意味は、明けてしまうのが惜しい夜の事だそうです。
ここは、『学園都市キヴォトス』。
数千もの学園で構成された超巨大な学園都市であり、生徒たち自身が各自治区事を統治、運営をしている。
生徒が“銃”を武装するのが常識の超銃器社会。
戦車が車と一緒に道路を走るのは当たり前。
銃撃音と爆発音が都市のBGMで、聴かない日が珍しい。
そんな殺伐としたこの都市には、三つの学校からなる『キヴォトス三大自治区』というものが存在する。
――自由と混沌を校風とし、キヴォトス内屈指の問題児たちが集まる【ゲヘナ学園】。
――ゲヘナ学園とは対照的に、優雅で善良な由緒正しきお嬢様学校の【トリニティ総合学園】。
――現在の技術では解き明かせない、七つの難題に挑む研究者の集団【ミレニアムサイエンススクール】。
そのマンモス校の一つに通う、ミレニアムサイエンススクールの三年生であるアタラヨは現在、後輩からの説教に打ちひしがれていた。自業自得なのだが削られたライフは限りなく零に近い。
だがしかし、
「――大体、なんでコーヒーメーカー買っちゃったんですか。どう考えても必要ないですよね? すぐお腹痛くなっちゃうからコーヒー飲めない癖に」
「飲めんるふす」
「それはどっちですか……。無駄な意地張らないでください。まだ届いたばかりですし、返品しましょう」
「ヤダ! ちゃんとお世話するから!!」
「ダメです!
「そんなコーヒーメーカーを捨て犬みたいに」
そう。この男、全くコーヒーを飲めないのだ。そもそもカフェインが体に合っておらず、摂取し過ぎるとすぐ腹痛を起こすのである。それなのに、『オシャレだなぁ』とかいうふわふわした理由で、コーヒーメーカー(サイフォン式)に五万円をぶっぱしてしまった。シンプルに阿呆。ちなみにカフェインの少ないものであれば飲める。
「いつも言ってますけど、アタラヨ先輩は浪費癖がヒドイです。お金を使うにしても、もっと計画的に使ってください! じゃないといつか全部無くなっちゃいますし、無くなって後悔するのはアタラヨ先輩なんですよ?」
「でも、ふとした時に一気に使うとさ、なんか、こう……飛ぶ」
「真顔でお金をヤバいクスリみたいに言わないでください! もうっ、ちゃんと分かってます?」
「分かってるよ、お母さん」
「誰がお母さんですかっ。先輩はセミナーの副会長なんですから、我が校の模範となるべくしっかりしてください!!」
「はいはい」
「はい、は一回です! まったく先輩って人は!」
「まあまあ落ち着いてください、ユウカちゃん。お説教はそのへんにして、そろそろ報告会議を始めましょう。アタラヨ先輩もユウカちゃんを困らせちゃダメですよ? ――はい、できました♪」
ユウカの説教中、セミナー・書記のノアはずっとアタラヨの長い髪で遊んでいたようで、髪は一本の三つ編みに結われていた。どうやら満足いくものができたらしい。ノアは上機嫌だ。
「どうですか、ユウカちゃん。やっぱりアタラヨ先輩には三つ編みが似合いますよね」
「そうね。いつもみたいなストレートの一つ結びもいいけど、アレンジしないと勿体ないわよね。せっかく綺麗な髪なんだし。あっ、今度ツーサイドアップにしてみましょうよ。絶対似合う!」
「やめてやめて。これ以上やったら女子力高まっちゃう」
あと男のツーサイドアップはいかがなものか……。それに自分の髪は遊び道具では……まあ、もう諦めた。二人が楽しそうにするなら、アタラヨとしても良いわけで。
「――さて、じゃあ会議しよっか。あ、髪結んでくれてありがとね、生塩さん」
「どういたしまして。では次は、尻尾にブラッシングしていきますね」
「え、あ、うん……よろしく? ……えーっと、じゃあ早瀬さんから報告お願い」
「ノア。後で私も尻尾ブラッシングしたい」
「早瀬さーん??」
「! んんっ。では、報告です」
セミナー内ではこうして定期的に会議が開かれる。
内容は他の学校と大体同じだ。
各部活動についてだったり、学校行事だったり、学内と学外で発生した問題だったりする。
「――というわけで、ゲーム開発部の子たちから『新しいゲームを作るために部費を上げて!!』と要望がありましたけど……どうする? ノア」
「あ、
「当然です。ついさっきお金のことで怒られた人の意見なんて聞けません。反省してください。」
「いや、でも……
「次またお金の無駄遣いしたら、ふりふりスカートのアイドル衣装+ツインテールの女装で、校内をファンサしながら歩いてもらいますからね」
「ひぃん」
「やりましょう! 今すぐに!!」
「ホント反省してますからっ、カメラ構えないで生塩さん! ていうかその一眼レフどっから持ってきたの!?」
ノアの私物らしい。
結局、ゲーム開発部の部費は、少しだけ増やすことで話は纏まった。ユウカからの『あの子たちのこと甘やかしすぎでは?』の視線はスルーして。
アタラヨの隣に座るノアが手帳片手に挙手をする。
