混乱する人々の間を縫うように進み、路地裏に抜けた狩人たち。そこで彼らを待っていたのは隣の国の密偵の一人、手足のひょろりと長い痩せた男だった。
「待っていたぞ。王子は無事だな」
彼の言葉に、狩人は訝しげに口を開く。「誰だお前は?」
「密偵だ」
「ああ、そういや何度か会ってたか」
狩人は頭の後ろを掻いてからまた訊ねた。
「あんたと待ち合わせした覚えはないんだが。どうしてここへ来ると分かった?」
「仕事柄、我々は逃亡者の行動を予測することに長けている」
男は何やら物騒なことを言いつつ、目を細めて路地の入り口を見つめる。「彼は大丈夫か?」
「誰のことだよ」
振り返った狩人が目にしたのは、膝をついて荒い呼吸を繰り返す『おとぼけ』だった。額に滲んだ汗がポツポツと石の地面に落ち、小さな水滴を作っている。
「おいおい、大丈夫か?」
「どこかケガしたんですか?」
「具合が悪いの?」
狩人だけでなく、王子と白雪姫までもが小人に駆け寄った。彼は首を振り「大丈夫」と小声で呟く。
「外傷はありません。おそらく極度の緊張によるものでしょう。いっぱい活躍してくれましたから」
「頑張ったね」
王子の言葉に白雪姫は微笑み、『おとぼけ』の背中をさすってやった。
彼は視線を落としたまま、掠れた声で続ける。
「もう戦えないかも。矢もなくなっちゃった……」
「そりゃあんだけ景気よく撃ってりゃそうなるな」
肩をすくめる狩人だったが、不意にさっと顔色を変えた。鋭い殺気を感じたからだ。空に向け猟銃を構えるが、装弾していないことに気づいて舌を打つ。
痩せた密偵の男が、彼の代わりに素早く動いた。懐に手を入れ、数本の小さなナイフを投擲する。
一瞬の後、狩人の隣をすり抜けるように落ちてきたのは、漆黒の羽を燦めかせるカラスだった。胸と頭部にナイフが刺さり、事切れている。
「曇王の目の役を担う獣だ。この場所も気づかれたな」
密偵はそう呟くと、踵を返して路地の奥に顔を向ける。
「ついてこい。ウォルシンガム卿と合流する」
「急げよ。足音がそこら中から迫ってきてるぞ」
言いながら、狩人は『おとぼけ』を持ち上げて脇に抱えた。彼らは先導する密偵の背中を追い、暗い路地をひた走る。
揺らめく街灯のおぼろげな光が、頼りなく足元を照らしていた。狭い通りにはどうしても靴音が反響し、逃げる者たちの神経を無用に削る。
いくつかの曲がり角を過ぎたとき、器用にも走りながら装填していた狩人が警告した。
「左から新手だ。軽装で、おそらく銃を持ってる」
「憲兵隊だな」
密偵の男は頷くと、身につけた黒い手袋の具合を確かめる。
「私が時間を稼ぐ。貴方たちはこのまま真っ直ぐ進め」
「あんた一人でどうにかなるのか? 銃は持ってるんだろうな」
「必要ない」
狩人の問いに、男は事もなげに言い切ってみせた。だらりと下げた両腕には、銃はおろかナイフすら握られていない。
「そうかい。勝手にしな」
狩人はどうでも良さげに鼻を鳴らし、男に
「いたぞ! あそこだ!」
「姫以外は殺しても良い! 撃て!」
憲兵たちの声とともに、背後で銃声が轟く。
何の気なしに振り返った狩人が見たのは、飛んできた弾丸を造作もなく掴み取る密偵の姿だった。
「!?」
思わず足を止めた狩人の背に、王子たちがぶつかりそうになる。
次から次へと放たれる敵の銃弾を、黒い手袋の平で受け止める痩せた密偵。そうして手の中に集めた鉛弾を、指先で弾いて撃ち返した。
それらは憲兵たちの眉間や顎、鼻と唇の間に正確にめり込み、彼らは掠れた悲鳴を洩らして気絶する。
「あの人は大丈夫です。行きましょう!」
王子の一声に我に返った狩人は、呆れたように息を吐いてから再び走り出した。
「あいつはサーカス団員か何かか?」
