青き篝火のアーカイブ   作::Crane

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お気に入り、高評価、感想、そして誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
いろいろ立て込んだり、筆が止まってたりしました。
忘れられてるかもですが、やっと更新です。
引き続きよろしくお願いします。


#7:或る噂

『ねえ、知ってる? ブラックマーケットに何でも願いが叶う“奇跡の砂”があるんだって』

『知ってる知ってる! 私の先輩がそれのおかげで、彼氏が出来たって言ってたよ!』

『え〜何それ羨ましい〜。でもそれって本当なの? なんか胡散臭いし、ただの偶然なんじゃない?』

『本当だよ! ほら、ネットの掲示板でも言われてるし、砂が高値で取り引きされてるの!』

『うわっ、高! 転売とかマジ害悪……。でも奇跡のって言うだけあってキラキラしてて綺麗ね。でも、砂が欲しくても、これだけ噂になってるならもう売られてないんじゃ?』

『ううん、違うよ。この“奇跡の砂”はね、買うんじゃなくて()()()から貰えるの!』

『ある人?』

『うん。その人はね、ピエロの仮面を被ったスーツ姿の人

で、“奇跡の砂”をくれる時に必ずこう言うの』

 

 ――どうか、その願いを絶やさないように、って。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 ある日、アタラヨはミレニアムの校区を離れ、自由と混沌を校風とする学園――ゲヘナ学園を訪れていた。

 ゲヘナ生の幼馴染みに会うためだ。

 手ぶらで会うのもなんなので、いつものようにお気に入りの店で購入した、お茶菓子の入った紙袋を持っている。

 だが、約束の時間より少し早めに来てしまった。

 怪しまれているのか、遠巻きから他生徒のヒソヒソ声が聞こえてくる。少し気まずい。

 別に一人で向かっても良いのだが、迎えが来るらしいので、行き違いになってしまったら大変だ。とりあえずメッセージを送って大人しく待っておこう。

 

「おい貴様。そこで何をやっている」

「ん?」

 

 アタラヨが尻尾をゆらゆらさせていると、背後から声を掛けられた。

 振り返るとそこには、一人のゲヘナ男子生徒が立っていた。彼の左腕には『風紀』と書かれた腕章。風紀委員会だ。

 もしかして彼が迎えだろうか。

 そう思ったアタラヨが校門をくぐろうと足を動かすと、男子生徒がアタラヨに銃口を向けた。目には敵意。どうやら違ったらしい。

 

「動くな。その制服と校章……ミレニアムサイエンススクールのやつだな? ミレニアムがゲヘナに何のようだ。さっきから紙袋を持ってウロウロと……怪しいやつめ。一歩でも動いてみろ。俺は貴様を敵と見なす」

「いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ。(やつがれ)は確かにミレニアムの生徒ですけど、怪しいものじゃないですよ。今日、そちらの委員長と会う約束があって来たんです」

「何? 空崎委員長と約束だと……?」

「そうなんです。だから銃を下ろしてくれると助か」

「ハッ」

 

 男子生徒がアタラヨを鼻で笑った。

 あからさまに見下すその表情に、アタラヨは少しばかりイラッとし、愛銃のシリウス・ハーツで斬ってやろうかと思ってしまった。

 しかしここは冷静になれ梵アタラヨ。クールダウンだ。

 管轄校区外での戦闘は基本御法度。

 もしも問題を起こそうものなら、すぐユウカとノアに知られて説教は不可避。過去に何度もやっているので、二時間コースが確定してしまう。ビークールだ。

 アタラヨは、一度深呼吸してから口を開いた。

 

「……何が、可笑しいのかな?」

「見え透いた嘘だからだ。よくいるんだよ、貴様のように空崎委員長と会いたがる愚か者がな。先日も空崎委員長を出待ちして告白しようとした者がいた。バラの花束を持ってだぞ? 俺がこの手で徹底的に潰し、そいつに引導を渡してやったのさ。最後は無様に泣きじゃくりながらで滑稽だったよ。まあ無理もない。なにせ俺は、今年ゲヘナを首席で入学した選ばれた存在だからな! そしてゆくゆくは空崎委員長の側近となり、彼女と一緒にこのキヴォトスを――おい、貴様! 俺の話を聞いているのか!? どこを見ている!!」

「え? ああ、自慢乙」

「……貴様、俺の事を馬鹿にしているな?」

 

 睨んでくる男子生徒に、アタラヨはヘラヘラと笑って彼の言葉を否定する。

 

