GRIM WOOD   作:無職のプーさん

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ⅩⅩⅩⅩⅢ 眠りの鎌

 

 直視が憚られるほど眩い空の孔が、首都全体をさながら真昼のようにくっきりと照らしている。

降りしきる黒い雨は徐々にその勢いを増し、煌々と輝く街の輪郭を水彩画のようにくすませていた。

 

「本当にこの辺りに現れるんだろうな?」

 

『顧問官はそう言っていた』

 

狩人の問いに『照れ屋』が筆談で応じる。

二人は古代ローマの時代のものと思われる、分厚い石造りの建物の上に陣取っていた。兵士や憲兵たちの目から逃れるため、姿勢を低くして標的を待ち伏せている。

 

『彼はここへ曇王をおびき寄せると言っていた』

 

続けて彼が掲げた紙に、狩人は舌を打つ。

頭から被った雨除けの布をずらし、黒ずくめの小人の顔を真っ直ぐ睨んだ。

 

「そうは言うが、もう二時間近くこのままじゃないか。あの雷親父が出てこなきゃ話が進まんぞ」

 

『信じて待つしかない』

 

狩人が言い終わる前に、小人はすかさず次の紙を見せていた。どうやらこのやりとりは彼の予想の範疇であったらしい。

狩人はもう一度舌を打つと正面に向き直る。

その脳裏で、数刻前に顧問官と交わした会話を思い起こしていた。

 

 

 

 

 

「体調は万全ですか」

 

「あぁ?」

 

森近くの見張りの塔で、顧問官が狩人に訊ねた。

彼は呆れたように目線をぐるりと回してから答える。

 

「おたくの素敵な笑顔のせいで心臓が破裂しかけたが、今はもう大丈夫だ」

 

「それは何よりです」

 

顧問官は頷き、言葉を続ける。「曇王の討伐の件ですが、是非とも貴方にお願いしたい」

 

「なに?」

 

「何ですって?」

 

狩人と王子の声が同時に響いた。二人は顔を見合わせた後、顧問官を見つめる。

 

「私はローマとの交渉に出向かねばなりませんので、使える戦力は限られます。長弓部隊は天候を操る曇王には分が悪いですし、ローリー卿は……はっきり言ってどう転ぶのか読めません」

 

「僕は?」

 

「貴方は長弓部隊とともに撤退していただきます」

 

顧問官の答えに、王子は厳しげな表情で返す。

「僕一人だけ安全な場所に行けと?」

 

「ブランカ様や小人さんたちも一緒ですから、寂しくはないはずです」

 

「寂しいとかそういう問題じゃありませんよ! 狩人さん一人に全て押しつけて逃げるなんて、できるわけないでしょう!」

 

「もはや貴方の出る幕はない」

 

声を荒げる王子に対し、顧問官は宣告のように言い放った。歯を食いしばり睨んでくる王子を見て、彼は冷たい表情のまま付け加える。

 

「そもそも、姫君を助けると言い出したのは貴方です。彼女の身の安全を保証する義務が貴方にはある。それとも……一度やると決めたことを途中で投げ出すおつもりですか?」

 

「ぐっ、ううっ、ぐぅ……」

 

ぐうの音しか出ない王子を横目に、狩人は口を挟んだ。

 

「散々自信満々に振る舞っておいてなんだが、評価が過ぎるんじゃないか? 俺一人であの王様を殺せるとは思えん。チン〇の騎士が加勢に入ったとしてもな」

 

「確かに……厳しい戦いになるでしょう」

 

顧問官は狩人の瞳の奥を覗くように見てから言った。

 

「しかし最後に勝つのは貴方だ。それだけは、すでに決まっていることです」

 

「……」

 

狩人は何とも言えない顔で彼を見返したあと、投げやり気味に肩をすくめる。

 

「まあ、そこまで言うなら。せいぜい期待に応えるとするさ」

 

「私も……」

 

白雪姫が何か言いかけるが、すかさず『照れ屋』がそれを制した。彼女と目を合わせてから顧問官の方に向き直り、低いがよく通る声を出す。

 

「俺も行こう。曇王の手の内は多少ながら把握している」

 

「それは頼もしい。是非お願いします」

 

相も変わらず、顧問官は表情を変えぬままに頷いた。

 

 

 

 