彼の問いに、王子はきょとんとしてから首を振る。
「いえ。元々はロンドンの貧民街で、ならず者の用心棒をしていた方です。『銃いらず』と呼ばれていて……」
「あー、分かった分かった。もういい」
狩人は頭が痛そうに顔をしかめ、しばらく口を開かなかった。
彼らがそれほど道を行かぬうちに、今度は黒い肌の密偵に出くわした。彼女も狩人たちが逃げてくることを分かっていたらしい。狭い十字の岐路の際で、静かに彼らを待っていた。
「お怪我はありませんか?」
「さあな」
ぶっきらぼうに返す狩人。女は彼が脇に抱える『おとぼけ』に気づくと、目線を合わせるように少し屈む。「大丈夫ですか?」
「もう平気」
小人はそう返し、身をよじって狩人の腕の中から抜け出した。
「ウォルシンガム卿はどちらに?」
「こちらです」
王子が訊ねると、黒い肌の女は表情を引き締め彼らを案内する。
数分とかからず見えてきたのは、古い見張りの塔だった。首都の外壁に面して建てられているが、おそらく今は使われていないのだろう。青銅の大鐘は錆びつき、手すりのない階段はところどころ苔むして緑に染まっている。
「ご無事で何よりです」
狩人たちが塔の上まで登ってくると、顧問官は開口一番にそう言った。壁の向こうに広がる鬱屈とした森を見下ろしたまま、振り返る素振りすらない。
しかし最後に階段を上ってきた白雪姫の息遣いに気づくと、身体ごとそちらに向き直った。
「ご挨拶が遅れたことをお許しください。枢密顧問官、ウォルシンガムと申します」
恭しく頭を下げる顧問官。
白雪姫はスカートの裾を広げて軽くお辞儀を返すが、表情は固いままだった。
彼の慇懃の内より滲む、無機質な何かを察したせいかもしれない。ただでさえ先ほどは実の父親が殺されかけたばかりなのだ。
王子は少しムスッとした顔で、彼女を守るように前へ出た。
「今度から貴方は僕のことを叱れませんね。あんな向こう見ずで危険な行動に出るなんて」
「……」
「どうしてあんなことをしたんですか?」
唇を尖らせる王子に、顧問官は少ししてから返す。「あの稚拙な演説が聞くに堪えなかったのです」
「やっぱそうか。だと思ったぜ」
何故か嬉しそうな狩人を横目で睨みつつ、王子は再び訊ねた。
「なら、どうして手加減なんてしたんです?」
「?」
彼の言葉に狩人は眉をひそめ、顧問官も目の色を少し変える。「どういう意味でしょう」
「惚けないでください。貴方には相手を投げた直後に、あるいは投げている最中に刃物で首の急所を切る技があったはずです。魔女様のときもそうでしたけど……トドメをさせるタイミングをみすみす逃がす狙いは何ですか?」
王子がいったん口を閉じるまで、顧問官は興味深そうに彼を見ていた。
やや間を空けてから、無表情のまま告げる。「ちょっと何言ってるか分からないです」
「貴方のそういうところが嫌いなんですよ!」
ぷりぷり怒り出す王子をどうにかなだめたあと、狩人が口を挟んだ。
「朗報と言えるかは分からんが、あのキモ髭が生きてたぞ」
「そのようですね」
喜ぶ素振りもなく頷く顧問官。「元よりあの男に人並みの死があるとは思っていませんが」
「……?」
顧問官の言葉に狩人は眉根を狭めたが、あえて聞き流すことにした。
何か引っかかる言い回しだが、よくよく考えればどうでも良いことである。
「これからどうしよう……」
不安そうに呟く『おとぼけ』。顧問官は彼に視線を移し、何かを言いかけるが、それが誰かの耳に届くことはなかった。
頭上で雷雲が渦を巻き、ゴロゴロと恐ろしげな音を響かせたからだ。
分厚い黒雲は見る見るうちに首都の上空に集い、その濃さをさらに増していく。微かに透かしていた月の光は、もはや地上に届かない。
