狩人は目を細めて前方を睨みつける。ほんの一瞬、老人の背後に赤々と燃える巨人の姿がちらついた。
しかしやはりというべきか、それに焦点を合わせようとすると、見間違いか何かだったかのように消えてしまう。
「くそったれ。あの女に土下座してでも魔法を習っておくべきだった」
掠れた声で悪態をつきつつ、猟銃を構える狩人。
当てずっぽうだが、視界に焼き付いた残像を信じて引き金を引く。
老人の頭上を通過した銀の弾丸は、何かにめり込んだようにひしゃげ、空中で静止した。やがて橙色の光を放ちながら形を崩し、どろりと溶けて地面に落ちる。
「急所に当てなきゃ話にならんな」
狩人が呟くとほぼ同時に、空気が熱とともに揺らいだ。悪寒を感じた彼は、とっさに前に立つ王子に叫ぶ。「下がれ!」
だが王子は彼の言葉が届く前に、素早く後方に飛び退っていた。まるで見えているかのように、燃え盛る巨人の腕を掻い潜る。
「お前、見えるのか!」
「いえ、攻撃の意図が読めるだけです」
険しい表情のまま返す王子。
狩人は眉をひそめたあと、すぐに目を見開く。「そっちの方がすごくね?!」
「『おとぼけ』さん! 白雪姫を守ってください!」
王子は兵舎の屋上からひょっこり顔を出す小人に気づくと、素早く指示を出した。彼は頷くと、すぐに頭を引っ込める。
「魔法を操る本人を狙うしかありません」
「分かってる」
狩人は不機嫌そうに呟くと、赤いぼろを纏った老人に狙いをつける。
銃口を向けられても彼は眉一つ動かさず、静かに狩人を見返すだけだ。
「ちっとはビビりやがれ。飲んだくれのくせに」
狩人はぎゅっと顔をしかめたあと、引き金を引いた。放たれた銀の散弾は、巨人の腕によって難なく防がれる。
しかしその防御によって生じた死角を王子は見逃さなかった。掲げられた腕の下を潜るように低く飛び込み、炎の魔術師に肉薄する。
「やあぁっ!」
気合いの声とともに繰り出される細剣の突き。
だが老人が身をひるがえすと、それは彼の纏うぼろを引き裂くだけに終わる。
「お前さんが先じゃな」
老人の呟きが夜闇に溶けるや否や、燃える二本の腕が王子に掴みかかった。
「……ッ」
彼は息を呑むが、素早い足捌きで何とか後方に逃れる。だが続けざまに放たれた攻撃に対処する余力はなかった。
王子を捕らえ損ねた腕は勢いそのままに地面を抉ると、彼めがけて砂礫を撒き散らす。極度の熱により緋色に輝くそれらは、さながら流星の群れのようだった。
完全に虚をつかれた王子は、為す術なくその光に呑まれてしまう。巨人の怪力によって飛び散った石は銃弾ほどではないが速く、また無作為で狙いが読めぬため、先を読んで回避することなどできなかったのだ。
「王子!」
狩人の叫びに、残念ながら答える者はいない。
撒き散らされた砂埃がヴェールのように辺りを覆い、重苦しい沈黙が訪れる。
視界が晴れると、周囲には未だ赤く光る小石が散乱していた。しかし肝心の王子の姿はどこにもない。
眉をひそめる狩人だったが、次の瞬間、その目が大きく見開かれる。彼の身体はくの字に折れ曲がり、紙屑のように地面を転がった。
放たれた巨人の拳が、腹部を捉えたのである。
「が……はっ」
夥しい血を吐き出す狩人。立ち上がろうとするも、自身の血溜まりで足が滑り、再び倒れ伏してしまう。身体を震わせ、何とか顔だけでも上げると老人を睨みつける。
無様な狩人の姿を見ても、魔術師に油断はなかった。胡乱げに目を細め、小さな声で呟く。「頑丈が過ぎる。やはり、戻りつつあるな」
「やってくれるじゃねえか、クソジジイ……」
