今回はイチャイチャしたりする回です。
「チヨコさん。この度は合同火力演習をご企画いただき、ありがとうございます」
「い~え~。おいしいおやつ準備してあるから、今日はがんばって~」
「……はい! 頑張りましょうね、ツルギ!」
「…………ああ」
キヴォトスにおいて三大学校と名高きトリニティ総合学園ともなれば、その体育館は4つの組織、その一年生たちを収めて尚余りある広さとなる。
正義実現委員会、ティーパーティー儀仗兵、トリニティ自警団、そして救護騎士団の集まった救護訓練は、「合同火力演習」というキヴォトス特有の文化として、この体育館で執り行われることとなった。
「今回は、制限時間内にすべての応戦側戦力を排除することが目標です」
「このミレニアム製かかしロボには、適切な治療かどうか判定する機能がありま〜す」
「交戦演習の間、かかしロボの回復度合いに応じて応戦側の抵抗力が削がれます」
「……治して、戦え」
合同火力演習。
それはキヴォトス全生徒に参加義務が発生する定期訓練である。
名目上、それは各学園の交流と協調を目的として連邦生徒会が発令するものではあるのだが、「やむを得ない事情」を作って公務を優先する者や、そもそも本気でやりたがらない者も多いというイベントだ。
今回はトリニティ内、ティーパーティーの発令した合同火力演習ということで、ティーパーティーが招待した生徒が参加することができる催しである。
つまり……
「働くだけかと思ったら演習もやんのかよ……」
「ボヤくと懲罰かもしれねえぜ」
「カリカリすんなよ。薬だけ作るよりは、息詰まらなくていいだろ?」
……チヨコがトリニティに来られるよう準備した、矯正局からの囚人たち。
彼女たちも正式に参加することができていたのだ。
ふてぶてしく悪態をつく彼女たちを、生徒たち……特にティーパーティーの儀仗兵たちは怪訝な目で見ているが、招いたチヨコの手前、表立って文句は言わずにいる。
「調子は良さそう~?」
「紅茶臭くてきちい」
「儀仗兵なんぞ久しぶりに見たぜ。あいつらお茶会以外になんかできんのか?」
「ご挨拶ぅ~!」
上司であるチヨコに対しても、囚人生徒たちは恐れを知らずに皮肉を放ち続けた。
囚人生徒たちはトリニティだけでなく、ゲヘナやミレニアム、変わり種ではレッドウィンターなど、様々な出身で構成されている。
「んだよ、怒らねえのか」
「怒るっていうのは、期待の現れだからね」
偏見などは承知の上、それでも自分の自由を勝ち取る為に来た囚人生徒たち。
彼女たちのことを、チヨコはそう悪くは思っていなかった。
チヨコが思ったよりバイタリティと反抗心に満ちた囚人生徒たちは、きっと自らの希望とプライドがあるに違いない。
そう認識したチヨコは、彼女なりに皮肉を返すことにした。
「怒るかどうかは、今回の働き次第。わかった?」
「……いいね。嫌いじゃない」
「離れたくないよ~って泣かせてやるよぉ!」
「はぁい、よろしくよろしく~」
立てられた中指に対し、チヨコは手を振って応えた。
それを見たハスミやツルギ、スズミのような一角の人物は、囚人生徒たちを見る目、その厳しさを和らげた。彼女たちが絆を結ぼうとしていること、それを尊重することとしたのだ。
その中であって尚、穏やかながらも冷たい目を向けるのは――ティーパーティーの一角、桐藤ナギサその人である。
「どうです? 元気そうでしょ~」
「儀仗兵を目指すなら、礼法を学ぶ必要があると伝えてください」
「はぁい、そーしま~す」
ナギサは受け容れる姿勢を見せながらも、現状では自分たちの傍に置くには不適格だと暗に示した。
気まぐれなミカや無関心なセイアと比べれば、ティーパーティーの中では1番温厚で、穏当な措置を取るナギサだが、自身の周囲を脅かす存在に対しては厳しい人物でもある。
チヨコの選択はナギサの心優しい一面と親しい部分があるので強く否定はしないだろうが、それでも囚人生徒たちの資質を疑ってはいるのだろう。
ナギサがそう構える限り、トリニティ総合学園が彼女たちに心開くことはない。ティーパーティーというものにはそれだけの権勢があるのだ。
しかし、それも仕方がないとチヨコは頷いた。彼女たちの首にはまだ、枷がかかっている。それが取り払われて初めて、彼女たちは対等に扱われるのだから。
「ミネさん。3ヶ月の奉仕刑務。妥当に思えますか?」
「それを決めるのは、彼女たち自身です」
しかし、ミネはナギサの疑心に対して真っ向から否定した。
理解していたように、穏やかに目を細めるナギサに対し、ミネは真っ直ぐな眼差しで見つめ返す。
「罪を真に裁くのは己の心。だからこそ反省とは機能するものではありませんか」
「……」
「ですので、この3ヶ月という日数に何の妥当さが見込めるかは、私たちがどれだけ彼女たちに世界と自分を比較する材料を与えられるか、ではないでしょうか」
「……成程。それは確かに道理ですね」
こうしたトリニティの道理に、ミネは一切阿ることがない。
それは本当に良くも悪くも、である。彼女が阿らないことで何かが護られることもあれば、彼女が阿らないことですべてが壊れることもあるのだ。
しかし、ミネが阿らないのは目の前にあるすべてが気に食わないからではなく、ナギサは彼女がそういった態度を取ることを認めているようだった。
「では、貴方は充分に与えられますか?」
「私が不充分でも、チヨコが与えられますとも」
「ふふふっ、チヨコさんは責任重大ですね」
「そーでしょ~? もー大変で大変で~」
「ニヤけてますよね?」
「へへぇ」
思わずと言わんばかりに振られたナギサのツッコミに、チヨコは満面の笑みで返した。
チヨコは無茶であれば止めこそするものの、ミネに任せられるのが大好きだったのだ。
それも全幅の信頼のもと割り振られた仕事である。チヨコの尻尾がもう少し長ければ、今頃全力で振られていたに違いなかった。
「さーさー、やってこやってこ! 救護騎士団、ふぁいと~!」
「ううん、ああいう忠犬ならぬ忠うさは惹かれますね」
「あげませんよ!?」
「貴方のモノだったんですか!?」
ミネは引き抜きを危惧し真っ青になり、ナギサは密やかに爛れていた救護騎士団の真実(真実ではない)に真っ赤となる。
上機嫌で監督に戻るチヨコの預かり知らないまま、勘違いは進んでいった。
「……ふ、風紀が、乱れている……!」
「風紀の乱れ? 対応しますか?」
「いえ、スズミさんは対応しなくて大丈夫です。ただの勘違いなので放っておきましょう」
困惑する周囲の中で、ハスミだけが冷静に切り捨てた。
トリニティのお歴々は騒がしい面倒事ばかり起こすと、彼女はよく知っていたのだ。
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次回は2024/03/16 23:00頃を予定しております