陰キャな私のバンドライフ   作:ハナルーナ

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17話 勝負といったら料理だよね!って、どこの常識ですか?

「花村さん、勝負しよう!」

 

 とある日の朝。ライブまであと1週間と迫っていた私たち。

 

 まぁ、私たちとは言ったものの、案の定私自身は特に何もしていない。星川さん達がせっせと準備しているところをそばで見ているだけである。

 時折星川さんが私を誘ってくるのだが、今まで通り適当にあしらっている日々だ。

 

 本番までそんな日々を続けようと思っていたのも束の間、星川さんがいきなりそんな事を言い出した。

 

「えっと…どうしました?」

「ババ抜きにする?それともUNOにする?ナンジャモンジャにする?」

「とりあえず説明お願いします。というか、勝負内容カードゲームオンリーなんですがそれは……?」

 

 何の説明もなしに勝負しようって言われても、いいですよと言う人はほとんどいないと思う。ス◯ブラやマ◯カなら、私としてはいつでも大歓迎だが。

 

「どうして急に勝負なんて…」

「だって花村さん、一緒に練習してくれた事ないじゃん!こんなにボーカルを頼んでるのに!」

「あー…いや、それは……その……」

 

 さっきも言ったように、ライブの準備とかは手伝っていたけどボーカルをやる件については先延ばしにしていた。ライブまであと1週間と迫っていることだし、流石の星川さんもしびれを切らしたのだろう。

 

「もう手っ取り早く勝負して決めようと思って!私が勝ったら花村さんにはボーカルをしてもらうからね!」

「……この勝負避けるわけにはいきませんかね?」

「え?何がなんでも勝負してもらうよ」

 

 星川さんが食い気味で顔を近づけて言う。笑顔だけど目が笑ってない。モデルとしてその表情はダメだと思いますよ?(汗)

 

 とはいえ、この期に及んで逃げるなんてことは無理な話だと思っている。今だって教室の中には完全に好奇の目を向けてきているクラスメイトが多数いるわけだし。

 それに、もしこのまま勝負を受けなかったら、私の不戦敗でなし崩し的にボーカルをやることになる。

 私に与えられた選択肢は二つに一つだった。

 

「ハァ………わかりました」

 

 私は観念して勝負を受けることにした。

 

「ちなみに、私が勝ったらもう誘わないでくださいよ?」

「さぁ〜、それはどうかな?」

 

 なんか勝っても負けても一緒な気がするけど、とりあえずやりますか。

 

 そんなこんなで、私のバンド加入を賭けた一世一代の大勝負が幕を開けるのであった。そこまで大袈裟ではないですけどね、はい。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーー

 

 

「第一回!より美味しい料理を作るのは誰だ!杏vsルルナのお料理対決〜!」

『イェーイ!!』

「いや何で?」

 

 放課後になりいきなりよく分からない場所に連れて来られたと思ったら、何やら料理対決に巻き込まれたんだが?

 なんかラノベのタイトルにありそうな文面だな。絶対内容はクソな気がするけど……。販売部数3冊くらいしか無さそう。

 

「今日は“ハロー、ハッピーワールド!”の弦巻こころさんのご協力の元、弦巻邸の地下にある特別施設にて行わせていただきます!」

 

 展開が急すぎてついていけてないがもう慣れた。つまりあれだ、今日も私は陽キャ達に振り回される運命にあるという事だ。はいはいわかってるよ。

 

「ちなみに審査員は同じく“ハロー、ハッピーワールド!”のメンバーの皆さんです!」

「やぁ、素敵なお姫様達に呼ばれたら、来ないわけにはいかないね」

 

 瀬田先輩がいつものように王子様セリフを口にする。ちなみに、私はあなたのこと呼んでいないけどね。

 

「とーってもハッピーな気がしたから、協力させてもらったわ!」

「うちの一番美味しいお肉を持ってきたからね!どんな料理になるのか楽しみだな〜!」

 

 そんな感じではしゃいでいるこのお二人は、何を隠そう“ハロー、ハッピーワールド!”、通称“ハロハピ”のメンバーである。

 

 笑顔が素敵な金髪のお方は“弦巻(つるまき) こころ”さん。“ハロー、ハッピーワールド!”の実質的なリーダーであり、世界に名を轟かすほど有名な弦巻財閥のお嬢様である。

