目指せ現代帰還~異世界で嫁を探したら幽霊メイドが憑いてきました~ルートA・B   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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第五話 暗雲

 入学してから半年が経った。

 運動面では人並みに動けるようにはなったが、育ち盛りの若い学生たちにはかなわない。持久力が違い過ぎて差をつけられるのは当たり前だ。

 これが若さか……。

 魔法については得手不得手(えてふえて)がはっきりと出るようになり、相性の良い属性魔法は大幅な伸びを見せ、上級魔法を使えるようになった。

 それ以外の魔法は中級に届くか届かないかくらいの段階でそれ以上の位階に繰り上がることができず、聖女様達が使う回復魔法も使えなくはないが、膨大な魔力を使用する代わりに、初歩である()り傷や切り傷、狭い範囲の火傷(やけど)をきれいに治すだけの力しかなかった。

 それでも、回復魔法を女性以外が使えることに教師及び、教官たちが驚いていた。

 

 話を変えて、学園の生徒達との交流について語ろう。

 ウェブル達三人と顔合わせをして以来、同級生たちとの交流が増えた。それどころか、時間さえあれば他のクラスや高等部、専門課程の生徒たちとの交流もできるようになった。

 度々話の取っ掛かりとして話題に上がるのが俺の境遇で、両親に恩があることを話すと、家系を残す役割を持たされた貴族たちからは同情的、あるいは理解を示してくれる人が多く、友好的に接してくれる生徒が多かった。

 少なからず、三男以下や政略結婚として扱われる女生徒たちにはあまり受け入れてもらえなかった。

 この学園で自由恋愛で結婚に至った貴族もいないわけではなく、貴族の(しがらみ)(とら)われない生き方に(あこが)れる人もそこそこいた。

 そこで俺の故郷の若者たちの昔と今の結婚の在り方などを説き、自由恋愛に任せた結果、現実はどうなったかなども説明した。

 反応は様々で、「我儘(わがまま)すぎたせいで行き遅れになってしまったのか、自由恋愛というのも考え物だな」と理解する者もいれば、「いつかは良い人に巡り合えると夢見て……」と現実から目をそらす者もいた。

 ただ、(おおむ)ね家族や親族が紹介してくる見合いを感情的に突っぱねるのも良くない、そう思いなおす生徒たちが増えたのは個人的に良かったと思っている。

 信用のある人からの紹介は馬鹿にできない。経験者だから言わせてもらうが、婚活サイトだと相手が四六時中値踏(ねぶ)みしてくるので気が休まらないのだ。

 最近は生徒同士による恋愛相談を持ち掛けられるようになった。人生経験を重ねているだけあって、教官よりも悩み事を打ち明けやすいのだろう。

 というか、なんで『愛の伝道者』なんて呼ばれるようになってるんだ、俺。

 俺は生きてる間にまともな恋愛なんてしたことがない。

 恋愛相談なんてもってのほかだ。

 好きな女子生徒がいるのに、何もしないで困ってる男子生徒に向かって「誰かにとられて後悔するくらいなら、とっとと告白しろ」と尻を軽く蹴飛ばしたら、たまたま成功しただけなのに。

 自室で突っ伏しながら身悶(みもだ)える。

 

『前向きに考えましょうよ。学園の生徒たちが話しかけてくれるようになったのは良いことではないですか。交流は上手く行っています、間違いありません』

 

 ローナの(はげ)ましに俺は気を取り直すことにする。

 魔王討伐のためとはいえ、彼らを利用しているという引け目を感じるが、こちらも故郷に帰るという目標があるのだ。甘さは出せない。

 何気なくカレンダーを見る。

 この学園に入学して半年。

 教師や教官たちは俺の年齢にしては物覚えが良いと言うが、同年代に比べればというだけで、若者たちと比較しているわけではない。

 最低、あと半年の猶予(ゆうよ)か。

 それまでには何とか一端(いっぱし)の魔法使いになる必要がある。

 これしか皆の役に立てる方法が無い。

 二週間に一度課外実習が行われ、その時に色んな生徒とパーティーを組んでモンスター討伐に行き、誰と相性が良いのか訓練を受けるのだが、俺は完全な裏方、サポートの役目だ。

