青き篝火のアーカイブ   作::Crane

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#6: Cleaning&Clearing&Caring

 キヴォトスの外から先生がやって来て二週間が経過した。

 サンクトゥムタワーの制御権が回復したことにより、キヴォトスの混乱は収まった。とはいえ、矯正局を脱獄した生徒たちは未だに全員捕まっていないので、不安要素は完全に消えてはいない。アタラヨが対峙した『厄災の狐』こと孤坂ワカモの足取りも掴めずにいる。

 ヴァルキューレ警察学校に所属する知り合いの『狂犬』曰く、最後の目撃情報は、本屋で熱心に恋愛雑誌を読んでいたところらしい。あと電話越しに愚痴られた。

 

 今日は土曜日。本来であれば休みなので、ぐうたら惰眠を貪ったりしていたのだが、アタラヨはミレニアムを訪れていた。理由は単純。セミナー副会長として、今回の騒動で発生したミレニアム関連の問題を片付けるためだ。ちなみに徹夜は三日目に突入している。

 正直かなり限界だ。

 もしもスマホでネットショッピングアプリを起動したら最後、また余計な物を購入してしまうだろう。

 

(………………眠い……。……えっと、何が残ってたんだっけ? 風力発電所は復旧した……。暴走したミレニアム内のメカも、白石さんたちのおかげで止まった……。サーバーも問題なし……。あとはあれか、C&Cに依頼してたやつだ。うん、なんとかなりそうかな。これなら近いうちに顔出せそ……ん?)

 

 指折り数えながら、ふらふらの足取りでセミナーの教室へ向かっていると、アタラヨは二人掛けのソファを見つけた。……いや、見つけてしまった。

 

「…………」

 

 ソファから出る謎の引力によって、アタラヨの体が引っ張られる。そしてソファに腰を落として数秒。意識がぼーっとし始める。……やってしまった。

 これはまずい。非常にまずい。このまま眠ってしまえば、今日中に片付けられるはずの仕事が片付けられない。

 早く立ち上がらなければ!

 だがしかし、自分の体をいい感じに沈めるふかふかのソファと、夢の中へ誘ってくる睡魔に逆らえずアタラヨは――

 

「……………………………………すぅ……」

 

 ゆっくり瞼を閉じ、夢の虚へと落ちていった。

 

 ――しばらくして、アタラヨの耳に少しづつ話し声が聴こえてきた。

 ……甘い香りがする。誰だろうか? どこか聞き覚えのある声だ。

 後頭部に伝わってくる柔らかい温もりと、頭を優しく撫でられる感触。はっきりしない意識のまま瞼を上げると、何者かのたわわで豊満な双丘が、アタラヨの視界を遮っていたではないか。

 

「……でっっっっっっっか)

 

 思わずデリカシーの欠けらも無い声が出かけた。

 すると、その双丘からアッシュグレーの髪色をした少女が顔を覗かせた。頭にホワイトブリムを着けている。

 

「あ! おはよ〜副会長! よく眠れた〜?」

「……一之瀬……さん? え、何してんの」

「何って、膝枕だよ!」

「うん、それは分かる。なんで膝枕?」

「男の人はみんなこうすれば喜ぶって、雑誌に書いてあったからやってみたの!」

「そっかー。やってみた感想は?」

「思ったより普通! あとやっぱり副会長って女の子みたいだから男の子にやってる感じがしないかな☆」

 

 うーん、この大型ワンコ。メイドさんな一之瀬アスナの屈託のない笑顔が眩しい。そしてこの景色。眼福である。

 と、横から視線を感じた。チラリとそちらに目だけをやる。そこにはヤンキー座りでニヤニヤしている、スカジャンメイドの美甘ネルがいた。

 

「よお、アタラヨ。随分気持ちよさそーに寝てたじゃねーか。アスナの膝枕がそんなに良かったか? お?」

「うわっ」

「うわってなんだよ、うわって!! ぶっ殺されてぇのか!?」

「あーもう耳元で叫ばないでよ、鼓膜破れちゃう。ほらほら落ち着いて美甘さん。そんなにイライラしてたらストレスでお肌が荒れちゃうゾ☆」

「カリ――ン!! ロケットランチャー持ってこい!! このバカ副会長の頭ぶっ飛ばしてやる!!!!」

「お、落ち着いてくれネル先輩。副会長もネル先輩をあまり揶揄わないでほしい(副会長に膝枕……羨ましい……)」

 