 

 もう1人の元気いっぱいな人は“北沢(きたざわ) はぐみ”さん。弦巻さんの突拍子もない行動についていける数少ない人である。実家は商店街にある精肉店でコロッケが有名なところだ。私も時々お世話になっている。

 

 ちなみに、このお二方と瀬田先輩を合わせてハロハピの3バカトリオと呼ばれている。

 うん、何となくわかる。奥沢さんが大変苦労されているのだなとしみじみ思ったのは今日この頃。

 

「それとたまたま暇だったリサさんです!」

「ヤッホー!杏の手料理が食べられるって聞いて飛んできた!」

 

 今回まったく関係のないこの人までいるが、いつも通りかーと気にしないでおくことにする。そうしないと身が持たない。

 

 あれ?そういえば……

 

「あの…リラさんと岸峰さんは……?」

「別の用事があって、そっちに行ってるよ〜」

 

 別の用事って何だ?あの2人ならこんなイベント、面白がって絶対見にくるような気がするが………。

 

 それにしても、改めて見るとこの施設の大きさはハンパじゃない。弦巻家に到着した時点でまずその大きさに驚いたが、その地下にこんな巨大な施設があることで更に驚いた。弦巻さんだけ別作品にいてもおかしく無いのではないか?出る作品間違ってますよね?すみません、黙ります。

 ていうか、どうしてこうなったんだっけ?

 

「私とボーカルを賭けて勝負するって話したじゃんか!」

 

 私の心の声が聞こえたのか、星川さんがそう言ってきた。もう心を読まれることについては何の疑問も持たない。慣れって怖い。

 

「そうですけど、それとお料理対決はどう繋がるんですか?」

 

 私は至極当然の疑問を口にする。

 

「だって、花村さんって私に勝てる部分無いでしょ?」

 

 キョトンとした表情でそう言う星川さん。

 まぁ確かにそうだけど、そこまでハッキリ言うものですかなぁ?

 

「そんな事を言うのはこの口ですか?」

「イヒャイイヒャイ!」

 

 イラッときた私は星川さんの口を横に引っ張る。岸峰さんがいたら十中八九死活問題だが、今はいないので問題ない。星川さんにイタズラし放題だ。

 

「それで、どうして料理なんですか?」

 

 涙目になった星川さんは、再び胸を張りながら自信満々といった表情でこう答えたのだ。

 

「だって私、料理が全然出来ないから!」

「威張る必要ないですよね?」

 

 なぜ自分の短所をそこまで堂々と言えるのだろうか。逆に羨ましい。

 

「そこで、公平に料理対決をして美味しい料理を作ることができたほうが勝ちってことになったの!」

 

 いろいろとツッコみたい部分はあるけど、まあ確かに一理あるかもしれない。普通の勝負だと私の勝ち目はグッと低くなると思うからだ。自分で言ってて悲しい。

 

「……ちなみに、私が勝った場合はどうなるんですか?」

「花村さんのお願いを一つだけ聞いてあげるよ〜」

 

 やっぱりそう来たか。

 つまり、私が勝てばもうボーカルに誘わないで欲しいとハッキリ断ることができる。それなら悪くないかも。

 

 でも、逆に言えば私が負けたら……

 

 いや、せっかく星川さんがくれたチャンスなんだし、ここはお互い公平に決めた方が後腐れない。よし。

 

「わかりました。この勝負、受けて立ちます。その代わり、私が勝ったらもうバンドに誘わないでくださいね」

「うん。私もこの勝負に賭けてるから。本気でいかせてもらうよ!」

 

 こうして、私と星川さんによる料理対決が始まるのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「はい、では早速料理を作ってもらいましょう」

 

 司会進行は奥沢さんと松原さん。無関係なのにこんなよく分からない事に巻き込んでしまってすみません。

 

「制限時間は60分だよ。材料はこの台の上にあるものから好きなのを選んでね」

 

 用意された食材を見ると、色とりどりの野菜や果物はもちろん、新鮮な海鮮や巨大な肉の塊までところせましと並べられている。こんな量いったいどうやって集めたんだろう。

 

「えー、これらの食材は弦巻家のご厚意により、全国各地から集められた選りすぐりのものです。なのでそのー……、一応無駄にしないようにお願いします」

 

 料理対決以前に気を使わなければいけない事が増えたような。というか、弦巻さんはどうしてこの勝負をそんなに楽しんでいるのか。お金持ちの考えていることはまったく分かりません。

 

「どれも美味しそ〜!まずは全部味見して考えるのもアリかな?」

 

星川さんは目を輝かせている。あなた、味見と言いつつただ食べたいだけですよね?

