救護の手にクリームを   作:救急パックA

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20分の遅刻、恐縮です。
宝くじは1枚100円から販売中。


生徒会と宝くじ

 

「ええ、キャンセル~?」

「生徒会長は急務により、しばらく面会できませんので」

 

サンクトゥムタワーの待合室でそうチヨコに言い渡したのは、仏頂面の首席行政官・七神リンだった。

急な面会謝絶にチヨコは勿論、付き添っていたセリナも困惑を隠せなかった。

 

「急務……そんな緊急事態なんですか? 救護の必要があれば……」

「私の仕事は他の予定された生徒を含むキャンセルの通達で、詳細に説明し、慮っていただくことではありません」

「そんな言い方……」

 

慇懃無礼を地で行くリンの物言いに、セリナは眉をひそめる。

無理もない、と思いつつ、チヨコは苦笑しながらリンへ頷いてみせた。

 

「七神さんも大変だねぇ」

「そう思っていただけるなら、何も言わずお引取りください」

「あはは。そうもいかないってわかってるでしょ~?」

 

七神リン。

首席行政官として生徒会長の補佐を務める、やり手の役人だとチヨコは認識している。

連邦生徒会は連邦生徒会長のワンマン組織だと噂されているが、実際のところ、彼女のような文官の尽力によって連邦生徒会のパワフルな政治手腕は維持されているのだ。

しかし天は二物を与えないのか、外交については些か……いや、かなり向いていない人物であり、彼女が抱える苦労を理解する頃には、その口さがなさにすっかり嫌気が差しているだろう。

つまり、物凄く口が悪いのである。少なくともチヨコは、そう認識していた。

 

「私が呼ばれた理由、七神さんも知ってるよねぇ?」

「エデン条約に伴う傷病者の緊急救護、及び医薬品の費用負担についての意見提出ですね」

「大正解~。これをちょっとでもトリニティ有利に収めないと、私が桐藤さんに睨まれちゃうんだぁ」

 

エデン条約。

長年、歴史に残るほどの対立関係を続けてきたトリニティ総合学園とゲヘナ学園が共に人員を供出しあい「エデン条約機構(E.T.O)」を設立。両校の調整役として紛争解決を目指すという、一種の不可侵条約である。

連邦生徒会長が主導しているそれは、トリニティ総合学園側では本来ティーパーティーの管轄なのだが、医療関係は流石に門外漢であるということでチヨコに白羽の矢が立てられたのだ。

(ミネが参加していないのは、純粋に金回りはミネよりチヨコの方が明るいからである)

 

「というわけで、これ。言いたいことまとめた資料ねぇ」

「……わかりました。お渡ししておきます」

「うんうん、よろしく~」

 

受け取った方がスムーズに済む。

チヨコの言外のメッセージを巧みに読み取り、リンは資料を受け取り立ち去っていく。

 

(悪い子じゃないんだけど、仕事を早く片付けたいあまりに増やしちゃう気質だよねぇ)

 

連邦生徒会という存在そのものが、学園都市キヴォトスの運営に携わる存在であり、決して軽んじられたり不忠を働くべき存在ではない。

しかし都市を形成する各学園は独立独歩で運営しているのが実情であり、「連邦生徒会は何をした?」と聞かれれば「連邦生徒会長がこんなことをやった」と語られるばかり。

連邦生徒会そのものの権勢はお世辞にもいいものではなく、そういった各学園の無関心さがリンの気苦労に繋がっているのだろうとチヨコは分析していた。

 

「……言い方って気をつけた方がいいですね。勉強になりましたっ」

「悪い人じゃないんだよ~……」

 

リンは偏に、連邦生徒会長がいるからこそ輝く人材である。

理想的な職場についたものだと関心しながら、チヨコは少し頬を膨らませて怒るセリナを撫で回し、サンクトゥムタワーから立ち去った。

 

***

 

「わぁー! セリナちゃん見てみてぇ! せくしーな水着ぃ!!」

「副長!?」

 

サンクトゥムタワーから立ち去った後、時間が余ったからとチヨコはセリナを連れてD.U地区のショッピングモールを歩き回っていた。

キヴォトスの中心街であるD.U地区には、様々な学園の文化が集まりやすい特徴がある。

それ故、D.U地区は行政特区であると同時に、商業地区として膨大な利益を上げている側面があるのだ。

 

