男が希少な世界で僕は、女っぽい格好してるけど実は男でしたムーブを満喫する 改訂版 作:霧夢龍人
「恥ずかしがらないでくれ、私の目の前でだけでいい。なんなら先っちょだけでもいいんだ、見せてくれないか?私としては形が分かればそれでいいから」
そう言って優しく微笑みかけてくる婦警さん。だけど肩を掴んだ腕はガッシリと固定されていて、逃げようとすることを許されてない。
……助けて母さん。そして姉と妹よ。
僕はもう、この婦警さんから逃れられる気がしないよ(絶望)
周りを見れば、僕と婦警さんを取り囲むように輪が出来ていて、みんな顔を赤くして食い入るように僕と婦警さんのやり取りを見つめていた。
いやわかるよ?気持ちは凄く分かる。
だって傍から見たら恥ずかしそうに俯く一般人と、その一般人の股間をぎゅっと掴んで下から覗き込む婦警さんの図なんだもの。完全に妖しい雰囲気だもんね。
でもね?見てないで助けてほしいんだよ。
なのに何で顔赤くして写真撮ってるの。あとそこ、ポーズしてって僕に言われてもしないから。ここコミケじゃないからね?
「ん、こら君。目を背けない」
そう言って婦警さんは顔をぐぐぐっと近付ける。暖かい吐息が頬に触れて、思わずドキドキしてしまう。さすがに美人な婦警さんのガチ恋距離は辛い。前世でモテなくてチョロい僕はもう惚れそうだもの。
けど常日頃から距離が近い幼なじみ二人と一緒にいる僕を舐めたらいけない。可愛いと美人は既に見慣れているんだよォ!
「いやその……ど、どうしても見せなきゃダメですか?」
「もちろん、見せてくれた方が私としてはありがたいが、強制ではない。ただそうなると、警察官としては怪しい君をそのまま返す訳にはいかないんだ。すまない」
「いえ、いいんです。でもそうですか、やっぱり見せないといけないんですね……」
ここで僕に残された選択肢は3つ。
「け、警察官さん」
「ん?なんだ?」
だから僕が取れるのは実質1つ。
でもこれは、何故か美少女ランキングにノミネートされてしまった僕として、本当は取りたくなかった手段。
そう、つまり。
「じ、実は僕───男なんです」
男だという真実の、告白だ。
その瞬間、僕は時が止まったかと錯覚した。真実を告げた婦警さんが固まり、驚愕の二文字をうかべた表情で動かない。
ものの見事に、僕の股間を握ったまま。
婦警さん、沈黙。
この数秒間のうちに、僕と婦警さんの間に無言の空気が流れていた。婦警さんに至っては瞬きすらしてない。切れ長の目は僕を映しているように見えて、どこか全く違う虚空を映している。
「………………………えっ?お、おとっ?」
そして、その沈黙のあとに口から漏れ出た言葉は、明らかに僕が男であるという現実を受け止めきれていなかった。
でもごめんね、僕男なんです……。
「はい、男です」
だからもう一度はっきり言う。
「え、え?……だ、だってバッジをつけて……い、いやっ!それは言い訳にしかならないか……あの、そのっ!な、なんだ……」
婦警さんは次に繋がる言葉を思い付かなかったみたいで、しどろもどろになっていた。でも僕は、婦警さんの気持ちも分かるよ?
だって僕と婦警さんの性別を入れ替えたら、「おやおや、これはなんの窪みですかぁ?(ニチャア)」みたいなものだもんね。返す言葉も見つからないよ……。
焦ってる婦警さんを見たら冷静になって来て、周りの騒がしさに気付いた。多分僕と婦警さんの会話は聞かれていないと思うけど、婦警さんの雰囲気が変わったからだと思う。明らかにザワザワしている。
あとそこ、いつまで僕にポーズして欲しがってんの?
「つまり私は……ずっと君の股間を握りしめていたのか?」
「はいしっかりと、ありがとうございます」
「先っちょだけでもいいから見せてくれっていうのも?」
「ちゃんと聞きました、ご馳走様です」
「〜〜〜っ!!!ふっ……こ、殺してくれぇっ!!な、なんて私は恥ずかしいことを!!そもそも男性に触れた時点で私は……私はぁっ!!」
慈悲なく肯定していたら、限界まで顔を赤くして涙を溜める婦警さん。正直に言うとめっちゃ可愛いです。ご馳走様でした。
美女の涙目って健康にいいよね、ところでその涙いくらで売ってます?
なんて言えないから、一先ずこの状況をどうにかしよう。
「しー!周りに聞こえちゃいます!それに、そんなに心配しなくても大丈夫です。婦警さんはしっかりと業務に励んでいただけで、怪しい格好をしていた
そう言って励ます。けど婦警さんは余計に涙を溜めて、フルフルと首を横に振った。その瞬間に走る、香りの暴力。
ヴッ、柑橘系の良い香りが脳内を侵食していく!?
