雲は遠くて   作:いっぺい

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153章 映画『クラッシュビート・心の約束』、大ヒットする

♪ お知らせ ♪

この8月末から、ぼくは、YouTubeで、

いろいろな歌のカバーを、ギターの弾き語りですが、アップ始めました。

現在11曲です。目標は、100曲アップですが、オリジナルの良い歌も作りたいです。

思えば、3、4歳の頃ですけど、たぶん、親戚のお姉ちゃんですけど、

歌のレッスンで、ピアノの先生の家へ通っていて、ぼくも、ついて行きました。

そんな記憶があってか、童心にも帰れるような、歌が好きなんです。笑。

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153章 映画『クラッシュビート・心の約束』、大ヒットする

 

 2019年10月6日、日曜日の正午過ぎ。

まぶしい青空が見える、気温も26度ほど。

 

 下北沢駅西口から歩いて2分の、高田充希(みつき)の店≪カフェ・ゆず≫では、

映画、『クラッシュビート』の第2作目の『心の約束』の大ヒットを記念して、

雑誌の週刊芸能Fan(ファン)の取材が行われていた。

 

「・・・この度たびは・・・、

『クラッシュビート』の第2作目の『心の約束』の大ヒット、ホントにおめでとうございます!」

 

 担当記者の、杉田美有(すぎたみゆ)が、そう言って、みんなに微笑(ほほえ)んだ。

 

 テーブルには、この映画の主人公のモデルとなっている川口信也や、

信也の彼女の大沢詩織や、この映画の原作者でマンガ家の青木心菜(ここな)、

マンガ制作アシスタントの水沢由紀や、

この映画の主役的キャストの三人の子どもたち、

信也の子ども時代の役をしている、福田希望(ふくだりく)、

希望(りく)の親友の役の遠藤優斗(ゆうと)、仲良い女の子の役の、白沢友愛(とあ)もいる。

12歳や13歳になる、三人は、いまや巷(ちまた)の人気スターだ。

そして、子どもたちの合唱団の先生役の沢口貴奈(きな)がいる。そんな8人だ。

 

「今回の映画も、ほんと、楽しくって、見どころも満載だったのですけど。うっふふ。

わたしとしては、最初はいじめられ役だった、優斗くんに聞いてみたいことがあるんです。

優斗くんは、ご家庭が貧しいという設定もあって、仲間外れになりやすかったですよね。

でも、歌うことが大好きで、合唱団に入ることにして、すぐにみんなと打ち解けて、

仲良くなって、希望(りく)くんと、友愛(とあ)ちゃんとは、三人の大の仲良しになって。

映画の中では、友愛(とあ)ちゃんは永愛(えま)ちゃんで、

希望(りく)くんは信也くん、優斗くんは真吾くんなわけですけど。

優斗くんの演技が、真意迫っていたというか、本当にかわいそうになってしまいました、

わたしは。あの演技の秘訣というものは、何かあったんですか?」

 

 記者の杉田美有(みゆ)は、テーブルの真向かいにいる、優斗にそう聞いた。

 

「あれはですね。ぼくって、実際に、学校でも、みんなになかなか、

打ち解けられないっていうか、みんなとワイワイ騒いだり、盛り上がったりできない、

そんな内向的な一面があったんですよ。実際にちょっといじめの対象になったって、

感じた時期もあったし。いまは全然違いますけどね。あっはっはは」

 

「そうだったんですね。優斗くんは、繊細でナイーブなところが魅力的ですしね!」

 

「あ、ありがとうございます!そうなんですよ、ぼくって、変なところに気を使ったりして、

ナイーブなんですよ、ひとりで遊ぶのが好きだったりして。

いまじゃ、この映画に出たせいで、何事にも積極的というか、アクティブというか、

ずいぶんと変わっちゃいましたけどね。あっははは」

 

そう言って笑う、優斗の表情や目の輝きは、スターが持つオーラそのものだ。

 

「えーと、では、次のお話に移りますけど、今回の物語の最後は、

みなさん、合唱団で、美しいハーモニーで、楽しく歌っていても、

うまく歌えないで、合唱をやめようとする子どもたちもいたりしたじゃないですか。

でも、そこで、美しく歌うことよりも、自由に楽しく歌うことのほういが大切だって、

みんなで考えたりして、その結果、脱落しそうになる子どもたちも、

みんな帰ってきて、みんな笑顔の、大合唱団になっちゃうわけじゃないですか。

あのラストは圧巻というか、感動で、私は泣きっぱなしでした!」

 

 と言って、記者の杉田美有(みゆ)は、ちょっとまた目を潤ませる。

 

「まあ、世の中って、美しいことも、楽しいし、大切だけれど、

それよりも、自由が大切だってことですよね。

どんな理屈や論理や価値観よりも、個人の自由が尊重されるべきなんですよ。

たとえば、どんなに世の中に通用しているシステムがあるとしても、

個人の自由は尊重されるべきなんですよ。

村上春樹さんも、エルサレム賞受賞式典スピーチの『卵と壁』 では、

小説を書く理由は、たった1つしかないと言って、

それは個が持つ魂の尊厳を表に引き上げ、そこに

光を当てることで、小説における物語の目的は、警鐘を鳴らすことだ、

って言ってますもんね。

日本民芸館を設立した思想家の柳宗悦(やなぎむねよし)は、

『美の法門』という著作で、『自由になることなくして、真の美しさはない』

って言ってますよね」

 

 川口信也が、笑顔で、テーブルのみんなをゆっくり見ながらそう言った。

 

「わたしも先生役ですけど、撮影中も、子どもたちからは、学ぶことばかりなんです。

ホント、子どもたちって、自由そのものなんですから・・・」

 

 子どもたちの合唱の先生役の沢口貴奈(きな)がそう言った。

 

 テーブルのみんなは、明るく笑った。

 

☆参考文献☆

 

1. 【全文版】卵と壁 ~村上春樹氏 エルサレム賞受賞式典

https://ameblo.jp/fwic7889/entry-10210795708.html

2. 声に出して読みたい日本語 人生を祝祭にする言葉  斎藤 孝 草思社 

 

≪つづく≫ --- 153章 おわり ---

 


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