雲間から月が顔を覗かせ、微かな光を地上に投げかけた。不気味な青白い霧が夜風に吹かれ、泥濘んだ土の上を滑るように流れていく。
その後を追うようにして、闇の中をゆらゆらと進む人の群れがあった。
歳の頃は様々で、働き盛りの男が多いが、わずかながら幼い子どももいる。身につけた衣服は泥に塗れて黒ずみ、灰色の肌には精気がない。代わりに蝋を思わせる、あるいは水に濡れたような、のっぺりとした光沢があった。黒く濁った目は虚ろで、半開きになった口からは掠れたうめき声が洩れている。
彼らは基本的に五体満足だが、稀に肘から先の腕が切り取られている者もいた。死者を愚弄する不信心者の仕業だろうが、腕だけを持っていく理由は定かではない。
「あれが……『死人返り』」
少年が呟いた。狩人と一緒に風下の高い木に登り、死人たちの行進を遠くから見守っている。
「見るのは初めてか?」
狩人の問いに、無言で頷く少年。
怖い物見たさか、息をするのも忘れるほどに魅入っている。
狩人は呆れて肩をすくめると、言葉を続けた。「あまり身を乗り出すなよ。細い枝の上だ。落ちても助けないぞ」
「お、落ちませんよ。子どもじゃないんですから」
少年はむっとした顔で言いつつも、乗り出していた身体を引っ込め、木の幹を片手でしっかり掴んだ。
「彼らは人を襲って食べると聞きました。事実ですか?」
「どうかな。少なくとも俺は襲われたことがない」
狩人の返答に、少年は目を見開いた。
「本当に? じゃあ彼らは……無害なのですか?」
「知らん。だが森に住む妖精たちは、奴らをひどく怖れている」
狩人は猟銃の手入れをしながら、死人の群れをぼんやりと眺めている。少年は目を瞬かせ、首を傾げた。
「妖精が怖がっているなら、それなりの理由があるはずですよね」
「死体が歩いてりゃ普通は誰だって怖がるだろ」
「まあ、それはそうですけど」
少年はしばらく死人たちの行進を眺めていたが、ふと狩人を横目で見やる。
「死者たちを操っているのは何者か、ご存知ですか?」
「さあな。連中に直接聞いたらどうだ?」
面倒くさそうな狩人の顔をじっと見つめ、少年は真剣な表情で言った。「お礼はいたします。知ってることがあるなら教えてください」
「ちっ」
狩人は舌をうち、帽子を脱いで頭を掻いてから、また被りなおす。
「じゃあお前、その辺の底なし沼に飛び込めよ。ほら、ちょうどあそこにあるぞ」
木の下のくすんだ灰色の地面を指さす狩人。
少年は眉根を寄せると、首を乱暴に振った。
「もう沼には飛び込みません。絶対に!」
「何だと? それが命の恩人に対する態度か?」
「何を言われようと、拒否します!」
「テメエ……」
二人は互いに譲らず、険しい顔で睨み合う。だが少ししてから、狩人が不意に表情を崩し、にやりと笑った。「少しは男になったらしいな」
「……は?」
少年の顔がさらに歪むのを見て、彼は忍び笑いを洩らす。「ククッ、まあいいや」
「僕はよくありませんけど??」
「俺が良いって言ってんだから良いんだよ。それよりあいつらの話、聞きたくないのか?」
「……聞きたいです」
「じゃあ黙って聞いとけ。誰かが生み出して操ってるんじゃないかって話だったか? 俺に言わせれば、そんなことはない」
「本当に?」
「ああ。俺が知る限りだが、あれは自然が起こす現象だ」
「自然が……?」
「ああ。他所じゃ知らないが、魔の森ではそうなんだ。連中は嵐の日の夜に沼から現れる」
「嵐の日……」
首をひねる少年を見て、狩人は肩をすくめた。
「考えても分からんことさ。死人を歩かせるなんてのは人の業じゃない。それこそ神か悪魔か……」
そこまで言いかけて、狩人は口をつぐんだ。少年が彼を睨んでいることに気づいたからだ。思わず黙ってしまう程度には、鋭い目をしていた。
