男が希少な世界で僕は、女っぽい格好してるけど実は男でしたムーブを満喫する 改訂版   作:霧夢龍人

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長蛇の列

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……やっと、ついたぁ〜ッ!」

 

現在、先刻トーカさん達にボディチェックされた場所からやや進んだ地点に僕はいる。

何度思い出しても阿呆だけど、あの後家に帰り入浴を楽しんでいる最中、肝心の漫画の新刊を買ってないことに気づいた僕は、急いで準備をして再びこの場所に戻ってきた。

 

いやもうほんと、我ながら馬鹿過ぎて笑えてくる。急いで来たせいで、息が絶え絶えだ。

 

「ふぅ、えと確か八階だったはず……」

 

ヘトヘトになりながらも、何とか本屋のある八階までエスカレーターで上がる。

途中、何人かがぎょっとしたような顔をしていたけど、そんなに血気迫るような顔してたのかな?それとも汗臭かった?

確かに走ったせいで結構汗かいちゃったし、汗で服が少し透けてるけどそこまで臭うんだろうか?

 

ま、まぁ取り敢えず今は考えないようにしよう───だって、ようやく漫画の新刊が買えるからね!!

 

「ふ、ふふふ、ふっふっふ……!」

 

楽しみのあまり笑いの三段活用をかまして周りから白い目で見られながら、意気揚々と八階へと足を踏み入れた!───はずだった。

 

「えぇ、何この人の数?」

 

八階へと上がった僕に待ち受けていたのは、見渡す限りの人の列。それも何重にも折り重なっていて、先頭を後ろから覗くことが出来ない。

それが上がってきたエスカレーターの近くから、店の見えない奥の方までずらりと並んでいる。

 

その人たちは皆一様にパンフレットを持って、何かを待っているようにソワソワしていた。

この並び様から察するに、多分握手会かサイン会のどちらかなんだろうなぁ、なんて考えつつふと気になってパンフレットを覗いて───自分の視界に入ってきた情報に、思わず言葉が零れた。

 

「……夜ノ帳サイン会?」

 

も、もしかしてこの列全部、夜ノ帳先生のファン!?

知ってる人少ないからマイナーだと思ってたのに、こんなにいるの!?

あまりの数に信じられず他の人のも失礼ながら覗くと、やはり同じく夜ノ帷サイン会の文字が書かれていた。

 

どうやら思っていた以上に、夜ノ帳先生の作品は人気らしい。だけど考えみれば、その人気も納得出来るんだよね。

僕がこうして駅に本を買いに来て外に出たけど、その中で見た男の人は一人か二人程度。それもかなりご年配の方だ。

 

道行く人のほぼ全員は女性なので、珍獣よりも珍しい男性が少ないともちろん女性達は性欲が溜まる。視姦されてる男性達には申し訳ないけど、彼女達にも性欲があるからね、しょうがないね(諦観)

そして、そんな女性達の需要と供給を見事満たせたのが、夜ノ帳先生の『女が少ない世界で私は逆ハーレムを築く』だと考えれば、このファンの人数は理解出来る。

 

……ま、でも僕には関係のない話だよなぁ。

こういう長い列で待って並ぶの苦手だし、さっさと新刊の漫画だけ買って家に帰ろう。

 

そう決意して、僕はその列から踵を返した。

 

──────三時間後。

 

「よしよしよし!あと三!あと三人で僕の番だ!」

 

僕は未だに、店の外に出れずにいた。

いや、長い長い列の最前列にいる付近にいるというべきだと思う。

 

───いや、違うんだよ?

 

言い訳させ欲しい。僕は別にサインが欲しかったわけじゃない。訳じゃないんだけど……うん。

ま、まぁ?こういうのってやっぱり?ファンとしては並ばないといけないじゃん?本当に別にサインが欲しかったってわけじゃないけどね?でも貰えるものは貰ったときたいし?

 

……僕はいったい誰に弁明してるんだろうか。

心の中で自分の心の弱さを罵りつつ、夜ノ帳先生と会えるワクワクで心拍が上がる。まだかまだかとはやる気待ちを抑えて、ファンとして行儀よく並んだ。

 

「次の人どうぞー」

 

「ふっ、あと二人だッ!あともうちょい!あともうちょいで夜ノ帳さんと会える!」

 

ただそれでもやっぱり目の前に憧れの作者がいるんだから、興奮が冷めやらぬ。吾輩はどうすればよろし?

緊張でガタガタ震える指先をよそに、こういう時って何をすればいいんだっけ?と考えを巡らせる。

 

そ、そうだ!マスクを外して深呼吸しよう。ヒッヒッフー……ヒッヒッフー……ッ!

 

「はい、次の方どうぞー?」

 

ってやっぱむりむりむり!深呼吸じゃリラックスできないよ!?

いや落ち着け、落ち着くんだ僕!こういう時は素数を数えればいいって、前世で見た悪役の神父もそう言ってた。

最初はゼロ、イチ、二、サン……あれ、素数じゃなくない?

 

「はい、次の方どうぞ!」

 

「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー………おぇっ」

 

ヤバいどうしよう。緊張で吐きそう。でも憧れの夜ノ帳さんの前でゲロイン化する訳にはいかない。男には、引くに引けない戦いがあるんだ……。

吐き気を抑えて、無駄だと思いつつも深呼吸に縋る。出来るだけ視線を合わせないようにして急いで買った漫画の新刊を机の上にポトリと置いた。

 

失礼に思われてないかな?でも僕にはこれが限界である。

願わくば、そのまま無言でサインを書いて欲しい。

じゃないと話しかけられた瞬間に、そのまま夜ノ帳先生にリバース(BUKKAKE)しちゃうと思う。卑猥な意味じゃないよ?

