救護の手にクリームを   作:救急パックA

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救護騎士団が好きなので書きました。


蒼森ミネと黄瀬チヨコ
蒼森ミネと黄瀬チヨコ


「チヨコ、救護Aセットをダースで用意できますか?」

「うん。そろそろかと思ってストックしてあるよ」

 

黄瀬チヨコは、トリニティ総合学園の救護騎士団に属する3年生である。

ひとつに結わえた亜麻色のみつあみを、肩で留まるようまとめたその少女は、救護騎士団の善き副長であり、団長たる蒼森ミネの同期であった。

 

といっても、それを知るものは少ない。

生徒たちの知る救護騎士団というのは本部に詰めている他は常に忙しなくトリニティ中を飛び回っているものだから、裏方が常日頃、どんなことをしているかなど想像もつかないのだ。

 

「いつも助かります」

「これが仕事だから。救護が必要な場に救護を、でしょう?」

「ええ。しかし、その為には薬の調達と調剤は欠かせません」

「そうねえ。紅茶の茶請けはどうする?」

「スコーンといちごジャムを頂けますか」

「勿論」

 

チヨコはミネの話を聞きながら、淹れたての紅茶をティーカップに注いだ。

ミネの冷めやらぬ熱弁に垂れた兎耳を傾け続けるなら、ミネの喉を潤す紅茶は必要だと、チヨコは理解しているのだ。

 

「私は常々疑問に思っています。誰かを救護するのが救護騎士団ならば、救護騎士団を救護するのは誰なのかと」

「流れが変わってきたね」

「チヨコ。貴方はどう思いますか」

「私? そうだなぁ……ティーパーティーは金食い虫の救護騎士団へ予算を融通してくださるし、ありがたい存在じゃないかな」

「ええ。彼女たちもトリニティに欠かせぬ存在です」

 

チヨコの深く考えずに出した答えに、ミネは深々と頷き、そして決断的に拳を握った。

 

「が、決して我々の救護とはなりません。むしろ彼女たちはその重責から、度々に救護を要する方々となります」

「確かに、些かカフェインや砂糖を取り過ぎだろうけどもねえ……」

 

ティーパーティー、シスターフッド、正義実現委員会……

様々な委員会、部活動、果ては企業までチヨコは挙げるが、ミネはそれら組織の素晴らしさを認めながらも、結局救護騎士団の救護者としては認めなかった。

茶請けを切らしたところで、チヨコはネタも切れたと首を振る。

 

「じゃあミっちゃんは誰がいいのさ」

「貴方です」

「私?」

「そう、貴方。救護騎士団副長、黄瀬チヨコです」

 

ずびし、と指し示す指先を、チヨコはきょとんと見つめた。

その指先を押し付けるようにして、ミネはセーターに包まれた、チヨコの豊かな胸に沈み込ませる。

ずむずむと入っていく。そして……

 

「貴方と、貴方たち薬事班がいなければ、薬はおろか、薬代にも救護班は困ることでしょう。そうなれば救護は成りません」

「まあ、金回りや事務方は薬事班がやった方が楽だからね」

「それがありがたいことなのです!!!」

 

蒼森ミネは突然憤激した。

互いのカップに紅茶を注ぎ直して、チヨコはその激発と共に手首まで沈んだミネの指を、ただ見守る。

 

「救護の円滑化、それこそが救護への救護! 貴方たちはそれを真に理解し、遵守し、努力してきました!」

「そうだねえ、みんながんばったねえ」

「だからこそ、私は悲しいです!」

「なぁんでよぉ〜」

「わからないのですか、チヨコ!」

 

ミネに思いきり肩を掴まれても、チヨコは困ったようにされるがまま。

今はミネの独壇場だと、チヨコはよく知っていた。だから話を最後まで言わせた方が拗れないのも、よく知っているのだ。

 

「このような活躍をしている貴方が、貴方たちが! 何故パーティーの招待を受けていないのか! 納得がいかないのです!」

「ああ、そういう……」

 

ひたすらに話を促し続け、漸く合点がいく。

トリニティ総合学園、その頭目たるティーパーティーがホストを変える度に開催する祝宴は、殆どが招待制である。

これにお呼ばれされるのは中々の栄誉であり、毎度各組織のそうそうたるお歴々が参列する倣いであり、新たに副長となったチヨコや薬事班の皆もまた、当然参加するものと思っていたのだ。

 

「ミっちゃん、あのね」

「なんでしょう」

「それは私から、百合園さんに断りをいれたんだよ。行かないって」

「どうしてです。何か止むに止まれぬ理由があるとでも?」

「ミっちゃんが出払ってる時になんかあっちゃ困るでしょ〜、剣先さんも羽川さんに任せるって言ってたし〜」

「成程……」

 

言い分に納得し、ミネは一旦動きを止める。

しかし、これで終わるのであれば、それは蒼森ミネではない。

 

