目指せ現代帰還~異世界で嫁を探したら幽霊メイドが憑いてきました~ルートA・B   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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第二十七話 宣戦布告

 酔っぱらってふらふらしているローナに一抹の不安を感じながらも予定通り進めてみることにした。

 

「セシルを連れて来たぞ。何か言いたいことがあるんじゃなかったのか?」

「そうでしたぁそうでしたぁ」

 

 グラスをテーブルに置こうとして失敗し倒してしまうが彼女は気にすることなく、ふらつきながらこちらに体を向けセシルのいる方向にゆらゆらと指先を突きつける。

 

「私、ローナ・フュシィアはぁ、ノリオさんの婚約者セシルに宣戦布告をぉしますぅ。結婚式前までにはぁ取り戻してみせまぁす」

 

 その発言に周囲にいた魔族が(ざわ)めく。大半が『え、お前二股してたの?』という戸惑いだ。

 断じて違う。違うが、はたから見ればそういう風にしか思えないんだろうなあ。

 

「良いだろう。この私、セシルが受けて立つ」

 

 セシルの男前な物言いに魔族たちが『おお~』と唸りながら拍手した。

 

「若いなあ」

「何で二人とも娶らないんだ? ぱっと見、良い娘たちじゃないか」

 

 その言葉を耳にして俺は理由を伝える。

 

「いえ、私の故郷では夫一人妻一人と法で決められてまして、重婚禁止なんですよ」

「何だそれは」

「破っちまえそんなもん」

「法で裁かれたくないよ」

 

 意外と厳しいんだぞ、俺の故郷。

 

「なら、(めかけ)ならどうだ?」

「んー? どうだったかなあ」

 

 そこまでの知識、俺には無いぞ。

 

「儂の若い頃は、妾の一人や二人や三人や四人や五人や六人や七人や八人や九人や十人いたものだ」

「いや何人だよ」

 

 思わず突っ込み、妾自慢した男やその周りががははと笑う。完全に出来上がってやがる。

 

「そういうわけでぇ、おやすみなさいぃぃ……」

 

 ローナがゆっくりと崩折れたので、俺は慌てて彼女を支える。

 

「……酔い潰れおった」

「これからが盛り上がるところだろうに」

 

 余興は終わったんだから別のテーブルで呑んでてくれ、この酔っぱらいども。

 

「いや、観戦してないでメイド……じゃない召使(めしつかい)を呼んでくれ。控室で休ませたい」

 

 魔王領ではメイドと呼ばず召使と言うが意味は大体一緒のようだ。メイドがこちらでは通じにくいのが面倒だ。

 

「その必要は無い」

「魔王陛下?」

「勇者ヤスタケに運ばせる」

 

 婚約者を差し置いて?

 

「婚約者であるセシルから聞いた。長年積もらせたそなたに対する想いに答えようとしないのは問題である」

 

 魔王のその言葉にうんうんと頷く魔族たち。

 いや、外野はローナの過去とか聞かされて無いでしょ、何を訳知り顔みたいな雰囲気出してるのさ。

 というか、何故セシルはローナの肩を持つんだ。

 

「今夜の主役はお前だぞ」

 

 困惑しつつセシルに顔を向けて言ったら、彼女に首を横に振られる。

 

「大体のお披露目は済んだ。それに宴会状態となってる今、続ける意味があるとでも?」

「後は皆様が思い思いに過ごせば良いかと思います」

 

 セシルの後を継いで副官が言った。俺も赤ら顔の野次馬を見てそれもそうかと納得した。

 

「分かりました、ちょっと運んできます」

「そのまま彼女の側にいてやれ。明らかに飲み過ぎだから水を用意しておいた方が良い」

 

 セシルにそう言われ礼を言い、ローナをお姫様抱っこという形でよっこいしょと持ち上げ控室へ歩き出す。セシルは魔王兄妹と話があるとかで残るそうだ。

 

「勇者ヤスタケよ」

「何でしょうか」

 

 不意に背後から魔王が声をかけてきた。

 

「貴様の故郷での法に縛られるのはどうかと思う。我が領であれば重婚できる。ここで骨を埋めるなら歓迎するぞ?」

「何度おっしゃられようと残してきた両親と故郷が心配なのです。それは変わりません」

 

 控室に入り手近にあるソファにローナを寝かせる。米袋一袋(いったい)より少し重いくらいだが意外と何とかなるもんだ。

 付いてきていた召使から水差しが載ったワゴンを受け取るとソファの脇に置く。

 

「失礼ですが勇者様」

 

 召使に声をかけられ向き直る。

 

「どうした?」

「私たち召使はローナさんとは常日頃同じ仲間として親しくさせていただいております」

「これはどうもご丁寧に」

 

 召使が頭を下げてきたので、日本人の条件反射であるお辞儀が発動した。

 

「魔王領側の召使の代表としてお願いしたき事がございます。どうかローナと結婚してほしいのです」

「……君が彼女のためにそこまでする理由は何だ?」

「好きな男がすぐ近くにいるのに報われないというのは不憫です。幸せになってほしいと願うのはおかしな事でしょうか?」

「いいや」

 

 召使の疑問におかしくないと答えた。

 思っていたよりも慕われてるんだなあ、知らなかったぞローナ。でも、それとこれとは別だ。

 

