前回の話でぐぅわって増えたのでびっくりです。
微睡みの中、一定間隔に揺れる列車内で目を覚ました。
――とても長い夢を見ていた気がする。
けれど内容は、どうにも思い出せない。
楽しかったような……。苦しかったような……。誰かに銃口を向けられていたような……。
それらは断片的な記憶。
無理に思い出そうとすると、まるでノイズが入るかのように、頭痛が起きる。
…………。
この列車は一体、何処に向かっているのだろうか。
駅に止まることもなく、アナウンスもなく、ただ延々とレールの上を緩やかに走っている。窓の景色も特別変わらない。澄み渡る青空だけ。もしかしたら今も夢を見ているのかもしれない。
…………?
いつの間にか手に持っていたタブレット端末が震えた。
端の割れた画面に、不可解な文字が映し出される。
〖……我々は望む、七つの嘆きを〗。
〖……我々は覚えている、ジェリコの古則を〗――と。
そして気づけば、向かいの席に座る髪の長い少女の姿があった。軍服のような白の服には血が滲んでおり、そこを伝って足元まで血が垂れている。
『……私のミスでした。――結局、この結果に辿り着いて初めて、あなたが正しいことを悟るだなんて……』
雲の隙間から陽光が射し、少女の輪郭をなぞる。
少女は小さく息を吐き、言葉の続きを紡いだ。
『……今更図々しいですが、お願いします。――きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……』
…………。
『――私が信じられる大人である、あなたになら、この捻れて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……。そこに繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです』
彼女の話す“捻れて歪んだ先の終着点”とは、
結局のところ、選んだものが正しいかどうかなんて誰にも分からない。全てが終わったあとに、『ああすれば良かった』『こうすれば良かった』と一人反省会を開いてしまうのだ。
たとえ無数にある選択肢の中から、最善を選んだとしても、ふとした時にそれは容赦なくひっくり返される。嘲笑うかのように何度も何度も。
だけどそれが、
『だから、どうか……』
ああ、分かっている……分かっているよ。
これはあるはずもない、小さな奇跡で生まれたひと時の夢の話。
覚めて、現実に戻ってしまえば、列車内での会話や少女のことを全て忘れてしまうだろう。
それでも私は――
◆ ◇ ◆
甲高い金属音と共に火花が散り、ライフル銃が宙を舞う。
その重い攻撃に負け、ライフル銃を持っていたオートマタは腰を抜かした。大勢いたはずの仲間たちはすでにやられていて、その半数は姿がない。どうやら助けもしないで逃げたらしい。
「…………で?」
「ヒィッ!!??」
銃の先端にある剣を突きつけて、自分を見下ろす、
なぜツーサイドアップなのか聞きたいところだが、奥で壁にめり込んでいる仲間の一人が彼を笑った瞬間、真っ先に潰されたので聞くことができない。……あれは果たして生きているのか。
少年の後ろでは、同じ髪型をした青髪の少女が、どこかに電話をしている。おそらくヴァルキューレ警察学校だろう。
「いや、変な声出してないで答えてくださいよ、あなた方が
「……くっ……!」
「アタラヨ先輩、ヴァルキューレに通報しました! 十分ぐらいで到着するそうです!」
「さっすが早瀬さん、仕事が早くて助かるよ〜。あ、転がってるヤツら拘束してくれる? 結構強めに攻撃したから、しばらくは目を覚まさないと思うけど念の為に、ね」
「分かりました。逃げた方はどうしますか? 追いますか? 多分そう遠くには逃げてないとは思いますが……」
「ん、追わなくていいよ。大事な銃を捨てて逃げたんだ。戦意喪失した雑魚に用はないよ。……ねえ、なんで黙ってるんですか? せっかく考える暇をあげたのに」
「……ッ!?」
銃先の剣が、オートマタの喉を少し削る。
「もう、その喉掻っ捌いて、喋れなくしてやろうか?」
アタラヨから冷淡な視線を向けられ、オートマタはたじろぐ。
最初の計画では不意を突いて、アタラヨと一緒にいる少女を人質にするつもりだった。
だったのだが、仲間がアタラヨの髪型と火傷の痕を笑った瞬間、計画は破綻。為す術なく、ものの数分で全員完膚なきまでにやられたのだ。
「……きっ、貴様があの夜襲撃したおかげで、我々は!! 我社は倒産寸前なんだぞ!! どう責任を取ってくれる!!!!」
一瞬キョトンとしたのち、アタラヨはため息を吐いた。
「あー……そういう感じ? 報復ってやつですか。くだらない」
「なんだと!?」
「だってそうでしょ。あなた方がやった事は潰されて同然の自業自得。ミレニアムと正規の契約を結べば良かったのに、なんで欲を出して偽物売るんですか。それもかなり出来の悪いものを」
「……ッ。だ、だからといってあそこまでやる必要は!」
「あるに決まってんだろ。理由とか経緯がどうであれ、ミレニアムの築き上げてきた軌跡と名を汚したんだ。それだけは絶対に赦されない。だから潰した。――ていうか今更だけど弱すぎない? 学生一人相手に何も出来ずに負けるってどうなの? 普通にダサいね。それならそこら辺の不良と戦った方がまだマシ」