「神は死者を無闇に歩かせたりはしません」
「なら、たぶん悪魔だな。知らないが」
「……」
少年は無言で狩人を睨んでいたが、やがて俯いた。狩人は馬鹿にするように鼻を鳴らす。
「信心深いのは結構だが、この森じゃ糞の役にも立たないぞ。マッチの一本でも持ってた方がマシだ」
「……分かってます」
少年は俯いたまま、それだけ言った。
「ああ、マッチといえば……国境近くで森に火をつけていた連中がいたな」
「本当ですか?!」
狩人の言葉に、少年は驚いて顔を上げる。彼は頷き、火の手の見えた方向を手で示した。
「ちょうどあの辺りだった。すぐに見えなくなってたが。たぶん獣に襲われたんだろう」
「勝手な真似を……!」
そう呟く少年の顔色は、蒼白に近かった。
不安と心配の混じった表情で、狩人が指した方向を見つめている。
「きっと僕を探していたんです。日が落ちるまでに戻らなかったから……!」
「約束の時間を決めてたのか。そりゃ残念だったな。門限を無視したお前が悪い」
狩人は他人事のように言った。その言葉が耳に入ったか定かではないが、少年はぐっと唇を引き結ぶと、枝の上から勢いよく飛び降りる。
「おい、どこに行く? 」
「兵士たちと合流します! お世話になりました!」
軽やかに着地を決めるや否や、少年は走り出し、あっという間に茂みの奥に消えてしまった。
「おいおい、待てよ。お礼の件はどうなるんだ? たんまりくれるはずだよな? おい……」
狩人の声かけに返事はない。少年の足音すらも、すでに聞こえなくなっていた。静まりかえった夜の森には、死人たちの発する微かな音だけが響いている。
「ちっ。また底なし沼にはまっちまえ」
狩人はぶつぶつ悪態をつきながら、木の上から滑り降りた。柔らかな土の上に立ち、ズボンにはねた泥を手で払う。
そのとき初めて気づいた。足元を漂う霧が、先ほどよりもずっと濃くなっていることに。
「……」
狩人はゆっくり腰を上げ、眉をひそめると、周囲に視線を走らせた。革紐を緩め、背中の銃に手をかける。
妙な寒気を感じていた。身体の芯から少しずつ熱を奪われるような、心地良いとは言えない感覚。この寒気を感じるときは、必ず奴が近くにいる。
風向きが変わった。狩人はぴくりと肩を動かすと、猟銃の撃鉄を起こし、後ろを振り返る。
その銃口の向く先、霧と木々が作る闇の奥から、魔女が姿を現した。
「……おでましだな、クソ野郎」
「汚い言葉遣いはやめなさいと言ったはずよ」
魔女は黒いヴェールの奥の顔を不愉快そうにしかめる。狩人は彼女の一挙一動を見逃すまいと、鋭い目を細めた。
「その物騒なものを下げなさい。いつまで私に向けているつもり?」
魔女の低い声に、狩人は少し間を空けてから答える。「あんたが『この国一番の美女』を諦めるまで、かな」
「ふふん、言うようになったじゃない」
魔女の口元が面白そうに歪む。
「けど、私の素早さは知ってるでしょ? そんなもので私を捉えられるつもり?」
魔女と同様に、狩人の口元にも歪んだ笑みが浮かんだ。「あんたこそ銃を見くびりすぎだぜ。こいつが撃ち出す鉛は音を超える」
「弾がいくら速くても、捉えるのは貴方の目でしょう。人間には過ぎた道具よ」
「試してみるか?」
不敵な狩人の言葉に、魔女はしばらく黙っていた。
顎に手をやり、頭のてっぺんからつま先まで、狩人の身体をジロジロと見ている。
「……何だよ」
予想とは違った反応に面食らった狩人が、やや上擦った声で言った。
魔女はなおも彼をじっと見つめ、どこか呑気な調子で返す。
「いえ……貴方も大きくなったんだなあ……と思って」
「何言ってんだコイツ……」
狩人は呆れて呟いた。