 攻撃魔法も使えなくはないのだが、生徒たちの魔法と比べて見劣りがする。

 膨大な魔力に任せた火力は魅力的だが、教師や生徒たち曰く、「無駄が多すぎる」とのこと。

 (へこ)む。

 こんなときは気分転換だ。

 

「ちょっと図書館に行ってくる」

『はい、ノリオ様、行ってらっしゃいませ』

 

 ローナに声をかけて図書館に足を向ける。

 俺の魔法の技術を高めることになった要因の一つがこの本の群れだ。

 言語理解の魔法のおかげもあるのだが、古代の文字で書かれた本も結構有り、普通なら読むのも四苦八苦するのが問題なく、すらすらと頭の中に入る。

 図書館と言うだけあって内部は広く、とてもではないが全部を読む前に俺が健康的に過ごせたとしても、老衰で死んでしまうほどの本が所蔵されていた。

 この図書館の主の老人の司書長にいつも通りの挨拶(あいさつ)する。

 

「こんにちは」

「こんにちは。ヤスタケ様向けの本が入ってきましたよ」

「ありがとう。早速確認させてください。ところで、物は相談なんだけど……」

「駄目です」

禁書庫(きんしょこ)閲覧(えつらん)を許可してほしい……」

「駄目です」

「あのー」

「駄目です」

「……理由をお聞かせいただいても?」

「何度も説明しましたが、過去の勇者様が禁書を利用したせいで破滅したことがございましたので、許可できません」

「そうですか、すみませんでした」

 

 そう言われてしまうと強く出られない。

 大人しく新刊を最優先で見る権利を与えられることをありがたがろう。

 得意な属性魔法の力を伸ばすべく関連書籍を漁っているのだが、結果は(かんば)しくない。

 どうも、俺の得意分野である闇と無はあまり研究が進んでいないのが実情で、専門の教官たちからの教えも基礎的な魔法に限られるようなのだ。

 教官たちからも「俺たちが使う魔法は発展の余地があると考えている。もしかすると、今教えている上級魔法すら本当は初歩の魔法なのかもしれん」と言われていたからなあ。

 人気(ひとけ)のない場所の机を選んで、新刊を読み始める。

 内容は実践的なもので、使用された魔法でどういう感覚を得たらそれはこうではないかといった論理的展開でその先を模索(もさく)した考察(こうさつ)本だった。

 俺も魔法を使ったとき、同じ感覚を抱いていたので、ためになる本だと結論したが、予想を上回るほどの展開はなかったので評価を普通とした。

 どちらかと言えば、読む価値はあった。

 魔法の存在を知って半年あまり、経験の無い人間にとって早々《そうそう》に結論付けるのは危険だと判断する。

 新刊の二冊目に手を伸ばした時、見知った顔が近づいてくるのが視界に入った。

 

「マリー?」

「あら、ノリオじゃない。読書?」

「ああ、得意属性魔法の研鑽(けんさん)にな。……ウェブルたちはどうした?」

「あのねえ、あたしだって一人でいたいときもあるの。一括(ひとくく)りにされても困るな」

「失礼した」

 

 素直に頭を下げる。

 

「ところで、マリーも読書か?」

「そうよ、悪い?」

「いや、そこまで言ってない」

 

 彼女は俺の対面の椅子を指さして尋ねてきた。

 

「この席に座っても?」

「どうぞ」

 

 特に否定する事は思い浮かばないので承諾することにした。

 お互いに無言で(ぺーじ)(めく)る音が響く。

 思い起こせば学生時代、図書室を利用したのは俗に言うライトノベルを読み漁った記憶しかなく、純粋に勉強するといった読書はしてなかった。

 気楽な学生時代と比べて、今は生死が関わってるからな。

 内心苦笑しながら本を読む。

 

「ねえ」

「ん?」

 