「君に尋ねたい事がある。答えられないなら答えなくていい」

「何でしょうか?」

 

 真剣な面持(おもも)ちの彼女に対して意地悪な質問をしてみる。

 

「例えば君が好きな男がいたとして愛の告白をしたが振られる。それからしばらくして、君を振った男と外見も声も同じだが性格だけ違う男が告白してきた。どうする?」

「……双子なんですか?」

「そのようなものだと思ってくれて構わない」

 

 彼女はうーんと悩んでいたが、おずおずと返答する。

 

「時と場合によります」

「というと?」

「相性が良さそうな方と、そうではなさそうな方の二つに分けられます」

 

 玉虫色の回答だな。

 

「……それは逃げでは?」

「その時になってみないと分かりません」

 

 埒が明かないので、思い切って言ってみることにした。

 

「実を言うと、それに近い状況に立たされて困っているのが私なんだが」

「……そうでしたか、申し訳ございません」

 

 召使は頭を下げ、その後の対応に困ったのか無言になる。

 間が持たないな。こっちから話しかけるか。

 

「話題を変えよう。私から質問することは今のところ無い。そちらにはあるのか?」

「……では、今度はこちらから質問します。勇者様とローナが一緒に過ごされた時間はどれくらいですか?」

 

 カルアンデ王国にいた半年と魔王領にいる三か月。

 

「…………あと三か月で一年になるな」

「ローナが勇者様を好きになるには十分な時間でございます。……彼女から話を聞かせてもらいました。過去に足を引っ張られるのはもう止めにしませんか?」

 

 ローナの肉体の元の持ち主のことか。

 この召使を納得させるにはどうしたらいいか。……とりあえずマリーとの経緯(いきさつ)を語るとするか。

 

「ちょっと話が長くなるが聞いてくれ。…………マリー・ゼストは異性でありながら、ある程度話せる間柄だった。家柄や血筋で結婚相手を決める伝統ある古い慣習に囚われた両親の間に生を受けた。私の故郷で自由恋愛が一般的な社会の話をしたところ、目を輝かせていた一人だ。最初に取り決めされた内容は魔法学園の同級生のウェブルとルモール、どちらかと結婚するというものだった。マリーは二人と長い付き合いだったから信用も信頼もあった。……私が現れた事で崩壊したがね。結局、天秤にかけて下に傾いたのは両親による血筋が優先されたものだった。私と婚約しろと言われたらしいがマリーは拒絶したよ。結論を言うと、彼女が選んだ道だから俺は結婚したくないんだ」

 

 長々と話し終えて一息つく。さて、召使の反応はどうか。

 

「背景と理由は理解しました。……勇者様はマリーに縛られていますね」

「そうなのか?」

「亡くなられたと聞いております」

「事実だ」

「それなら縛られる必要は無くなったと思われます」

「それで結婚なんてしたら、あの世にいるマリーが怒り狂うだろうな。自分の身体に触れるなって」

「それが縛られていると言っているのです」

「君が死んだ後、身体だけが単なる知り合いの男と結婚して、日常生活を送ることになったらどう思う?」

「…………陰険ですね貴方。……まあ、今回の場合は魂はもうこの世に存在しないと思われますので、後は感知しないのでどうぞご自由にとしか言えませんね」

「ご自由に。ご自由に、か」

 

 こうも様々な人たちに重婚をすすめられるとそれも良いんじゃないかと思ってしまうが、態度をころころ変えるのも人間としてどうよとなってしまわないか?

 そもそも重婚なんてしたら日本に帰れば逮捕待った無しだ。躊躇するわ。

 

「悪いが考えさせてくれ」

「失礼ですが、勇者様はお年は幾つでしょうか?」

「四十過ぎたが、何か?」

「……年を考えて下さい。結婚するしない以前に残された時間が少ないではありませんか」

「そのことは良く理解しているよ。けれど、結婚は人生の分岐点だ。慎重に選ばなければ今後が危うい」

「勇者様は慎重と言うよりかは臆病かと思われますが」

 

 当たりだ。でなければ先の戦争でも生き残れなかった。

 

「私の人生で結婚は未知のものだからな、尻込みもするさ」

 

 今までの生活が一変するわけだしなあ。誰かを気にかけなくて良いという精神的に負担のかからない気楽な独身時代は良かった。

 そう考えると年貢の納め時なんだろうが、結婚は相手一人で十分だろうに。

 

 あくまで結婚相手はセシルのみと伝えると、召使は小さくため息を吐いて話しかけてこなくなった。

 ソファに寝ているローナに向き直ると泥酔している彼女の寝顔を覗き込む。

 ……黙っていれば可愛い顔なんだがなあ。はっちゃけた態度で残念な事になってしまっている。

 

 目を覚ますまでただ待っているのも何なので、側にいる召使に頼んでワインと何かつまめる物を持って来てもらい、ちびちびと酒盛りを始める。

 客の応対ばかりで食事どころではなかったからな。

 

 二十分くらい経ったところでセシルが入室してきた。どうやら魔王兄妹との話は終わったようだ。

 どうやら結婚式の日取りを何時にするか決めていたそうだ。

 準備に色々あって、外国からも要人を呼んでの盛大な式にする予定らしい。そのため半年後に式を挙げる事が決定した。




次回の投稿は明日の6時半を予定しています。
それでは。
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