 

 回想に耽っていた狩人であったが、おもむろにピクリと肩を揺らした。「出やがった」

 

「ヴァルデックか?」

 

「いや」

 

狩人の視線を追い、『照れ屋』も正面に目を凝らす。都を十字に分かつ大通りの真ん中に、一人の女性が佇んでいるのが見えた。

 

まず目を引くのは、色鮮やかな赤いマントと頭巾だ。首元から長い栗色の髪が垂れ、腰のベルトには手斧、利き手には狩人のものによく似た猟銃が握られている。

目深に被った頭巾が陰を作り、表情は窺えない。

 

「曇王の側近の一人だ」

 

黒ずくめの小人は呟き、狩人を一瞥した。「……撃つのか?」

 

「いや、罠だ。手を出せばこっちの位置を知られる」

 

狩人は鋭く目を細め、頭巾の女の周囲を観察した。彼女以外に人影は見えず、気配と呼べるものもない。眩しくも輪郭のぼやけた街には、不気味な静けさだけが漂っていた。

 

「殺気は出すな。感づかれるぞ」

 

「分かってる」

 

小人の声に狩人は苛立たしげに応じた。

彼らと頭巾の女との間には十分すぎるほど距離があるが、それでも油断はできない。彼女の怖ろしさは、狩人自身がよく知っていた。

 

「曇王はここには来ないかもしれないな」

 

『照れ屋』の呟きに、狩人は文句を言おうと口を開くが、すぐ閉じることになった。大通りの城へと続く方角から、煌びやかな甲冑に身を包んだ一団がやって来たからである。

 

「『黄泉返り』の兵士たちだ」

 

「雷親父は見えるか?」

 

「いいや」

 

狩人の問いに、小人は首を振った。「だが、近くには来ているようだ。気配がある」

 

「よし」

 

彼は頷き、銃の撃鉄を跳ね上げる。短く息を吐いた後、狙いを黄泉返りの兵たちに定めた。

 

「どうせあの中にいるんだろ。あの図体だ。隠しようがない。少なくとも頭は抜けて見えるはずだ」

 

「そのはずだが、妙だな」

 

『照れ屋』はそう洩らし、眉間に皺を寄せていた。そして唐突に目を瞠ると、狩人に飛びついて頭を下げさせる。

狩人には分からず、妖精である小人にのみ掴める独特の気配が、彼らの背後から漂っていたのだ。

 

冷たい死の香りを纏う紫焔の刃が、刹那に彼らの頭上を過ぎた。気配は掴めずとも殺気を肌で感じた狩人は、間髪入れずに背後に銃を向ける。

 

そこにいたのは灰色の衣を靡かせ、ふわりと宙に浮く髑髏だった。背丈は狩人より低いが手に持つ鎌は長大で、人の首など容易く落とせるだろう。

それはまさに絵画や挿絵などにたびたび描かれる死の象徴、死神の姿そのものに見えた。

 

「誰だテメエは? 痩せすぎだぞ。ちゃんと飯食って肉をつけろ」

 

言いながら狩人は発砲するが、死神はゆるりとしなかやかに鎌を動かし、撒き散らされた銀の散弾を悉く受け流した。

 

美しく円を描く刃の勢いそのままに、反撃へと移る死神。しかし狩人の前に『照れ屋』が立ち塞がると、ピタリと鎌を止めた。

刃に纏う紫焔が揺らいだかと思うと、死神は後ろに退く。そして狩人が次弾を撃つ前に、その姿は灰色の霧となって消えてしまった。

 

「あの鎌には触れるな。魂を刈られるぞ」

 

「魂とか以前に、あんなものに斬られたら普通は即死だろ」

 

言いながら、狩人は手早く猟銃の装填を始める。

 

「それよりアイツ、お前の姿を見てすぐ逃げたよな。アレか? 昔カツアゲでもやったのか?」

 

「……」

 

彼の問いに小人は答えず、黙って死神の消えた場所を見ていた。やがて視線を横に流し、微かに目を細める。

その先には、こちらをじっと見つめる頭巾の女の姿があった。

 

「銃を撃ったのは失敗だったな。気づかれたぞ」

 

「どうせ想定の内だろ。問題ない」

 

狩人は不敵に笑って『照れ屋』の肩に手をかけた。その意図を理解し、小人も彼の腕を掴む。

 