 ふと、マリーに声をかけられたような気がして本から目を離して、彼女を見やる。

 

「魔王を討伐したら故郷に帰るって本当?」

 

 繰り返し学園の生徒たちに語っていたことを確認されて、ちょっと困惑しながらも答える。

 

「本当だ」

「ノリオの故郷って遠いの?」

「この大陸に俺の国はないから遠いだろう」

 

 事実を言っているが、嘘ではない。

 この星の人間ではないという真実を明かしたらろくでもない未来が待っている可能性があるので、迂闊(うかつ)に話せないのだ。

 

「過去の勇者たちは召喚され、目的を達成した後、この国に残る場合が多いと聞いてはいるが、俺のような例外もいる」

 

 マリーは黙って俺を見つめている。

 ふと、故郷に帰るの帰らないのという問答に疑問を抱いた俺は、彼女に質問することにした。

 

「逆に訊きたいんだが、何故皆そこまでして俺にこの国に残らせようとするんだ?」

 

 何気ない質問だったが、彼女は目を伏せた。

 

「……貴方(あなた)経歴(けいれき)は全てではないけれど、ある程度は知ってる。この国はね、学力や剣術なんかが物を言うけれど、魔法も……、魔力量も物を言うの。価値があるの」

「価値? 俺の属性魔法は闇と無で、人気の無いこの国ではあまり役立てそうにもないが……」

「そういうことじゃなくて、単純な魔力量が注目されているの。ええと、何て言えばいいのか……」

 

 彼女は困った顔でうんうんと唸る。少ししてこちらに確認してきた。

 

「ねえ、ウェブルたち、というか他の生徒たちから魔力量の価値とこの国に残る意味について聞いていない?」

「いや、そもそもそんな話聞いたことない……」

 

 そう言いかけて、彼女の言い回しに気づいた。

 

「なあ、もしかしてとは思うが、魔力量って子孫に遺伝したりするのか?」

「……そうよ。王国は箝口(かんこう)令を()いたそうだけど、さる貴族が神殿で測定した魔力量の情報をお布施という形で買ったそうなの。そこから周辺へ漏れたわけ」

「はた迷惑な」

 

 道理で学園女子生徒の、特に下級貴族たちからの視線が命がけだったわけか。

 成り上がれる機会だものな。

 一人納得しているとマリーは言う。

 

「今でも価値はあるけれど、魔王討伐が成功すればさらに価値は上がる。貴方が望めば酒池(しゅち)肉林(にくりん)も夢ではない」

 

 思わず失笑しそうになる。

 普段思慮深いことを発言する彼女にしては直接的な勧誘だな。もしかして、誰かにそうするよう言い聞かされたか?

 半ば困惑しつつも、俺は否定する。

 

「それは世の男にとっては魅力的な提案かもしれない。だが、俺は故郷に帰りたい」

「そう……」

 

 期待通りの解答が得られなかったのか、彼女は(うつむ)いた。

 俺は続きを口にする。

 

「ただ、故郷に帰るとき、誰かを伴侶(はんりょ)として連れて帰ろうかと考えてはいる。……それが誰かは今の時点では分からないが」

「……無理ね。あたしじゃなくても、この学園の大半は今の条件で無理と言うでしょうね」

「それは何故?」

「この学園の大半は貴族なの。血を残すことを義務付けられているわ。どこか遠く誰も知らない土地へ一人だけ(とつ)ぐ、なんてことは許されるはずがないもの」

「相手が貴族の三女以下でもか?」

 

 機会がありそうな条件を探ってみるが、返答はにべもない。

 

「男と違って、女は政略結婚の道具の意味合いが強いから、親族が手放さないと思う」

 

 マリーは席を立つ。

 

「帰るわ」

「相談ありがとうな。それと質問があるんだが……」

 

 背を向けたマリーがちらりとこちらを見やる。

 

「本来の本命は、ウェブルとルモール、どっちなんだ?」

 

 心底驚いたのか、彼女が勢いよく振り向いた。

 