「いやいや全然そんな。とりあえず君の自慢話と野望の続きは今度聞くとして。いい加減(それ)どけてくれない? そろそろこっちも黙ってられないんだけど」

「ほう……。貴様が俺を? ハッ、馬鹿も休み休み言え。先に言っておくが、俺は先日、不良グループを一人で一掃させたんだぞ? 一人で、だ。そんな俺に貴様のような貧弱そうなやつが勝てるわけないだろう。男か女か分からない見た目しやがって。これは優しさだ。痛い目を見たくなければ、とっととミレニアムに帰って、難題とやらのお勉強してな」

「…………。(よくもまあ、自分自慢に舌が回るね。しかも“一人で”ってとこやたら強調するし。そもそも初対面相手になんで上から目線なんだよコイツ。……よし、あとで謝ろう)」

「貴様! 動くなと言っただろう!!」

 

 足を一歩前に踏み出したアタラヨへ、男子生徒が躊躇なく発砲した。

 しかしその弾丸は、アタラヨのシリウス・ハーツ(銃剣)によって、いとも容易く両断される。

 そして、目の前で起きた荒業に驚愕する暇を男子生徒に与えず、アタラヨは間合いを詰め、銃剣の先を彼の喉元に突きつけた。

 刹那の出来事。

 男子生徒の頬には冷や汗が伝い、彼らを傍観していたゲヘナ生達も驚くばかりだ。

 最初に口を開いたのはアタラヨだった。

 

「いきなり撃つなよ。当たって死んじゃったらどうすんのさ、危ないなー。それにしても全然駄目だね。君、本当に一人で不良グループやっつけたの? (やつがれ)の攻撃に反応できてないじゃないか。こんなにも呑気に話して隙を見せてるのに、反撃すらしない。せめて何らかのアクションでもしなよ。うーん、これは首席だってのも疑わしい……」

「なッ……!?」

「よくもまあ、そんなんで空崎さんの側近になるなんて烏滸がましい事言えたね。そもそもあの子の隣には、いつも口五月蝿い行政官がいるでしょ。つまり君の席は無いんだ。出直してこい、三下」

「……ッ。き、貴様ァ……!」

「キレんなって、首席(笑)君。君がまだやるつもりなら時間が来るまで相手してあげるけど。どうする? (やつがれ)は構わないよ」

「〜〜〜ッッッ、殺す!!!」

「ハハっ、そうこなくっちゃ!!」

 

 完全な殺意を向けてくる男子生徒に、アタラヨは口元を三日月の形に変えて笑う。これは完全に愉しんでいる証拠だ。

 そして、両者互いに後方へ飛び、銃を構え直して睨み合っていると、何者かが二人の間に割って入ってきた。

 

「そこまでだ、二人とも!」

 

 そう叫んだのは、ゲヘナ風紀委員会の銀鏡イオリだった。

 イオリは、アタラヨと男子生徒の顔を交互に見て、切らしていた息を整える。

 

「通報があって来てみれば……何をやってるんだ校門の前で! 野蕗(のぶき)は銃を下ろして持ち場に戻れ! あとは私がやっておくから」

「!? な、なぜですか銀鏡先輩! こいつ空崎委員長と会う約束をしたと虚言を吐いてるんですよ!?」

「嘘じゃないってば」

「ましてやこんな、ヘイローがないうえに男か女か分からない怪しいやつをゲヘナに入れるなんて言語道断! 即刻! 追い返すべきです!!」

「野蕗……。お前は一回落ち着いて。アタラヨ君がヒナ委員長と約束してるのは本当の事だよ。ここに呼んだのもヒナ委員長本人だし。アタラヨ君がゲヘナを出入りしてるのって、一年で知らないやつ結構多いからな」

「はァ!!??」

 

 男子生徒――野蕗が驚きの声を上げる。

 そんな彼にアタラヨは、「だから言ったじゃん」と呟いて、竦めた肩にシリウス・ハーツを置いた。

 そう言えば、と紙袋の中を確認。少し激しめに動いてしまったけれど、どうやらお茶菓子たちは無事なようで胸を撫で下ろす。良かった良かった。

 野蕗を見やると、イオリの説明に納得いかないのか、こちらまで聴こえてくるぐらいの歯軋りをしている。

 そして爪を噛んで、盛大な舌打ちをしたのち、野蕗はその場を去っていった。どうやらかなり嫌われたらしい。

 イオリが困った様子で息を吐いた。

 

