救護の手にクリームを   作:救急パックA

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そういえばトリニティの諜報組織ってどうなんでしょうね
シスターフッドがその手の業務に詳しいとは聞きますが、ティーパーティーと一枚岩ではないわけですし……
情報があれば感想にてお寄せください


仮装と作戦

 

「権謀術策渦巻く乙女の政治劇場トリニティ総合学園。

 今宵も茶会を悩ませる、無理難題が煙突の煙が如く立ち並っていた。

 

『銀の一匙をサンクトゥスのティーカップに』

 

 政治劇場の支配人、ナギサが茶会を通して命じる。

 それに呼応するのは、四人の生徒たち。

 

『黒壁騎士シハル』

『弾丸織りのエレ』

『跳躍する銃砲、マル』

『戦闘調香チヨコ』

 

 偽善を疑い邪悪を断つ、ティーパーティーの毒を知らせる『銀の一匙』。

 トリニティの都に潜む埋伏の毒を、茶会に溺れる憐れな隣人を、その一匙ですくい取れ!

 疑え、銀の一匙! 戦え、銀の一匙!

「ひぇえ、カンペもなにもないのに一息で……!」

「おい、こいつふざけてんのか???」

「ふざけてなければ正気ではないんですのよ???」

「まあ楽しもうとしてくれるのは嬉しい限りですが……」

 

熱弁するチヨコに、呆れ果てる銀の一匙の面々とその女主人。しかしその装いは、チヨコのおふざけに則った新しいものとなっていた。

紳士服に身を包み、髪を結い上げたナギサはティーパーティーの主人として堂々たる風格を見せ、それに付き従う『銀の一匙』の面々も、あたかも男装の如く見せている。

この装い新たな一幕にティーパーティー儀仗兵たちは喜悦の悲鳴を上げており、是非是非こちらもと、主人の新たな一面を拝もうと試みていた。ここはまさにイケメンパラダイスである。

 

「チヨコさん。これは極秘任務で、目立つわけにはいかないと……」

「ハハハやだなぁナギサ様。わかってますよそのくらい。はーい目線くださーい」

ひゃい……ちーじゅ……!

「物証撮ンなっつーんだよ」

「まさかこの女、ブロマイドくじの景品にするつもりじゃありませんの?」

「へへぇ……そんなまさかまさか……」

 

体型を隠すインバネスコートに身を包んだ探偵紳士風のチヨコは、ゲスな笑みを浮かべながら高性能カメラを連写する。

半袖半ズボンをサスペンダーで結ぶ、半べそのマルはそれを見て、蚊の鳴くような悲鳴と共にナギサの腰にしがみつく。が、怜悧な主人に縋る少年じみた姿はなんともフェティッシュな雰囲気を醸し出していた。

勿論その光景も、躊躇いなくチヨコは激写する。宣材の数は多いに越したことはないのだ。

 

「へへぇ……! 売れる、これは絶対に売れるよぉ……! そうだシハルちゃんの言うように、特別お茶会チケットをくじに盛り込んで、歓待とチェキのサービスで出迎えよぉ? そしたらもうマジ爆売れ。ナギサ様は言わずもがな、シハルちゃんはそのパワーでお姫様抱っことかアリだし、エレちゃんはオレサマ系でめちゃメロいし、マルちゃんはキヴォトス全土のお姉様の星になr」

「シハル、カメラを没収しなさい」

「拝命ですわー!! 天誅!!」

ああああ救護騎士団の新たな財源がああああ!!!

「極秘任務だっつってんだろ、利用すんな」

 

儀式用の軍服にかっちりと身を包んだシハルにカメラを取り上げられ、チヨコはごろごろぽよぽよと転がる。

特徴的な縦ロールという癖こそあるが、シハルの長駆はなかなかのものだ。身体もよく鍛え逞しい為、髪型を除けば男装に対する適性は高いと言えよう。

 

「ぐやじいぃい……ぐやじぃいい……!」

「ま、まあ個人所有するくらいなら許して差し上げなくもないですが……」

「ホントマジで縦ロール切れば完璧なのにぃい……!!」

「消しますわ」

ああああー!!