「なら、私が残ります! チヨコはきちんと、本来受けるべき名誉を受け取ってください!」

「真似っ子しな~い」

「真似っ子ではありません。あるべきものを、あるべきところに渡しているのです。それがどうしてわからないのですか!」

「代わりに受け取っておいて~」

「貴方に受け取ってほしいと、そう言っているのですよ、私は!」

 

がっくんがっくんぶるんぶるん。

チヨコがミネに揺すられながら強請られている様を、救護班の生徒たちも、薬事班の生徒たちも微笑ましく見守っていた。

こうした光景は救護騎士団にとっていつものことであり、新入生たる朝顔ハナエでさえも見慣れたものであったのだ。

 

「おふたりは本当の本当に仲良しさんですね!」

「ええ、そうです!」「そうだね〜」

「いっしょにパーティー、楽しんでくださいね!」

「ええ、そうします!」「行かないよ〜」

「「…………」」

「何故ですか!!!」「現場に責任者要るでしょぉ〜」

 

激情と平然、使命と実務。

筋肉と脂肪、爆乳と爆乳。

まるで正反対の二人であり、実際意見も対立するのだが、仲は概ね良好である。

各組織の長はその事実に不思議そうに首を傾げるが、これにはきちんとした理由があった。

 

「んじゃミっちゃん、救護の為にすり合わせしよっか」

「勿論です。救護の為、何が肝要か見極めましょう」

 

それはふたりが揉める時は、すぐさま妥協点を見定めるようにするからだ。

 

「まず、貴方にとって一番の懸念事項は?」

「医療体制の崩壊でしょ〜。私かミっちゃんが残れば、パーティー狙ったテロや大事故があってもすぐ対応できるよね」

「そうですね。貴方と薬事班が参加する場合はどうですか?」

「私らにミっちゃんら救護班ほどの制圧力も耐久力もないからね。爆発物なんてあったらこっちが病院送りになるよー」

 

互いに理路整然と、包み隠さず話し合う。

それが可能なのはふたりが政治的に対立せず、「救護騎士団は救護をするものである」という前提を共有しているからだ。

その前提が異なる者とは、ミネは落ち着いた対話が難しい傾向にある。チヨコはそれを、よく知っていた。

 

「わかってて聞くけど、両方参加しないというのは?」

「当然論外です。救護騎士団は政治的に中立を維持しますが、それは非協力を意味しません」

「それに、現場に近いほうが早く救護できるもんね〜」

「テロでなくとも、単純な食中毒や些細な怪我にも対応したいですからね」

「そだね〜。担架と救急医療キットを多めに搬入するよう、百合園さんに根回ししとこう」

「助かります」

 

すり合わせの内容はどんどんより具体的になり、実際にどう実務をこなしていくかに近づいていく。

この分ならいつも通りミネがチヨコの言い分を受け容れる形で、代表としてパーティーに参加する形となるだろう。

普段なら、それを後輩たちがきらきらのおめめでメモ帳片手に聞いているのだが……

 

「あの……団長、副長」

「どうしましたか、セリナ」

「私たちが残るので、おふたりが参加するのはどうでしょう?」

「「…………」」

 

……この日はふたりが思う以上に、団員たちの熱意が高かった。

目を丸くするミネとチヨコに、団員たちはわあわあと声を上げ、距離を詰めていく。

 

「団長! 副長! 私たち1年生も、先輩たちのお役に立ちたいです!」

「ハナエ、貴方はいつでも私たち救護騎士団に貢献しています。ですから……」

「先輩たち抜きで先輩たちに教わったことを全うするのも、私たちの成長を試すいい機会だと思うんです。私たち2年生はまだ頼りないですか?」

「いや〜そんなことないよぉセリナちゃん! ただなんかあった時にさあ」

「あら、私たちじゃ下級生任せらんないってさ」

「ミネもチヨコも偉くなったもんだね〜。調剤室でスコーン作って仲良く尻叩き食らってた頃とは別人みたい」

「「3年生は恥ずかしい話禁止!!」」

 

どうやら団員たちは是が非でも団長副長をパーティーに揃えたいのだと察し、ミネとチヨコは揃って頭を抱えた。

あの手この手で正当性と妥当性を立てられれば否定もできず、団員たちに見つめられながら、ふたりは再び問答を始めた。

 

「本件、救護に要する最低人数ですが……私と貴方で何人分になりますか?」

「ミっちゃんは壊すんだから1人分だよ」

 

こうして他の団員を3年生に託し、ミネとチヨコは最低限の人員を連れてティーパーティーの祝宴に参加することにしたのだった。

ちなみにティーパーティーにその旨を伝えたところ、ちゃんと救護騎士団全員分の招待状が送り直された上で、当日向かわない人数分のコサージュが贈られた。

贈られた生徒たちは後に記念として大切に保管したという。




お読み頂きありがとうございます。
次回は2024/02/12 23:00頃に投稿予定です。
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