「セリナちゃん着てみない? 牛さん柄だよ~」

「そ、そういうのは副長が着た方が皆さん喜びますから!」

「私が着たらボンレスハムになっちゃうよぉ」

 

露出度を引き上げた牛柄のハイレグレオタードは、扇情的を通り越していっそ下品の域。

しかしセリナのような清廉潔白な美少女がまとえば、「えっち」という形で奇跡的なまとまりを見せそうだというのがチヨコの見立てであった。

勿論セクハラであり、セリナの照れ隠しに見舞ったカウンターにすごすごと退散する。

 

「じゃあミっちゃんに着てもらお~」

「や、やめましょう。やめましょう。ちょっと過激ですよ」

「う~ん、そう? じゃあやめとこっかあ」

 

ミネが聞けば救護のチョップを頭部に浴びせそうな目論見を寸前で止めることに成功したセリナは、溜息をつきながらもあぶない水着を商品棚にしまい込む。

そもそも、何故聡明にして沈着なる副長・黄瀬チヨコが斯様な迷走とセクハラに勤しんでいるのか?

 

「いくら“宝くじ”の景品にするからって、正実に怒られそうなのはやめましょうよう」

「だってぇ、注目を集めないとみんなくじ買わないじゃない」

 

それは、救護騎士団公認の宝くじであった。

財政難に備え、チヨコの先々代あたりから導入されたこの宝くじという商売は、元々は車や芸術品など、高級品ひとつを対象とした年一回のものである。

しかしそれでは新入生の興味は引きづらかろうと考えたチヨコは、既存の宝くじに加え、銃やアクセサリなど若者向けのコンテンツとして拡充させていた。

今や需要に合わせて供給を増やせば、それは自然と富と人を呼ぶものであり、いつしかその規模は校内を飛び越え、他校の生徒が買い求めるまでに至ったのである。

(今や救護騎士団の財源の四分の一にまで迫るといえば、その額が推し量れるだろうか)

 

「割と大人に人気なんだよ、救護騎士団ブロマイドくじ」

「ブロマイドくじですか?」

「そーそー。この間セリナちゃんの寝顔をレアくじにしたら飛ぶように売れたし」

「いつの間に撮ったんですか!?」

「ハナエちゃんと薬事室で寝てた時かなー」

 

なかなかの財源となったそれを運営しているのはチヨコだが、ここのところは手広くやりすぎてネタ切れの感も否めない。

ここは一発大きめに搾り取っておこうか……と考えた末に選んだのが、先程のあぶなすぎる水着だったというわけだ。

 

「と、とにかく! えっちなのはいけないと思います!」

「えー」

「団長に言いつけますよ!?」

「わぁ、それはダメ! 救護チョップされちゃう!」

 

実はこの迷走はこれが初犯ではなく、それが露見する度にミネからの救護チョップが炸裂していたのだ。

今度やらかしたと知れば救護チョップが救護バスターチョップに変貌する。そうすれば入院さえ視野に入ることだろう。

それを察し、いち早く命乞いに走るチヨコを見て、セリナは困ったように笑う。

 

「それなら、次のブロマイドはチヨコ副長にしましょう」

「え」

「さあさあ、おしゃれしましょうおしゃれ! どんな服がいいですか?」

「で、でも、私なんて需要はあんまり……」

「選ばないなら、さっきのあぶない水着にしますよ?」

「わぁーいおしゃれたのしいなあー!」

 

笑顔の圧に慄き、チヨコは大慌てで衣服を見繕い始める。

勿論セリナにチヨコを罰する気はない。救護騎士団も財源がなければ立ち行かないものであり、その屋台骨を支えようとチヨコが躍起になっているとわかっているからだ。

このいじわるは偏に寝顔を勝手にブロマイド化されたことである。

 

ちなみに、チヨコ初のブロマイドは王道を行くミニスカナースであった。

勿論飛ぶように売れた。

 




お読み頂き、ありがとうございます。
次回は2024/02/28 23:00頃を予定しております
(2024/02/27 急な冷え込みに伴う体調悪化に伴い、本日の投稿を延期させて頂きます。皆様もミネ団長の救護を受けないよう、常に暖かくしてお過ごしください)
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