 そう言って呆れたように褐色メイドの角楯カリンが、アタラヨに殴りかかろうとするネルを止める。アタラヨはケラケラ笑い、ネルたちの方へと寝返りをうつ。

 するとメガネを掛けたメイドの室笠アカネが、書類の束を持ってアタラヨに近づき、目線を合わせるようにしゃがんだ。

 

「お疲れ様です、副会長。我らC&C、任務完了致しました。こちらが報告書になります」

「ありがと。任務はどうだった? 怪我してない?」

「怪我の心配は必要ありません。ご覧のとおり全員無傷です。今回の任務も、隅々まで綺麗に掃除致しましたので」

「うん、無事なら良かったけど、室笠さんが掃除って言うと物騒に聞こえちゃうのはなんでだろう」

「うふふ。不思議ですね」

「不思議だね」

「不思議だねじゃねーんだよ。てめーはいつまでアスナの膝で寝てるつもりだ。みっともねーからさっさと起きろ」

「え〜(やつがれ)は〜、一之瀬さんの太腿に住民票移して永住するんで〜」

「こいつ頭沸いてんのか???」

 

 失礼なヤンキーメイドだな、と思いつつアタラヨは体を起こす。少し名残惜しい。軽く伸びをし、アカネから受け取った報告書に目を通そうとしていると、何かをねだるようにアスナが頭を突き出してくる。着けていたホワイトブリムは外されてあった。

 

「? どうかした?」

「ん!」

「……え?」

「ん〜!!」

「……あ〜。(人前で? しかもC&Cメンバーの? ……ところで報告書に付いてきた領収書の桁がおかしいんですけど。なんか零が異様に多いような……。え、見間違いだよね? 建物破壊って何? ……はぁ、また早瀬さんの雷が落ちる……)」

 

 アタラヨはうなだれ、現実逃避をするかのように両手でアスナの頭をわしゃわしゃと撫でる。いつもより割増で。アスナも「キャ〜〜!!」と言って嬉しそう。これはあれだ。ゴールデンレトリバーを撫でてる気分になって癒される。

 

「あはは副会長にめちゃくちゃにされちゃった♪」

「え」

「マジかよ。とんだ最低野郎だなこの副会長」

「は」

「なるほど。これが俗に言うセクハラというやつか」

「ちょっ」

「ではセミナーに報告しておきましょう。『セミナー副会長が女子生徒に対してあるまじき行為をした』と。月曜日の学校新聞が楽しみですね」

「好き勝手言ってるけど君達も大概だからね!?」

 

 アタラヨがネル達に報告書を突きつける。

 するとネルは目を逸らして口笛を吹き、カリンとアカネは自覚があるのか申し訳なさそうにする。アスナは「?」と分かってない様子だ。

 

「……今回お願いした任務の内容はなんだったでしょーか!? はい、角楯さん!」

「わ、私!? ……えっと、この前のキヴォトスの混乱に乗じて、ミレニアムにちょっかいを出した企業の調査。あとそこで開発された兵器の破壊……?」

「そう。大正解。破壊するのは兵器だけで良かったんだよ。なのに……それなのに……! なんで建物ごとぶっ壊しちゃったかな!? 早瀬さんから『やり過ぎないように』って、いつも言われてるでしょ!!??」

「それは……まあ、その、悪いと思ってる……」

「つい、お掃除に熱が入ってしまいまして……。次は、善処します……」

 

 ちゃんと反省してくれているようで良かった、とアタラヨは頷く。……いや、良くはないが。任務をこなす度に大暴れして帰って来るので、あれやこれやの弁償代が馬鹿にならないのである。領収書を見てユウカも頭を抱えてるわけだし。ミレニアムのお金は無限ではないのだ。

 

「じゃあ次、美甘さんと一之瀬さんの言い訳を聞こうか」

「簡単にぶっ壊れるビルが悪い」

「楽しかったよ? 花火みたいにドカーンって!」

「君たちの反省の色は無色かな?」

 