口の中に残った血も腕で拭い去り、狩人はゆっくりと上体を起こした。震える腕で地面を鷲掴み、歯を剥き出して力を振り絞る。
吐血の量からしても明らかに致命傷であった。にも関わらず、彼はやがて立ち上がる。右手には、未だ猟銃を握りしめたままだ。
掠れた息を吐くと、銃口を老人に向ける。今まで数百、数千と繰り返してきた、洗練された無駄のない構えだ。
だが引き金に指をかけた直後にあることに気づき、舌を打つ。「……装填するのを忘れてた」
「何とも締まらんな、お前さんは」
呆れたように呟く老人。
だがそのとき、彼は向かってくる何者かの気配を感じとった。とっさに巨人の腕を周囲に広げ、自身の身を守らせる。
数瞬遅れ、夜空に灰色の影が踊った。いつの間にか姿を消していた黒い肌の密偵である。彼女は老人を急襲するも、蹴りは呆気なく炎の巨人に防がれた。
ブーツの表皮を焼き、内に仕込んだ金属をも溶かさんばかりの熱に、顔をしかめる密偵。
彼女は反動で再び宙を舞い、地を滑りつつ狩人の傍で停止する。
「……!」
狩人の姿を一目見た彼女は、思わず表情を歪めた。すぐに顔を背けて取り繕うも、動揺は隠しきれない。
「ご無事では……ないようですね」
「どうってことはない。それより王子は? 無事なのか?」
「『照れ屋』さんのおかげでなんとか」
「……アイツが間に合ってたか」
狩人は気怠げに息を吐いた。言われてみれば礫が王子に迫る直前、妙な黒い影が一瞬だけ見えたような気がしていた。幸いなことに、見間違いではなかったらしい。
「大人しくしていてください。それ以上動けば命に関わります」
「粥でも食って寝てろってのか? バカ言え」
狩人は血の混じった唾を吐き捨てると、銃の装填を始めた。右の銃口に火薬と弾を押し込むと、微かに震える腕で構え直す。
魔術師の老人は黙って二人の様子を見ていたが、やがて苦笑した。「助っ人がベルベル人の女一人とはな。友達の少なさは相変わらずらしい」
「うるせーよ」
言い返す狩人であったが、唐突に目を丸くする。
そしてすぐに眉をひそめ、老人の背後をじっと見た。
彼のぼやけた視界には、今や炎の巨人の全身がはっきりと映っている。常に燃えているせいで輪郭こそ揺らいでいるが、少なくとも頭部や胴、手足の区別はついた。
「お前、アレが見えるか」
狩人の問いに、黒い女は少しきょとんとした後に首を振る。「いいえ。しかし、どうにか回避は可能です」
「さっきの王子と同じか。十分だ」
狩人は親指で撃鉄を弾き上げた。「俺が魔術を止める。お前は突っ込んでいって、ジジイを蹴り殺せ」
「了解しました」
今度は間を空けずに頷く密偵。しゃがみこむように低く身構え、狩人を横目で一瞥する。「合図は?」
「お前に合わせてやる」
「恐縮です。……では」
密偵が小さく頷いた、次の瞬間。彼女の身体は鋭く前方に飛び出していた。地を這うように体勢低く、一直線に魔術師へと向かっていく。
「確かに合わせてやるとは言ったが、いきなりすぎるだろ。お前が合図しろよ」
ぼやきながらも、狩人は目線に照準を合わせた。
老人を狙うように見せかけ、発砲する直前に銃身をわずかにずらす。
放たれた銀の弾丸は、炎の巨人の頭部を正確に捉えた。
「!」
巨人は思わずふらつき、片手を地面につく。
弾は眉間の辺りの表面で止まっていたが、その衝撃は動きを止めるのに十分だった。
老人は振り返りすらしなかったが、何が起きたのかは理解したのだろう。鋭い目つきで狩人を睨みつけた。だがそれは一時のことで、すぐに向かってくる密偵の女に視線を戻す。
「愚かな。この程度で火の国の巨人は止まらぬぞ」