先の見通せぬ夜闇の中、雲同士がぶつかり合うことで生じる雷だけが、方々で刹那に街を照らしていた。
「雷親父め……何を始める気だ」
狩人は黒雲に鋭い目を向けて呟く。隣に立つ王子も不安そうに空を見上げていたが、やがて顧問官に訊ねた。
「ここが攻撃される可能性は?」
「考えられなくはないでしょう」
彼は特に表情を変えず、しかし注意深く雲を見つめたまま答える。
「しかしながら曇王は不意打ちを嫌い、正々堂々とした勝負を好む。それは貴方の方がよく知っているはずで……」
顧問官の声は、またもや途中で遮られた。
今までにないほどの凄まじい雷鳴が轟き、天と地とを激しく揺さぶったのだ。今宵は多くの稲妻があったが、そのどれよりも大きなものだった。
不気味に渦巻く雲の中心より生じた閃光は、しかし地上には落ちなかった。下ではなく、真上に向けて放たれたのだ。
先は歪まず分かれることもなく、一直線に上空へと立ち上る。それはもはや雷とは呼べぬ極光。天を貫く青い槍であった。
分厚い黒のヴェールに覆われているはずの地上にすらその光は届き、人々の瞼に焼きついていた。
「これは一体……?!」
黒い肌の密偵が狼狽えるが、顧問官は何も答えない。神経質そうに眉をひそめ、これから起こることを見逃すまいと空を注視している。
やがて黒雲は蠢き、先ほどとは逆向きに渦を巻いた。数秒とかからず、その中心に街を飲めるほどの大きな孔が開く。
そこから覗く曇天の向こうの空からは、日の光よりも眩い、星々の輝きを束ねたような光が、惜しみなく地上に降り注いでいた。
夜はおろか、真昼でさえもこのような空を目にすることは稀だろう。それはまさしく、この世ならざる光景だった。
狩人はピクリと瞼を動かし、首を傾ける。何処からともなく、高らかなラッパの音が響いた気がしたからだ。こんなときに楽器を鳴らす酔狂な者がいるとは思えないので、おそらく本当に気のせいだろう。
いずれにせよ、清らかで凛々しい金管の音は、すぐに雷鳴によって掻き消される。天の孔を取り巻くように幾重にも巡っていた稲妻が、四方八方に飛び散った。
雲間を抜けた雷たちは都の外に広がる森の各所に落ち、鋭く光を散らす。
「ふーん。何かよく分からんが、何かすごいな」
狩人は至極正直な感想を口にした。天の孔を指さし、顧問官の方へ振り返る。
「アレはどうするんだ。放っておいていいものなのか?」
「いいえ、大変危険な状況です。止めねばなりません」
言葉とは裏腹に、涼しげな顔で返す顧問官。
頭を抱えて地面にうずくまる『おとぼけ』に気づくと、彼の側に膝をつく。
「何か手立てをご存知ですか?」
「無理だよ……止めるなんて。誰にもできない」
「なるほど」
ブルブルと背中を震わせる小人の返答に、彼は頷いて立ち上がる。
「と、なると……やはり曇王には死人に戻っていただかねばなりません」
「ほう、そいつはいいな。手を貸すぜ」
狩人は鋭く口元を歪め、猟銃を鷲掴んだ。
腰を抜かしてへたれこんでいた王子が、それを聞いて慌てて立ち上がる。
「ま、待ってください。何がどうなってるにせよ、ヴァルデック王は白雪姫のお父様です。それを……」
「私は構いません」
「え?」
小さいがはっきりと響いた白雪姫の声に、王子は思わず動きを止めた。顧問官さえもわずかに目を瞠り、彼女を凝視している。
「……よろしいのですね?」
「はい」
白雪姫はもう一度、自分の意思を短くも明確に示した。彼女を見つめる顧問官の暗い瞳の奥で、何か奇妙な光がちらつく。
「差し支えなければ、理由を伺っても?」
「この国の人々を守るためです」
姫は振り返り、彼の顔を真っ直ぐに見返す。
その青い瞳は空の光にも劣らず凛として輝き、強い意思を示していた。
