雲は遠くて   作:いっぺい

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8章 美樹の恋 (その6) 

神社の拝殿(はいでん)の右側に、朱色や白壁(しろかべ)が

美しい授与所(じゅよしょ)はあった。あたりには数人の参拝者がいた。

おみくじ箱が、授与所の正面におかれた、ほそ長い紅い台の上にあった。

 

白衣(しらぎぬ)に、紅い袴(はかま)の、

若いかわいい巫女(みこ)さんが、授与所の中にいた。

 

「こんにちは」と、美樹がいったら、

巫女さんも、「こんにちは」と笑顔でこたえた。

 

美樹は、コンパクトなバッグから、シープレザーのミントグリーンの

長サイフを出して、やや長方形の紅(あか)い木箱の、

左上にあいている細長い穴に、100円を入れた。

そして、その木箱の右側に、いっぱい入っている、おみくじから、

1枚を、つまみ取った。

 

「やった。大吉よ」

 

美樹は大喜びであった。

 

「陽(はる)くんも、いいの出るといいね」

 

「おれ、今回はやめとくよ。美樹ちゃんに大吉じゃ、

おれのは、小吉とか、よくない気がするよ」

 

「そんなもんかも。わたし、1年間は、この運勢かしら」

 

「きっと、そうだよ、美樹ちゃん。この1年は最高だよ」

 

ふたりは、わらった。

 

美樹は、大吉のおみくじを陽斗(はると)に見せた。

 

「なになに、恋愛運にある相手は、おれのことかな?

おれのことだよね、ね、美樹ちゃん」

 

「そうよ。はるちゃんのことよ。わたしにとって、

はるちゃんは、すばらしい人だって」

 

美樹は、陽斗に、やさしく、ちょっと、

いたずらっぽく、微笑(ほほえ)んで、

大切そうに、おみくじを、サイフにしまった。

 

美樹の大吉のおみくじは、こんな内容であった。

 

《 大吉 》

 

今日のあなたは最高です。

することがすべて幸いの種となります。

心配ごともなく、嬉(うれ)しい一日です。

こんな日は、わき目をふらず、

自分の仕事や勉強など、

すべきことに専念すると、

その運気はいよいよ盛んになります。

しかし、わがままになったり、

酒や色に溺れると、

せっかくの運気を、

追い出してしまうことになるので、

注意が必要です

 

【願い事】

かなう。他人のことばに、

迷(まよ)わされては、いけません。

【待ち人】

連絡もせずに、急に訪れる人に、

幸運のチャンスがあります

【失し物】

出てきます。しかし、ちょっと手間取ります。

その意味をよく考えて。

【旅行】

いいでしょう。ただし連れがいる人は、その人との関係に注意。

【ビジネス】

進んでいいでしょう。ちょっと強気くらいがいい。

【学問】

あなたの勉強方法でいいでしょう。

そのまま努力を続けてください。

【争い事】

ちょっと勝ったら、すぐ退くのがいい。

【恋愛】

その人こそが、あなたにとってすばらしい人

【縁談】

どの人にしようと困ることがあります。

もう一度、よく心を静めて見定めましょう。

【転居】

とてもいいでしょう。

【病気】

快方に向かっています。

 

≪つづく≫ 

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