青き篝火のアーカイブ   作::Crane

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戦闘シーンって書いてて難しいですね。
もしかしたら書き直すかもしれません。


#5:連邦捜査部と狐と閃光手榴弾

「残念ながら連邦生徒会長は今、席におりません。端的に言いますと、あの人は行方不明になりました」

「……え!? 嘘!?」

「……行方不明に……?」

「やはりトリニティで聞いた噂は事実でしたか……」

「…………」

 

 淡々とした口調のリンの言葉に、ユウカとチナツは驚き、ハスミとアタラヨは眉根を寄せた。

 

(……そういえば、ミレニアムの子たちもそんな噂してたっけ。『キヴォトスが前以上に荒れ始めたのは、連邦生徒会長がいなくなったからじゃない?』とかなんとか)

 

 そこでアタラヨは、解いた髪をいつものように雑な一纏めにしながら、ハスミたちに聞いた話を頭の中で整理する。少女たちの『あっ』という声は無視して。

 

 ①何週間も前から学園都市の至る所で問題が起きている。

 ②連邦矯正局で停学中の生徒たちが、一部脱走したとの情報。中には危険な人物がいるらしい。

 ③登下校中の生徒たちを襲う不良たちが急激に増え、治安の維持が難しくなっている。

 ④戦車やヘリコプターなどの、出処不明な武器の不法流通が二〇〇〇%以上も増加。バグレベルでおかしい上がり方だ。

 ⑤行方不明になった連邦生徒会長と、そのタイミングで現れた謎の大人。ヘイローもないので、おそらくキヴォトスの外から来たのだろう。

 

(……うーん、きな臭い)

 

 改めて、ソワソワして落ち着かない様子な、亜麻色の髪をした女性を見やる。

 歳は二〇代といったところだろうか。締められた紺のネクタイと白ワイシャツに、連邦生徒会のものと似たデザインのコートを着ている。

 背の高さはユウカと同じぐらいだが、少し猫背っぽくてどこか頼りない。

 

 リンの説明によると彼女はキヴォトスの“先生”として、連邦生徒会長が特別に指名した人物で、なんでも連邦生徒会長が立ち上げたという、()()()()()の担当顧問になるらしい。

 その名は、連邦捜査部【シャーレ】。

 それは単なる部活動ではなく、本来であれば制約のかかる各学園の自治区でも戦闘活動を可能にした、一種の超法規的機関だそうだ。

 しかしさっきからずっと、先生がこちらをチラチラと見てくる。理由は分からない。なのでとりあえず視線を合わせないようにした。目が合ってしまえば面倒なことは不可避と、アタラヨの直感がそう告げるのである。

 すると先生が何かを言いたげに低い位置で手を上げた。

 

「話の最中に水を差すようで申し訳ないけど、ちょっといいかな?」

「ええ構いませんよ。どうかされましたか、先生」

「ええっと、火傷の子の髪がずっと気になってて……。そんな結び方してたら、せっかくの綺麗な髪が傷んじゃうよ」

「え?」

「女の子なんだから髪は大切にしなきゃ」

「は」

 

 口をポカンとさせるアタラヨと、首を傾げる先生。二人以外の全員は堪えきれず吹き出した。

 こほんとリンが咳払いをし、先生に説明する。

 

「先生。勘違いするのも分かりますが、彼は歴とした男子生徒です」

「え、嘘……つまり男の娘……ってこと!?」

「そのイントネーションとテンション何なんですか、(やつがれ)キレそう」

「そのとおりです」

「いや、そのとおりじゃなくて! 認めないでよ七神さん! さては君ちゃんと寝てないな!?」

「落ち着きなさいアタラヨ。こら、拗ねて帰ろうとしないでください、頼みたいことがあるんですから。そもそも貴方が女子生徒に間違えられるのはいつものことでしょう?」

「………………い、いつもじゃないし。たまにだし……。月三回ぐらい……」

「声小さいですよ、アタラヨ先輩」

「三回って、結構間違えられてるんですね」

「まあアタラヨですし。もうここは一度吹っ切れて我々と同じ、正義実現委員会の制服を着ましょう。そして堕ちて負けてください」

「真顔で怖いこと言わないでっ?」

「ゲヘナで仕事を手伝ってくれる時も、よく髪を耳にかけたりしてますから」

「なるほど。彼はあざとい系の男の娘なんだね」

「あざとい系ってなんですか、あざとい系って」

「唆るね」

「おいコラ仮にも教師でしょ。顔が残念なことになってますよ。(……斬ってやろうかな)」

「あとアタラヨさんはよく飴をくれます」

「え、おばあちゃんなの?」

「こんぶ味とかうめ味です」

「おばあちゃんだ」

「もうやだ、何この生産性のない会話」

 