魔女は悪戯っぽく笑うと、腰を少し折り、見上げるようにして狩人の顔を覗く。
「よっぽど白雪姫が気に入ったのね。年下が好み?」
「いや……」
「じゃあなにかしら。さっきの可愛い男の子に話してたこと? 男になれって? そうよねえ、格好よく手本を見せたいわよねえ?」
くすくすと笑う魔女の言葉に、狩人は目を見開いた。しかしそれは一瞬のことで、すぐに用心深く眉をひそめ、引き金に指をかける。
「……一体いつから見てやがった?」
魔女はにやりと笑った。単に悪戯っぽい笑みではない。それはどこか残酷めいたものだった。
「紹介したい人がいるの」
「……?」
狩人は首を傾げる。そのとき風向きが変わり、背中越しに空気が流れてきた。
狩人の肩がぴくりと揺れる。
死臭だ。近くにいる。手を伸ばせば届くほど、すぐ近くに。
「……くそっ」
小さく悪態をつき、泥にまみれるのも構わず横に飛んだ。一瞬遅れ、身の丈ほどもある両手剣が、彼の背後で縦一文字に振り下ろされる。
風を断ち切る轟音が響き渡った。
狩人は泥の上を転がり、片膝をついた体勢で、自分がさっきまで立っていた場所を見る。柔らかな黒い地面に、剣の起こした風圧だけで深々と溝が刻まれていた。溝は長く地を走り、数メートル先の大木にまで達している。
魔女は口元を手で隠し、高らかに笑った。
「オホホホ! よく躱したわね。流石私の猟犬! 偉い偉い」
「チッ……」
狩人は舌を打った。身を投げる選択をしたのはただの勘である。もし銃身で防ごうとしたら、諸共真っ二つになっていただろう。
「命乞いでもするべきか。靴でも舐めてやろうか? クソ野郎」
「汚い言葉遣いはやめなさいと、何度言わせれば気が済むの?」
「もう俺はクビなんだろう? そんな小言に従う義理はない」
「言うじゃない? ……今まで私の言うことに素直に従ったことなんてないくせに」
「フン」
魔女の恨み節に、狩人は鼻を鳴らして応える。
視線は魔女ではなく、彼の背後に亡霊のように立つ、一人の剣士に向けていた。
襟元に毛皮をあつらえた紺色のマントを羽織り、全身を甲冑に包んだ壮年の大男だ。屈強そうな体格に見合う、厳かで精悍な顔立ちをしている。
しかしその目は黒く濁り、焦点が合っていない。肌は灰色に染まり、水に濡れたような光沢がある。
「このいかついおっさんは誰だ?」
狩人の言葉に、魔女は顔をしかめた。
「世間知らずも大概にしなさい。この国の王様の顔くらい、一国民として知っておくべきよ」
「王様だと?」
「そうよ。『曇王ヴァルデック』。国王よ。知ってるわよね」
「まあ、名前くらいは」
「……はあ」
魔女は大きな溜息を吐き、手で額を覆う。馬鹿にするための仕草ではなく、本当に頭が痛そうな表情をしていた。
狩人は猟銃の無事を確かめると、十分な距離を取りつつ、ヴァルデック王に照準を合わせる。
だが彼は、狩人のことなど気にも留めていなかった。剣をぶら下げるように持ったまま、ゆらりゆらりと魔女の方に歩いていく。
魔女は優しく微笑むと両手を広げ、近づいてきた国王を迎え入れるように抱きしめた。
「良い子ね。どこかの猟犬とは大違い」
「そいつ……『死人返り』か?」
狩人の問いに、魔女は王の背に腕を回したまま答える。「そうよ。そういうところだけは察しが良いのね」
「自国の王様を化け物に変えたのか。俺が言うのも何だが、常識がないな」
「誰にも文句を言われる筋合いはないわ。この人は私の夫ですもの。私だけのもの」
魔女は王に口づけしたあと、その胸に頭を預けた。豊かな灰色の髭を蓄えた王の顔からは、何の感情も窺えない。微動だにせず、ただぼんやりと魔女の頭を見下ろしている。
狩人は顔をしかめつつ、魔女に銃口を向けた。
