–花村さんは多分、心のどこかで“変わりたい”って思ってるんじゃないかな?−
そう速水さんから言われた言葉が、頭の中に残り続けている。
正直、そんな事を言われるとは微塵も思ってもいなかった。まぁたしかに、自分陰キャですよーって言いながら最近は目立つ場所にずっといたのは事実だ。(主に星川さん達や先輩達のせいで)←ここ重要
だけど、変わりたいなんて思った事は一度もなかった。私は私のままでいるつもりだし、今の陰キャスタイルを変える気はまったくない。
どうして速水さんにはそう見えたのだろう…。
考えれば考えるほど、本当の私が分からなくなってきてしまう。
「……あーもう! 」
頭をブンブンと横に振り、余計な考えを払拭する。そして私は、自分の頬を思いっきり引っ叩いた。パンッという乾いた音が部屋に響き渡る。
「ちょ、花村さん大丈夫?」
「あ、すみません……ちょっと考え事してて………」
私が急に自分の頬を叩いたからか、星川さんが心配してくれた。
「もしかして、ライブで歌う曲を考えてくれてたり?」
「絶対に歌う気はないので安心してください」
ただでさえ悩んでるのに悩みの種を増やしてくるな、この陽キャめ。
そうだ。今は速水さんの言葉の意味よりこの現状をどうにかしなければいけない。
私たちが今いるのはライブハウス“CiRCLE”。前にAfterglowの皆さんと話した時に来た場所だ。
なぜこんなところにいるのかと言うと、それは昨日に遡ることになる。ていうか昨日色々ありすぎな。
***
速水さんと別れ、帰宅しようとしていた時のことだった。
「あ、花村さん!待ってたよ〜」
もう日も沈みかけている時間だというのに、教室に星川さんが待っていた。リラさんと岸峰さんもだ。
「あれ?先に帰ってくださいって言ってたはずなんですけど…」
「いやー、いろいろ話してたらこんな時間になっちゃってさ〜」
星川さん達と別れたのは2時間ほど前なのに、あれから今までずっとここで話してたのか。
というか2時間も人と話す事ある?私は無理だ。天気の話を3分して終わるのが精一杯だ。そもそもそんなに話す人いないけどね!うん、いつも通り自分で言ってて虚しいですね…。
と、いつものように自分の世界に入っていると、星川さんが声をかけてくる。
「明日スタジオ借りて練習したいんだけど、花村さんも来るでしょ?」
「練習……?何のですか?」
「今度のライブに向けてよ!予約今日のうちに取らなきゃだから、花村さんずっと待ってたのよ」
「はて…?ライブ………?」
「言ったでしょ?2週間後にライブするって」
「2週間後……………?はて…………?」
「花村さんにはボーカルをやってもらおうと思うし、一緒に練習したいなって」
「ボーカル………?練習………………?………えー…?」
「知らないフリして誤魔化そうとしても無駄だからね」
チッ!覚えてやがったかクソッ‼︎
このままなあなあにして忘れてもらおうと思っていたのに!
「いや、でも……私、初心者ですし……」
無論、今までバンドなんてやった事がない。歌を歌うにしても、“咲夜ハナ”として少しだけ歌ってみたを投稿したくらいで、そこまで歌に力を入れた経験もない。
「大丈夫だよ〜。私だって初心者だし!」
「何が大丈夫なんですか………?」
「とはいえ、これからはほとんど私達の練習がメインになるね。花村さんは楽器弾かなくていいし〜」
「だから、やるって一言も言ってませんよね………?」
「じゃあ明日4人で予約入れるね!」
「聞けー」
人の話聞いてくださいお願いします。
結局そのまま押し切られてしまい、次の日の放課後、私たちは練習をしに行くことになった。
「というか、何で教室で待ってたんですか?」
「だって花村さんの連絡先誰も知らないんだもん」
あ、交換するの忘れてました………。
***
というわけで現在に至ります。あの後帰宅しながら皆さんと連絡先を交換した。べ、別に嬉しくなんかないんだからね!