 目的の連邦生徒会長に会えなかったわけだし、帰ろうと出入口の方に足を向けようとしたところで、リンがアタラヨの腕を掴んだ。

 リンとそれなりの付き合いがあるので、何となく言いたいことは理解した。だからそんなに力強く握らないでほしいし、見つめなでほしい。アタラヨはくしゃくしゃと掻きむしってから、リンに視線を向ける。

 

「――それで? (やつがれ)は何を潰せばいい?」

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 D.U.外郭地区にあるシャーレの部室付近は、銃弾飛び交う戦場と化していた。そこかしこで爆発が起きており、焼け野原にもなっている。

 この騒動は、矯正局を脱走した生徒たちと、連邦生徒会に常日頃から恨みを抱える不良たちによるものだ。

 どうやら連邦生徒会が所有するシャーレの建物を占拠しようとしているらしい。それはまるで、そこに重要なものが隠されていると知っているかのように。

 

「♪〜〜」

 

 そんな喧々囂々の中、狐のお面を着けた少女が、上機嫌に鼻歌を歌いながら歩道橋の上を歩いていた。

 彼女の名は、狐坂ワカモ。

 矯正局から脱獄した生徒の一人で、今回の騒動を引き起起こした張本人である。そして、過去に襲撃事件を繰り返している危険人物でもあるのだ。

 

「あらあら、あちらは随分と派手で楽しそうですね。連邦生徒会の子犬たちと遊んでいるのでしょうか? フフフ、わたくしも一緒に戯れたいところですが……こんなところで油を売っている暇はありません。それに楽しみは最後まで取って置きませんと――」

「見〜〜〜つけたッ!!!」

「!!??」

 

 突然聴こえた声にワカモが振り返ると、銃剣を持つ白と青のフードを被った謎の人物が、自分に襲いかかって来ていた。

 すかさずワカモは銃剣の斬撃を躱し、後方へと跳躍。そして着地と同時に発砲する。

 だがその放たれた銃弾は、いとも容易く銃先の剣に弾かれてしまい、アスファルトの地面に着弾した。

 

「…………っ」

「………………」

 

 二人の間に張り詰めた空気が流れる。

 ワカモは、目の前の存在を胡乱気に睨み、違和感に気づく。

 

(……ヘイローがない……? それにあの火傷の痕……いえ、今はそんなことよりも、まさかこんなにも早く連邦生徒会の追っ手が来るなんて、想定外です……。しかも相当な手練! これは下手に相手するより、逃げた方が懸命でしょうか……)

 

 そう考えたワカモは、いつでも逃奔できるよう腰に装備した閃光手榴弾(スタングレネード)に指をかけ、意識を逸らせるため話しかける。

 

「どなたか存じませんが、随分と手荒な挨拶をされるのですね」

「それは申し訳ない、ちょっとテンション上がっちゃいましてね。ああ、まずは自己紹介からでした。――お初にお目にかかります、【百鬼夜行連合学院】の狐坂ワカモさん。(やつがれ)の名は(そよぎ)アタラヨ。見てのとおり、あなたの足止めをするために馳せ参じたただの男子高校生ですので、以後お見知りおきを。男子高校生ですので!」

「二回も言う必要あります?」

「初めて会う人には女子と間違われるので」

「よく分かりませんが大変そうですね。ですが、フードで顔を隠して名乗るのは些か失礼では?」

「そっちだってお面着けてるじゃないですか」

「わたくしはいいのです。普段からこうなので」

「なるほど、厨二ってやつだ」

「…………そんなにお望みのようでしたら、殺して差し上げましょうか?」

「フハハっ、いいですね。殺れるもんなら殺ってみろよ!!」

「!?」

 

