男が希少な世界で僕は、女っぽい格好してるけど実は男でしたムーブを満喫する 改訂版 作:霧夢龍人
「おーい姉さん?そろそろ起きてくれないと僕の膝が悲鳴あげてるんだけどー?」
……なんだろう、この柔らかい枕は。まるで人をダメにするかのように、余の心を溶かしていく。蕩けそうになる心地よい声が耳元で囁いてくれる上に、いい香りのする特典付き。
あぁ、
「あっ、こら、ハーフパンツ掴まないの!中のパンツ見えちゃうじゃん!」
んん〜?パンツだって?
なぁに硬いことを言ってるんだこの枕は。
そんなことを言わずにもっと近くに来て余を癒してくれ給へ!さぁ、もっと近くに来るんだ!
「あっ、ちょ、だめだめだめ!?こら!いい加減起きてよ姉さん!」
───ゴトンッ!
「あいたッ!?……あれ?」
心地よい目覚めとは言えない痛みが急に頭を襲い、思わず余は飛び起きた。え?と混乱するのも束の間、余───否、私は瞬時に自分の置かれている状況を察し、土下座を遂行した。
だ っ て 目 の 前 に 顔 を 朱 く し た 湊 が い る も の !
何が起きてるか分からないけど、とにかく私が悪いことは分かる。
でもごめん、一つだけ言わせて欲しい───頬を朱色に染めて怒る湊が可愛すぎるんだが?
そんなメス顔されたら私、「げへへ、ここがいいのかぁ?」って湊を襲うけど大丈夫だよね?うん大丈夫(自己完結型)
「〜〜〜もうッ!姉さんってば、せっかく僕が膝枕してたのに服脱がそうとしてくるんだからさぁ!姉さんのえっち!ドえっち!すけべ!変態!それとあと……アホ!バカ!」
え?それマジですか?
私ってば、知らない間に膝枕されて、知らない間に湊にセクハラしてたの?な、なんて恐れ多くも羨ましいことを寝ている時の私はしていたの!?
これは罵倒されても仕方ない。ていうかむしろ、もっと罵倒して欲しい。
湊みたいな可愛い子から罵倒されるのは、ご褒美の領域に近いと思う。
しかも男の子なんだから、逆にお金を払いたいくらいだよ。
「たいへん、ご馳走様でした。あと脱がそうとしてごめん!だからそんなに怒らないで欲しいな……?」
これは私の本音だ。前世で一体どんな徳を積めば、湊の膝枕なんて味わえるんだろう。きっと私の前世はガンジーに違いない。
見てるか全世界の女達?可愛い弟が頬を赤らめて罵倒してくれるって───我、勝ち組やぞ。
「うっ、そう言われたら怒るに怒れないじゃんか!……それと、僕も姉さんが寝てるのに頭落としちゃってごめんね?姉さんがハーフパンツの中に手を入れてきたから、驚いちゃって……」
「……ごめん、今なんて言った?」
「姉さんが僕のパンツに手を入れてきた」
「あっ、すぅーーー」
恥ずかしそうに顔を朱くしながら告げる湊にキュンキュンするし、その姿には非常に唆られるが、ちょっっっと待って欲しい。
え、なんてことしてんの私?
こんなに純粋で可愛い弟の服を脱がそうとした挙句、男性器まで触ろうとしたの!?
おいおい───最高じゃねぇか。
でも、もしこれが湊じゃなくて普通の男性だったら、私は間違いなく刑務所行きだった。そして裁判官達の嫉妬によって無期懲役にされるんだきっと。出所した頃には、湊は幸せな家庭を気付いて楽しそうにしてるだ!
お姉ちゃんはお付き合いなんて許しません!でも私と付き合いたいなら、いくらでも大丈夫だよ。そのためにお姉ちゃん、左手の薬指開けてるからね?(威圧)
……けどよく考えてみたら、この状態じゃ求婚されないのでは?