 

「そして、今回の料理テーマは自由ということで、二人は好きなように作ってくれればOKだよ!」

「自由っていっても、何を作るかくらい決めておかないと、お互いカオスになりそうなんですが………」

 

 そうぼやきつつも、私は頭の中で献立を考えていた。

 料理はそんなに得意ではないが、それでも人並み程度にはできるつもりだ。

 

「それじゃあ始めるよ〜。よーいスタート!」

 

 奥沢さんの合図と共に、私たちは一斉に動き出した。

 星川さんは片っ端から食材を取っていく。私はある程度の食材を揃えたあと、用意された調理台の前に立って献立を考えることにする。

 

(さて、どうしたものか……)

 

 私は最初に玉ねぎを手に取る。料理ってとりあえず玉ねぎを炒めておけばなんとでもなる気がする。知らんけど。

 玉ねぎを切ろうと包丁を手に取ったところで、ふと星川さんの様子が気になる。

 

「んー、どれがいいかな〜?これとか良さそう!」

 

 彼女は迷うことなく巨大なステーキ肉を掴み取る。そしてその肉をそのまま熱したフライパンの中に豪快に投げ入れた。

 

「いやちょっと待ってください! その肉の塊、そのまま焼く気ですか!?」

 

「そうだよ? ステーキって美味しいよね〜」

 

 当たり前のようにそう言う星川さんに私は絶句してしまう。これ、もしかして勝負にならないのでは?

 

「まぁいいや。私は私のペースで進めよう……」

 

 気を取り直して、私は玉ねぎを薄切りにしていく。

 

(玉ねぎと………ニンジン、ジャガイモもあるし……よし、ここは王道のカレーにしよう)

 

 カレーなら誰でも好きだろうしハズレはない。さらに何かしらのアレンジを加えれば自分らしさも演出できる。初心者にはうってつけの料理である。

 

「お、杏はカレーを作るんだ?」

 

 突然背後からリサ先輩が顔を出してきた。

 

「まったく気配を感じなかった。お主、やるな……」

「杏の気配なら2キロ先からでも感じられるけどね!」

「それはもはや見聞色の覇気の領域では?というか、なんでここにいるんですか?審査員席で座っていたはずですよね?」

「いやー、ずっと座ってるってのも退屈だし、杏の料理してるところを間近で見たいじゃん?」

「じゃん?って言われても……今見たら食べる時の楽しみが無くなっちゃいますよ?」

「あ、それもそうだね。じゃあ私の目を隠しておかなきゃ。杏、手で目隠しして」

「そしたら私何も作れなくなるんですが?」

 

 軽い調子でうざ絡みしてくるリサ先輩を適当にあしらいつつ、私は具材を切り終えた。次は煮込み工程に入るため、大きな鍋を用意する。

 

 一方、星川さんは相変わらず大胆な手つきでステーキ肉を焼き続けていた。ときおりフランベをするかのように炎が立ち昇り、周囲の視線が自然と彼女に集中している。

 

「おぉっ、すごい火花!」

「ちょ、危なくないですか?」

 

 思わず心配になりつつも、私は自分の鍋に水を注いで火にかける。具材を投入し、あとは弱火でじっくり煮込んだ後、カレールーを入れれば完成だ。簡単でかつ失敗のないメニューを選んだつもりだった。

 

「……星川さんと比べたらあれだけど、なんか普通の料理だね」

 

 背後から奥沢さんがそう呟く。いつの間に背後に?この人も気配を消せるのか?