 

「………あの、産気づいてます?」

 

「……もしかして僕が今吐きそうなのってつわりだったんですか!?」

 

夜ノ帳先生に話し掛けられて、思わず叫んでしまった。

あれ、僕っていつの間に妊娠してたんだっけ……?

 

男が妊娠するのか何て疑問もスっとんで、自分のお腹を抑える。けどそこに命の脈動は感じない……ということはまだ妊娠して時間が経っていない?

 

元の世界とは異なる異世界だから、マジで男の僕が妊娠する、みたいなことも有り得るかもしれないから、油断はできない。

もしかして、イケメン過ぎて視姦されたせいで妊娠した?おいおいちょっと待とうか異世界。和姦どころか視姦で妊娠するってどういうことなのさ。

愛はないけど(eye)はあるって?喧しいわ!

 

でも僕まだ童貞なはずなんだけどなぁ。

 

なんて真剣に考えていたら、目の前の(ナマ)夜ノ帳さんがふっ、と笑って───。

 

「いえ、冗談ですよ」

 

───と面白がるような視線を向けてきた。

 

いや嘘なんかい!素直に信じてどんな名前にしようか考えてた僕が馬鹿みたいじゃん!?軽くショックなんだけど……。

 

なのにその当の本人の顔は無表情。だけどなんだろう、ちょっと、我が親友の雫に似てるような気がする。

雫が可愛いクール系に対して、夜ノ帳さんはめちゃくちゃ美人なクールビューティだし、ちょっと系統が違うんだよね。

 

こうしてまじまじと顔を見ると、男女比が逆転してる世界でもトップクラスで夜ノ帳先生は美人だと思う。というより、こんな美人が『女が少ない世界で私は逆ハーレムを築く』みたいに女性の欲望満載の漫画を書いていると思うと、めちゃくちゃ興奮します。

 

「そんなにショックを受けたような顔しないでください。はい、これサインです」

 

「あっ、ありがとうございます!これ家宝にします!!」

 

「是非家宝にしてくださいね……あら?」

 

そう言ってまるで何事もなかったように、サインを書いた本を手渡しでくれる夜ノ帳さん。

書きなれているのか、少し崩れたサインの書かれた漫画を受け取ろうとした瞬間───ガシッと、思い切り手を掴まれた。

 

その仕草に思わず、ドキンッと胸が高なる。

え、なに?と事態を飲み込めずにいると、夜ノ帳先生によって掴まれた腕はまるで触診されているかのように、さわさわと撫でられている。

どうすれば良いか分からずにされたままにしていると、ジーッと僕の顔を凝視してくる夜ノ帳先生。

 

「あの、どうしました?」

 

「……貴女、いえ貴方はもしかして」

 

なんだろうこの状況。

ちょっとデジャブを感じる。この掴まれたは離していいのかな?でも何か離しちゃいけない雰囲気醸し出してるし……いや、やっぱりダメだ。

僕の後ろにも待ってる人がつっかえてるし、これ以上時間を取らせる訳にはいかない。

 

少し名残惜しいけど、ぎゅっと握りしめた手を離した。

 

「えと、すみません!後ろがつっかえてるので」

 

「ッ!あぁごめんなさい。大変失礼しました。それと……最後に一つだけ質問があるんですけど、いいですか?」

 

驚いたようにパッと手を離す先生に少し名残惜しくなりつつも、質問が気になってしまう。僕自身ちょっと気になるけど後ろ並んでるし……まぁ、質問くらいならいいか!

 

「大丈夫ですよ!」

 

「じゃあ一つだけ。貴方はなぜ、列に割り込まずにきちんと並んだんですか?」

 

「……へ?当たり前のことじゃないんですか?僕だって他人に割り込まれたら嫌ですし、ならそれを他人にすべきじゃないと思ったんですけど」

 

この後お茶しない?ってナンパされないかな、なんて考えてた質問と違って拍子抜けしつつも、至極真っ当なことを答える。誰だって皆が列に並んでたら割り込もうと思わないし、きっちり並ぶと思うね!

 

なんてちょっと楽観視しつつ夜ノ帳さんを見れば、酷く驚いたように感極まっていた。

 

え、なんで?普通に並んだだけでそこまで驚かれるって、そんなに心無い人多いのこの世界?だとしたら僕、この世界の常識が分からなくなりそうだよ!

 

「そう、ですか───まさか、貴方のような人がいるなんて!私、これからも執筆頑張れそうです」

 

「ならよかったです?応援してるので、頑張ってください!」

 

うーん、いまだに話の全容はよく分からないけど、つまり僕が夜ノ帳さんの活動のギアを引き上げたってこと大丈夫?過労死しない程度で毎秒更新してくれたらそれでいいんだけどね(白目)

 

ともかくとして、憧れの作家さんの力になれてよかったと思う……まぁ、何の力になったのかは分からないけど。

 

「それじゃ!」

 

「はい、それでは」

 

サインの入った漫画をエコバッグの中にしっかりと入れて、最後に大きく夜ノ帳先生に手を振った。先生も手を振り返してくれたけど、僕の後ろにはまだまだずらりと行列か並んでいる。

 

そういえば途中、ジーッと僕の顔を凝視してきたけど、あれはなんだったろ?まさか僕が男だって分かった?……いや、それはさすがに考えすぎだよね。

今日はそれで痛い目にあってるし、深く考えるのはやめとこ!

 

そして今度こそ僕は、書店から踵を返し家へと直行した。

帰りに何故かカメラを構えて、ポーズをとってください!と叫ぶ女性に追われたことは、思い出したくもない。

 

あのね、僕レイヤーじゃありません。

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