青き篝火のアーカイブ   作::Crane

1 / 8
触発されて書き始めました。
よろしくお願いします。


#1:過去に焚べて、今を灯す

 今でも鮮明に、その記憶は(そよぎ)アタラヨの脳裏に焼き付いている。

 

 見る影もなく瓦礫と化した街並み。

 耳を塞いでも聞こえてきたサイレンと悲鳴。

 周囲の悉くを焼き尽くした無慈悲な()()()

 全てが夢なんじゃないかと疑ってしまうほど、巫山戯た景色。

 だけれどそんな異常事態を、アタラヨの目には縹渺(ひょうびょう)たるものとしか捉えきれていなかった。

 

 理由は単純。そんなものを遥かに凌駕する異常なものが、荘厳な鐘のような声音と共に、目の前に現れたからだ。

 自らを『願望装置』と名乗ったそれは、巨大な体躯でありながらも美しく神秘的で、内に底知れない狂気を孕んでいるような気がした。

 願望装置が言う。私は⬛︎⬛︎⬛︎の“願い”に喚ばれ、その“願い”を完全成就するための存在、と。

 ……言っている意味が分からなかった。

 だってそれは、絶対にありえないことで、()()()がそんなことをするはずがないからだ。そもそもの理由がない。全部、出鱈目。認めたくなかった。

 しかし願望装置は、アタラヨの反応なんて意に介さず、理解し難い言葉の羅列で話を続ける。

 やがて願望装置が耳を疑うことを口にした。

 

『もう間もなく、⬛︎⬛︎⬛︎の“神秘”は灰燼と帰して、息絶えてしまうでしょう。ですが、まだ彼女の“願い”は成就しておりません。これでは誓約に反してしまいます……』

 

 ああ……本当に、なんでこんな事になったんだろう……。

 その日は当たり障りのない一日だったはず。いつものように登校して、授業を受けて、友人たちと日が暮れるまで遊んだ。そして夜には、⬛︎⬛︎⬛︎に連れられて星を眺めた。

 なのに、何故、あの人が死なねばならないのだろうか。

 

 嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 

 頭の中がぐちゃぐちゃになった。

 手段なんて選べなかった。

 自分を犠牲に救えるのなら、構わなかった。

 だから――

 

 梵アタラヨは、己の“神秘”を焚べて、青い炎に焼かれた。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

「…………非常……に、まずい…………どうしよ……これ……」

 

 アタラヨは、危機的状況に立たされていた。

 目の前に置かれたちょっと大きめのダンボール箱。手にはその伝票が握られている。

 届いたのはサイフォン式のコーヒーメーカーだ。『なんかオシャレだな〜』『カッコイイな〜』『安い〜』なんて思いながら、徹夜テンションでネットショッピングしてしまったものである。驚くなかれ、価格は脅威の五万円超え。全然安くない。完全にやらかしている。

 この事がお金にうるさい後輩にバレてしまえば、説教は免れないだろう。過去のやらかしを考えて、恐らく二時間コースは確定だ。

 しかし買ってしまったものはしょうがない。切り替えて行こう。

 幸いなことに、現在この部屋にはアタラヨしかいない。時計を見やれば、後輩たちが来るまで時間に余裕はある。――つまり、まだ隠蔽が可能というわけだ。

 

「…………よし」

 

 早速机の引き出しを開け、ファイルや書類などを一旦取り出し、ダンボール箱を入れ――閉める。

 

 ガンッ。

 

「…………え」

 

 もう一度、閉める。

 

 ガンッ。ガンッ。ガンッ。

 

「…………マジか……」

 

 どうやら上部分が引っかかって入らないらしい。

 まだだ!! まだ、負けてない!! 諦めたらそこでゲームセットだ!!!