 

「普通が一番ですよー。というか、あれと比べられても………」

 

 私にはあんな事をする勇気はない。というか出来ない。

 しかし、星川さんの料理はあまりにも豪快すぎて、何を作っているのか皆目検討すらつかない。

 

「あ、そうだ!隠し味入れよう!」

 

 星川さんが突然、棚に並んでいた瓶詰めの調味料群に手を伸ばす。彼女が選んだのは……

 

「え、それを入れるんですか?」

 

「うん!何のソースか分からないけど、これでよりジューシーに仕上がると思うんだよね〜」

 

 そう言って、彼女は赤黒い液体を惜しげもなくステーキ肉にかけていく。それがただのソースでないことは明らかだった。

 

「おー!これでよりいっそう美味しくなるね、多分!」

 

 星川さんは呑気にしているが、私は内心かなり焦っていた。なぜならそれは色味的にタバスコにしか見えなかったからだ。しかも一瓶丸ごと使うなんて、狂気の沙汰としか言えない。

 

(本当に大丈夫なのかな?あの料理……)

 

 私は不安を抱えつつも、カレー作りに戻る。刻んだ野菜とお肉がグツグツと煮えている香りが食欲をそそる。

 

「さーて、そろそろルーを入れますかね」

「え、もう?まだ時間余裕あるよ?」

 

 ふと後ろから松原さんに言われる。みなさん私の背後に立つのお好きですね。それとも単に私が隙だらけなだけなのか。

 確かに残り時間は30分近くあった。思ったよりも早く出来上がってしまった。

 星川さんの方はまだ時間がかかりそうだし、これからどうしよう……。

 

「あ、そうだ!」

 

 その瞬間、私の頭の中に名案が浮かんだ。この勝負に勝つためのある秘策が!

 

「フッフッフ………」

「あ、杏ちゃん……?顔が怖いよ……?」

 

 おっといけない。つい暗黒微笑してしまった。

 

「松原さん。私はこれからある事をします。いいですか?出来上がるまで絶対に覗いてはいけませんよ?」

「鶴の恩返しかな……?」

 

 

 松原さんとの会話を終えて、私はルーを溶かしていく。部屋中にカレーの甘辛い良い匂いが漂い始めた頃、隣から異臭がしてきた。何なら煙まで立ち込めている。

 

「ちょっと!こっちの空気汚染しないでくださいよ!」

 

 星川さんの周りには煙のようなものが立ち込めており、その中心からは妙な化学反応のような音さえ聞こえる。あれが果たして食べ物なのか怪しいレベルだ。

 

「あ、大丈夫だよ〜!これも大事なプロセスだから!」

 

 星川さんは満面の笑みで答えている。本当に大丈夫なんだろうか。

 

(さて、そろそろ私の本当の作戦に入りますか)

 

 私はカレーを別皿に少し取り分ける。そして、事前に準備しておいたアイディアを実践し始めた。

 

「お、次は何するの?」

「ふふ、見ててください」

 

 一方で、星川さんの方からはさらに濃密な煙と、何かが焦げつく嫌な匂いが漂ってくる。彼女は未だにタバスコステーキに夢中になっていた。もはやそれは料理なのか、単なる破滅行為なのかさえ分からない。

 

「あれ大丈夫なのかな?」

 

 審査員席から北沢さんの声が聞こえる。

 

「こころ、あれ止めなくていいの?」

「大丈夫よ!とっても楽しそうだもの!」

 

 リサ先輩の問いに弦巻さんは笑顔で頷いている。ここまで全肯定な人はもはや見たことがないレベルだ。

 

(とにかく、私は自分のペースを保とう)

 

 私はカレーに向き直り、最後の仕上げに入った。

 

「よし、これでカレーは完成です」

 

 鍋からは香ばしい香りが立ち上り、具材もしっかり柔らかくなっている。見た目も色合いも完璧だ。

 

「さすが杏、安定の腕前だね!」

 

 リサさんが拍手してくれた。いやー、それほどでも〜。

 

「ありがとうございます。でも、まだこれで終わりじゃありませんよ」

 

 そう、これが私の作戦。普通のカレーに見せかけて、実は……

 

「おっ、なんか面白そうなことしてるね!」

「堂々と敵陣に入ってこないでください」

 

 星川さんがこちらにやってきて、興味津々の様子で鍋を覗き込む。あなた、自分の料理はどうしたんですか?