「加減はするが、振り落とされるなよ」

 

言うや否や、彼は鋭く地を蹴った。

二人の身体は目にも止まらぬ速さで移動し、空中にその身を晒す。建物をひとっ飛びで越え、隣の民家の屋根に着地するも、その動きは止まるどころかさらに加速した。

行き先を予測されぬよう、直線ではなく左右への不規則な軌道を描き、頭巾の女の追跡を振り切る。

 

「……おえっ」

 

七つか八つ建物を越えたところで、狩人はえずいた。『照れ屋』は彼の身体を煙突の隙間に押し込んだあと、眼下の様子を窺う。

 

「上手くいったぞ。敵はこちらを見失った」

 

「そいつは何よりだ……うえっ」

 

狩人は青い顔で口元に手を当てている。

 

『本来なら人の身に耐えられる速さじゃない』

 

ここに来て思い出したように筆談に切り替える小人。少し考えてから次の紙に指を走らせ、狩人に見せた。

 

『あんたには素質がある。そのうち慣れるだろう』

 

「そいつはいい。だが、できればもうやりたくないな」

 

狩人は顔をしかめると、再び「うえぇっ」とえずく。

『照れ屋』はしばらく屋根の縁に立ち周囲を警戒していたが、ややあってから口を開く。

 

「曇王の居場所が分かった」

 

「なに? 本当か! ……おえっ」

 

狩人は煙突の隙間から何とか這い出し、『照れ屋』の隣に並んだ。身を低くした姿勢のまま、前方に銃の先を向ける。

 

「うえぇ何処だ、何処にいる?」

 

「あそこだ。何かと戦っている」

 

小人の指さす街の一角では、ちょうど稲妻と突風とが嵐のように荒狂っていた。青い閃光と舞い飛ぶ塵とが凄まじく、遠目には何が起きているのかさっぱり分からない。

 

『あれでは狙いをつけるのは難しいな』

 

「ああ。どの道この距離じゃ弾も届かん」

 

狩人は辺りの気配を探ってから慎重に立ち上がる。

 

「接近するぞ。何が起きているのかも確認したいしな」

 

『また俺が運ぼう。その方が速い』

 

小人の掲げた紙を見て、再び顔をしかめる狩人。

口を開くが、出てきた言葉は肯定でも否定でもなかった。

 

「……おえっ」

 

 

 

 

 

 狩人たちが到着したとき、すでにその場所は静けさに満ちていた。

城門前にほど近い大通りであり、左右には背の高い建物が規則正しく並んでいる。強風とそれに飛ばされた瓦礫によって窓ガラスのほとんどが割れ、歩道に散乱していた。

 

付近の裏路地に降り立ち、通りの様子を窺う狩人。彼が最初に気づいたのは、道の端々に無造作に転がる『魔女狩り』たちの死体だった。

 

まだ息があるのかもしれないが、死に体であることには違いない。草臥れた黒いコートは血にまみれ、何より離れた距離からでも濃厚な死の臭いが漂ってくる。

 

「またアイツらかよ……」

 

「連中は何処にでもいるな」

 

狩人の独り言に応じるように『照れ屋』が呟く。

狩人は壁に背を預けると、小人の方を見て言った。

 

「てっきり鉱山であの女に殺られたと思ってたが。アイツらってそんなに数が多いのか?」

 

「この国に入ったのは十五人程度だ」

 

「じゃあとっくに全滅しててもおかしくないはずだよな」

 

「トドメを刺し損ねたんだろう」

 

小人は狩人の疑問に答えるが、彼はさらに首を傾げる。「少なくとも俺が確認した連中は全員死んでいたが」

 

「知らないのか? 彼らは……」

 

そこまで言いかけ、小人は途中で口を閉じた。

懐から紙を引っ張り出し、素早く広げて見せる。

そこにはあらかじめ丁寧に文字が書かれていた。

 

『静かに。敵がいるぞ』

 

「……」

 

狩人は顔をしかめたが、特に何も言わずに彼から目を逸らす。路地の先に視線を向けると、『黄泉返り』の集団が通りを進んでいるのが見えた。整然と隊列を組み、一矢乱れることなく行進している。

 

「何の策なしにあの数には挑みたくないな。あいつらなんか強そうだし」

 