「ッ!だ、だがしかし、結局君の肌に触れてしまったことに変わりは……」
「もうっ、頑固ですね!ちゃんと僕からの同意も貰ったじゃないですか!ですからなんと言おうと、あなたは悪くありません!寧ろ最初に言い出さなかった自分が悪いですし」
「………そ、そうか。ありがとう、君は優しいんだな」
香りの暴力に抗いながら僕が必死に説得すると、悲しく歪んでいた顔が晴れ、可愛らしくはにかんだ笑顔を僕に向ける。
ヴッ!?浄化されるぅ……。
女慣れしていない僕には、美人のハニカミは難易度が高かったみたいだ。思わず胸を抑えて蹲る。これがトキメキ?これが恋?
「?どうした?」
「いえ、あまりにも笑顔が可愛らしくて……ご、ご馳走様です」
そう言うと驚いたような顔をして、再び顔を赤くした婦警さん。指をいじいじといじっているあたり、かなり照れてるようだ。
───そう!これ、これだよこれ!僕が望んだ男女比が歪な世界はこういうのだよ!
決して「へへ、お前いい身体してんなぁ?」からの「お前かパパになるんだよ!」というア〜〜ッ!な展開はお呼びじゃないのだ。
「そ、そういうのはあんまり女性に言うものではない!あとその……私が君にしたことは到底許されることじゃない。だから次はこれを教訓に、あまりに強引なボディチェックはしないように気をつけると約束する。そして、重ねて本当にすまなかったッ!」
「あははっ、本当に真面目な人ですね?さっきから言ってますけど、悪いのは僕なので気にしないでください。というかむしろ、そんな危険な人達がいるなら、バンバンボディチェックしちゃってください!応援してます!」
こうして話をしてみて分かるが、この人は真面目で正義感が高いタイプなんだろうね。そして間違いなくいい人だ。
人の話を聞かない訳でもないし、ただ純粋にこの街が好きだからこうして婦警さんをしているんだろうね。取り調べも強引ではなかったし、最初の方にちゃんと同意を得てきたし。
だからこの人に落ち度は全くない!つまり悪いのは僕である。
「あぁ、頑張るとするよ!……ところで君、男保バッジは付けて「あの〜米倉先輩?ボディチェックは終わりましたか?」え?あ、あぁ……待たせてすまなかったな。今無事、終わったよ」
どこか吹っ切れたようにサムズアップし、僕の目を見返す婦警さん。そしてその後に何か言おうとしてたみたいだけど、後ろで構えていた婦警さんの1人が話しかけてきた。
なるほど、この婦警の人
「米倉さんって言うんですか?」
「ん?あぁ、そうだ。私は“
ちょっと寂しそうに目尻を下げながらそう告げるトーカさん。あぁ〜その顔ずるいです!そんな風に言われたら何があろうと言うに決まってるじゃないですか!
と憤りつつ、僕は米倉さんに自己紹介した。
「言いたくないわけですよ!僕は“
「春峰君か。ふふっ、いいだろう。もし次会えた時には、寧ろ此方から呼びたいものだ───また、会えるといいな」
嬉しそうに春峰春峰と、何度も言葉を転がすトーカさん。とはいえ、もしかしたら次は会えないかもしれない。いや、逆に会えるか?
僕が公然わいせつで逮捕されて出会うか、それとも女性に襲われて通報した時に出会うか……頼むからそんなことは起きませんように。
でも何でだろ、すぐにこの人とまたばったり会いそうな気がするんだ。
「多分きっと、また会えますよ」
「ッ!そうか、全く嬉しいことを言ってくれるじゃないか!だが、ここでお別れだ。名残惜しいが私達にも巡回の仕事がある。すまないな」
「はい、また会いましょう!」
申し訳なさそうにこれまた目尻を下げるトーカさん。周りの人には一体何があったか分からないだろうから、目を白黒している。いやあのカメラ持ってる子いつまでポーズねだってるの?
後ろにいる二人の婦警さんも怪訝な表情だ。だけどごめんね、教えられません。
「それじゃあ、我々はこれで───む?」
「どうしました?」
手を振って立ち去ろうとしたトーカさんが立ち止まって、群衆の奥を見つめた。つられて僕もトーカさんの視線の先を見ると、バッグから何かを取り出そうとしている女性が見えた。
黒いマスクに黒い帽子をつけていて、身バレを防止している何かの配信者だと思った。
けど、その後に取り出したものを見て僕は血の気が引いた。
「おとこは……おとこは滅ぶべきなのよぉぉぉ!!!」
女性の手元にはキラリと光る銀色の───大物のナイフが握られていた。発狂したような声で喚きながら、たまたま近くにいた女性を襲おうとナイフを振りかざした。
僕は駆け出そうとして……躊躇してしまった。果たしてこの距離で間に合うのか?もし間に合わなかったら、どうやって女性を助ける?