「……ふう、まったく。――で。アタラヨ君は何をやってあいつを怒らせたの?」

「そんな(やつがれ)が前提みたいな」

「だって君、ちょいちょい悪ノリしてアコちゃんにいっつも怒られてるじゃんか。この前だって、温泉開発部のやつらと一緒に温泉掘ってたし」

「あれは……その場のノリというか何と言うか……バイブスが上がっちゃって、ついウェーイって」

「パリピかな? まあ、いいや。じゃあ早く行こっか」

 

 イオリがアタラヨの手を掴んで引く。

 

「ヒナ委員長が待ってる」

 

 ――学園都市キヴォトスが誇る三大マンモス校の一つであるゲヘナ学園は、自由と混沌を校風とするように、問題児達が集められた学園といっても過言ではない。

 実際、毎日のようにそこかしこでゲヘナ生が問題と一緒に爆発を起こしているという。ほぼテロリストである。

 そんなゲヘナ学園の風紀と秩序を守る組織こそが【ゲヘナ風紀委員会】だ。

 目的地に向かいながら、イオリはアタラヨに風紀委員会の近況をあれこれ教えてくれた。相変わらず【美食研究会】と【温泉開発部】には手を焼いているらしい。流石ゲヘナ。退屈しなさそうでなによりである。

 それはそれとして。

 彼女はいつまで自分の手を離さないでいるのだろうか。

 手を繋ぐ事は特別嫌に思わないけれど、回りの目もあったりするので、アタラヨはどうにも恥ずかしくなってしまう。これだから思春期は。おまけに逃すまいと尻尾をアタラヨの腕に巻きつけてくる始末。

 ちなみにゲヘナを訪れる度こんな感じなので、一度だけ聞いてみた事があった。

 

『だってアタラヨ君、目を離したらすぐどっか行っちゃうし、私達の問題にも首突っ込むんだもん。 だからこうしてどこにも行かないよう手を繋いでるんだ。え? 問題児扱いしないでほしい? 便利屋のやつらと一緒にアタラヨ君がビル爆破したの、私まだ根に持ってるからね?』

 

 とのこと。

 全くもって不服だ。意義を申し上げたいところである。

 

「そういえば。さっき校門で(やつがれ)に噛み付いてきた彼って……」

「ああ、野蕗の事か」

 

 アタラヨに聞かれて、イオリが歩きながら答える。

 

「あいつは一年の野蕗トウマ。どっかのエリート中学出身で、今期の首席入学者だよ」

(首席って本当だったんだ)

「実力は一年の中でそれなりにあるんだ。だけど……」

「だけど?」

 

 困ったようにイオリが額に手を当てる。

 

「協調性が無いというか、周りを見下すというか、自己中というか……。とにかく色々と問題があるやつなんだ。たまに私達の指示も聞かない事があるし……」

「なるほど大変だ」

 

 イオリの言うとおり、確かに彼は、他人を見下すような態度が目立っていた。

 アタラヨもイラつきはしたものの、初対面でナメられる事は多々あって慣れてはいるので、ぶっちゃけどうでもいいと思っていたりする。

 しかし一つだけ、野蕗が嬉々として話していた『空崎委員長の側近になる』という発言だけはどうにも気に入らない。

 いや、人の願望や目標を否定するつもりも笑うつもりもないけれど……と、目的地である委員長室に向かっていたアタラヨの前にある女子生徒が立ち塞がった。

 少女の首元のカウベルがカランと鳴る。

 

「あらあら、誰かと思えば。お久しぶりですね梵アタラヨ。今日もゲヘナに来て早々、何やら問題起こしたそうですが。相変わらずのトラブルメーカーでなによりです。まったく……貴方のお陰で私の仕事が余計に増えt」

「うわっ、出た」

「出たとは何ですか、出たとは! 貴方という人は本当に失礼な人ですね!! はあ……ヒナ委員長はこの男のどk」

「あ、そういえば今日火宮さんいないの?」

「チナツは救急医学部の応援に行ってるよ。人手が足りないんだってさ」

「ふーん。じゃあ今日も氷室さんから復帰するようお願いされてるかもね」

「うん。私も一緒に行ったけど、秒で言われてたよ」

「だよね〜。知ってた」

「私を無視しないでください!!」

 

 顔を真っ赤にさせ、地団駄を踏んで叫ぶ少女の名は、天雨アコ。イオリやチナツと同じ、ゲヘナ風紀委員会に所属する行政官だ。

 ……行政官……なのだが、アコの服装は風紀委員に有るまじき、独創的かつ奇抜で目を疑うようなものである。

 なぜなら、横にさらけ出しているのだ。

 