「次は私からです。――数日前からブラックマーケットで、ミレニアム製のものが高値で取り引きされているという噂がありました。事実確認したところ噂は本当で、売られていたのは模造品……所謂コピー製品であることが判明。それもかなり質の低い、粗悪品だそうです」
「ちょっと何よそれ! このまま野放しにしてちゃミレニアムの品質が疑われるどころか、悪評がつくじゃない!!」
淡々したノアの説明に、ユウカが机を叩いて怒りを露わにした。
そうなってしまうのも無理もない。
学園都市キヴォトスにおいて、『最先端』『最新鋭』と呼称されるものの多くがミレニアムで開発されたものであり、この都市に広く普及し愛用されている。故にその偽物が出回るということは、ミレニアムの名を汚すといった意味を持ち、かなりの死活問題なのだ。
「当然、野放しするつもりはありません。すでに販売元の会社は突き止めています。なので【C&C】の方々と情報を共有し、相手に悟られて逃げられないよう、慎重に進めて作戦を――」
「それ。もう終わったよ」
「「…………はい???」」
アタラヨの一言に、ノアとユウカの声が重なった。
少しの間を置いたのち、ノアがアタラヨに訊ねる。
「……えーっと、終わったというのは、どういう……」
「そのまんまの意味。突撃して、潰して、全部終わらせたった。奇襲みたいな感じで攻めたから、すぐに片付けれたよ。あ、これ押収品ね。(勝手に)ヴァルキューレから借りてきたー」
(絶対勝手に持ってきましたね……)
(絶対勝手に持ってきたわね……)
「「…………はぁ」」
机に広げられた押収品を見て、ノアとユウカはため息吐き、呆れてしまう。
まあ、この副会長の予想外な行動は、今に始まったことじゃない。月イチのペースで荒事に首を突っ込むので、もう慣れてしまった。その度に怪我しないか二人は心配してしまうのだ。
改めて押収品を見てみる。
それはただのプラスチックだった。ミレニアムの製品を騙るにはあまりにも酷すぎる。側面に印字されたミレニアムのロゴは荒く、中に入っていた基盤もチープだ。極めつけは重量の傘増しとして鉄の塊が入っている始末。
「まったく、問題が解決したとはいえ、なんで単身で乗り込むんですか。そういう時はちゃんと連絡してくださいって、いつも言ってますよね?」
「ユウカちゃんの言う通りです。本当、単細胞な人なんですから。あれですか、アタラヨ先輩はアメーバか何かなんですか」
「アメーバて。いやホント、ゴメンなさい」
「とりあえず事件は解決したと、ネル先輩たちに報告しておきます。文句は色々言われるでしょうけど……その時覚悟してください、アタラヨ先輩。……怪我、してないですよね?」
心配そうにするノアに訊かれ、
「大丈夫。(あの人たちが雇われてるとは思わなかったけど)怪我なんかしてないよ。心配してくれてありがと、生塩さん」
「……っ」
そのあどけない表情に、ノアは若干頬を赤く染めた。
「そ、そうですか。でもあまり無茶なされないでください。ミレニアムやセミナーにとって、貴方は大切な人なんですから」
「うん。分かってる」
「本当に?」
「本当だってば。あ、もしかして信じてないね」
「ふふ、安心してください、ちゃんと信じてますから」
「グォッッホンッ!!」
わざとらしく、アタラヨとノアの会話に割って入るかのように、ユウカが咳き込んだ。
「……なに二人でイチャイチャしてるんですか。会議、終わってないんですけど……!」
「や、別にイチャイチャはしてn」
「あらあら、そんなに怒らないでください、ユウカちゃん。あ、寂しかったですか?」
「べ、別に、怒ってないわよ!? 全然寂しくもないし! ほ、ほら、報告続けて!」
「は〜い。と言いましても、あと残ってるのは、アタラヨ先輩への伝言だけですので」
「ん。
「はい。エンジニア部のウタハ先輩からの伝言です。『そろそろメンテナンスが必要だと思うから、今月中に来てほしい』と言っていました」
「ん、了解。あとで連絡入れとく」
短く受け答え、アタラヨはズボン越しに、
――七年前、キヴォトスの一部が青い炎に包まれた。
死傷者の数は数千人。過去に類を見ない、大火災だったと記録された。最悪の夜――『青い夜』として。
そしてその渦中にいたアタラヨは、数少ない生き残りであり、人智を超える『火種』に遭遇した唯一の人物だった。
『火種』は、
『彼女の命を救いたくば、貴方の“神秘”と身体の一部を捧げ、この炎に焚べて焼かれなさい』と。
だから、アタラヨは迷わず、
〖生徒情報〗
名前/梵アタラヨ
年齢/17歳
身長/168cm
趣味/散歩、ネットショッピング
学園/ミレニアムサイエンススクール
学年/3年
所属/セミナー・副会長
武器/レバーアクション式ライフル(改造型)
ミレニアムサイエンススクール在籍、単細胞な性格の少年。学園のみならず外の問題にも首を突っ込むことがあり、叱られるのもしばしば。ヘイローは無く、身体の至る所に火傷を負っており、右足にはエンジニア部製の義足を装着している。中性的な顔立ちと長い髪をしているため、女子と見間違われることが多い。意外と顔が広く、【暴君】の名で知られている。