「……誰から聞いたの?」

「いや、誰も。俺から君を見て二人に向ける視線が、その、ね」

「……普段から抜けている貴方がそこを見抜くなんて。愛の伝道師というのも伊達(だて)ではなかったのね」

「いや、たまたま君たちの近くに俺がいたから分かったというだけの話だ」

「そういうことにしておく」

 

 彼女はそう言うと、今度こそその場を後にした。

 

「貴族の(しがらみ)、ねえ……」

 

 日の差さない薄暗い図書室の中、彼女が歩き去った方を(なが)めながら呟いた後、俺は再び視線を下に向け読書を再開した。

 

◆     ◆     ◆

 

 翌日の午前の授業が終わった直後、食事休憩(きゅうけい)をとろうとしたところで廊下から顔を出した教師に呼ばれる。

 

「何でしょうか」

「学園長がお呼びだ、至急、学園長室へ行きなさい」

「分かりました」

 

 何かあったのだろうかと思いつつ、ウェブルたちに昼食を一緒にとれないことを伝えてから学園長室へ移動した。

 扉を軽く叩いて呼びかける。

 

「安武典男です。マッケンロー学園長はいらっしゃいますか?」

「入りたまえ」

「失礼します」

 

 入室するとマッケンローが執務机から席を立ち、応接用のソファに移動した。

 

「まあ、座りたまえ」

「はい、ありがとうございます」

 

 マッケンローの対面のソファに座る。

 

「お久しぶりです」

「どうかね、元気にしているかね?」

「はい。学園の生活にも慣れ友人とも呼べる関係も(きず)きました」

「それは何より」

「ところで何の用でしょうか」

「時間もないし話そう。……実はヤスタケ君が戦場に行くことが決まった」

「はい?」

 

 マッケンローの言葉の意味が分からず、首を傾げる。

 

「現時点から十日以内に戦場に向かうように、というお達しが国から来た」

「……まだ最低半年の猶予(ゆうよ)があったはずでは」

「……まだこの国のごく少数にしかもたらされていない情報だが、我が国の軍も含めた同盟各国軍が先日の戦で大敗したようだ」

「……」

「軍隊が壊滅しただの、勇者たちが死んだという情報が飛び交っているそうだ」

「……」

「そのため、まだ戦力が残っている我が国に出撃要請が届いたのだ」

「勝手ですね」

「全くだ。お荷物としてしか見ていなかったのに、同盟各国の戦力の均衡が破られて連中相当焦っている。大方、戦後を見据えて、君を戦場で死なせることで我が国の戦力の突出を抑えたいのだろう」

 

 マッケンローが肩をすくめた。

 はっきり言ったなあ。

 

「死んでたまるか」

「それとだね、ヤスタケ君だけでなく、この学園の中等部以上の生徒たちも動員されることが決まった」

「…………学徒動員? 女子生徒たちもですか?」

 

 思っていたよりも状況が悪いようだ。

 

「そうなるね。……まあ、女子たちはよほど優秀でもない限りは後方支援となるだろう」

「……誰が決めたんですか?」

「議会の半数以上を占める主戦派だよ。国王陛下と彼と親しい和平派閥は最後まで反対していたのだが……」

 

 俺は顔を下に向けて顔を(ゆが)める。

 決定は(くつがえ)らない、か。

 特に反論を思いつかず、マッケンローを見た。

 

「分かりました。このことは生徒たちにはどのように伝えるんですか?」

「明日朝に全校集会を開く」

「皆、この決定に賛同してくれるんですかね?」

「言っただろう、国が決めたことだと。むしろ、名を上げる機会だと大勢を()める下位貴族が躍起(やっき)になるだろうね」

 

 もう止められないのだと理解した。

 

「直ちに戦の準備をしなさい。詳しいことは戦地帰りの教官に聞きなさい」

「はい」

「以上だ、下がりなさい」

「はい」

 

 暗澹(あんたん)たる気持ちで席を立つ。

 落ち込んでいる暇はない。気持ちを切り替えよう。

 