 ――そう、乳を。

 

 これは比喩表現ではなく、物理的にである。

 横乳を露わにしていないと呼吸が出来ないのか……。

 そしてオマケに首のカウベルと両腕の手枷。

 彼女は何を拗らせ、こんな白昼堂々プレイに勤しんでいるのだろうか。

 まあ、人の趣味嗜好はそれぞれで個人の自由なのだが、初めて見た時アタラヨは思わず三度見した。その日の夜は『風紀』の意味を辞典で調べて、ひたすら首を傾げた。いや、ミレニアムにもとんでもねぇ服装の生徒がいる訳だが。本当に何なのだろうか、あのファスナーは。思春期真っ只中の男子高校生には刺激が強すぎる。

 

「む! 何ですかそのいやらしい目は! 私のどこを見てるんですか!? ヒナ委員長に言いつけますよ、この変態!!」

「……………………チッ……」

「し、舌打ち!? 見ましたかイオリ!! 今この男舌打ちしましたよ!!??」

「はいはい、もういいから早く巡回行くよー」

「あ、ちょっ、イオリ!? 私には梵アタラヨの魔の手からヒナ委員長を守るという大事な……わ、分かりましたから引っ張らないでください! あと尻尾で足を叩かないでください、シンプルに痛いです! ……クッ、梵アタラヨ、ヒナ委員長に手を出したら承知しませんからね!!」

 

 アタラヨにズビシッと指を指すアコは、イオリに引きずられながら階段を降りて行った。……痛そうな鈍い音とアコの悲鳴が聞こえたのは、きっと気のせいだろう。

 気を取り直してアタラヨは廊下を歩き、委員長室の扉をコンコンとノック。

 すると、部屋の中から、「どうぞ」と入室を促す声がした。

 委員長室に入ると、お茶の準備をしていたらしい少女が、アタラヨの顔を見て嬉しいそうに微笑み、こちらに駆け寄って来た。可愛い。

 

「――いらっしゃいアタラヨ。久しぶり」

「うん。久しぶりだね、空崎さん」

 

 ――空崎ヒナ。

 ゲヘナ学園の三年生であり、

 風紀委員会を束ねる委員長(トップ)であり、

 そして――日常的に銃弾が飛び交う武闘派だらけのキヴォトスにおいて、最強の一角と認知されている存在だ。

 現に彼女の戦力は、数百人単位か所属するゲヘナ風紀委員会の半分に匹敵すると、恐れられている。ちなみに、小柄な体躯でありながらも耐久力が半端じゃない。マジでパない。でもそこがキュート。

 

「…………」

 

 ヒナが少し頬を膨らませ、ぷいっとそっぽを向いた。

 

「? 空崎さん?」

「……名前。今、この教室には私とアタラヨだけ。幼馴染みなんだからヒナって呼んでほしい……というか呼んでくれなきゃ嫌。……えっと……」

 

 ヒナがアタラヨの袖口をきゅっと掴む。

 

「ダメ……?」

「――――――」

 

 頬を少し赤らめたヒナの上目遣いと可愛いらしいおねだりに、アタラヨは衝撃を受けて吐血しかけるも、すんでのところでぐっと堪える。大丈夫。いつも通り致命傷だ。とりあえずアタラヨは、流れる鼻血を押さえて親指をグッと立てる。

 

「ありがとうございます……!」

「何に対しての?」

 

 脊髄反射でお礼を言ってしまった。

 気にしないでとアタラヨは鼻血を拭い、ヒナの目を見て仕切り直す。

 

「ごめんごめん、ヒナちゃん。さっきの苗字呼びはいつもの癖でね、つい」

「そう、なら良いけど。それにしても、今日は約束の時間より来るの早かったわね、アタラヨ」

 

 と、言いながらヒナは、羽織っていたロングコートと制服を脱いでノースリーブの白ブラウス姿になり――

 

「ん」

 

 両手を広げてハグを求めて来た。

 アタラヨは、少し考えてからヒナを優しく抱きしめた。

 ……相変わらず細い。ちゃんと食べているのだろうか。

 少しでも力を入れてしまえば壊れるんじゃないか、と疑ってしまう。ヒナが不満げに見上げてくる。

 

「アタラヨ。もっとぎゅってして。アタラヨが足りない」

(やつがれ)が足りない、とは? 相変わらず甘えたがりだね」

「早く」

「はいはい。ヒナ委員長の仰せのままに」

 