「ッ、糞ガキが……!!」
オートマタがアタラヨを恨みがましく睨みつける。
だが、何やら秘策か余裕があるのか、オートマタは鼻で笑った。
「……ふっ。だがまあいいだろう。全員やられてしまったのは想定外ではあったが、我々にはまだ
「そういうのもういいから、黙っててください」
「ぅぐあッ!!??」
オートマタが言い終わる前にアタラヨは、オートマタの首目掛けて銃を振り下ろした。峰打ちである。
しかし、だ。まさか先日襲撃した会社の残党が、白昼堂々襲ってくるなんて思わなかった。それと最後に言っていた『あのお方』とは一体……。まあ、気にすることもない些細なものだろう。
「……わざわざ煽る必要ありました?」
ユウカの問いに、アタラヨは自分の髪を弄りながら答える。
「なんとなくだよ。それはそれてして、もうこの髪型やめていい? なんかふわふわして落ち着かないんだけど」
「アタラヨ先輩が会議に遅刻したから悪いんですよ。大丈夫です、ちゃんと似合ってて可愛いので安心してください! ノアも喜んでましたし!」
「安心とは? ていうかそれ先週の話じゃん。遅刻した
「ダメに決まってるでしょ! これから連邦生徒会長に会うんですから、もう諦めてください!」
「だから嫌なんだよぉ……。……じゃあせめて髪だけでm」
「それこそダメです!!」
「ええぇ…………なぜ……」
アタラヨは、深ぁぁぁいため息を吐きながら、足元のオートマタを拘束する。
そして、目的地であるサンクトゥムタワーへと歩くのを再開させた。
――数千の学園で構成された学園都市キヴォトスの運営に従事し、キヴォトス全域の行政を担う中央組織がある。それが【連邦生徒会】だ。
連邦生徒会には、財務室、調停室、防衛室などといった十一の部署で主な業務を扱う『行政委員会』と、それらを取りまとめる『統括室』で構成されている。
毎日のように銃弾が飛び交うキヴォトスの治安と均等が保たれているのは、連邦生徒会の存在が大きいと言っても過言ではない。
だが、数週間前よりキヴォトスの各地で問題が多発している。現にミレニアムでも設備がシャットダウンしたりと、その対応に追われていたのだ。今のところ原因は分からない。
「
「なに弱気になってるんですか。ほら、シャキッとしてください! ミレニアムのこともそうですけど、今のキヴォトスの混乱についてを連邦生徒会長から直接説明会してもうために来たんですよ!」
「はーい」
「返事は伸ばさないっ」
やる気に満ち溢れたユウカに背中を押されながら、レセプションルームへ足を運ぶと、何人か見知った顔がいた。
これはまずい。この髪型のままでは彼女たちにも揶揄われてしまう。すぐさまアタラヨは、ユウカの後ろに隠れてヘアゴムを取ろうとする。
「あら? アタラヨではないですか。ミレニアムのセミナーも連邦生徒会長に用事が……会わない間に随分と可愛らしくなりましたね、アタラヨ。似合ってますよ、その髪型」
「お久しぶりです、アタラヨさん、ユウカさん。アタラヨさんは、とうとうそちら側の領域に足を踏み入れてしまったのですね。では早速、写真を一枚撮らせていただきます。ヒナ委員長がお喜びになられるので」
秒でバレた。しかもトリニティの羽川ハスミからはクスクスと微笑ましそうにされ、ゲヘナの火宮チナツはスマホを向けてくる。不覚にも反射的にピースしてしまった。
「あなたがここに来るのは珍しいのでは? どういう風の吹き回しですか」
「どういうって……そりゃあカワイイカワイイ後輩にお願いされたからに決まってるでしょ」
「カワっ!?」
「ほら見てみ、ベリーキューどぅっ!!??」
顔を真っ赤にさせたユウカに、思い切っり横腹をどつかれてアタラヨはよろめいた。
「うぅ、後輩の照れ隠しが痛い……。あ、火宮さん、空崎さんの調子はどう? 最近不良グループを一掃したって聞いたんだけど」
「私たちとしては休んで頂きたいですけれど、相変わらずです」
「……そっか、相変わらず頑張ってるんだね」
すると、頭に鳥羽がある銀髪の少女がアタラヨに近づき、手を差し出してきた。初めて見る顔だ。
「初めまして、私、トリニティの自警団に所属している守月スズミと言います。ミレニアムの梵アタラヨさんですよね? お噂は色々と伺っていたので、お会いできて光栄です。……その火傷、大丈夫ですか?」
「ああ、うん、よろしく。火傷は気にしないでくれると嬉しいかな。ていうか
そんなことを考えながら、スズミと握手していると、スズミがアタラヨを訝しむように見ていた。
「?
「いえ……えっと、男性と聞いていたのですが、女性だったんですね……」
「いや男で合ってるよ。自信もって」
「でも髪型が……あ、もしかして趣味」
「ではないです!! 断じて!!!」
全力で否定した。
それからしばらく五人で情報交換をし合っていると、この階に到着するエレベーターが音が聞こえたので、そちらに意識を向ける。
扉から出てきたのは二人の人物。一人は、この連邦生徒会の首席行政官である七神リン。彼女はアタラヨたちを見た途端、あからさまに面倒臭げな顔をする。
そして、そんなリンの後ろにいた意外な人物に、アタラヨは目を見開かせた。
「彼女たちがキヴォトスの生徒……? え、みんな銃持ってる……」
その人は、『大人』だった。