「演説で述べた通り、父は夢のために決して止まらぬでしょう。カトリックの神に代わる新たな秩序を打ち立てようとするはずです。しかしその夢に救われる人々以上に、大きな犠牲を出すことになります。父は多くの敵を殺し、また多くの民を失うはずです。理想は美しいですが、あまりにたくさんの血が流れることになる」
彼女はいったん唇を閉じ、ややあってから、少し俯いて視線を逸らす。
「……皆さんの国のように器用に振る舞えれば破滅を避けられるでしょうが、父はそのやり方を知らないし、好みません。勝利か、栄光の死か。あの人にあるのはそれだけなのです」
「貴女の説得にも応じないと?」
「はい」
白雪姫は顔を上げ、再び顧問官に真っ直ぐ向き直る。
「唯一神の教えに染まらぬ、あるいは染まれぬ民たちは迫害に遭ってきたし、おそらくこれからもそうでしょう。この世界に彼らの居場所などないのかもしれない。しかし、戦争は憎しみの連鎖を生むだけです。剣で解決できることなどたかが知れている。ゆえに、皆さんが父を止めてくださると言うのなら、私は協力します」
姫が話している間、顧問官はじっとその綺麗な瞳を見つめていた。そして彼女が言葉を切るや否やというところで、薄い唇に微かな笑みを浮かべる。
「……これはこれは。とんだ拾い物をしたものだ」
「何ですって??」
狩人や小人の耳でようやく聞き取れるような小さい呟きだったが、王子は鋭く反応する。
顧問官は軽く咳払いをすると、王子を横目で一瞥した。
「お美しいだけではない。何とも聡明で、先見の明のあるお方だ。貴方も是非見習うと良い」
「どうせバカですよ僕は! フンッ!」
不機嫌そうに顔をしかめ、プイッと顔を背ける王子。彼のふくれ面を指さして笑ったあと、狩人は猟銃を傾けて言った。
「どうせ殺るなら早い方がいいだろ。今すぐにでも行くか?」
「もう少し待ってください」
「?」
顧問官の返しに狩人は首を傾げる。
彼はいつしか神経質そうな表情に戻っており、再び壁の向こうに目を向けた。
「あと少しすれば、おそらく……」
「これ以上何が起きるってんだ」
肩をすくめる狩人であったが、不意に眉間に皺を寄せ、壁外の森に目を凝らす。塔から数百メートルと離れていないところに見える底なし沼が、ボコボコと泡立っていたからだ。
灰色と黒のまだらの泥面が重々しく波打ったかと思うと、やがて大きく盛り上がる。
沼の底から現れたのは、甲冑にその身を包む兵士たちだった。続々と地上に姿を晒す彼らの背には、この国の紋章が印されたマントがはためいている。
彼らの鎧は泥から出てきたとは思えぬほど煌びやかで美しく、手にする剣や盾、馬上槍にも錆一つ見られなかった。
「『死人返り』だ。すごい数だぞ」
塔の縁の手すりまで駆け寄る狩人。彼の言葉に、皆が彼の視線の先を追う。その中で『おとぼけ』だけがいち早く何かに気づき、顔色を真っ青にしていた。
「狩人さん、あれは……死人じゃないよ」
「あん?」
怪訝そうにする狩人の横で、顧問官も小人に同意する。
「仰るとおり。あれは死人返りではありません。動きが機敏すぎる」
「死人でないなら何なんだ?」
「『黄泉返り』です」
森に鋭い目を向ける顧問官の表情は、余裕の皮が少し剥がれているように見えた。
「先ほど天の門から放たれた雷によるものでしょう。曇王が全盛の力を取り戻しつつある証拠です」
「そんな……そんなバカな!」
王子は明らかに憤慨して彼の傍まで詰め寄る。
「死者の蘇生は神の御技です! それもあんなにたくさん……許されることではありません!!」
「奇遇ですね。私もそう思います」
顧問官は目を細め、兵士たちの動きを淡々と観察していた。
「この国には戦士たちの遺体を沼に沈めて弔う風習があります。過去に亡くなった者たち全てを生前の強さのまま使役できると言うのなら、まさに脅威の一言に尽きるでしょう」