 言われたとおり抱きしめてあげると、彼女はアタラヨの胸に額をぐりぐり押し当て、翼を嬉しそうにパタパタさせている。

 こうしておよそ一〇分が経過した頃、ヒナは満足したのか、アタラヨを解放した。その顔は心做しかツヤツヤしている。

 それから二人は、ソファに座ってお茶をしながら、互いの学校の近況を話しあった。ちなみにヒナはアタラヨの股の間に座っている。ここがヒナの特等席なのだ。きゃわわ。

 

「やっぱり私も、アタラヨと一緒に、ミレニアムに行けば良かった」

「いつも言ってんね。でも、ヒナちゃんがゲヘナ辞めちゃったら、今以上に酷くなっちゃうよ? それに(やつがれ)がゲヘナを辞めて、ミレニアムに行ったのは――」

「分かってる。分かってる……けど、アタラヨが隣にいないのは……ちょっと寂しい……」

「そっか」

 

 呟いて、少し唇を尖らせたヒナの頭を撫でる。彼女はくすぐったそうにした。

 と、アタラヨが何かを思い出したかのように、モモトーク画面を開いた自分のスマホをヒナに見せる。

 

「そういえば、ヒナちゃんが送ってくれたこのメッセージ。()()が見つかったって本当?」

「うん、他校の生徒と問題を起こしたゲヘナの生徒から押収した。一応尋問はしたけど、何も答えてくれなかったわ。暴れてたから、今特別牢で頭を冷やしてもらってる」

 

 そう言ってヒナはソファから立ち上がり、自分のデスクへと向かう。そして、引き出しに入れていた一本の小瓶を、アタラヨに渡した。小瓶の中にはキラキラと輝く砂のような物が入っている。

 

「…………はぁ……胸糞悪い……」

 

 そう言ってアタラヨは天井を見上げ、重々しいため息を漏らした。

 ヒナがジャケットを羽織りながら話を続ける。

 

「――……“奇跡の砂”。キヴォトス中で噂になってる、何でも願いが叶う代物……。ブラックマーケットで取り引きされたり、裏のネットオークションに出品されている。それもかなり高額な値段で」

「願いが叶うってのは事実だからね。まあ、願いの価値とか条件とかが揃えばだけど。――あとは……どれぐらい自分の“神秘”を犠牲にしなきゃいけないか、だ。…………本当……誰が、なんの為にこんな胸糞悪い事やってるんだよ」

 

 アタラヨは歯噛みする。

 

「『青い夜』で死んだ人の遺灰をばら撒くなんて……!」

「……とにかく、それを持っていた生徒に話を聞いてみましょう。もしかしたら情報を持っているかもしれないわ」

 

 風紀委員長としての姿へと戻ったヒナの言葉に、アタラヨは、「そうだね」と小さく頷いて、小瓶を自分のポケットに入れた。

 その後、特別牢に収容された男子生徒の話によると、“奇跡の砂”は、自分で購入したものではなく他校の生徒から奪ったものだったらしい。めぼしい情報も特に持っていなかった。なんなら終始、語尾に『WWW』を付けて煽ってくる始末。キレそう。

 

「そっかそっか〜。うん、なるほどなるほど〜。――ねえ、ヒナちゃん。一回こいつの顔、引っぱ叩いていいすか? すっごい腹立ちます。レッツ、ビンタ!」

「ダメに決まってるでしょ」

「じゃあ、シリウス・ハーツで刺すね!」

「それはもっとダメ。コラっ、危ないから銃を振り回さないの」

 

 やれやれと肩をすくめたヒナが、アタラヨを窘めようと手を伸ばした。――――その時。

 

「ん?」

 

 ふよん、とアタラヨの手の甲に何やら柔らかい感触が伝わった。

 アタラヨは目を瞬かせ、ゆっくり謎の感触の方を見て――思考が停止する。そして、じわじわ顔が熱くなる。

 そう。アタラヨの手はなんと、ヒナの胸に触れていたのだ。

 ヒナは顔をこれでもかと真っ赤にさせている。

 

「あー……えっと、そのぉ、なんというか……柔らこいね?」

「〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!??」

 

 思いっっっ切り、ビンタされた。




たぶん、今後もオリジナルのモブ男子生徒は登場します。
名前があまり思いつきません…。
ちなみに、野蕗の花言葉は『執着』。
ご感想貰えると嬉しいです。
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