………誰の得にもならないツンデレはするものではないですね、はい。
「みなさんでバンドを組めるの、すっごく楽しみにしてましタ!」
リラさんが目を輝かせながらそう言った。その横では岸峰さんがこくこくと首を縦に振っている。
まぁ岸峰さんの場合、“みんなで”というより“星川さんと”の方が大きいような……。
「というか岸峰さん、ドラム出来たんですね」
「いや、ちゃんと叩くのは今日が初めてだ」
「え?普通に叩けてるような………」
「ルルナさんからバンドに誘われたその日から、空き箱とかでみっちり練習したからな!」
「あー……」
確かに、この星川さん信者ならやりかねない。
「よし!それじゃあさっそく始めようか!」
「ハイ!」
「はい!」
まぁそんなこんなで、私たちのバンド活動が始まったのでした。
数十分後。
「いける気がしない………」
バンド活動、終了のお知らせです。
「諦めるの早くないですか⁉︎」
始めて早々、星川さんが弱音を吐いた。さっきまでの勢いはどこに行ったのか。
「ベースって、ギターより簡単って聞いてたからいけるかなって思ってたけど、全然難しい………」
「当たり前です」
むしろそこまで自信があった方が驚きだ。というか………
「この中で楽器の経験あるの、冷静に考えたらリラさんだけじゃないですか⁉︎」
バンドしようって言ってたから、星川さんは演奏に相当自信があったのかと思ってたけど、まったくそんな事はなかった。
よくよく考えればメンバーはガールズバンド大好き陽キャに日本生まれのイギリス人少女に星川さんガチ勢のヤバいやつしかいない。まったくイカれてやがるぜ!
あ、私はメンバーに含まれていませんどうぞ。
「ワタシもギターがそれほどウマイわけではないので、どちらかというと初心者デスね」
「え、ほんと!?」
リラさんが手を挙げてそう言うと、星川さんが食いついた。
「ハイ!イッショにガンバりまショウ!」
「うん!」
「……なんだろう。すっごくモヤっとする」
初心者といっても差に限度があり過ぎる気がする。
だって、リラさんの演奏見てたけど、凄い速さで指動いてたもん。私はあまりギターに詳しくはないけど、素人目から見ても絶対初心者の域を超えてる気がする。
リラさん本人は少しだけ経験があるって言ってたけど、絶対少しどころではないと思う。
それにしても、こんな感じでライブまで間に合うのだろうか?
今日は見学だけのつもりだったけど、このまま項垂れる星川さんを見てても埒があかないため、少しだけ協力する事にしますか。
「とりあえず、今日は自主練習という形にしたらどうですか?聞いてた感じ、まだ全体で合わせるっていうレベルでもないですし」
「でも早く形にしないと、ライブまで2週間しかないんだよ?」
「形にする前に基礎が出来てないんですってば!ていうか、このレベルでライブに参加するって言った事が不思議でならないんですが⁉︎」
どうしてこの陽キャはこうも後先考えないのか。基本的にノリで生きてるんだな、この人は。
私の意見に賛成なのか、リラさんと岸峰さんはコクりと首を縦に振った。それを見て星川さんも渋々頷く。
「じゃあ、花村さんが何か歌ったりしてくれたらやる気出るかも!」
「だからやりませんってば」
目をウルウルさせて懇願してくる星川さん。この人どんだけ私を歌わせたいんだよ。ファンか?
まあ自主練習なら私の出る幕は無いだろうし、隙を見て今日はもう帰らせてもらおうとしますかね。
ーーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー
「どうしてこうなった………」
数分後、それぞれが自分の練習に励む中。
さっきまでいなかったはずのメンバーが増えました。
「杏ちゃんも一緒に練習しよ!」
「帰っていいですか?」
「え〜、せっかく来たのにそれはひどいよ〜。よよよ〜」
「パン食べながら言っても説得力無いですよ………」
そう言いながら、椅子に座っている私を挟むように、青葉先輩と上原先輩が抱きついてくる。あまり人に触られるのは好きじゃないけど、大きさの違う2つ、いや4つの膨らみに心地良さを感じている自分がいる。お巡りさんこちらでーす。
なぜAfterglowの皆さんがここにいるのかって?
説明しよう!スタジオを後にしようとした我々だったが、そこでちょうど練習をしに来たAfterglowさんと出会ってしまった。そしてなんやかんやあって先輩達の練習を見学し、なんやかんやあって楽器を教えてもらう流れになったのだ。説明終わり!