浮かび上がる疑問に身体が縛られ、まるで強固な鎖を掛けられたように動かなかった。
……ダメだ、このままじゃ本当に間に合わない。
そう思った時だった。
「まかせろ」
「へっ!?」
耳元で囁かれたかと思うと、ぐいっと肩を捕まれる。その後に走ったのは、重い荷物を抱えたかのような鈍い衝撃。
視線を後ろに下げて講義の目を送るが、既にそこに人はいなかった。
「少々、肩を借りるなッ!!!」
「トーカさん!?」
僕の体をバネにしたのか、凄まじい勢いで群衆の上を跳び越すトーカさん。あっという間に女性とナイフを持った女の間に入ったかと思うと、手馴れた手つきでナイフの持った手を無力化。
これ以上抵抗されないように腕をひねりあげて後ろに回すと、ガチャりと手錠をロックをかけた。
「私のいる町で殺人未遂とは……なかなか勇気があるじゃないか、えぇ?」
「ひっ!?け、警察がなんで!」
「残念だったなぁ───現行犯で逮捕する」
あっという間だった。この間僅か数十秒だ。
手馴れた逮捕も恐ろしい程に早かったけど、何よりも驚きなのはその身体能力。明らかに人間離れしてるよね、それ。
遅れて辿り着いた二人の婦警さんは被害者女性に話し掛けて、怪我がないか確認している。トーカさんは犯人を捕まえたままトランシーバーに向かって何か言っている、どうやら応援を呼んでるみたいだ。
その間僕は何も出来ず、ずっと眺めているだけ。無力で仕方がなかった。
「よし、連れて行くぞ」
「「はっ!」」
数分するとパトカー到着。何人かがゾロゾロと降りてきて、被害者女性と加害者の女を別々に車に入れた。手錠にかけられてもまだ暴れていたけど、複数人から押さえつけられて無理矢理押し込まれている。
「……ふぅ、終わったか」
「あの……トーカさん」
「まだ居たのか湊くん!?逃げないとダメじゃないか、危ないんだぞ本当に」
「うっ、ごめんなさい!でもその、感謝を言いたくて」
頃合を見計らって、ため息を着くトーカさんに話しかけた。
ピシャリと怒られてしまうが、それでも伝えたいことがある?すぐに動いて対応出来たトーカさんに対して、僕は動けずに石のように固まることしか出来なかったんだ。
トーカさんが間に割り込んで加害者女性を止めるまで、僕は眺めることしか出来なかった。それは僕にとって、一番男として恥ずべきことだと思うんだよね。
だからこそ感謝を。間に合わなかった僕に代わって捕まえてくれたトーカさんに感謝を告げたい、そう思ったから話し掛けた。
「ふふ、感謝?何を言ってるんだ。我々警察は君たち市民の安全を守ることが役目だからな。私は当たり前のことをしているだけ、ただそれだけだ」
「と、トーカさん……」
「そんなに辛気臭い顔をするな。可愛らしい顔が台無しだぞ?……ふふっ、気を付けて帰ってくれよ?湊くん」
そう言いながらウィンクをして立ち去るトーカさん。
きっとこれは、さっき僕がトーカさんに言ったことの彼女なりの仕返しだ。でも何故か僕は、トキメキを抑えられずにいた。
「そ、そういうことは男性の前で言うべきじゃないですよぉーー!」
きっと僕の顔は真っ赤だと思う。でもあんな風に言われたら普通惚れるから、誇張なしで惚れちゃうから!
ずるいと思います本当に。この世界は元の世界よりも、かっこよくて美人な女性が多くて困るよ!……はぁ、顔が熱い。
当の彼女は僕の叫びが聞こえたのか、後ろ向きでヒラヒラを手を振って笑みを此方に向けていた。それに僕も手を振り返し、足早に家へと帰る。
また違う婦警さん達にボディチェックされても困るしね。
───でも何だろう、何か忘れているような気がするけど……まぁきっと気のせいだよね。
さっさと家に入って玄関で靴を履き替えて、お風呂に
感覚的には何時間もあそこにいたように感じられるけど、時計を見ると実際は30分も経っていないことに気づいた。まぁ、あれだけ濃密だったしね……。
にしても僕が男だって知った時のトーカさんの驚きようは凄かった。そしてそれ以上にかっこよかった。
もし遥や雫、そしてクラスメイト達が僕が男だってわかったら、いったいどんな反応するんだろう?
驚く?笑う?それとももしかして騙されたって怒る?
いずれにしろ、僕の実は男でしたムーブはこれからも続ける!トーカさんのお陰でむしろ楽しみになってきたのは事実だ。
だから今はそのためにも、ゆっくりお風呂に入って体を癒すとしよう。僕はそう決めて、長い長いお風呂を楽しむのだった。
そしてその数分後、近所に「そういえば漫画の新刊買ってないじゃん!?」という誰かの悲鳴がこだましたのは、また別のお話。