陰キャな私のバンドライフ   作:ハナルーナ

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15話 遊園地 of the dead!

 

 “花咲川スマイル遊園地”

 

 ここ、花咲川の地にある小さな遊園地である。

 

 少し前まで寂れていてあまり評判は聞かなかったものの、最近になって再び活気が溢れてきたみたいで、現在は多くのお客さんで賑わっている。

 人気活性化のためにとあるガールズバンドが協力したみたいだけど、その辺はよく知らない。私も人伝で聞いたことだ。その時はこんな所にもガールズバンドが関与しているのかと少し驚いた。

 

 ちなみに、商店街で人気の着ぐるみ“ミッシェル”が、この遊園地のマスコットキャラクターになっている。いや何で?

 ミッシェルって最近出てきたよね?この短期間で商店街のみならず遊園地にまでその名を轟かせているとは、あれはただの着ぐるみではないな。まぁ何か不思議な力が働いたと考えるのがいいだろう。

 

 かくいう私もミッシェルは好き。愛嬌があるよね。あと何かいつも苦労してそうな感じが共感できるというか。

 

「見てー!ミッシェルの帽子がある!」

「カワイイデスね!よろしければ記念に買いマセンか?」

 

 そんな私のすぐ後ろでは、遊園地に来て浮かれているリラさんと虎門さんが、遊園地にありがちなキャラクターを模した帽子を選んでいる。

 というかあなた達、何をしにここに来たのか分かってます?

 

「花村さんはどれにするー?」

「いや、私は別に………」

「せっかくだからオソロイにしマショウよー!!」

「お揃いっ……!……ま、まぁ、ついでに私も買っておくか。あくまでついでだからね!」

 

 星川さんと岸峰さんを尾行するために来たとはいえ、私自身も久しぶりの遊園地で少し浮かれ気味なのは認めよう。

 別に誰かとお揃いのものを買うことに憧れていたわけではないですからねっ!!

 

「でも、こんなところでゆっくりしていて大丈夫ですか?」

 

 私たちが今いるのは、入場ゲート近くの売店である。星川さん達が売店に入っていくのを見て、私たちも後をつけてきたのだ。やっぱり遊園地に来たんだし、まずは雰囲気からってね!これ大事!

 

「大丈夫!ちゃんと目的も忘れてないって!……………あっ」

「虎門さん?」

「ごめん。帽子選びに夢中で2人を見失っちゃった。テヘッ!」

 

 はい、フラグ回収乙でーす。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 一方その頃。

 

「まずはこれだね!」

「最初からなかなかハードなもの選びますね……」

 

 ルルナと伊月が最初に選んだアトラクションは、この遊園地で1番の人気を誇るジェットコースターだった。

 

「このジェットコースター、最高時速90kmも出るらしいよ!」

「えぇ………それ、大丈夫なんですか?」

「安全対策はバッチリみたいだし大丈夫でしょ!それに、これくらい怖くないと楽しめないでしょ?」

「いや、そういう問題じゃなくて……」

 

 楽しそうなルルナとは違い、伊月の表情は曇っている。

 

「私、実はこういう絶叫系苦手でして……」

 

 実は伊月は怖いものや絶叫アトラクションなどが大の苦手である。気の強そうな性格とは裏腹に女の子らしい一面も持っているのだ。

 そんな伊月の気持ちをよそに、ルルナは一切の遠慮をせずドンドンと入場ゲートに進んでいく。

 

「大丈夫だよ〜!」

「何を根拠に言ってるんですか……」

 

 大好きなルルナの誘いだから断るのも申し訳ないと思っている伊月だが、正直ジェットコースターだけは避けたい。その相反する気持ちに板挟みになっている。

 

 だが、ルルナは止まらない。葛藤する伊月を強引に引っ張り、とうとうジェットコースターに乗り込んでしまった。そして……

 

「きゃぁぁああ!!」

 

 それから数十秒後。もの凄いスピードで滑走するジェットコースターには、絶叫しながら必死に安全バーに掴まる伊月の姿があった。その隣ではルルナが楽しそうに笑っていた。

 

「あははは!!超楽しぃー!!!」

「早く終わってぇぇぇええええええ!!!」

 

 今日のジェットコースターからは、まったく正反対の悲鳴が同時に聞こえてきたという。

 

「はー、楽しかった!すごい迫力だったねー!!」

「そ、そうですかねぇ……?私にはただただ恐ろしく感じましたよ………!」

 