それだけは不味い、非常に不味い。お怒り状態の湊を解かなければ。
「み、湊カッコイイ!ほんとカッコイイぞ!私の……じゃなくて!余の学校でもイケメン高校生って話題だったくらいだぞ!」
話題になってたのはほんとだ。
まぁカッコイイじゃなくて、めっちゃ可愛い女子高校生ってことで大人気なんだけど、それを言ったら湊は拗ねるから言わないでおく。
私はできる女なのだ。
「えぇ、ほんとぉ〜?えへへ。ま、まぁ僕カッコ良いもんねー?」
「……は?うわちょろ」
と、両手で頬を抑えながらくねくねと喜ぶ湊。
ちょろい、あまりにもちょろすぎる。お姉ちゃんちょっと心配になって来ちゃうよ。
それと、その反応もかっこいいとは程遠いのに気づいてる?ニヤニヤ隠すためにほっぺ抑えてるの可愛すぎますやん。もはや可愛さの権化ですやん。結婚してくれほんとに。
明らかなご機嫌取りにここまで喜びます普通?
「あぁ!余の学校では知らないものはいないくらいの人気だぞ!可愛いとか可憐だとか、噂になってるんだ」
「……可愛い?」
「か、カッコイイと言い間違えた、すまない」
「ふふっ、そっかそっかぁ〜!もー照れちゃうなぁ!」
嘘は言ってない───ただちょっと真実を捻じ曲げて言ってるだけだ。
心の中で湊に平謝りしつつ、湊のいい香りを鼻腔内で味わっていた私はとある異変に気付く。
母さんと愛、どこいった?
「なぁ湊?母さん達はどこにいったんだ?」
「ん、母さん達?コンビニに買い物に行くって言ってたよ」
「ッ!?わかった、ありがとう!それじゃあ余も行ってくる」
その言葉を聞いて、私は急いで立ち上がる。
“コンビニに行く”……それはつまり、我が家での湊の女関係について話す会議をしているという、暗黙の了解。
くっ、こうしてはいられない。
湊には申し訳ないけど姉として、ひいては家族として、湊の女関係について話すことは大切だ。
───だって私の全てを捧げてもいいくらい、湊は大切な弟なのだから。
「でも出ていってから結構時間経ってるけど大丈夫なの?」
「ふふっ、心配してくれてるのか?だが安心しろ。余も愛も母さんも、そこら辺にいる一般人に襲われようと負けはしない」
「むぅ、それはわかってるよ。僕の大切な姉さんだから心配してるのに……気をつけてね?」
「あぁ、行ってくるよ」
さて行こうじゃないか。
何よりも大切な弟を守る、私達家族の
───湊side。
「あぁ、行ってくるよ」
なんて言って、かっこよく部屋から退出する姉さん。
その姿はどこか様になっていて、さっきまで僕に土下座してた人とは思えない。しかもしれっと香りを嗅いでいたあたり、なかなかに策士だ。
けど今は、姉さんの状態が気になる。
「やっぱり心配だなぁ。それにさっき思いきり頭打ってたし……うぅ、僕が驚いちゃったのが悪かったかなぁ?」
膝枕───初めはただの出来心だった。母さんと愛から、こうした方が姉さんが喜ぶよ!って言われてやってみたけど……まさか失敗に終わるなんて。
でも、ま、まさかパンツに手を掛けられるなんて思わなかったんだよ!
「……はぁ、恥ずかしい」
婦警さんの時は気が張ってたし、緊張で気にしてる余裕なんて全くなかったけど、今回のは違う。
完全に気が抜けてて、心の準備出来てなかった。
今更気にしていても仕方ないけどさぁ!
「つ、次はパンツ脱がされても耐えるし!」
誰もいない部屋で一人叫ぶ僕。これ、男女比が逆転してる世界じゃ致命的では?と熟考するけど、たいしていい答えは出なかった。
下ネタ大好きなのに実践は恥ずかしいとか、一体どこの清楚系ビッチだよ。
だけど、男に二言はない!見てろよ、絶対に克服してやるからな!
と意気揚々と宣言していると、ソファーの傍に置いておいたスマホが鳴った。
───ピロリン!
「ん、RAINかな?」
こんな時間に送ってくるってことは、多分遥だと思うけど……なんの用だろ?
遥が送ってきそうなメッセージを思い浮かべながら、RAINを開いて送られてきたメッセージを確認する。
その内容はシンプルなもので、『明後日テストでマジでやばいから、どうか湊様!教えてください!』という旨だった。
「明日は何分、遥の集中力が持つかな?」
遥の平均集中力は、僕計算でだいたい3分くらい。それに僕の応援で30分くらい持つんだけど……まぁ、それでも長くは続かないと思うなぁ。
でも1回、頑張れ遥!って耳元で囁いたら3時間くらい集中してたし……取り敢えず応援しとけば続くと思いたい。
どちらにせよ、僕には親友が困ってるのに助けない!なんて酷いことはするつもりないし、手伝う以上は何があろうと頑張って教えるんだけどね?
