目指せ現代帰還~異世界で嫁を探したら幽霊メイドが憑いてきました~ルートA・B   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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第十三話 準備

 喫茶店でウェブルたちと今後の予定を決めた翌日、体育館にて臨時の全校集会が開かれ、マッケンローから中等部以上の学徒動員が国会で承認されたことを説明され、中等部以上の授業は中止とし、戦の準備に入るよう命令が下った。

 館内にいた生徒たちは説明当初、戸惑ってはいたものの、集会が終わると年の若いクラスから順に隊列をなして出て行った。

 

 各教室に戻った俺たちは今後の方針を話し合う。

 基本的な行動はクラス単位でとし、勇者もその中に含まれる。が、勇者は特別にこれはと思う生徒を勧誘できるらしい。あくまで勧誘と言うのがミソで、強引な引き抜きは禍根を残すので加減が大事のようだ。

 

 勇者がいるクラスで単独行動できないかといった意見もあったが、魔王討伐が成功してしまった場合、他のクラスの生徒たちが割を食うとかで却下された。

 代わりに、徴兵された学園生全員で魔王討伐に行けば良いのでは、という案は教師に止められた。残された軍人たちの面目丸つぶれとなってしまうからだそうだ。

 

 どうしろと。

 ならばと、全軍で突撃しましょうという過激な案も、もし失敗したら取り返しがつかなくなるので駄目になった。

 生徒たちからの意見が出尽くしたのを見計らって、教室内の隅で様子を見ていた教官が発言する。

 

「貴様らの戦意旺盛(せんいおうせい)さは頼もしく思う。だが、戦場を知っているのは現地の兵たちだ。どう戦えば良いのかは彼らが教えてくれる。戦の準備に時間はあまりないが、できる限りの準備をしなさい」

 

 教官の言葉に一人の生徒が手を挙げ、許可をされたので立ち上がり質問する。

 

「分かりました。ですが教官殿、そういうことなら最初に説明してくれた方が話が早くて済んだのではないでしょうか?」

「何を言う。この学園では自主性を重んじている。戦では上官の命令は絶対だが、状況の打開には各個人の知恵や勇気が必要となる時もある。命令をただ聞いているだけでは意味がないぞ。どんなときでも何が最良か考えて行動しなさい」

「ありがとうございます」

 

 着席した生徒を見てから、教官が周囲を見回す。

 

「他に質問のある者はいないか?」

「はい」

「何だ」

「魔族との戦いについて、何か心構えはありますか?」

「……授業では教科書におどろおどろしい姿で描かれている魔族だが、姿形は大して人間と変わらん」

「…………それだけですか?」

 

 教官が言った意味を理解できなかったのか、困惑した生徒が拍子抜けした声で訊く。

 

「貴様らは躊躇(ためら)いなく殺せるか、と訊いている」

「え、それは……」

「魔物討伐の演習は何度かこなしたが、全て四つ足の獣だった。だが今回は限りなく人間に近い」

「で、でも、獣人みたいなものでしょ? それなら大丈夫……」

 

 生徒の口から出た言葉に俺は眉をしかめた。

 出たよ、獣人差別。この国ではあまり見ないからと言って偏見は良くない。

 ため息をつきながら発言している生徒を眺めていると、突然空間が揺れた。

 

「黙れ!」

 

 教官の声に教室がびりびりと震える。突然の事で教室内に沈黙が訪れた。

 

「……彼らと殺しあった経験を踏まえて警告する。獣人も魔族も甘く見るな。……以上だ。他に質問のある者は?」

 

 他に質問する者がいなかったため、教師は一時間の自由時間を設けた。

 生徒たちは仲の良い生徒たちと一緒にこれからの行動を相談し始める。

 俺もウェブルの席に向かって歩く。同時にマリーとルモールも集まってきた。

 

「まずはどうする?」

「両親や親族に今回の経緯(いきさつ)を手紙にした。これから送るよ」

「もう書いたの? 準備がいいのね」

 

 ルモールの問いにウェブルがとった行動を明かすと、マリーが感心した。

 

「一応、ね。学園長が正式に表明するかどうか待つだけだったんだけど、本当になってしまった」

「最低、あと半年は欲しかったな。近接戦闘はともかくとして、魔法に関してはまだまだ伸びしろがあると教官に言われてたんだけど」

 

 ウェブルは肩をすくめ、俺は残念がった。

 

「手紙については夜に書くとして、とりあえずは昨日決めた……」

「仲間探しか」

「勧誘ね」

 

 ウェブルが言いかけた後を継いでルモールとマリーがほぼ同時に口にした。

 手持ち無沙汰(ぶさた)になりそうなので俺も手伝おうか。

 そう考えて三人に声をかける。

 

「俺も手伝う」

「いや、ノリオはやらないでくれ」

「どうしてだ?」

 

 ルモールに断られてしまったので、疑問を口にすると三人から意外な答えが返ってくる。

 

「君がやれば高確率で勧誘に成功すると思う。ただ、仲間として必要かどうかという人まで寄って()かねない」

「能力が無いくせに名誉(めいよ)欲だけ一人前とか邪魔よ、邪魔」

「下手すると俺たちの命がヤバいからな」

「……そうか、分かった」

 