 無理やり体を縛られて縦横無尽に振り回される拷問…もといジェットコースターの洗礼を受けた伊月はもはや満身創痍である。

 そんな伊月の気持ちも露知らず、ルルナの暴走は止まらない。

 

「まあまあそう言わずにさ!ほら次行くよー!!」

「ちょっ!待ってくださいー!!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーー

 

 

「つ、疲れたぁ〜……」

「伊月、大丈夫?」

 

 ベンチにもたれかかる伊月。

 ようやく終わったと思ったらすぐにまた次のアトラクションへ連れていかれる。もう何度目かもわからない移動にさすがに疲れてきた様子だった。

 だが、

 

「よしっ、休憩終わり!次はこれだー!」

 

 というルルナの声でまた立ち上がるハメになるのであった。

 

 そんなこんなで色々と楽しんだ後、次に向かった先はお化け屋敷であった。

 こちらもやはり盛況で、長蛇の列ができている。とはいえ待ち時間は30分程度であり、並べない程じゃなかった。

 

 ちなみに、この遊園地のお化け屋敷は結構本格的なことで有名であり、何度か地元のテレビでも紹介されている。

 無論、それは怖いものが苦手な伊月も知っている事である。

 

「あ、あの………すみませんが、ここはなるべく…いや、絶対に行きたくないというかなんというか………」

「さあ、早速行こう!」

 

 伊月の必死のお願いを遮るようにルルナの元気な声が響く。これでもう何度目だろう。

 

「いやいやいや!まだ心の準備が……」

「安心して!私が守るから!」

「いやいやいやいや!!そういう問題じゃないですからね!?」

「私と一緒だと怖くないよ〜」

「その自信はどこから………って、なっ!?」

「これなら怖くないでしょ?」

 

 もう半泣き状態になっている伊月の手をギュッと握るルルナ。大好きな人に手を握られて、伊月の顔は先ほどまでの不安な表情から一変、真っ赤に染まっている。

 

「さ、行こっ!」

「……わ、分かりました…」

 

 ここまでされてしまっては引くに引けない。伊月は覚悟を決める事にした。

 

(うぅ……やっぱり来なければよかったかなぁ)

 

 その感情は恐怖からか、はたまた推しとの急接近に心臓がもたないからか。

 

 半泣きになりながら列を進んでいるうちにいつの間にか順番がやってくる。係員の人に案内されながら中に入ると、そこには薄暗い空間が広がっていた。

 

「ひぃっ……」

 

 一歩踏み入れただけで、思わず声が出てしまう。まだ脅かしてくるような仕掛けはないが、光のない真っ暗な部屋の奥からは、なんともいえない背筋をなぞるような恐怖感が襲いかかってくる。

 

 ルルナに手を引っ張られ、伊月もしぶしぶ前に進む。数十歩歩くと、突然足元からゾワっと寒気がした。嫌な気配を感じた伊月は、反射的に後ろを振り向いてしまった。しかし、それがいけなかった。

 

 振り返ると、すぐ目の前には白装束を着た女性が立っていた。しかも顔色は悪い上に血塗れになっている。さらに追い打ちをかけるように後ろからは何かが這いずり回る音まで聞こえてきた。

 

 それを見た瞬間、今まで抑えていた伊月の中の何かが爆発した。

 

「うわぁああっ!!」

「伊月っ!?」

 

 あまりの怖さにパニックになった伊月は思いっきり走り出す。

 当然ルルナと手が離れる事になってしまったのだが、今はそんなことを考えている暇はない。

 

(早くっ………早く出口にっ!!!)

 

 そう思いながら出口を探していると、ドンッと何かにぶつかってしまった。

 

「痛っ!」

「あ、すみませ……ひっ!?」

 

 と言いかけたところで顔が引き攣ってしまう。

 ぶつかってしまった相手の服装から見るに、伊月と同じお化け屋敷に来たお客さんだろう。だが、今の伊月にはそう認識できなかった。

 

 なぜなら、その顔はまるでゾンビのように爛れていたのだから。

 

「あれ?伊月ちゃん?」

「ひぃっ!!」

 

 ゾンビの顔………もとい、ゾンビのお面を被っている人物は伊月のことを知っているようだったが、今の伊月にとってはそれどころではない。向こうが声を上げた瞬間にまた逃げ出してしまった。

 

「ごめんなさぁぁああああああい!!!」

「え?ちょ、ちょっと………」

 

 伊月は一目散に駆け出す。一体何をそんなに怖がることがあるのかと、ゾンビ仮面の人物は困惑していた。

 