 

「へぇ〜、普通のカレーに見えるけど……実は違うんだ?」

「ええ。これからもう一つの仕掛けを見せます」

 

 私は別皿のカレーにあるものをかけて、仕上げに取り掛かるのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それでは、審査の方に参りましょう!」

 

 60分の制限時間が終わり、いよいよ審査に移る。

 審査員のリサ先輩、弦巻さん、北沢さん、瀬田先輩の前に、私と星川さんが作った料理が並べられる。

 

「おぉー!なんていうか………天国と地獄?」

 

 最初の感想がそれですか?まぁ、若干合っているか。

 

「えー、ではまず天国………もとい、花村さんの料理から食べていただきましょう。花村さん、説明をお願いします」

「はい」

 

 私は用意した料理を指しながら説明を始める。

 

「まずは定番のカレーライス。具材は玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、お肉といったシンプルなものになっています」

「うんうん!シンプルなカレーが一番美味しいんだよね〜」

 

 つかみはまずまずだ。やはりカレーは最強だね。

 

「そして、もう一品。これは時間が余ったので試しに作ってみたのですが………」

「これは………というか、これもカレーだね」

「でも、お皿が違うよ?こっちは丼に入ってるねー?」

「しかも、普通のカレーライスと比べて少しルーがサラサラしてるみたいな……」

「フッフッフ………」

 

 おっといけない。また暗黒微笑してしまった。

 

「そう、これは“カレーうどん”です!」

 

 そう、これが私の秘策。

 多くの家庭ではうどんにそのままカレーをかけて食べることが多いカレーうどんだが、粘度の高いカレーが邪魔をしてうどんを上手くすすれない時がある。え、ないって?あると思っておきなさい。

 そんな時、うどんが好きな私はある秘策を思いついた。それが、カレーをうどんの出汁のようにサラサラとしたスープ状にする事だ。先ほど別皿に取り分けていたカレーに加えたのは、何を隠そううどんに使われる出汁である。これによりカレーの風味を残しつつ、出汁の奥深い味わいまでプラスされる。まさに一石二鳥なアレンジなのだ。ちなみに、使っているうどんも本場讃岐の国から仕入れたうどんだ。マズいわけがない。

 

「さあ、私の作品はこちらです!」

 

 私は自信満々に二つの皿を掲げた。これは審査員の皆さんも拍手喝采のはず!

 

 ………あれ?おかしい。やけに静かな気がする。

 

「えっと………どうしました?」

「いや、料理はとても美味しそう……というか、絶対美味しいと思うんだけど………」

「ライスとうどんを一緒に食べるのは、ちょっと量が多いなって……」

 

 しまったぁぁぁああああ!!!うどんへの情熱ですっかり量のことは頭から抜けてしまっていた!よく考えたら、カレーライスとカレーうどんを同時に食べる人なんて滅多にいないよ!

 

「あ、でも味は普通に美味しい」

「まぁ、市販のルーを入れただけだからね」

「っ!?このカレーうどんマジで美味しい!料亭に出てくるやつみたい!」

 

 だが、反応は結構良さそうだ。私のアレンジカレーうどんの評判も上々である。

 

「じゃあ、次は私の番ね!」

 

 星川さんが笑顔で言う。その表情からは、自分の料理に対する自信が溢れていた。

 

「ええ、ぜひ見せてください」

 

 私は少し緊張しながらも、その料理を待ち構える。

 皆さんもお気付きだろうからあえて言っておこう。ここからは地獄の時間だ。

 

「じゃじゃーん!これぞ、私の特製“七色爆炎激辛ステーキ&闇鍋サラダ”よ!」

 

 星川さんが両手を広げて示した料理は、文字通り見る者を圧倒する存在感を放っていた。

 テーブルの上には、巨大なフライパンに乗せられた巨大なステーキがあり、その表面は様々な色のソースで彩られていた。青、紫、緑、黄……それらが渾然一体となって、芸術作品のような色彩を作り出していた。

 そして、その隣には深底の皿が置かれている。中身は……よくわからない。ただわかるのは、そこから立ち昇る湯気と刺激臭だけで十分だった。サラダって何だっけ?