「同情の余地がねーんだわ」

 

のたうちまわる資本主義の兎を白い目で見ながら、エレが肩を竦める。

ホストじみたスーツに修道服を羽織い、髪を後ろに撫でつけた背教的な装いは、不思議とこの不良シスターには似合っていた。

 

「で、どーすんだよこの服。まさかこれでスパイごっこしろってわけじゃねえよな?」

「……非常に悩ましいですが、木を隠すなら森の中とも言います」

 

意外にも、このふざけきった提案を真っ先に呑んだのはナギサだった。

深謀遠慮の瞳が、思案げに揺れる……その先には、当人による餌付けを受けるマルの姿が。

 

「つまり、騒動を起こす際はこの装いをすればいい」

「おい」

「特徴的な装いは、肝心の潜入調査に対する良い目眩ましとなる筈です」

「おい餌付けやめろ」

「能動的に噂を流し、カバーストーリーとして真意を隠せば……」

「やーめろってンだよ餌付けをよォ! チビのほっぺがパンパンじゃねェか!」

ふぁまぁ

 

美少年少女餌付けタイムをガッツリ堪能するナギサを、エレが怒号と共にようやく止めた。

既にマルの頬はリスの如くまるまる膨らんでおり、キャパオーバーを明示していたのだ。

それを見てアリ!と手帳に書き込むチヨコを見咎め、シハルがナシと書き込む。下級生搾取の現場は未然に阻止された。チヨコは泣いた。

 

「というわけで、まずはサンクトゥス分派の調査をお願いします」

「サンクトゥス……セイア様の分派は被害者ではありませんの?」

「内ゲバを疑えってこったろ」

「ええ。セイアさんも決して、分派のすべてを掌握してはいなかったでしょうから」

 

サンクトゥス分派……宗教と数秘を司るトリニティ分派のひとつにして、現ホストの失踪という最も現実的な被害を受けた集団である。

だからこそ、その爪痕を他派閥に抉られぬよう急速に塞がんと動いており、急ぎ調査の必要があった。

 

「後は潜入調査の名目ですが……情報部によると……」

「あ、それは大丈夫〜。こっちに任せて〜」

 

ギャン嘘泣きを終えたチヨコが朗らかな笑顔で資料を取り出す。ミネがトリニティを脱出したあの日、ナギサの意向を聞いたチヨコは、彼女の憂いを迅速に払う秘策を引っ提げていたのだ。

 

「健康診断しよ〜!」

 

それは実に救護騎士団らしく、チヨコらしい合法的強行作戦であった。

 

***

 

「……驚くほどスンナリと通りましたわね」

「救護騎士団はヨハネ分派とはいえ、当代首長のミっちゃんが百合園さんの主治医だったしね~。サンクトゥス分派も無下にはできないよ〜」

 

救護騎士団の検診車両を乗り回し、チヨコは朗らかに笑う。

生徒の定期健康診断も救護騎士団の重要な活動であり、その場合は身長・体重その他様々な数値計測を拒む生徒を拘束する為に、上級生が総出で駆り出されるイベントである。

しかし今回はサンクトゥス分派の大人たちを対象としたものであり、ミネ不在でも敢行可能であると判断した救護騎士団(チヨコの仕業)は、ティーパーティーの実施要請(ナギサの仕業)を請けてサンクトゥス分派に派遣された……というのが大凡の方便だった。

サンクトゥス分派としてはタイミングの悪い案内ではあるが、声高に拒絶することの程ではない……疚しいことがないのならば。

 

「健診ね。随分行ってねェな……」

「ん~? シスターフッドも健康診断は受けてもらってるはずだけど……」

「……知らね。それより、次の段取り確認しようや」

「え、えと。私とエレさんが、先に、おやしきに入って、スマホでいっぱい撮って……」

「私が救護騎士団の監督役しながら、ふたりが見つけたものを精査して~」

「調べている間は、私が警護主任として立ち、用意した偽報で時間を稼ぐ、でしたわね」

 