 後輩二人は素直に謝ったというのに、この凸凹メイドさんコンビときたら。少しぐらいは悪びれてほしい。……まあ、もう諦めた。

 アタラヨがこれ見よがしにため息を吐く。

 すると、アスナが満面の笑みで両手を広げてきた。

 

「アスナが疲れてる副会長を癒してあげる!」

「あ、遠慮します。さっきの膝枕で十分なんで」

「遠慮しなくても大丈夫だよ。ほら、おいで〜♪」

「なんで腕掴んゔぇあっ!? 力強っ!?」

 

 有無を言わさずにアスナがアタラヨの腕を引っ張り、自身の胸元に抱き寄せた。ふかふかでふわふわの温もりがアタラヨを包み込んで襲う。

 

「…………………………………………おぎやぁ…………」

「赤ちゃんになっちゃった」

「堕ちんの早っ、少しは抗えよ! ……ったく、だらしねぇ顔しやがって!」

「それは無理だと思う……。だってアスナ先輩の……その……胸だし……」

「それに、副会長は激務が続いてるようですから。ほら、癒されて幸せそうなお顔されてますね」

「どっちかっつーと溶けてね? 全体的に」

「――こちらに関してノアさんはどう思われますか?」

「もちろん有罪(ギルティ)です」

「くぁwせdrftgyふじこlp!!??!?」

 

 背後から聞こえたノアの声に、アスナの甘々空間に微睡んでいたアタラヨの意識が悲鳴と共に我に返る。

 アスナから離れて恐る恐る後ろを振り向くと、ノアが笑顔で立っていた。……目が笑っていない。心臓はバクバク。冷や汗もダバダバダ。そしてアタラヨの頭に『オワタ』の三文字が浮かんだ。

 

「何か、言うことはありますか?」

「んえ!? いや、えっと、そのぉ……あっ、タイツのデニール変えた?」

「『前髪切った?』みたいなノリで何言ってんだこいつ」

「そうなんです。今朝はちょっと肌寒かったので、普段のものより少し厚めのものを履いてるんです。そこに気づくとは、流石ですね、アタラヨ先輩」

「いや当たんのかよ」

「アタラヨ先輩、口元から体液が垂れてますよ?」

「え、あ、違っ、これはヨダレ!」

「紛うことなき体液だろ」

 

 ネルがツッコミを入れ、アタラヨはノアに指摘された口元を拭う。

 一体どれだけ自分がアスナの胸でとろけていたのか……。恥ずかしいことこの上ない。ホントにどうもありがとうございました。

 

(ど、どどどどうしよう!? とにかく早く何か言い訳を考えて……いや、ちょっと待て。生塩さんはいつからいた? さすがに膝枕は見られt)

「アタラヨ先輩がアスナ先輩に膝枕でよしよしされてるところからです」

「君はエスパーかな!? しかも最初からだし!! 声掛けてくれてもよくない!!??」

「お疲れのアタラヨ先輩を起こしてしまうのは、とても心苦しかったので……」

「良く出来た後輩で(やつがれ)嬉しいよ! ありがとね!」

「ちなみにこちらがお写真です。可愛らしい寝顔が撮れてるでしょう♪」

「ゴフッ……!」

 

 アタラヨのメンタルにクリティカルヒットした。まさかあの痴態を見られていたなんて、なんという失態。

 しかもいつの間にかC&Cの姿もなくなっていた。どうやら見捨てられたらしい。薄情なメイドさんたちだ。

 

「私は驚きました。まさかアタラヨ先輩がお仕事をサボって、メイドさんたちとイチャイチャしていたなんて……。ええっと、なんでしたっけ? アスナ先輩のお膝の上に住民票を移して永住なされるんですか?」

「い、いや、あれは違くてですね? 寝ぼけてたというかなんというか……」

「安心してください。アタラヨ先輩がどんなフェチズムを抱こうとも、私はセミナーの書記として、ちゃんと記録致します」

「何も安心出来ないよ!?」

「『メイドフェチ』『太腿フェチ』『お胸フェチ』。あとは赤ちゃんプレイがお好きなんですね」

「確かにおぎゃってたけど(やつがれ)にそんな性癖はありません! ていうか、膝枕とハグは一之瀬さんの方からやってきたし! (やつがれ)遠慮したし!」

「感想は?」

「最高でした!!! って違あう!!!」

 

