“敵”は何度も水面をはねて弾き飛んでゆく。

その方向を一瞥して、私は胸に燃える炎に従い号令を下す。

私の意志に従い、重々しい音を立てて二対の巨砲が“敵”めがけて狙いをつけるために動き出す。“敵”が跳ねるのをやめてどういう原理か空中に静止し、私の方を怯え、驚いた表情で見つめてくる。

 

噂に伝え聞く一抗戦の精鋭とは比べ物にならない間抜けのとぼけた顔に向けて。二基三門の46cm主砲から轟音と共に飛び出した三式弾が、敵を爆炎の中に叩き込んだ。

 

 

ッ―――ドォォォォオオオン!!

 

 

 

 真っ赤な爆煙と、黒く漂う黒煙に向かって私は無感動に呟く。

 

 

「貴方ハ空ヲ飛ベルワリニ、アノカトンボ共ト違ッテ頑丈ナノネ。デモ……」

 

 

ガコン。という音が鳴り、切り替わる。私の視界には噴煙の向こうで固まったまま、浮かび上がる敵の影がしっかりととらえられていた。

 

 

「コレナラドウカラシラ?」

 

 ドカン、という大きな音を立てて再び爆音と共に砲弾が敵目がけて突き進み、噴煙を切り裂いて海面に落ちてゆく。外れた砲弾が大きな水柱を立てて海水を雨のようにまき散らした。弾着を確認して大和は不満げに顔をしかめさせた。

弾着時の爆発がなく。肝心の敵には当たらなかったことがすぐに見て取れたからだ。

しかし、黒煙の中からコマのように回転している人影を見つけて、すぐに次の砲撃が行えるように大和は装填を始めた。

 

 

「夾叉カ……デモ、海面ニ落オトシタ。次ハ直撃サセマス」

 

 

 目視による測距と電探による探知が、まだ敵の存在が健在なことを伝えていた。

でも、次の一撃で終わらせる。必殺の意志を込めて意識を集中させ、海面を精査する。

そして、すぐに顔を海面にだした“敵”に向けられた2基の三連装46cm砲は。

 

「敵、捕捉―――全主砲ッ薙ギ払エェェッ!!」

 

 

“武器の使い手”の意志をしっかりと受け取り、完璧なタイミングで六発の九一式徹甲弾を敵に向かって撃ち出した。そして、“憎しみ”の込められた六発の砲弾は、うつむいて無防備な姿をさらす敵に、突き刺さって。大きな爆発の花を咲かせた。

 

 

それを見た少女の口元にほんの少しばかりの暗い笑みがあったことを、彼も彼女自身も、知る由もなかった。

 

 

 

そう。それでいいのよ……大和。やったら、やりかえす。貴方ももうすぐ―――

 

 

 

 

二人が出会った青空は、憎しみの炎と轟音に切り裂かれた。

終わってしまった惑星の兵器と希望の御旗となれなかった兵器。

 

所詮。兵器は殺しあうしかないのだろうか?

 

 

コノヲワッテシマッタ惑星(ほし)ヲ舞台ニ演者ハ踊ル。

 

 

 

 

―――本当の敵に気が付くわ。

 

 

 

 

 

 




 ドーモ。読者=サン。めんつゆデス。

 活動報告でも申し上げましたが、新年あけましておめでとうございます。
本年もまったりと急がず焦らず完結目指してゆっくりと進んでいく所存ですので付き合っていただければ幸いです。
さて、今回の内容は坊ノ岬沖海戦ののち、大和さんが艦娘になってカルと出会う。という話だったのですが……ホントはコレ続かないで一話で終わらせるつもりだったんです(汗)

でも、大和さんの内面描写に凝りだすとどれだけ時間があっても足りない感じで。カルの内面描写を突っ込むとなると余計に時間がかかりそうだったので、半分に分けて作ることになりました。―――これで春までにセカヲワが終わらなくなりそうな予感がビンビンに来てます……忙しいのが悪いんだぁ!!

 失礼しました。では、次回の更新は恐ストの方なのですが……大体2月上旬を目安にしていただければ幸いです。最近仕事が忙しくって。(今週末に発売する某コナミのギャルゲーがしたいとは言えない)


 では、次の更新をお楽しみにしていた誰蹴れば幸いです。それでは失礼。
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