「同感だ」

 

狩人のぼやきに頷く『照れ屋』。注意深く敵を観察していたが、唐突に振り返った。その表情にはやや鋭さが増している。

 

「後ろから誰か来る」

 

「接近を許しちまったか」

 

舌を打ち、そちらに顔を向ける狩人。路地の奥から黒い人影が長く伸びているのに気づいた。

影は彼らに近づくにつれ形が定まっていき、やがてそれは痩せた長身の人物のものだと分かる。

 

「狼になれと言ったはずだぞ、猟犬」

 

「お前は……」

 

狩人はそちらに銃口を向けるが、引き金にかけた指には力が入っていなかった。

 

「お前は死んだはずだぞ。俺の記憶が正しければ、だが」

 

「ほほう。自分の記憶がアテにならんという自覚はあるのだな」

 

そう言って不気味に笑うのは、悪趣味なシルクハットを被った魔女狩りの首領だった。彼は小人を一瞥すると、意外そうに眉を上げる。

 

「珍しく友人を連れているな。それもなかなかに頼れそうじゃないか」

 

「俺たちに何か用か?」

 

「しいて言えば……激励かな」

 

狩人の問いに、魔女狩りの首領は顎に手をやってから答える。

 

「コソコソと隠れるしか能のない犬に、ケンカのやり方を教えにきてやったのだ」

 

「そいつはありがたいな」

 

挑発に近い言葉だが、狩人は肩をすくめるだけで怒りはしなかった。小人は二人の様子をしばらく見守ったあと、横から口を挟む。「何か伝えたいことでもあるのか」

 

「ああ。連中と交戦した結果、いくつか分かったことがあってな」

 

「情報提供は歓迎する」

 

「殊勝じゃないか」

 

首領は微笑んで小人に視線を移した。

 

「何処ぞのむっつりガムくんと違い、私は出し惜しみなどせんぞ。まず、あの空の光についてだが……」

 

話しながら首領が空に指を向けた、ちょうどそのときだった。沸き立つ灰色の霧とともに、先ほどの死神が姿を現したのだ。

彼の背後をとった形であり、長大な鎌を引いて横薙ぎに振るう構えを見せている。

 

「おい後ろー!!」

 

「なに、後ろぉ?」

 

胡乱げに振り返り、事態を把握する首領。

躱そうとするも、その刃はあまりにも速く巧みだった。紫焔に彩られた軌跡が胸を掠めると、彼は糸を切られた人形のようにその場に崩れ落ちてしまう。

 

鎌を手元に戻した死神の手には、黒い火の玉のようなものが握られていた。それは内に金の光を宿しており、雨の中でもゆらゆらと燃え盛っている。

 

「オイオイオイ、死んだわアイツ」

 

狩人は発砲しようとするが、『照れ屋』の動きの方が速い。小人は黒い影となって飛び出し、死神に正面からぶつかった。

 

言ってしまえば単なる体当たりだが、彼の速さを以てすれば凄まじい衝撃を伴う。死神は大きく怯み、『照れ屋』はその腹を足蹴にして距離をとった。いつの間に奪い取ったのか、脇には黒い火の玉を抱えている。

 

仰け反ったままの死神に向け、狩人の銀の弾丸が今度こそ放たれた。一見命中するかに見えたそれは、滑らかに動く鎌の刃によって流される。すかさず二発目の引き金を引く狩人だが、降り続く雨によって火薬が湿気ており、不発に終わってしまった。

 

舌打ちし、ブーツに隠した拳銃を抜く狩人。

目を離したのは秒にも満たない間であったが、その一瞬の内に死神の姿は掻き消えてしまっていた。

 

「出てきたり消えたり忙しいヤツだ」

 

狩人は吐き捨ててから小人の方に目を向ける。

「そいつはどうだ? 助かるのか?」

 

「おそらく問題ない」

 

『照れ屋』が火の玉を胸に押し込むと、魔女狩りの首領は息を吹き返す。大きく呼吸してから起き上がり、彼らの顔をまじまじと見返した。

 

「おお……貴重な体験をさせてもらったよ」

 

「だろうな」

 

頷く狩人に、首領は間を置かずに話を始める。

 

「で、さっきの続きだが、あの空の孔には一度閉じてもらわねばならん」

 