「ああ、それと国王陛下からひとつ言伝(ことづて)がある」

 

 背を向けて学園長室から出ていこうとした俺にマッケンローが声をかけてきた。

 

「何でしょう?」

「すまなかった、だそうだ」

「……仕方がないですよ、こればかりは」

 

 俺はマッケンローに向き直り一礼すると部屋を出た。

 教室に戻ると、皆は昼食をほぼ食べ終えたようで雑談していた。

 俺を見つけたルモールが呼びかけてくる。

 

「お帰り。一体何だったんだ?」

「それについて相談したいことがある。今日の放課後、いつもの喫茶店にウェブルたちと集まれないか?」

「おお、いいとも」

 

 午後の授業も何事もなく終え、教官から明日朝に全校集会が開かれることを知らされてから放課後となる。

 生徒たちは全校集会について特に疑問に思わず帰宅していく。

 俺はウェブルたちと一緒に喫茶店の空いている席につき、それぞれ注文してから本題に入った。

 

「ノリオから誘うなんて珍しいね。学園長に何て言われたんだい?」

 

 正直に言うか遠回しにするか迷ったが、明日朝には皆に知らされるのだから白状(はくじょう)することにした。

 

「国の議会で決まったことだそうだが、今回の戦でこの学園の中等部以上が動員されることになったって」

「え?」

 

 マリーが小さく息をのんだ。

 

「もちろん俺も行くことになる。今から十日後までに戦の準備をして戦地に向かうように、という話だ」

「それはまた、急な話だな」

「じゃあ、明日の集会って……」

 

 思っていたよりも深刻な内容にルモールがしかめっ面で腕組みし、マリーの顔がちょっと青くなっている。ウェブルは無言だ。

 

「学徒動員の話だ」

 

 ウェブルたちは注文した品が運ばれてきても無言だった。サンドイッチを黙々(もくもく)と食べる。

 考えをまとめているのだろうか。

 黙りこくる三人に対して俺は自身の意見を先に述べておくことにした。

 

「学徒動員なんだが、クラスに別のクラスや学年の生徒を集め行動しようと考えてる。学園全体からこれはと思う生徒を勧誘するつもりだ。ウェブル、ルモール、マリーにはその中心となってもらいたい」

「……僕たちが、かい?」

「ああ。優秀な生徒を選ぶことも大事だが、長い付き合いをしている、ああ、信頼できる人を選ぶのも大切だと思っている。それが君たちだ」

 

 ウェブルは照れくさそうに微笑(ほほえ)みながら言う。

 

「そう言われると悪い気はしないね」

「でも、そんな急に戦に行こうって言われても困る」

「俺は知り合いから話を聞いていたから、いつかはそんな日が来るだろうと予感していた。覚悟はできてる」

 

 突然のことにマリーが不安の声を上げると、ルモールはどっしりとした態勢(たいせい)で応じたので、彼女は目を見開いて彼をまじまじと見る。

 

「ルモールは怖くないの?」

「中等部以上は全員動員なんだろう? 怖気(おじけ)づいて引っ込んでいたら昨日まで一緒に馬鹿な事やっていた友達が目の前からいなくなっていた、なんていうことは嫌だからな」

「僕も正直怖いけれど、ルモールにそんなこと言われたら逃げられなくなっちゃうじゃないか」

 

 三人のやり取りを見て俺は申し訳なくなった。

 何だ、貴族としての名誉とか言っても体面だけじゃないか。やっぱり怖いものは怖いんだな。

 

 彼らに対して頭を下げる。

 

「ごめんな、俺がここに来たばっかりに……」

「言うなって」

 

 言葉を続けようとして、ルモールが(さえぎ)った。

 

「俺たちにとっては出世の機会なんだ、もしかすると死ぬかもしれない。でもこの二十年戦がなかったせいで、貴族の子供たちの食い扶持(ぶち)が制限されている。この現状を打破するには、出世して新たな領地を得る他ないんだ」

 