 そして、伊月はなんとか出口を見つけ外に出ることができた。

 

「ハァ………ハァ………も、もう二度と来ない………」

 

 心の中で固く誓った伊月だった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 星川さんと岸峰さんを尾行するという体で遊園地にやって来た私達。遊園地にやって来て早々2人を見失い、探すところから始まった。

 

 そんな私達は今、

 

「いや〜、何度来ても遊園地は楽しいねー!」

「ハイ!ジェットコースターもすごく楽しかったデス!」

「わ、私は朝に食べたものが全部出そうになりましたが………」

 

 遊園地を絶賛満喫中だった。

 

 ~完~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、そうじゃないでしょぉぉぉおおおお!!!」

 

 こんなところで終わらせてたまるかと、私は思わず声を荒げた。

 

「うわっ!?びっくりした〜」

「どうしたデスか?」

「ど、どうしたって……2人を見失ったから探してるんでしたよね!?」

 

 尾行するって行ったのは虎門さんですよね!?何のんきに遊園地を満喫してるんですか!?そういうネタですか!?

 

「あ、そうだったね〜」

「そ、そうデス!」

「忘れてたんですか……」

 

 虎門さんだけでなくリラさんまで。さては貴様、味方のフリをして実は刺客だな?

 

「まぁまぁ、落ち着いてよ〜。ほらほら、そんな眉間にしわ寄せてると老けちゃうよ〜?」

「なんですか?喧嘩ですか?受けて立ちますよ?」

 

 一体誰のせいでこんな事になってるのか。

 この自由奔放な虎門さんを、いつかギャフンと言わせたい。スマ◯ラなら負けなしなんだからな、こっちは。

 

「まぁ、焦ってもしょうがないし、ゆっくり探そうか」

「そ、そうですね……」

 

 とはいえ、今こんなところで言い争っている場合じゃないですね。この怒りを一旦沈め、やるべき事をしよう。

 私達は再び2人を探すことにした。

 

 そんな中、しばらく歩くと、後ろからふいに声をかけられた。

 

「あれ、杏ちゃん?」

「くいなさん!偶然ですね!!」

 

 振り返ると、そこに現れたのは……

 

「うわっ!ゾンビ!?」

 

 そこにいたのは、ゾンビのお面を付けた人だった。それだけではない。ゾンビ以外にも鬼と落武者のお面を付けている人達もいる。

 

 一瞬驚いたが、私の名前を読んだ人物の声に聞き覚えがあった。

 この安心感のある声。もしかして………

 

「あ〜、ごめんね。こんなお面付けてたら驚くよね」

 

 そう言いながらお面を取ったその顔は、Afterglowのキーボード担当で、私が唯一絡みやすいと思える人、羽沢つぐみ先輩だった。

 

「もー、だからこんなお面付けるのやめようって言ったじゃないですかー!」

「お化け屋敷のお化けに勝つためには、これくらい準備をしなくてはと思いまして…」

 

 文句を言いながら鬼のお面を取った、私と同じくらいの背の黒髪ツインテールの女の子。

 その隣で落武者のお面を取ったのは、煌めくような銀髪を三つ編みにまとめた、色白碧眼のスタイルの良い人だった。

 

 というか、そんなお面ここに売ってたんだ。あと、なんでお化けに勝とうとしてるのか。

 

「イブさん!お久しぶりです!」

「くいなさんも来てたんですね!驚きました!」

 

 どうやら、この銀髪の人は虎門さんの知り合いのようだ。スラッとしてて、星川さんと引けを取らないほどモデル体型の美人さんだ。

 あれ?というか、私もこの人をどこかで見た気がしなくもない。この人とは初対面のはずだけど、一体どこで……?

 

「あと、そちらの方は杏さんと言いましたね?もしかして、花村杏さんですか?」

「あ、はい、そうです」

 

 記憶を辿っている最中、向こうの方から声をかけられた。私の事を知っているという事は、どこかで交流があったのか?

 ますます思い出せない。

 

「あの、どこかでお会いした事ありましたっけ……?」

「申し遅れました!私は花咲川女子学園剣道部所属、“若宮(わかみや) イブ”と言います。杏さんの事はルルナさんや日菜さん、麻弥さんから聞きました。どうぞよろしくお願いします!」

 

 その名前を聞いてハッとする。

 

 思い出した。この人、“Pastel*Pallettes”のキーボード担当、若宮イブさんだ。星川さんの布教のおかげで名前を知ったのだった。すっかり忘れてた。どうりで見たことあると思った。

 それにモデル仲間として星川さんも交流があるって言ってたし、私の事を知ってても不思議じゃない。

 

 というか、星川さんといい先輩達といい、私の事をペラペラ喋らないでくれます?初対面の人に知られてるのちょっと怖いので。陰キャは目立つのが嫌いなので!