 思いっきり口を滑らせ、アタラヨは両手で顔を覆って勢いよく項垂れた。自ら墓穴を掘って黒歴史を更新してくスタイル。こうしてまたノアに弱みを握られるのだ。

 打ちひしがれるアタラヨにノアはクスクスと笑い、アタラヨの隣に腰掛けた。そしてなぜか自身の膝をぽんぽん叩く。

 

「どうぞ〜」

「どうぞって……え?」

「アタラヨ先輩の大好きな膝枕です♪」

(どうしよ、大好き認定された)

 

 アタラヨとしては否定したいところだが、否定したらしたで言い負かされそうなので、これ以上ボロを出さないためにも黙っておこう。

 それにしてもノアの膝枕。大変魅力的ではあるけれど、妙な背徳感がアタラヨの心をくすぐる。

 彼女の太腿に頭を預けたら最後、ダメになって熟睡してしまうかもしれない。いや冗談抜きで。

 という訳でアタラヨはノアから視線を逸らし、適当な理由をつけて逃げることを試みた。

 

「あー、気持ちは嬉しいけど遠慮しとくよ。は、早く戻って残りの仕事片付けなきゃだから」

「そうですか……。残念ですが、それなら仕方がないですね。では、この素晴らしい一枚をユウカちゃんにお見せしましょう!」

「あー! あー! 休むのも仕事の内って言うもんね! じゃあちょっとだけお邪魔しちゃおっかなー!」

「はい、私の膝にお邪魔してください♪」

 

 どう足掻いてもノアに勝てる未来が見えない。

 アタラヨは周囲に人が居ないのを確認し、ごくりと喉を鳴らしてゆっくりとノアの太腿に頭を乗せた。

 アスナとはまた違った温もりと柔らかさに、どうにもいたたまれない気持ちになって、やはりまた睡魔が襲う。

 しかし確認したとはいえ、他の生徒……特に男子に見られたらかなり気まずい。ただでさえノアは人気があるというのに。この前も告白されたと聞いたし……。

 

「そ、そういえば早瀬さんがいないね。今日は一緒じゃないんだ」

「ユウカちゃんは今日シャーレのお当番に行かれてます。帰ってくるのは夕方頃になるかと」

「あぁ……言ってたね」

 

 ――連邦捜査部S.C.H.A.L.E。通称、シャーレ。

 キヴォトスの外からやって来た先生を顧問として、この学園都市で暮らす生徒達の相談に応えるのだが、忙しい先生の手が回らない。

 そのためシャーレには、交代制の当番制度が採用されている。

 内容は主に書類の整理やデータ入力などのデスクワーク系だ。要するに私設秘書のようなものである。

 

「早瀬さんも物好きだよね、あの大人の手伝いだなんて」

「……アタラヨ先輩はやっぱり先生の事お嫌いですか?」

「現時点では別に。興味も湧かない。どうでもいい。でも、あの大人がキヴォトスで何かを成し遂げたてしても、(やつがれ)個人は信用しない……!」

 

 だって大人は狡猾で簡単に裏切るから、と語調を強めに言って、アタラヨはノアから視線を逸らした。

 

「……ごめん」

「どうしてアタラヨ先輩が謝るんですか。私は不快になんて感じてませんよ? 少し休まれてください。私もその間C&Cの報告書を読んでおきますので」

「え? ああ、うん。え、嘘、このままで? さっきも言ったけど早く戻って仕事しt」

「ねんねんころ〜り〜」

「幼児扱い!?」

 

 このまま眠てしまうと、流石に先輩としての尊厳が損なわれる。それだけは避けなければならない。

 

「よしよし」

(あ、ムリ)

 

 ノアのなでなで+膝枕+包容力にアタラヨの意識は為す術なく薄れ、一分も経たないうちに夢の中へと誘われた。

 

「――……一六時三分。アタラヨ先輩の入眠を確認。冗談のつもりで子守歌を歌ってみたのですが、まさか本当に寝てしまわれるなんて……。よっぽど疲れが溜まっていたようですね」

 

 ノアは慈愛に満ちた眼差しでアタラヨを見つめ、クスッと笑う。

 