「いいよっ、と」
遥からのメッセージに返信し、送り返す。
その瞬間にすぐさまつく既読。思わず笑いが零れた。
多分今頃なんて返信しようか考えてるんだろうな、なんて考えたら余計笑えてきたよ。
暫くの空白のあと、再び遥からメッセージが送られてきたのを確認して、内容を見ようとして、僕は凍りついた。
「な、なっ、な!!?なんてもの送ってきてんのあの
そこにあったのは、『さすが親友!愛してるぞ♡』というメッセージとともに送られてきた際どい写真の数々だった。
考えても見て欲しい。
僕、年齢+前世の年齢=彼女なし歴なんだよ?
なのにこんな、刺激的であられもない写真ばっか送ってきよって!湊くんは許しませんよ?
「もう!これだから男たらしは!」
送られてきた写真を消す、と見せかけて瞬時に写真フォルダの中にきちんと保存した。一応消そうと思ったよ?っていうムーブをしておくことで、罪悪感を減らす作戦だ。うむ、完璧だな。
それに親友がわざわざ送ってくれたもの消すのは良くないよね!(白目)
前世なら、僕以外の男子が勘違いして絶対に告白してるからねこれ!そして振られるんだ。湊知ってるよ、その後は話し掛けることすら出来ずに疎遠になるって。
ちなみにソースは前世の僕。こんなのが送られてきたら間違いなく告白してたよ……うっ、黒歴史がっ!?
「くっ、
きっと今頃遥はニヤニヤしながら僕の反応を待ってるはず。でもここでメッセージに返信しないのも親友として違うから、メッセージは送り返そう。ただし一言だけ。
『純情を弄ばれたから寝る』
と、怒ってるペンギンのスタンプを送ってあげた。
すると暫くして、また返信が送られてくる。よほど焦ってるのか、ポンポンポンと小気味よく連続で音が鳴る。
送られてきたメッセージを確認してみれば、謝罪を込められた文面が何度も表示されていた。
『ごめん!だから見捨てないで!私には湊が必要なんだよぉぉぉ!!!!』
これがその内の一つだ。正直全く怒ってないし、むしろこんなに良い写真を送ってくれて感謝しかないわけだけど、好きな子には意地悪したい。ので、もう暫く意地悪してやろう。
『じょーだんだもん!べぇーだ!』
『うっ、テスト勉強助けてくらさいぃ……』
「ふふっ、本当にそう思ってるのかなぁ〜?」
またもや送られてきた情けないメッセージの返信を見て、涙目でお願いしてくる親友の姿を想像して思わずふふっと笑ってしまった。
───もう、これだから僕の親友は!やっぱり嫌いになれないね。
『いーよ。いっぱいしよーね?』
よし、こんなんでいいかな?
眠たい目を擦りながら、何とか返信した。手伝うからには全力でやりたいから、遥がギブアップしても頑張るつもりである。
雫も呼んで、三人で勉強会でもいいしね。
「ふぁー……ねむい」
だめだ、欠伸が止まらない。夜更かしは美容の天敵だって言うし、そろそろ寝てしまおう。さっさと顔を洗って歯を磨いた僕は階段を上がり、自分の部屋のベッドにダイブして夢の世界に旅立った。
───
──
─蛇足話。 水瀬 遥side。
『いーよ。いっぱいしよーね?』
……え、見間違い?
「な、なにこれ?絶対湊寝ぼけて送ったでしょ!」
いやえっろ。
どう見てもこれ、他人から見たらヤッてる女カップルの会話にしか見えないんだけど?
もしかして私がおかしいの?
───でもこのセリフ、普段清楚で可憐で可愛い湊が言うと、かなり破壊力抜群だわ。
「あ、やばっ、想像したら鼻血出そう」
どうしよう。このメッセージを送ってきた湊のことを考えると鼻血が止まらない。目がギンギンで寝られないんだけど。
その後私は何とかして寝ようと、音楽サイトで音楽を聴いたりリラックスできる姿勢を心掛けたけど、一切寝ることが出来なかった。
「……あれ、もう朝だ」
そして気付けばもう朝。
私は徹夜した。必ず、かの清楚可憐な
そのついでにあの胸を揉むのをいいかもしれない、と私は気持ちの悪い妄想をしながら学校に向かったのだった。