 

「私にここのチケットくれたの、イブさんなんだー!」

 

 そう言いながら若宮さんに抱きつく虎門さん。なるほど。虎門さんとは他校の剣道部という繋がりで交流があったのですね。

 つまり、元を辿ればこの人が今回のゴタゴタの元凶という事ですね。余計なマネをしてくれましたね。今度スタイル維持の秘訣を教えてくれるのなら許します。

 

「この人がつぐみ先輩の言ってた花村さんですね」

 

 今度はツインテールの子が話しかけてくる。というか、あなたも至極当然のように私の事を知ってるんですね。陽キャの情報網、広すぎません?そこらのインターネットより広まるの早いよ。これがネットリテラシーか。(←多分違う。

 

「はじめまして。月ノ森女子学園1年生の“二葉(ふたば) つくし”です。よろしくお願いします」

「月ノ森………って事はお嬢様!?」

 

 月ノ森女子学園とは、この辺でも有名なお嬢様学校の事だ。そこに通っているということは、つまりこの人は相当なお嬢様で間違いない。

 やばい。お嬢様なんてみんな高飛車で高慢ちきなイメージだから近寄りがたい。お嬢様怖い!できれば関わりたくない!

 

「そんなにかしこまらなくていいよ。お嬢様学校って言っても、私は周りに比べたら普通の家だし。同じ1年生みたいだし、仲良くしよっ!」

「あ、はい。よろしくお願いします…」

 

 とはいえ二葉さん。月ノ森の生徒とはいえ高飛車なお嬢様って感じじゃないし、穏やかな雰囲気が出てて話しやすいかも。

 月ノ森だからといって、みんなプライドの高いお嬢様とかじゃないんだな。今まで勝手なイメージを持ってすみませんでした。

 

「噂で聞いた通り、やっぱりましろちゃんに少し似てる……」

 

 ふと二葉さんが小さく呟く。二葉さんの友達でしょうか?お嬢様学校にも私みたいなのがいるんですかね?なんか親近感……。

 

「あれ?今日は伊月ちゃんは一緒じゃないの?」

 

 すると、ふいに羽沢先輩がそう言った。

 

「そ、そうデス!ワタシ達、今イツキさんを探しているデス!」

「って、羽沢先輩、岸峰さんを見たんですか!?」

 

 リラさんの言葉に私も続けて言う。岸峰さんがいたとなれば見逃せない。

 羽沢先輩は少し考える素振りを見せ、答えた。

 

「えっと、見たのは見たのだけど……お化け屋敷でちょっとすれ違ったくらいで……」

「え、伊月がお化け屋敷……?」

「うん。凄いスピードで出口まで走っていったから、どうしたのかなって」

「あー………」

 

 その話を聞いて虎門さんが苦笑を浮かべる。どうやら思う部分があるようだ。

 

「イツキさんってお化けとか苦手デスか?」

「まあ苦手というか………この世の天敵というか……」

「なるほど。あんなにパニックになってたのはそういう事だったんだね」

 

 二葉さんは合点がいったと頷いた。あの岸峰さんがパニックになるくらいだから、相当苦手なのだろう。

 私はどうかって?私が怖いもの得意だと思いますか?少しは考えましょうね?

 

「声かけたんだけど逃げられちゃって」

「そりゃそんなお面付けてたら誰だって逃げますよ」

 

 どうやら逆にお化けを驚かそうと付けたお面が仇となってしまったようだった。お化け屋敷の暗闇の中でこんなヤバい人達と遭遇したら誰でも逃げるでしょうね。何がヤバいかって?そりゃもう色々だよ。

 

 とはいえ、これで岸峰さん達がどの辺にいるのかが絞れそうである。

 

「お化け屋敷に行ったのはいつですか?」

「えっと、今から5分ほど前だったかな?」

「じゃあまだその辺りにいそうですね」

「よし!お化け屋敷付近を探してみよう!」

 

 思わぬところから情報をゲットできた事だし、早速捜索を再開しよう。なんだかんだいって、私もちょっと楽しくなってきたな。

 

「あ、その前にここの限定ドリンク買っていこー!」

 

 本当に探す気あるんでしょうか、虎門さん(この人)は………。

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