「――()()()、完了です♪」

 

 満足したノアは、一旦アタラヨを撫でるのを止めてC&Cの報告書を読み進めていく。

 改めて読むと、何をどうしたら建物が全壊するのか甚だ疑問だ。C&Cの活躍にはいつも助けられているが、もう少し自重を覚えてほしいと、ノアは苦笑いを浮かべた。

 

(あらあら、これをユウカちゃんに見せたら怒っちゃうかもしれませんね。ぷりぷり怒るユウカちゃんは可愛いですが、宥めるのも一苦労です。一段落したら、ユウカちゃんとアタラヨ先輩が好きそうなお茶菓子でも用意しましょう)

 

 いつの間にか自分のお腹の方へと寝返りを打っていたアタラヨの焼け爛れた肌に、ノアは優しく触れて独白する。

 

「安心してください。たとえ何があっても、私は貴方の味方でいますから」

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

「先生。お仕事お疲れ様です。コーヒーを淹れたので、どうぞ」

「ありがとう、ユウカ」

 

 シャーレでの仕事が一段落して、今は少しの休憩。

 先生は、ユウカが淹れてくれたインスタントコーヒーを啜り、椅子の背もたれに体を預けた。

 今日も目まぐるしい一日だった。

 生徒達の相談に応えて解決したり、生徒同士のいざこざから発展した銃撃戦の支援したりと、休む暇もなかったと思う。だからこうして飲むコーヒーが体に染み渡って上手い。

 と、先生はある事が気になって、椅子ごと体をユウカに向ける。

 

「……ねえ、ユウカ。ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいかな……?」

「え? 隠してた領収書でも出てきましたか?」

「全然違うよ!? 隠してたのは今朝ので全部だから!! ――えっと……そっちじょなくて、ユウカ達と一緒にいたあの火傷の彼って何者? みんなと違って頭のヘイロー? が無いようだけど……」

 

 先生の質問にユウカは、口へ近づけていたマグカップを置いた。

 

「あの人の名前は梵アタラヨ。私と同じミレニアムのセミナー所属で、一つ上の先輩になります。役職は副会長。キヴォトスでも上位に食い込むほどの実力者です。……先生は『青い夜』をご存知ですか?」

「あおいよる?」

「これを見てください」

 

 手招きされてパソコンを覗き込むと、ユウカの言っていた『青い夜』に関する検索結果がずらりと並んでいた。

 その内の一つをユウカがクリックし、先生に記事を見せる。先生は眉根を寄せた。

 

「……火が青い……?」

「七年前に起きた大火災です。死傷者の数は数千人に上り、アタラヨ先輩はその数少ない生存者なんです」

「……なるほど。だから全身火傷を負ってるんだ。じゃあヘイローは? その時に焼けちゃったのかな」

「さあ。それに関しては私にも分かりません。そもそもヘイローが焼けるなんて聞いた事ありませんし、初めて会った時からヘイローは無かったですから。気になって訊ねてみても適当にはぐらかされただけで……。あの人、自分の事あまり話したがらないんです」

「そっか」

 

 と、記事を読み進めていた先生の目が、ある写真に止まった。

 それは遠くから撮影されたものと思われ、画質も粗い。

 写真には、青い炎に包まれた大きな影が写っていた。影の頭部にはヘイローのようなものもある。

 

「ねえユウカ。この写真に写ってる影って何?」

「影? ああ、それは“アグニ”です。『青い夜』を引き起こした高次元の存在とされていて、噂ですけど、アグニを神や救世主として信仰する過激な宗教団体があるそうです」

「……宗教団体、ね」

 

 その日の夜。

 仕事をあらかた片付け終えた先生が『青い夜』とアグニについて調べていると、タブレット型デバイスの『シッテムの箱』に一通のメーセージが受信された。

 誰からだろう、とメーセージを開いてみる。

 件名には【アビドス高等学校】とその生徒の名前。

 内容は、とある暴力組織に学校が占領寸前になっているので助けてほしい、という支援要請だった。

 

「なるほど――うん。早速明日にでも……じゃなかった、今日にでも行ってみようかな。アビドスに」

 

 そう独り言をこぼしながら、先生はパソコンの電源を落とした。

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