 ウェブルの推測とマリーの拒絶とルモールの未来の予想に納得する。

 この学園に入ってから半年くらいでは、顔見知りになった生徒たちの人格までは把握(はあく)できていないだろう。

 (もち)は餅屋である相談役(ウェブル)に任せよう。

 では、出発までの十日間はどうするかであるが、服装や武器等の調達については教官に(たず)ねるとして、それ以外の時間をどう使うのか考え、三人に訊いてみる。

 

「なあ、俺は出発までの間、教官たちから魔法の訓練を受けておいた方が良いか?」

「そうしてくれ。お前の膨大な魔力が一番助かるからな」

「僕たちの負担を軽くしてくれるとありがたい」

「頼りにしてる」

 

 ルモールとウェブル、マリーの了承(りょうしょう)、事情を説明した教師と教官たち、マッケンローから許可が下り、俺は気兼ねなく魔法の訓練を受けられるようになった。

 

 まずは伸び悩んでいる相性の悪い魔法ではなく、長所である相性の良い魔法をできるだけ伸ばすことにした。

 たった十日間だけでは大した成果は得られなかったかもしれないが、集中的に訓練をしたおかげで、教官たちからは訓練開始前と比べて伸びたと()められた。

 

 これにより、持続性や効果範囲、精度、制御などが向上し、歩兵一個中隊、四百人くらいなら丸ごと運用できると教官に評価された。

 また、膨大な魔力を限定的な環境下で使用すれば大隊規模、千二百人もいけると思われるが魔力の制御や集中力が甘いので逆に不利になってしまうだろう、と評価を受けた。

 ならば今度はと、魔力制御の技術を向上させようとするが、ここで時間切れとなった。

 

「後は現地で練習するように」

「今までありがとうございました」

 

 俺は腰を折って教官に頭を下げた。

 

「勇者殿の武運長久を祈る」

「はい。……教官たちはこれからどうされるのですか?」

「今現在、国が()れを出して王国民の中から選抜徴兵(せんばつちょうへい)を行っているところだ。そいつらの短期育成を(はか)ることになっている」

「彼らが戦場へ出る事の無いよう、なるべく早く魔王を討伐してきます」

「急ぐなとは言わんが、(あせ)ってしくじるなよ。そこが心配だ」

「……善処(ぜんしょ)します」

 

 こうして俺は教官たちに別れを告げ、寮に戻る。

 教官たちから聞き出していた俺の長所と短所、今まで学んだ技術を考慮した戦術を夜間に()ることになっている。

 

「ただいま」

『お帰りなさいませご主人様、頼まれていた物を集め終わりました』

 

 帰宅したとき、いつものようにローナに出迎えられ、部屋の隅を見れば荷物が積まれていた。

 今夜は荷物の整理と明日の出発の準備で時間がとられそうなので、戦術を考えるのは後回しにする。

 

「ご苦労様」

『いえいえ、これくらいお安い御用です』

 

 ローナを労い、早速荷解(にほど)きしてみる。

 悪霊に効く銀の短剣とハードレザーの鎧、保存食料、ブーツ、厚手の上着やズボンなどを実際に着用して確認し、調整していく。

 学園編入当初に買い込んだ最初の装備は度重なる演習で傷だらけになっていたので、丁度良い買い替え時期だった。

 

「……何だこれ? こんな物、頼んだか?」

 

 荷物の中からテントが出てきたのでローナに訊いてみる。

 

『夜寝るとき、雨が降っていると大変ですよ』

「それは理解しているが、軍が貸してくれるんじゃないのか?」

『ちっちっちっ、ノリオ様甘いです。戦は基本各自が用意するものです』

 

 ローナが人差し指を立てて左右に振りながら理由を簡潔(かんけつ)に述べた。

 

『それに、ここ半年の間に戦況が悪化して、馬車が軍に徴発(ちょうはつ)されています。その不足によって、明日は現地に着くまで皆さん徒歩で行くことになります』

「……徒歩?」

『ええ、そう聞いておりますが……え、知らなかったんですか?』

「ああ」

 

 そういえば魔法の訓練に没頭(ぼっとう)していて、身の回りのことは考えていなかった。

 となると、たどり着くまで野宿になるからテントは必要だな。

 

「そうなのか……、良い買い物をしてくれた、ありがとう」

『いえいえ』

 

 テントを床に広げてみる。

 

「……それにしても、一人用にしてはやけに大きいな」

『今回の戦には女子生徒も同行されるのでしょう?』

「ああなるほど、優先的に使わせるのか、配慮(はいりょ)が行き届いているな」

『そうでしょう、って違います。いつでも女子生徒と(ねんご)ろになることができるようにです』

「ええ……?」

 

 ローナの断言に俺は眉をひそめた。

 

『もう、鈍いですね。精神的に追い詰められた男女がする事は決まってるじゃないですか』

「そんなもんか?」

『そういうものなんです』

「俺にその気はない。……まぁ何かの役には立つだろう」

 

 テントを(たた)んで丸めながらしまい、ローナと会話をしていると、共用通路とこの部屋を(つな)ぐ扉からノックの音が聞こえてきた。

 もう夕食の時間は過ぎた。後は部屋にこもって戦に向けての準備に皆はかかりきりだ。

 何か相談でもあるのだろうか。




次回の投稿は明日の6時半を予定しています。
それでは。
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