 

「これ……本当に食べられるんですか?」

 

 思わず問いかけてしまった。

 

「もちろん!これが私の料理愛よ!」

 

 星川さんは誇らしげに胸を張る。

 

「さあ、食べてみて!」

 

 審査員のみなさんは、それぞれ恐る恐る料理を口に運び始めた。

 最初に食べたのは北沢さん。一口食べると、すぐに目が大きく見開かれる。

 

「おぉ〜っ!?…………?」

 

 美味しいのかマズいのか、頭に疑問符を浮かべて止まってしまった。

 続いて、松原さんがステーキを一切れ口に入れると、顔を歪ませながら「うっ……!?」と小さな悲鳴を上げる。

 

「これは……独特な味ですね」

 

 奥沢さんは汗と苦笑いを浮かべながらコメントする。一方、弦巻さんは、

 

「面白い味!もっと食べてみたいわ!」

 

 と嬉々としてステーキにかぶりついている。さすが全肯定弦巻さん、期待を裏切らない反応だ。

 ちなみに、瀬田先輩は一口食べた後「儚い………」と言って頭を抱えたまま動かなくなった。

 

 最後にリサさんが、「うーん、これは……個性的すぎるかな」と呟きながらナイフとフォークを置いた。

 結果として、星川さんの料理は強烈なインパクトこそあったものの、味としては賛否両論という感じだった。

 

 その後の結果発表では、弦巻さん以外が私に投票してくれたおかげで私が勝った。改めて、そもそも勝負になっていなかったような気がするが、細かい事はもう気にしない。

 

「あーあ、負けちゃったかぁ」

 

 星川さんは少し悔しそうな表情をしていたが、すぐに笑顔に戻った。

 

「でも楽しかったよ!次はもっと練習してリベンジするからね!」

「次がない事を期待しています」

 

 最後は私と星川さんが握手を交わして勝負は終わった。無事に勝利を収めることができて本当に良かった。

 そして、私が勝ったという事は………。

 

「それじゃあ、約束通りもうバンドには………」

 

 その時、入口の扉が勢いよく開いた。

 

「ルルナさん、お待たせしまシタ!」

「対バン相手との打ち合わせ終わったぜ!」

「リラさん、岸峰さん!?」

 

 今まで姿が見えなかったリラさんと岸峰さんが叫びながら入ってきた。

 

「セトリと演出諸々、バッチリですよ、ルルナさん!」

「こーら伊月〜。敬語はナシだって〜」

「あ、すみま……ごめん」

「ちょっと待ってください。どういう事ですか?」

 

 突然の情報に頭が混乱する。

 

「杏達が対決してる間に、私とリラでライブの打ち合わせに行ってたんだよ。ルルナさ……ルルナに頼まれてな」

「もう1週間切ってマスからね〜。今日しか時間が無かったのデス!」

 

 まさか私たちが料理対決をしている間にそんな事をやっていたとは。さては星川さん、勝っても負けても結果を曖昧にしてさりげなくバンドメンバーに加えようとしてたな?

 

「それで、どっちが勝ったんだ?やっぱりルルナか?」

「やっぱりってなんですか…?」

 

 岸峰さんは星川さんが勝つ未来しか考えていなかったのだろう。これだから信者というものは恐ろしいものだ。

 ですが、今回は一味違います。あなたの期待に応えられず申し訳ありませんでした。

 

「残念ながら私の圧勝です。なので、もうあなた達のバンドには………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「杏ちゃん………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと私の名前を呼ぶ声が聞こえる。それはとても聴き馴染みのある声だった。

 

 そんな……そんなはずはない。

 私はゆっくりと声の主の方を向く。

 

 そこにいたのは、栗色の優しい瞳。陽の光を浴びて輝くひまわりのような鮮やかな髪をサイドテールにまとめているのがチャームポイントな、いかにも美少女といえる少女がそこに立っていたのだ。

 

 そして私は、彼女の事をとてもよく知っていた。

 

「皐月、ちゃん………どうして……?」

 

 “滝ノ宮(たきのみや) 皐月(さつき)”。

 

 私の幼馴染にして……………

 

 私の秘密を全て知る、唯一の人間であり………

 

 私が、“咲夜ハナ”として活動するきっかけを与えてくれた人物だ。

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