「少なくとも白雪姫にはあるだろうな。それはあいつの父親だ。墓に入れてやれ」
魔女は王に身体を預けたまま、首を横に振る。
「嫌よ」
「駄々をこねるな」
「駄々なんかこねてないわ。だってこの人が全てを捧げたのは娘じゃない。他でもない、この私ですもの」
「……何?」
狩人は眉をひそめた。魔女は王から身体を離すと、彼の手から剣を受け取る。
長大な両手剣だ。かなりの重量のはずだが、魔女は軽々と片手で持ち上げてみせる。
「この人はね……かつてはこの剣と同じだった。鋭くて、力強く、威厳に満ちていた。そして何より、理想に燃えていたの。私はそんなこの人に惹かれ、運命を共にすると誓った」
「昔話に付き合う気はないぞ」
「黙って聞きなさい。今すぐ殺してあげてもいいのよ?」
魔女は鼻を鳴らすと、剣の切っ先を空に向けて掲げた。微かな月明かりが透ける曇天を映し、その刀身はまだらな灰色に染まる。
「……でも、あの人は諦めた。全てをね。ちょうど前の奥さんを亡くし、私を妃に迎えたときよ」
「だから殺したのか?」
冷ややかな狩人の言葉に魔女は剣を下ろし、クックック、と忍び笑いを洩らした。
「そうよ。私が殺した。あの人は夢を諦め、全てを私に捧げると言ったのよ?」
魔女は剣を逆手に持ちかえ、力の限り強く、叩きつけるように地面に突き刺した。
泥が飛び散り、彼女の灰色のローブに染みを作ったが、気にする様子はない。
「だから奪ってあげたの。望み通り、全てをね! だから全ては私のものなの! この国のもの、全て!!」
魔女の叫びは、腹の底に長く溜まっていたものを吐き出すかのようだった。彼女の美しくも青白い顔には赤みが差し、形の良い唇は醜く歪んでいる。
ややあってから、狩人は控えめな声で言った。
「……いや、良い話だったよ。感動した」
「そう? それなら良かったわ」
魔女は幾分すっきりした様子で、乱れた銀色の髪を指で梳いた。
狩人は肩をすくめ、しかし次には表情を引き締めると、猟銃を構え直す。
「だが白雪姫は関係ないだろ。見逃してやれ」
「どうしてもそこだけは譲らないのね」
「そのつもりだ」
狩人の切れ長の目は、静かな殺気に満ちていた。
奇しくもそれは、かつて遭遇した『魔女狩り』の男の目と同じであった。魔女がいくら速かろうと、どんな奇策を使おうと、狙いを外すことはないだろう。予言じみた確信が、彼自身の中にあった。
「……死んでもいいのね?」
低い声でそう言った魔女の目にも、冷酷な光が浮かんでいた。ただしこちらには、確信が見えない。
「死んでもいいさ」
狩人は独り言のように言った。
ここで終わらせる。最早その決意に揺らぎはない。
おもむろに、ヴァルデック王がマントを静かに靡かせ、魔女の前に立った。魔女は顔をしかめ、無言で彼を横に押し退ける。
狩人はククッと笑みを溢すと、右手を前に出し、手招きした。
「なんならあんたからでもいいぜ、王様? やれ騎士やら英雄やらがお役御免になった理由を教えてやるよ」
「……!」
魔女はぎりりと歯を鳴らした。ヴェールに隠された菫色の目は、怒りで血走っている。
王が再び勝手に動き出し、魔女の前に立った。ぬかるみに突き立った両手剣を引き抜き、ゆるりと構えを取る。その目にはわずかに、高揚にも似た光が宿っていた。
「誰が動いていいって言ったのよ!!」
魔女のヒステリックな叫びが魔の森に木霊する。
王はだらりと腕を下げ、元の虚ろな目つきに戻った。
「おい……あまり大声を出すな。獣どもが寄ってくるだろ」
不安げに辺りを見回す狩人を睨みつけ、魔女はまたもや大声で叫ぶ。
「そんなの、みんなこの男に斬らせてしまえばいい! 曇王ヴァルデックの武勇伝を知らないの? とんでもなく強いのよ! 貴方に勝てるわけないでしょ!?」