 などど、脳内で某スポコン漫画擬きを繰り広げる。果たして彼は一体何と戦っているのだろうか。答え、証拠隠滅。

 よくよく考えたら、なんでダンボール箱ごと入れたのか、謎である。中のコーヒーメーカーを出せばいいものを……。焦り過ぎにもほどがある。

 まあ、今はとにかく時間との勝負だ。

 カッターナイフで封を開け、緩衝材を取り出すと、オシャレなデザインの箱が出てきた。流石、五万円。伊達ではない。箱の質感も最高。思わず呑気に眺めてしまう。

 

「いやぁ、高かったとはいえ、なんだかんだでいい買い物したんじゃない?」

「そうですね。あ、このコーヒーメーカーってかなりのブランドものでは? 奮発しちゃいましたね、アタラヨ先輩」

「そうなんだよー。テレビとかネットでよく見るし、レビューも中々好評でつい買っちゃった。結構オシャレなデザインしてr」

 

 コーヒーメーカーを取り出そうとした、アタラヨの手が止まる。汗がぶわっと出た。同時に尻尾も逆立つ。

 声のした方を見ると、そこにいたのは一つ下の後輩、生塩ノアだった。ニコニコと楽しげな微笑を浮かべ、アタラヨの隣に座っていた。相変わらず距離が近い。変にドキドキしてしまう。

 

「…………いつからいた???」

「アタラヨ先輩が引き出しをガンガンしてる所からです♪」

「うん。ほぼ最初からだね。え、扉は……」

「一応ノックはしましたけど、反応が無かったので」

「……まあ、いいや。ええっと、先に来たのは生塩さんだけ? もしそうだったら、早瀬さんには内緒にしてほしいんだけど……」

 

 おずおずと、お願いしてみる。

 するとノアは困ったように、人差し指を顎に当てて首を傾げた。

 

「うーん、それは無理なお願いですね。――だってもうユウカちゃん、アタラヨ先輩の後ろにいますから」

「……はぇ??」

 

 言われて、ぎぎぎ……と錆びたブリキの人形のように、後ろを振り返る。

 いた。もう一人の後輩、早瀬ユウカが仁王立ちでアタラヨの後ろに立っていたのだ。貼り付けたような満面の笑みが凄く怖い。ゆらゆらオーラっぽいものも溢れている。これはあれだ。大魔王ユウカ様のご降臨である。

 

「アタラヨ先輩? 一応聞きますけど、その高そうなコーヒーメーカーは、一体どうしたんですか?」

「…………や、ちゃうねん……」

「何が違うんですか? 大丈夫です。怒らないのでちゃんと正直に教えてください、ね?」

「えっ。すでに怒っt」

「何か言いました???」

「いえ、別に、ナニも。……えっと、そのぉ……くじ引きに当たりましてぇ……」

 

 この期に及んで言い逃れを試みるアタラヨ。もちろんそんなものは通じる筈もなく、ユウカの怒りは爆発した。

 

「じゃあ何なんですか、この伝票は! ネットで買い物するのはアタラヨ先輩の自由ですけど、五万円は高すぎます!! どうせまた徹夜してる時に買っちゃったんでしよ!!」

「だって……」

「だ、だってじゃないです! 可愛い顔しても今日という今日は許しませんからね!!」

「や、別にしてないんだけど……」

「そうですよユウカちゃん。アタラヨ先輩が可愛いのは常識かつ自然の摂理で、デフォルトなんです。だからどうあっても可愛くなっちゃうのは仕方のないこと」

「なにその壮大なフォロー。知ってる? こう見えて(やつがれ)男なんだけど」

「「? そんなの知ってますよ? 何を当たり前のことを」」

「急に冷めるじゃん」

 

 そもそもこんな火傷まみれの男のどこが可愛いいのか……未だに謎だ。

 だが、いい感じに話が逸れた。釈然とはしないが僥倖である。早くこの場から逃げよう。説教エスケープだ。

 他の話をし始めた二人に気づかれぬよう腰を上げ、そろぉりそろぉりと、アタラヨはゆっくり移動を開始――

 

「ンギィっ……!?」

 

 出来なかった。

 なぜなら、ユウカに腕を、ノアに尻尾を掴まれて引っ張られたからだ。二人はアタラヨが逃げるのを読んでいたらしい。流石と言わざるを得ない。でも、尻尾は過敏なのであまり引っ張らないでほしい。不意打ちでされるとビリビリしてしまう。

 

「どこに行かれるおつもりで?」

「話はまだ終わってませんよ? ですから――」

 

 ユウカとノアが笑顔でアタラヨに詰め寄る。

 ア、オワタ。

 

「「アタラヨ副会長、ちょっとお時間いただきますね」」

(……絶対ちょっとじゃない…………)

 

 もちろん、このあと滅茶苦茶叱られた。




男先生にするか、女先生にするか…悩んでます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。