ビジネス文書めちゃ久しぶりに書きました
『宛先:捜査部S.C.H.A.L.E 生徒用窓口
件名:生徒兼部承認・医薬品譲渡のお知らせ【救護騎士団副長・黄瀬チヨコ】
拝啓 連邦捜査部S.C.H.A.L.E 先生
突然お手紙差し上げます失礼をお許しください。
トリニティ総合学園3年生 救護騎士団副長・黄瀬チヨコと申します。
この度は当団体所属生徒、
2年 鷲見セリナ
1年 朝顔ハナエ
上記2名より兼部届を受領し、シャーレとの兼部を団長・副長ともに承諾したことをご連絡させていただく為、お手紙を送信させていただきました。
本書を以て、上記2名の連邦捜査部S.C.H.A.L.Eでの活動を救護騎士団は承諾するものとし、活動中に生じる監督責任の一部を先生に預託することとなります。
お忙しい中、大変恐縮ではありますが、生徒として勉強中のふたりを善く導いて頂けますよう、両生徒の先達としてお願い申し上げます。
ところで、新しく発足した連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの活動において、何かと消耗品、特に生徒の怪我や病気などを救護する為の医薬品は何かと物入りかと思います。
そこで、救護騎士団基準の常備薬となってしまい恐縮ですが、生徒30名に対し2ヶ月分相当の医薬品を寄付させて頂くこととしました。
次、鷲見・朝顔が連邦捜査部S.C.H.A.L.Eに出向させて頂く際に持たせるように致しますので、受領証にサインを頂戴できれば幸いです。
気候不順の折から、くれぐれもご自愛くださいますようお祈り申し上げます。
敬具』
「……送信、っと」
文章を書き終えたチヨコは、溜息をつきながらも成すべき仕事を終えた。
兼部の承認と、医薬品の譲渡。発足したばかりのシャーレにとってはありがたい申し出には違いないが、決して慈善が目的ではない。
(まあ、もう薬なんて腐るほどあるわけだしね)
そもそも寄付する医薬品も、深刻な薬需要に備えて作り溜めていたが、先生のスピード解決で余ってしまったものなのだ。
学園傘下の製薬工場も急な特需の終わりに悲鳴を上げており、その救済として救護騎士団は大量の使われない薬を買い取ることとなった。
この寄付はその一部をシャーレに恩着せがましく押し付けてしまおう、という魂胆である。
これによって何が変わらずとも在庫が捌けるならよし。寄付によってセリナたちが厚遇を受けるならば、チヨコにとって言う事なしだった。
「セリナちゃんには連絡してあるし、あとは桐藤さんに対応の報告を――おっとぉ?」
そんなことを言っている間に、メールボックスに通知が一件届く。
見れば、先程先生に送ったメールに対し、早速返信が届いていた。
意外と筆まめな人物なのだろうか。そう首を傾げながら、チヨコは内容を確認する。
『黄瀬チヨコさんへ
シャーレの先生です。
メールを送ってくれてありがとう。これからよろしくね。
セリナからもお薬を届けに行くと連絡をもらいました。
このお薬は、アビドス対策委員会の子たちがシャーレに支援を求めてくれたので、その子たちの為に持っていこうと思います。
(色々買って持っていこうと思っていたところなので、とても助かります。どうもありがとう!)