 笑い、アタラヨがワカモに斬りかかる。

 予想外の動きにワカモは、咄嗟に閃光手榴弾(スタングレネード)から手を離し、自身の銃でアタラヨの斬撃を防ぐ。互いの銃先に付けられた刃同士がぶつかり合い、火花を散らす。

 ワカモは歯を食いしばり、アタラヨの銃剣を押しのけ間合いを取ろうとするも、逃がすまいとアタラヨが詰めてくる。未だにフードで顔ははっきりと伺えないが、その口元は三日月のような形をしていた。そして休む暇も与えられず何度も斬り結ぶ。

 

「――クッ……!(一体何なんです、この男は! 弾を撃たずにあんな短い刃だけで戦うなんて聞いたことがない!! それに一撃一撃がとにかく……!!)」 

 

 重い。そう、アタラヨの攻撃は重いのだ。

 アタラヨが扱うレバーアクション式ライフルの名は、【シリウス・ハーツ】。

 本来その複雑な構造により強度が弱いというデメリットを持つ銃だが、アタラヨは同級生のマイスターに改造してもらい、好き勝手振り回しても大丈夫なよう頑丈に出来ている。

 その分重量は倍以上になったし、射撃性能も格段に落ちてしまった。だけれどアタラヨにとってそれらは些細な問題である。何せこの男、自他共に認めるほどガバガバクソエイムの持ち主なのだから。

 まあ、だからと言って銃先に取り付けた剣だけで戦うのもおかしい話だけれど。

 

「〜〜〜〜っ。あなた厄介過ぎません!?」

「よく言われます。でも、これぐらいの気概がないとキヴォトスでやって行けないでしょ?」

「それは、まあ、否定しませんがっ。ああ、もう! しつこい! です!!」

 

 テンションハイなアタラヨの猛攻を弾き、出来た隙でワカモはアタラヨの腹に蹴りを入れる。今までの鬱憤を込めて。

 

「ぅぐッ!?」

「! ここです!」

 

 呻いてよろめいたアタラヨに、ワカモは銃を構えた。

 ワカモの頭には『隙を見て逃げる』なんて最初にあった考えはもう無くなっていて、どうにかしてこの男を一泡吹かせようと、無我夢中になっていた。心做しかワカモのテンションも上がっている。

 そのため無理な体勢のまま放たれた弾丸は、アタラヨのフードを掠めて捲り上げた。

 

「……フフフフフ。やあぁぁっと、撃たせてくれましたね、火傷のヒト。でも残念。頭を撃ち抜くつもりでしたのに、外してしまいました……。ですが次は外しません。絶対にあなたの息の音を――」

 

 顕になったアタラヨの素顔を見た瞬間、ワカモに生まれて初めての衝撃が走る。それはまるで、スナイパーライフルを持った天使に、心臓をズキューンッと撃ち抜かれたかのようだった。

 雑に結われた長い髪は白に濁った黒。半分火傷に覆われた中性的な顔立ち。ゆらゆら揺れる尻尾。爛々と輝かせて向けてくるその目に、ワカモの顔は段々と熱を帯びた。

 

(な、何なんですかっ、この気持ちは!? 顔も熱いですし、胸の音も五月蝿い! こ、これってまさか……いやいやいや落ち着きなさいワカモ!!  わたくしは『厄災の狐』! 周りから恐れられる女でしょ!? もう一度、あの火傷のヒトを見なさない! こんな漫画のようなことがわたくしにあるわけ……)

 

 頭をぶんぶんと振って雑念を払ってから、ワカモは自分の中にある疑惑の()()を否定するために、攻撃体勢のアタラヨをチラリと見やり――視線が交わる。

 本日二度目のスナイパーライフルを持った天使様が降臨。ズキューンッ、バキューンッ、とワカモの心臓を撃ち抜いた。

 

「かこッッッッッ!!!!」※かっこかわいいの意味

「えぇっ!?」

 