「ひまり先輩、この次は………?」
「あ、そこはね〜……」
星川さんに呼ばれて私から離れる上原先輩。星川さんにはAfterglowのベース担当である上原先輩が教えてくれている。どっちも陽キャだからか楽しそうな雰囲気だ。
でも残念。上原先輩の爆弾をもっと堪能したかったのに………。
「杏、お前………」
「…大丈夫です。自分でも正直気持ち悪いなって………」
岸峰さんに若干引かれたけど、しょうがない。夢を見て何が悪い!男の夢は終わらねぇ‼︎
失礼、私女でした。
「スミマセン、ランさん。せっかくのレンシュウをジャマしてしまっテ………」
「気にしなくていいよ。こうやって教える事で、私達もいい刺激になるし」
ふと目を向けるとリラさんと美竹先輩がギターを弾きながら話していた。あそこは教えているというかセッションしているといった感じだ。
ちなみに、なぜAfterglowのもう一人のギター担当である青葉先輩が教えてないのかというと、“教え方がアレだから”とのこと。なんとなく言いたい事は分かる。
「なんか失礼な事考えてな〜い?」
「べ、別にそんな事は〜…アハハ…」
いかん。こんな事思ってるなんて知られたら失礼に値してしまう。
青葉先輩は特にこれといってやることも無さそうで、今度は後ろから抱きついて来た。背中に当たる感触が気持ち………いい気がするけど、気にしないでおく事にする!だってこれ以上変態って思われたくないもん!
あ、もう手遅れでしたか。そうですか。
「みんな熱心ですな〜」
「頭にアゴを乗せないでください」
「乗せ心地がいいんだよ〜」モグモグ
「その状態でメロンパン食べないでください!顔にポロポロ落ちてくるんですが⁉︎」
ほんとマイペースの擬人化だなこの先輩は!
「あはは……モカちゃん、後輩を困らせちゃダメだよ?」
「ほんと羽沢先輩は天使ですなぁ」
「うぇっ⁉︎」
ヤバい、口に出てしまった。私の周りがアレな人ばかりだから、久しぶりに会った羽沢先輩が天使に見えてしまう。いつ会っても変わらない安心感。まさに普通の擬人化!あ、いい意味でですよ?
「え、えっと………あ、ありがとう……?」
こちらこそ、ありがとうございます!
「にしても、2週間後にライブってまた思い切った事したなー」
と、宇多川先輩が苦笑いしながら言う。
まあ当然そう思うよね。私も思ったもん。むしろ思わない方が不思議だ。
「やっぱり、そうですよね。花村さんにも言われました」
「いや、それが普通ですって」
普通じゃないのはあんたと、それを疑問に思わない他2人だよ。
「でも、みんなでバンドしたいっていう思いの方が先走っちゃって、気づいたらライブの予定まで立ててて……」
「………」
でも、星川さんの気持ちもなんとなく分かる。星川さんがずっとガールズバンドに憧れていたという話はこれまで何度も聞いていた。
「技術も準備も何もかもが大雑把なのは分かってます。でも、それ以上に今がすっごく楽しいんです!今、私はバンド活動やってるんだって!」
「星川さん………」
たしかに今の星川さんを見ていると、誰よりも楽しんでいるように思える。いや、星川さんだけじゃない。リラさんも岸峰さんも、楽器を演奏している時はとても楽しそうだ。
………それに比べて、私は楽しめてるのかな…?
その考えが頭の中に浮かんだ瞬間、私はハッとする。
いや、私は陰キャだろ!星川さん達と一緒に楽しくバンドをしたいなんて考えるな!
今までこんな事思った事なかったのに、どうして急にそんな事を思ってしまったのだろうか。
もしかして、これが速水さんが言ってた“変わりたい”って事なのかな…?
「まあ私たちが楽器出来なかったとしても、花村さんに歌ってもらったらなんとかなります!」
「いい話だと思ったらすぐこれだよ!」
星川さんのことちょっとは見直してたのに、最後の最後でぶっ込んできやがってこの陽キャが。
やっぱり陰キャと陽キャは相容れない存在なのだ。
その後、なんやかんやみんなで練習した後に、ファミレスでご飯を食べて帰路についた。
初っ端大事なことを考えていた気がするけど、陽キャオーラにあてられてそれどころじゃなかったな…。
ただ………
「私たちも自主練頑張るから、花村さんもボーカルの件考えててね!」
「………考えておくだけですよ」
このまま星川さん達と一緒にいたら、速水さんの問いの答えが分かるのかな………?
不服だけど、そう思った自分がいた。