老人が呟くと、腕の焼き印が緋色の光を放つ。
すると奇妙なうめき声とともに、再び燃える巨人が立ち上がった。赤々と炎を滾らせ、両腕を振るい密偵を捕らえようとする。しかしその動きは、先と比べて明らかに鈍くなっていた。
彼女はふくよかな唇の間から短く息を吐きつつ、巨人の拳を紙一重で回避する。距離を詰める際の直線的な走りから、ゆらりと虚をつくような左右への動きに転じていた。
頭を地に擦りつけるような奇怪な姿勢から流れるように身体を滑らせると、二つの炎の拳はことごとく空を打つ。ばら撒かれる砂粒や石も、彼女を捉えることは叶わなかった。
巨人の体たらくに、思わず舌を打つ魔術師。腰の後ろに隠した手の平に、炎で象られた矢を生み出す。
しかしそれを放とうと前に出した直後、飛んできた弾丸が腕を掠める。銀の弾に穿たれた矢は輪郭が揺らぎ、幻のように消え去ってしまった。
「……ッ、このガキめ!」
ブーツに隠していた拳銃を素早く発砲した狩人に、老人は悪態をつく。しかし怒りはそこそこに密偵の女へと注意を戻す。彼女は巨人の腕を躱して飛び上がり、老人の頭上へと身を踊らせていた。
老人は鋭い目で彼女を見上げ、両腕を合わせるように突き出す。彼の動きに呼応するように、燃える巨人の手が密偵を捕らえようと左右から迫った。
しかし身のこなしにおいて、彼女は老人の経験から来る予測を超えていた。
襲い来る巨人の手を蹴りつけ、空中で身をひるがえす。逆立ちに近い体勢のまま、燃え盛る腕の間を縫うように宙を舞い、老人の背後にすり抜けた。
「ベルベル人じゃない」
魔術師は声を震わせる。「ベルベル人に、こんな動きは……」
それが彼の最後の言葉だった。
上下反転した体勢から放たれた彼女の回し蹴りは一度目は空振るが、回転して力がかかった二度目の一撃が、老人の頭部を確かに捉える。
打撃の音とは思えぬ凄まじい音が大気を震わせた。そして密偵がしなやかに着地を決めたとき、魔術師の首から上は何処かへと吹き飛んでしまっていた。
うなだれた巨人の姿は霞となって消え、頭を無くした彼の身体は、さながら案山子のようにひょろりと立ち尽くしている。
「ハ、ハハ……ざまあみろ。クソジジイめ」
狩人はよろめき、地面に膝をついた。慌てて駆け寄る密偵の女を手で制し、再び血の混じった唾を吐く。
「俺のことはもういい。それより……小人たちと王子を頼む」
黒い女は途方に暮れたような顔をするが、やがて首を振り、狩人に無理やり肩を貸した。「いいえ。彼らには貴方が必要なはずです」
「くそったれが……」
顔をしかめる狩人を何とか立ち上がらせ、密偵はその場から去ろうとする。
しかし大気の熱が未だ冷めぬことに気づき、慎重に後ろを振り返った。一度は鎮まったかに見えた篝火が、再び激しく燃え盛っている。
未だ立ち尽くす老人の足元に、ドロリと何かが落ちた。首から垂れたそれは、断じて血などではない。緋色に輝くその何かは煙を上げ、地面を溶かしつつゆっくりと広がっていく。
首の断面と思われる箇所から、ズルリと何かが顔を出した。燃える大きな髑髏としか形容できないそれは窮屈そうに身体を震わせ、繭でもありまた檻でもあった老人の亡骸から這い出してくる。
黒檀のような黒い骨格に激しい炎を纏ったその怪物は、まだ上半身しか出ていないものの、先ほどの巨人と同じかそれ以上に大きく見えた。
「なんなん何なんだ何なんだ何なんだこのジジイはよぉ!!?」
情けない悲鳴をあげる狩人を密偵の女は背にかばい、勇敢にも構えをとる。
しかしその目には彼以上に隠しきれない不安の色があった。「物理の通じる相手だと良いのですが」