 謎の声を上げて、いきなり胸を抑えるワカモ。

 それに驚いたアタラヨは、斬りかかっていたのを急停止させるも、止まることができずバランスを崩してワカモを押し倒してしまった。カランカランと、何かが落ちる音もした。

 

「はわっ、はわわわ…………!(と、殿方に押し倒されてしまいました! これが噂の床ドンでして!? そ、それに、顔が近いです……!! って、あら? お面がない……? え、あ、嘘でしょう? わたくしの顔見られて――)」

「痛たた……。大丈夫ですかっ。ごめんなさい、止まれなく……あ、美人さんだ」

「びっっっっ!!??」

 

 ぽろりと出たアタラヨの言葉に、ワカモの心臓はもうどっくんどっくんでどえらいこっちゃになる。

 さっきまで殺気立てていた人物なのか、とアタラヨは困惑してワカモを疑う。

 

「ええっと……拍子抜けしちゃったというか、なんというか……。あー、どうします? まだ続けますか? (やつがれ)は構いませんよ」

「つ、続けるって、一体何を……」

「何って……。(戦いの続きを)やるのかやらないのか」

「やる!? なんて破廉恥な!!!」

「何が!!??」

「そ、そんなことより、いつまでそうしてるつもりですか! は、早く退いてください!」

「あ、ああ、ごめんなさい」

 

 アタラヨがワカモの上から退いて立ち上がると、ワカモは素早い動きで狐のお面を回収。数メートル距離をとってから装着し、息を整えてアタラヨに人差し指指を向けた。

 

「きょ、今日のところはこの辺で勘弁しておきましょう」

「それこっちのセリフでは?」

「う、五月蝿いです! とにかくっ、わたくしは認めませんから! 絶〜〜対に、認めませんから〜〜!!!」

「? 認めないって何を?」

「〜〜〜っ。こ、これでも喰らってください!!」

 

 ワカモはそう叫び、ピンを外した閃光手榴弾(スタングレネード)をアタラヨに投げつけた。

 

「ッ!?」

 

 甲高い大音量と共にアタラヨの視界が閃光で遮られる。

 瞼を開けた時には既に彼女は姿を消していた。周りを見渡しても気配は皆無。どうやら完全に逃げられたらしい。

 

「……。残念、逃がしちゃった。でもまあ愉しく遊べたし、時間稼ぎにはなった、かな?」

 

 髪をくしゃくしゃ掻き毟りながら独り言を呟く。

 するとポケットから着信音が鳴った。取り出したスマホの画面を見れば、相手はリンだった。アタラヨはシリウス・ハーツを肩に置き、電話に出る。

 

「はーい、アタラヨですよー。そっちは大丈夫? あの大人の人はちゃんと生きてる? 流れ弾で死んでない? 当たり所が悪ければ(やつがれ)と同じで簡単に死ぬみたいだし」

『アタラヨ……、不謹慎なこと言わないでください怒りますよ』

「アハハ、冗談だよ。で、どうなの。みんな怪我してない?」

『こちらは問題ないです。無事にシャーレの部室を奪還し、先生を送り届けることが出来ました。やはり、あなたを単独で動かせて正解でしたね。彼女……孤坂ワカモはどうしました?』

「さあ? 戦いはしたけど、どっか行っちゃった。でも多分大丈夫だよ」

『その根拠は』

「勘」

『はあ……。分かりました、念のため警戒はしておきます。まだ一部の不良生徒が暴れているので、アタラヨはユウカさんたちと合流してください』

「え、帰りたい」

『駄目です。ではお願いしますね』

 

 ブツっと通話が切れた。

 まったく人使いが荒い首席行政官だこと。いや、今は連邦生徒会長代理だったか。とりあえず早いとこ合流地点へ行こう。怒られて頭をぐりぐりされたくないので。

 

「――さて、と。もう一仕事、頑張りますか」

 

 アタラヨは歩道橋から飛び降り、丁度走ってきたトラックの荷台の上に乗って、リンが指定した場所へと向かった。




アタラヨに射撃センスはありません。ほぼ皆無です。
基本は銃剣でのゴリ押し近接戦闘で、弾は威嚇か牽制の時でしか使いません。でもごく稀に撃ちます。
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