「何故だ?」

 

「アレが開いたままでは王に勝てんからだ。それに……放置しておくと非常に不味い」

 

「なるほど。確かにそんな感じではあるな」

 

狩人は相槌を打ちつつ続きを促した。「で、どうすれば止められる?」

 

「簡単だ。王に……」

 

言いながら、首領は唐突に腰のベルトから銃を抜いた。脇の下を潜らせるように発砲し、後方から迫っていた黄泉返りの兵士を一人仕留める。

彼らの甲冑は新品同然であり頑丈だが、銀の弾の貫通力には敵わなかった。

 

「おちおち話もしていられんな」

 

首領は煩わしげに溜め息を吐く。路地の両側から迫ってくる黄泉返りの兵士たちを、気怠げな目つきで眺めた。

 

「時間を稼いでやる。逃げろ」

 

「退路を塞がれている。逃げ場がない」

 

黒ずくめの小人はそう返し、懐から黒いナイフのようなものを取り出す。

 

「やむを得ない。この場で仕留める」

 

その声が狩人の耳に届く頃には、すでに彼の姿は影も残さず消えていた。

と同時に、兵士たちの甲冑の隙間から一斉に鮮血が噴き出し、ガチャガチャとやかましい音を立てながら崩れ落ちる。

瞬く間に通りの石畳は、兵士たちの屍で埋め尽くされた。

 

「もう全部あいつ一人で良いんじゃないか?」

 

肩をすくめる狩人だったが、頭上から落ちてきた敵兵に驚いて飛びすさった。他の者たち同様すでに事切れており、どうやら屋根の上でこちらを待ち伏せていたらしいことを数秒後に理解する。

 

「そう簡単にはいかない」

 

『照れ屋』の静かな呟きが影の中に反響する。

歩いて戻ってきた彼の頬には、敵の剣によるものと思われる深い傷ができていた。

 

「お先真っ暗ってことか」

 

狩人が苦笑すると、首領は彼の言葉に続けるように言う。「王に一太刀入れる」

 

「……何だって?」

 

「空の孔を塞ぐ方法だ。王を負傷させれば、奴の集中が途切れ魔術が解けるだろう」

 

首領の返答に、狩人は鼻の穴を膨らませた。「簡単に言ってくれるな」

 

「できないのか?」

 

「そうは言わないが……楽にこなせりゃ苦労はしない」

 

「お前にはできるはずだ」

 

魔女狩りの首領はニチャア、と気色の悪い笑みを浮かべる。「なにせ奴の片目を潰したのはお前という話だからな」

 

「……誰から聞いたんだ」

 

狩人の問いに、彼は口元に指を一本当てた。「それは秘密だ」

 

「出し惜しみしないとか最初に言ってなかったか?」

 

眉間に皺を寄せる狩人だったが、突然響き渡った声にビクッと肩を震わせた。それはまさに雷鳴に似た、天を突くような大声だった。

 

「隠れんぼは終わりだ、猟犬!! 余はここにいる!! 姿を見せろ!!」

 

「またまたご指名のようだ」

 

狩人は犬歯を見せるように獰猛に笑うと、銃の装填を終えてから立ち上がる。路地裏から通りに出ようとするその背中を、『照れ屋』が少し慌てた様子で呼び止めた。

 

「待て、まさか誘いに乗るつもりか?」

 

「埒を明かしに行くだけさ」

 

「正面からでは勝ち目がないぞ」

 

「かもな」

 

狩人は短く返しつつ、ぼんやりと空を見上げる。

そのとき偶然、視界を横切った一匹の蝿に気づくと、再び鋭い笑みを浮かべた。

 

「ヤツの方が俺より強い。だが、ここで逃げたら男じゃないんだ。そうだろ?」

 

「死にに行くようなものだぞ」

 

小人はなおも止めようとするが、首領は彼に倣わなかった。壁に寄りかかって腕を組み、ニヤニヤと気味悪く笑っている。

 

「素晴らしい。ようやく狼らしさが板についてきたな」

 

「あんたたちは一体何を言ってるんだ……」

 

呆然とする『照れ屋』をよそに、狩人は路地の出口である建物の縁に手をかけた。

最後に一度振り返り、「ここまでありがとな」と言葉を残すと、眩い光の差す通りに足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

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