それと、セリナとハナエのシャーレ兼部を認めてくれてありがとう。
ふたりは今日のお昼に会ったばかりだけど、私がケガしていたのを見てすぐに手当てをしてくれました。
詳しくはよくわからないけれど、私はキヴォトスの外から来たから生徒のみんなと違って銃弾を受けると大ケガをするそうで、ふたりがとても心配してくれてありがたかったです。
あと、セリナたちの提案のおかげで、D.Uでいたずらしている不良の子たちに炊き出しとかをすることができるようになりました。
救護の必要な場所に救護を。
救護騎士団の心得を真似する形になったけれど、それがとても上手くいったみたいです。すごくいいことを教えているんですね。
セリナとハナエがシャーレに所属してくれることは、私としてもとても心強いです。
先生として、セリナたちがシャーレでの活動に胸を張れるよう頑張りたいと思います。
チヨコも何か困ったことがあったら、いつでも相談してね。
先生は生徒の為に頑張ります。 シャーレの先生より』
「ちびっ子と思われてるのかな……」
ビジネス文書として送りつけたチヨコのメールに対して、先生が返したものは些か以上に子どもに対する文章を意識したものだった。
平易で、読みやすい文章ではあるのだが、言い回しは幼子に語り聞かせるようなもの。チヨコがもう少し偏屈であれば、馬鹿にしているのかと機嫌を損ねていたことだろう。
「……まあ、悪い人じゃなさそう、というのはよくわかったかな」
しかしよくよく読んで見れば、その返信の内容に自身の好評やシャーレの権勢を匂わせる発言はろくにないことも伝わってきた。
書いている内容のほとんどは、セリナとハナエを褒め称え、チヨコたちが素晴らしい教えをしたと褒めそやすもの。いくらなんでもこれにヘソを曲げるようでは、チヨコの方が狭量を示すこととなってしまう。
毒気の抜かれる、毒にも薬にもならない文章。チヨコは返信の内容を、そう評価した。
「けど、アビドスか……確か砂漠地帯だったよねぇ」
アビドス高等学校。
過去は砂祭りなどが有名な、キヴォトスきってのマンモス校だったが、それらは既に過去の話。今では領土の大半が砂に埋もれ、在校生も数えるほどだと聞いている。
そんな場所にこの幼気な文章を書くような人物が向かうというのは、色々と大丈夫なのだろうか。チヨコの頭に、不安が過ぎった。
「……セリナちゃんに経口補水液と日焼け止めクリーム、持っていってもらおっか」
チヨコはモモトークでセリナに追加注文をし、仕事に戻る。
ちなみにこの差し入れがアビドスの廃墟街で遭難した先生を救ったとチヨコが知るのは、だいぶ後のことであった。
***
「そうですか。先生はアビドス砂漠に……」
「干物になってないといいんですけどね~……」
「流石に徒歩で行くことはないでしょう。シャーレにはヘリがあるそうですから」
翌日。
チヨコはナギサの『お茶会』に呼び出され、彼女の出す紅茶を嗜んでいた。
といっても和やかな会合などではない。シャーレの先生が引き起こした爆速事件解決。それによって浮いてしまった救護騎士団への予算をどう始末するかの会議である。
「まぁ……各製薬企業へ出した出費はこの辺りかなぁ。情報のキャッチが遅い地元企業が後々で自爆するかもしれないし、バッファでこの辺りまで確保しておいてもらえれば~」
「そこまでの救済措置を設けるべきですか?」
「これで貴重な薬品一本で回してる工場が潰れたら、トリニティは途方もなく厳重な学園間輸送を毎日やることになりますけど~?」
「……わかりました。なんとかしましょう」
「さっすが~、ナギサ様は話がわかるぅ~!」
とはいえ、医療インフラを握る救護騎士団の予算申請は、割と通りやすい。
それは救護騎士団がめちゃくちゃを言い出さないという強い信頼あってのものではあったが、偏に桐藤ナギサと黄瀬チヨコの間に強い繋がりがあったのも大きかった。
ナギサのかける圧力にチヨコは屈さず適切な回答を返すし、チヨコの笑顔の奥にある真意をナギサは見逃さない。ミネとチヨコのような譲り合う関係でこそないが、ふたりは予算の取り合いという勝負の好敵手として確かな信頼関係を結んでいたのだ。
「それで……互いに困っていることがありますよね?」
「矯正局からもうすぐ届く、30人近くの不良たち~!」
「そうです。あれはどうするんですか? キャンセルはできなくはないですが……」
「まさか。出された希望をやっぱなし~なんて、それこそ『愛がない』ってものでしょ~」
「……そうですね。そういった考えは、嫌いではありません」
チヨコは朗らかに笑いながらも、ナギサの遠回しな気遣いを固辞した。
結果的に不要になったとはいえ、それで人生を左右される囚人たちからすればたまったものではないだろう。吐いた唾は飲めないのだから、きちんと彼女たちの人生を受け止める。それがミネとチヨコで交わした合意であった。
「まぁ、ちゃんと対策はするつもりですよ~」
「というと、具体的には?」
「不良を育てるなら、不良の相手に慣れてる人から学ばないとね~」
とはいえ、チヨコもナギサの考えることは理解している。
チヨコの教育に耐えられず出奔した不良たちが、再び治安を乱さないか警戒しているのだ。
当然、そのくらいはチヨコも想定しており、対策を組んでこの場に立っている。それをナギサに示すため、チヨコは企画書を手渡した。
「この間、話に出した合同演習。あれ、やりましょっか~」
正義実現委員会とティーパーティー、そして救護騎士団を織り交ぜた救護演習。
チヨコはにこやかにその企画提案書を見せびらかした。
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次回は2024/03/14 23:00頃を予定しております
(確定申告作業が残っているので、1日頂戴致します。恐縮ですが、ご理解いただけましたら幸いです)