表向き救護騎士団直々の健康診断である以上、副長であるチヨコがすべて抜けることはできない。それ故に救護騎士団に扮したマルとエレが潜入して探りを入れていくのだ。

業務の傍ら、チヨコはふたりのオペレーター兼情報精査を務め、シハルは健康診断の警護を務めながら、万一の場合は自ら騒ぎを起こして注目を集める、というのが本作戦の概要である。

 

「ごめんね、シハルちゃんはお騒がせ役だから、みんなの信頼を損なうことになってしまうけど……」

「私が信任を得るべきはティーパーティーの御三方であり、それ以外の大人ではございませんわ」

 

意外にも、自らが損を被るポジションであるにも関わらず、シハルは落ち着いた様子でそれを受け容れていた。

この態度にはチヨコは勿論、マルやエレも歓心したようで、彼女の言葉を茶化すことなく耳を傾けている。

 

「ましてこれはティーパーティー直々の御下命。私の名誉をあの御方たちがご存知ならば、事情を知らぬ者たちにどう言われようと、私は何ら堪えなくてよ!!」

「おー、つよい。で、本音は?」

後輩にナメられるとその後がめちゃくちゃしんどいので、できればやらない方向でお願いしたいですわ……ッ!

「切実だなオイ……まあ、アタシらも最終手段にはしてーけどよ」

 

本当に苦しげなシハルの様子には流石に誰も責めるわけにもいかない。

エレは肩をすくめて、シハルへとUSBメモリを手渡した。

 

「こ、これは?」

「監視掌握するマルウェア。コイツを警備室の機械に挿し込めば、チヨコのオペレーションも楽になンだろ」

「違法品じゃーありませんの!? どこでこんなモノを……!」

「作った」

「つくったァー!?」

すごぉい……!

(……十都エレちゃん。シスターフッドのボランティアに参加したことで、彼女たちからの推薦を受けてトリニティに「転校」した不良生徒だって話だけど……?)

 

優秀なコンピュータ・ウィルスが収まったUSBは、さながら本物のスパイ道具だ。

何故そんなものをエレが作れるのか? 謎は深まるばかりだが、今はこれ以上にありがたいものはないと鑑みたチヨコは、敢えて追求を避ける。

 

「じゃ、警備の確認も兼ねて、シハルちゃんはまず警備室にゴーゴー、だね~」

「そうですわね! 黄瀬チヨコ、監視カメラのチェックも頼みますわよ!」

「はいは~い、じゃあそんな感じでヨロシク~」

 

チヨコは作戦会議を打ち切り、検診車両に備え付けた無線機に手をかける。

今回はチヨコたち3年生だけでなく、セリナたち2年生・ハナエたち1年生も別の検診車両で同行しているのだ。

 

「こちら副長。胃胸部検診車問題なく走行中。各車応答ど~ぞ」

『こちら2年鷲見。多目的検診車、各機器異常なし。もうすぐ現着します』

『こ、こちら1年朝顔ハナエです! CT車、発電機の調子が悪いので一時停車! 修理中の先輩に代わって応答してます!』

『こちらMRI検診車、トラックのケツ振りがキツすぎるから徐行運転しまーす』

『こちら採血車。設営完了したけど、先に献血募集始めちゃっていいー?』

「いいよー、サンクトゥス分派には話通ってるから、献血だけ先に始めますって伝えて~」

「……えと。クルマ、前の健康診断より多い……?」

「ああ、今回は大人向けだからね~」

 

生徒たちと同じように、大人たちも銃弾で死なない程度には頑丈だ。しかし加齢には勝てず身体にがたがきたり、不調を来す者がそれなりに多い。

その為、大人の健康診断の場合、導入する車両が多くなっていくのだ。

トリニティ分派の大人たちを健診するのは、今回はセリナたち救護騎士団の2年生。チヨコたちからセリナたちへ、業務引き継ぎを行うことも今回の健康診断の一環であった。

 

「さて、忙しくなるから、なるべく無事故で行こうね~」

 

トラブルはつきもの。そうわかっていても事故はなるべく起きないでくれと祈らざるを得ない。

それは健康診断であっても、潜入調査であっても同じことであった。

 

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