「そんなこと言うなよ! 無敵の蹴りでさっさと何とかしてくれよぉ!」
重傷のためか、かつてないほどみっともなくわめき散らす狩人。髑髏の化け物は他のものに興味を示さず、ただ狩人のみに狙いを定めて迫ってくる。
周囲に撒き散らされる熱も、先の巨人の比ではない。手をついた箇所の地面は赤々と光りながら溶け崩れ、緋色に輝く沼を生み出していく。
一か八か、黒い女が攻撃に転じようとしたそのとき。彼女の首筋が何かを察したようにピクリと揺れた。
踵を返して狩人の襟の後ろを掴むと、怪物から急いで距離を取る。
遅れて降り注いだのは、銀色に輝く矢の雨だった。いつの間にか城壁の上に展開していた『隣の国』の弓兵たちが放ったものである。
長弓による鋭く重い矢は魔に抗する聖銀であり、怪物の放つ熱にも形が崩れることはなかった。さすがの髑髏の化け物もわずかながら怯みを見せ、頭を左右に振り乱す。
その隙をつくように、兵舎の影から何かが飛び出した。小さな黒い人影に見えるそれは、目視で捉えるにはあまりに速い。
しかし一歩踏み込んだ次の瞬間、その姿はさらに加速し、もはや影すらその場に残さなかった。
果たして何が起きたのか。その動きを見切れる者は、少なくともこの場にはいなかった。
「……!?」
仰天する密偵のまさに目の前で、怪物の髑髏頭が首から離れ、ドスンと落下して地を揺らした。頭を喪った身体もゆっくりと崩れ落ち、骨の焼ける臭いとともに灰を撒き散らして消えていく。
頭はしばらく残っており、怨めしげに狩人を睨みつけていたが、やがて燃え尽きて灰の山へと変わる。
黒ずくめの小人は、肩越しに自ら仕留めた怪物をしばらく見ていた。逆手に握った長剣を手放すと、それは地面に落ちる前に粉々に砕け、風に流されて跡形もなく散っていく。
おそらく兵舎から拝借したこの国の兵士の剣だろう。彼に使われた武器はその速さが生み出す衝撃に耐えきれず、大体はこうなってしまうらしい。
狩人の元へやって来た『照れ屋』は、彼の足元に広がる血だまりに気づくと呟くように言った。「自分の心配をしろと忠告したはずだぞ」
「悪かったな」
珍しく素直に謝る狩人。小人の背後に積もった黒い灰の山をしばらく眺めていたが、やがて城壁の上に視線を移した。「アイツらは何処から湧いたんだ?」
彼の問いに、まだ動揺したままの密偵が返す。
「そ、その……我々が手引きしました。元から合流する作戦だったんです」
「そうなのか?」
「ええ。都から出陣した敵部隊をこちらの本隊が引きつけて逃げつつ、少数の精鋭がこっそり裏から侵入するというもので」
「俺は何も聞いてないけどな」
「申し訳ありません」
気まずそうに頭を下げる密偵を一瞥してから、狩人は溜め息をついた。
「口が軽くて頭が悪そうなヤツには知らされない本命ってとこか。どうせ王子も知らないんだろ」
「……はい」
「フン、別に良いさ」
彼は立ち上がり、唇についた血を袖で拭う。「作戦の立案者様に会いに行こうじゃないか」
城壁の上に集った精鋭の弓兵たちは、血まみれの狩人を見てもさほど驚きを見せなかった。
彼らの間を裂くようにして現れた顧問官も、同様に眉一つ動かさない。狩人の足元から頭の先までさっと視線を走らせ、最後に瞳の奥をじっと覗くように見てから口を開いた。「ご無事で何よりです」
「ああ、お互いにな」
軽く片手を上げて応じる狩人。
「これのどこが無事なんですか!?」
壁上から突き落とす勢いで顧問官を押し退ける王子。「すぐに医療兵を呼んでください! 早く!」
「そう騒ぐな。敵さんに見つかっちまうだろ」