魔女の大声にびくつきながらも、狩人は反論する。「いや、聞いたことはあるが……あんなの与太話だろ? 大体、こっちには銃があるし」
「銃が何だって言うのよ! そんなの一発外したら終わりでしょ!? 装填に時間がかかるんだから! 兵隊が陣形を組んで使って、初めてまともに運用できる代物じゃなくて?!」
「俺のは二連装式だから、二発入るぞ」
「知らないわそんなこと! 何が『死んでも言いさ☆』よ! かっこつけちゃって! 馬鹿じゃないの?!!」
「だから大声出すなって……!」
口の前に指を立てる狩人。彼の耳に茂みをかきわける、複数の足音が届いた。一匹や二匹ではない。少なくとも十、いや十五はいる。
「……ほら見ろ。言わんこっちゃない。あんたの後ろからたくさん来てるぞ」
狩人の言葉に、魔女は肩越しにちらりと背後を見やった。怪訝そうな顔をしていたが、やがてその顔に鋭い笑みが浮かぶ。
「問題ないわ。だって、獣じゃないもの」
「何だと?」
「遊びの時間は終わりよ。もう貴方に構っている暇はない」
魔女の不敵な笑みに、狩人は眉をひそめた。
そのとき、彼女の背後の茂みが揺れ、次々に人影が現れる。
「……!」
狩人は思わず息を呑んだ。確かにそれらは獣ではない。人影の群れはこの国の憲兵隊の制服を着用し、マスケット銃を携えていた。
その全身は泥に塗れて黒ずみ、顔には生気がない。虚ろな瞳でぼんやりと前を見つめ、ふらふらとした足取りで迫ってくる。
「こいつら……!」
狩人は顔をしかめ、身構えた。しかし憲兵隊は魔女も狩人も無視し、彼らの横を通り過ぎていく。
魔女の笑みが深く、残酷に歪むのを見て、狩人は全てを理解した。
「……テメエの仕業か」
静かな狩人の声に、魔女は苦笑してから一言だけ返す。「そうよ?」
「俺を捕らえるために放たれた連中だな」
「察しが良いじゃない」
「……いよいよ屑だな、テメエは」
魔女に向けた猟銃の先が、微かに震えていた。
「そこの超強い王様はともかく、あんな連中が何の役に立つって言うんだ? 解放してやれ」
「あら、役に立つわよ。だって戦いは数ですもの。さっき言ったでしょう? 銃は多勢で陣形を組んで使用して、初めて効果を発揮するって」
「……」
狩人は肩越しに後ろを見た。死人となった憲兵隊はふらふらとした足取りだが、真っ直ぐにある方向を目指している。
「国境に向かっているな。……つまり、攻撃させるつもりか。『隣の国』を」
「ちょっと試すだけよ。死人で構成した歩兵隊が実戦でどれだけ有効か、確認しないとね」
「国境付近をうろついてる連中がいるが……狙いはそいつらか」
狩人の言葉に魔女は笑みを消し、眉をひそめた。
「近頃の貴方は妙に物知りね。憲兵隊の件だってそうよ。……誰かに入れ知恵でもされた?」
「さあな」
狩人は肩をすくめる。「どの道、あんたをここで終わらせることに変わりはない」
魔女は呆れたように笑う。「白雪姫のため?」
「俺自身のためだ」
呟くように返し、狩人は引き金を引こうとした。
だがそのとき、魔女の足元から青白い霧が吹き上がり、その姿を見失う。
狩人は舌打ちし、勘を頼りに撃とうとしたが、何処からともなく響き渡る彼女の声に注意を奪われた。
「私に構っている余裕はないと思うけど?」
「どういう意味だ?」
「白雪姫の命は今、風前の灯火よ。私がまた訪ねていって、毒を盛ったの。数時間ほど前にね」
「……!!」
狩人はびくっと肩を震わせる。「……でたらめを言うな!」
「あら、嘘じゃないわよ。信じないのは勝手だけどね」
クスクスクス、と魔女の笑い声が周囲に反響した。
狩人は悪態をつき、少し迷ったあと、踵を返してその場を走り去る。
耳障りな魔女の高い笑い声が、いつまでも森に木霊していた。