「彼ら……こちらには来ません。南に向かっています。何故でしょう?」
黒い肌の密偵が狼狽えた様子で口を挟んだ。
彼女の言うとおり、蘇った兵士たちは事前に示し合わせたかのように隊列を組み、都に背を向けて歩き去っていく。
顧問官は彼女をジロリと睨み、心なしか声を低くした。
「貴女が私にそれを訊くのですか? 南の国境でローマが十字軍を編成中だと情報を共有しているはずですが」
「あ……」
思わず間抜けな声を洩らす彼女に、顧問官は耳元で小言を加える。
「いつまでも見習い気分でいられたら困りますよ。少しは密偵としての自覚を持ちなさい」
「……」
顔を赤くして俯く密偵。狩人は頭上を見上げ、目元を歪める。
「何でもいいが、これ以上おかしなことが起きる前に動いた方がいいんじゃないか? 見てみろ」
彼に促され、一同が輝く空を仰いだ。
天の孔の周囲で雷鳴が唸り、湧き立つ曇天が嵐を呼び起こす。しかし彼らの頭上に降ってくるのは、雨粒だけではなかった。
強風に揉まれ、バタバタと音を立てながら舞い降りてきたのは、文字がびっしりと記された紙だった。
一枚や二枚ではない。目に映るだけで数百、数千を超える数の黄ばんだ紙が、天の光の中から噴き出し、地上に降り注いでいる。
「読むな」
手元に舞ってきたそれに目を通そうとした密偵の女に、顧問官は短くも鋭く命じた。慌てて紙を手放した彼女を尻目に、王子や他の者たちにも言い放つ。
「決して読んではいけません。できれば触れない方がいい」
「そう言われるとものすごく読みたくなってくるが……分かった。やめておく」
言いながら狩人は帽子に触れ、そこに落ちてきた雨粒を掬って指先に乗せた。
それはどういうわけか黒ずんで粘り気があり、そして何より、錆びた鉄と漆の匂いがした。
黒い雨は徐々に激しさを増し、彼らの衣服を灰色に染めていく。
「次は槍の雨でも降るんじゃないか?」
「ありえますね」
狩人の軽口に顧問官が頷いた、そのときだった。
夜闇に溶けるような黒い人影が一つ、塔の手すりの上に音もなく現れる。
その場にいた全員がぎょっとしたが、顧問官だけは表情を変えなかった。
「何か吉報ですか、『照れ屋』さん」
「ああ。あんたの言った通り、ローマから接触があった」
小さな人影に目が慣れると、それは黒ずくめの小人であることが分かった。小人は懐から筒状に丸まった紙を取り出し、彼に手渡しながら告げる。
「『状況は我々にとってすこぶる悪い。曇王の抹殺に手を借してくれ』……要約するとそう書かれている」
顧問官は手紙を広げ、上から下までさっと目を通した。数秒と経たぬうちに読み終わり、紙をさっと丸め直す。
その顔には、今までの彼からはおよそ想像もつかない、深く悍ましいほどに歪んだ笑みが浮かんでいた。
「怖っ、おまっ、何だその笑い方! 怖えよ!」
狩人は悲鳴を上げて後ずさり、『おとぼけ』を踏みつけそうになる。
「お前普段から笑う練習しとけ! でなけりゃ一生笑うな! ホント怖いから! マジで!」
「失礼、お目汚しを」
顧問官は顔を手で覆い、少ししてから戻した。
いつもの無機質な表情に戻った彼に、王子は冷たい視線を向ける。
「……なるほど、合点がいきました。これでようやく、貴方の描いていた絵図の通りになったというわけですね」
「何のことでしょう」
「貴方は怖ろしい人です」
王子はそれだけ言うと押し黙り、顧問官に背を向けてしまう。
彼が最後に見せた恨めしげな目つきには、ひどい落胆と失望の色が窺えた。
あと三話くらいで終わりにできたらいいなと思ってます。さすがに長過ぎ。飽きた。
自分の作品読んでて具合悪くなったのは後にも先にもお前だけだよグリムウッド。