「早く呼んでください!」
王子は狩人の言葉を無視し、隣にいた兵士に指示を飛ばす。
静かにその場を離れていく兵を尻目に、顧問官は抑揚のない声で言った。「ブランカ王女と小人たちも我々と一緒です」
「……誰だブランカって」
「白雪姫です」
「ああ、そうだったか。そいつは何より」
弱々しく笑う狩人に、顧問官は片方の眉を上げる。「気分はいかがですか?」
「それほど悪くない」
上着を脱がそうとしてきた王子の手を払いのけ、狩人は言葉を続けた。「他の連中から話は聞いたな?」
「ええ、大体は」
顧問官は狩人の目をじっと見ながら言う。「可能であれば、是非貴方からも話を訊きたい」
「相変わらず遠慮の無い野郎だ」
「恐縮です」
「俺から付け加える話なんてない。魔女が死んで、雷親父が復活し、さっきは馴染みの酒場のジジイが化け物に変わって襲ってきた。それだけだ」
「なるほど」
顧問官は無表情に頷くが、何か妙な間を空けてから返す。「それだけですか?」
「あ?」
狩人は眉をひそめて顔を上げた。質問の意図が分からず、口を開きかけたそのとき。
「狩人様!」
兵たちをかき分け、白雪姫と『おとぼけ』が駆け寄ってくる。狩人は小さく舌を打ったあと、顧問官に囁いた。「アイツらを何処かにやってくれ」
「何故です?」
「……俺はもう長くない」
狩人の短い言葉に、顧問官は目を細める。「ちょっと何言ってるか分からないです」
「何で分からねえんだよ」
しかめ面になる狩人の傍に、白雪姫は寄り添うように膝をついた。
『おとぼけ』も近寄ろうとするが、唐突に足を止める。目を見開き、怯えたように後ずさった。
「妖精族の目には何が見えますか?」
「……」
顧問官の問いに、微かに唇を震わせる『おとぼけ』。それは言葉にはならなかったが、彼は理解したように頷く。「なるほど」
「何でそいつの言うことは分かるんだよ……」
狩人は顧問官を睨みつけるが、彼はすでに踵を返し、兵舎とは反対の方角を見つめていた。「王が現れたようです」
「なに?」
狩人が聞き返すと、顧問官は振り返ることなく続ける。「城門前の広場に民衆が集まっています。そこに先ほど、曇王が姿を見せました」
「演説でもかますつもりか」
「そのようです」
顧問官の返答に、狩人は鼻を鳴らしてからゆっくりと立ち上がる。「俺もいちおうはこの国の民だ。ご拝聴にあずかろうじゃないか」
「今は動かない方が……」
心配そうな密偵の言葉を、狩人は途中で遮る。「平気だ。なんか知らんが元気になってきた」
「適当なこと言わないでください! その出血で……!」
王子はしがみついて止めようとするが、狩人は彼の頭を掴んで軽々と動きを止めてしまう。半端な体勢で腕をばたつかせる王子を横目で見てから、白雪姫も狩人を留めようとした。
しかし、彼の顔に視線を移したとき、その瞳の色に釘付けになる。
「……狩人様」
「あ?」
「その、目が……」
「なに?」
胡散臭そうに眉をひそめる狩人。彼の瞳は、今宵の満月のような金色の影を宿していた。瞳孔は大きく広がり、さながら飢えた獣のような獰猛な輝きを放っている。
「見張りの塔は制圧済みです。壁上を進んだのち城下に降りて民衆に紛れれば、見つかる可能性は低いでしょう」
顧問官はそれだけ言ったあと、弓兵たちにその場での待機を手振りで伝えた。早足で散歩するかのような歩調で、一人で先を歩いていく。
彼を一人で行かせまいと慌てて後を追う密偵に、追従する形で狩人たちが続く。狩人の治療をするべく駆けつけた医療兵は、戸惑った様子で彼らの背中を見送った。