 彼らなりの生き方を教えられ、納得しつつも現代日本人としての感覚が判断する。

 まさに中世って感じだな。

 ルモールが俺を(さと)すと、マリーが俺たちを見回して言う。

 

「それよりもまず生き残ることが先決、何かいい方法はない?」

 

 彼女の言葉にウェブルが手を肩の位置に上げて発言する。

 

「僕たちの隊に聖女見習いを多めに入れよう。彼女たちがいる、いないで生存確率がだいぶ変わってくる」

 

 ウェブルの言葉の意味を(はか)りかねて、俺は尋ねた。

 

「聖女と見習いにどのような違いがあるんだ?」

「分かりやすく言うと、死んだ人を生き返らせるのが聖女で、その御業(みわざ)を持っていない子は見習いだね」

「ああ、なるほど、(うば)い合いになるわけだ」

 

 明確な違いに俺は一人納得しているとウェブルが補足する。

 

「余計な諍いが生まれるから、普通は国が管理することになるよ」

()()()?」

「僕たちには勇者が居るからね、優先的に選ばせてくれるはずだよ」

 

 その言葉にマリーが首を傾げた。

 

「それはありがたいことだけど、周りから恨まれないかなあ」

帳尻(ちょうじり)を合わせるため、俺らには危険な任務が回ってくるんじゃないか?」

「魔王討伐という使命だけで十分危険すぎると思うがな」

 

 ルモールの推測に俺は同意しつつ本来の目的を告げた。

 

「でも、今のところあたしみたいな聖女見習いしかいないわけだから、いきなり魔王に突っ込めなんていうことは言わないと思うけど」

「しかし学徒動員せざるを得ないぐらいまで追い詰められているからなあ、無茶な命令をさせられるくらいの覚悟はしておかないと」

「ううん、現地の戦況次第だろうね。()()()()()()現地で教育を受けさせてもらえるかもしれない」

 

 マリーはこう見えて聖女見習いで神殿から注目されている一人だ。引く手あまただろうが、俺たちがもらっていく。

 彼女の普通の状態ならではの推測に、ルモールが疑問視し、ウェブルが流れに身を任せる発言をした。

 マリーがウェブルの言葉に反応して質問する。

 

「酷かったら?」

「直接敵と戦いながらの実戦教育になるな」

「ぶっつけ本番? 学生に死人が出るよ」

(おさ)えて、静かに」

 

 彼女の疑問にルモールが肩をすくめて回答したが、マリーは眉を吊り上げ語気(ごき)を強くしたので、ウェブルが注意する。

 マリーが落ち着くのを見てから、ルモールは続きを話す。

 

「そこは現地の兵隊たちの裁量によるな。勉強のために安全な戦い方をさせてもらえるか、切羽(せっぱ)詰まってて激戦(げきせん)区に送られるか……」

「できれば前者を希望したいところだな」

 

 俺はできるだけ良い方向に話が向くように言ってみた。

 話が途切れ、誰も発言しなくなったのを見計らってウェブルが話し出す。

 

「とりあえず、聖女見習い勧誘の件は生徒会と学園長に根回ししておくよ」

「頼む」

「任された。……他には何かあるかい?」

 

 ウェブルの気遣(きづか)いに俺は頭を下げると、彼に他の要望はないかと(うなが)されたので、他にも考えていたことを打ち明けてみることにする。

 

「それはそうと仲間を集める話なんだけど、他に誰を誘えば良いのか分からないんだ。ウェブルたちはこの人なら大丈夫という人たちを勧誘してくれないかな」

 

 俺の言葉にルモールが自身の胸をどんと叩いて言い、マリーも続けて言う。

 

「それならお安い御用だ、任せてくれ。……ウェブルは攻撃魔法に詳しいから、そっち方面を当たるとして、俺は近接戦闘が得意な奴らを当たってみる」

「あたしは他の聖女見習いたちにも当たってみる」

 

 俺はまた頭を下げた。

 

「皆、ありがとう」

「気にすんなって、俺たちも五体満足で生き残りたいだけだからな」

 

 ルモールの直球な発言に俺たちは苦笑した。

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