救護の手にクリームを   作:救急パックA

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6分の遅刻、恐縮です。
ハナエちゃんは将来有望ですよね。色々な意味で。


朝顔ハナエと黄瀬チヨコ
アサガオとシャクヤク


 

「お薬について学びたい?」

「はい! おくすりのことを調べて、いっぱい治したいです!」

 

ティーパーティー襲撃事件から一週間ほどのこと。

大量に破壊された常備薬をサンクトゥス派に卸し直す為、しばらく忙しなく働いていたチヨコは、救護班1年生の朝顔ハナエに修業の申し出を受けた。

 

「ミっちゃん、いいの?」

「ええ。救護班と薬事班、互いのありがたみを知る為にも、交流は盛んに行うべきです」

「そういうことなら、手ほどきしましょっかねぇ」

「わーい! よろしくお願いします!」

 

救護騎士団において、救護班と薬事班の人員内訳は8:2といった塩梅である。

それは救護活動に人数が入用というところもあるが、偏に救護班の人気が特に高いことも相まってのことだった。

薬事班は専門性の高い知識が求められ、薬物に関する厳格な安全対策を守る必要がある。

その割に裏方仕事故、感謝される機会は少ないのだ。

それ故、まったり作業に集中だけしていたい系女子にしかウケないのである。トリニティ総合学園有数のニッチ部活動であった。

 

「じゃあまずハナエちゃんが、どれだけ薬事班のことを知ってるか教えてもらおっかな~」

「ハイ! 美味しいお菓子をいっぱいくれます!」

「うん、事実だから大正解~!」

「甘やかしすぎでは?」

 

明るくハキハキ大暴投をかましたハナエに対し、チヨコはにっこにこの笑顔で花丸を渡す。

朝顔ハナエはこのように幼く、純粋で、疑いを知らず、ありのままを最大限楽しむ才覚に満ち溢れた少女である。

その為、どれだけ厳しい看護でも花丸満点の笑顔で患者に接することができ、ミネからもその笑顔は太鼓判を捺されていた。

ちなみにおっぱいはとても大きい。しかしチヨコと比べればまだ発展途上と言えるだろう。

 

「薬事班でやることは主に3つ。調剤・調製・調達だよぉ」

「ちょーざい・ちょーせー・ちょーたつ?」

「揃える・作る・集める・とも言います。私たちの壊す・救う・治すと同じですね」

「壊すは必須ではなくない?」

 

チヨコはホワイトボードを持ち出し、ひとつずつ解説をしていくことにした。

丸っこく、しかし読みやすい字を飾るように、カプセルや注射のイラストが添えられていく。

 

「調剤はお薬を揃えることだよぉ。ハナエちゃんが使う救急箱の中身、ぜ~んぶ薬事班が用意してるの~」

「えぇっ!? いつも10箱くらい使ってますよ!?」

「救護騎士団が一日に使っているのは、平均して36箱程度ですね」

「多い日は100箱分くらいはどーんといくねぇ」

「そんなに」

「そんなに~。だから、これは薬事班なら1年生から3年生まで毎日やる、メインの業務だねぇ」

 

買い揃えた医薬品を処方箋や救急箱に詰める。これが薬事班の主な業務である。

基本的に下級生は渡されたメモどおりに薬を詰めるだけだが、上級生は適切な計量や不適切な医薬品が入っていないか確認する処方箋監査が求められる。

誤った薬を詰めるのは医療事故の元なので、神経を使う作業のひとつだ。

 

「じゃあちょっとやってみよっか。並べたお薬を、言われた順番で箱に詰めてね」

「はい!」

「まず消毒液。黒っぽい瓶と赤い蓋のやつね」

「これですね、いつも使います!」

「それをビニール袋に入れたら、次は軟膏。鳩が彫刻された缶ねー」

「これも手榴弾で吹き飛んだ人によく使います!」

 

チヨコに言われたとおり、ハナエは大事そうに薬のひとつひとつを救急箱に詰めていく。

ひとつひとつを指示する度に、ハナエはそれを何に使ったかを解説してくれた。

初めて救急箱の調剤をする生徒は薬の知識と実際の外見が結びつかずにわたわたと慌てるものだが、ハナエは救護班でちゃんとした経験を積めており、経験を外見と結びつけることに成功させているのだろう、とチヨコは考える。

純粋無垢だが、医療の心得は確かに積めているようだと、チヨコはこっそりとミネに花丸サインを見せた。

 

「なんだか、パズルみたいで楽しいです!」

「そーぉ? じゃ、これからはたまに手伝ってもらおっかなぁ」

「はい! いつでもお手伝いしますよ!」

「チヨコ、日に配置薬の販売分含め300箱は詰めると伝えないのですか」

「さんびゃく」

「ミっちゃん、今日はサンクトゥスが大量注文したからノルマ500箱だよ」

「ごひゃく」

「手伝って?」

「「はい!」」

 

有無を言わさぬチヨコの笑顔に、ハナエとミネは返事よく作業にかかった。

よくよく見れば薬事班の面々は全員黙々と複雑な作業をこなしており、救急箱に薬を詰めているのはチヨコを除けば殆どが救護班で手隙のものである。

もしかしたらヤバい時に声をかけちゃったかもしれない。

団長としての責任感から伴う痛みがミネの胃袋を襲うが、彼女の胃袋は鋼鉄製なので調剤に何も問題はなかった。

 

「次は調製ね~。これは薬そのものを作る作業だよぉ」

「おお! 薬事班っぽいやつ!」

「でもこれはハナエちゃんはまだできませ~ん」

「えー!? 私もおくすりまぜまぜしたいです!」

「ハナエ」

「だ、団長!」

「私はおくすりまぜまぜができます」

「団長ぉー!!」

「うん。資格がいるからね、調製。長期休みの間に講習受けて取ってね?」

 

渾身のドヤ顔を見せるミネに、ハナエが裏切られたように叫ぶ。

患者の状態や症状に応じ、特定の医薬品を混交する作業、これを調製と呼ぶ。

調製はミスがとんでもない健康害を生んでしまう……場合によってはヘイローを破壊するリスクさえあるので、販売品の調製は資格取得が義務化されている。

他校……山海経高級中学校などではこれに違反した生徒が矯正局に収監されたとまで聞く為、チヨコもハナエに試させる真似はしなかった。

 

「調製はこうやって、お薬Aとお薬Bを混ぜてお薬Cを作る、みたいなことを繰り返すよ~」

「おー……団長、すごいです! 副長、全然手が震えてないですよ!」

「チヨコはナノリットル単位で調製しますからね。機械より正確な手作業ができるんですよ」

「ナノリットル単位の仕事はあんまりしたくな~い」

 

極小サイズの投薬の為、そういった仕事をすることもあるが、そんな細かい仕事なら機械に任せたい、というのがチヨコの本音である。

しかしそういった作業を可能とするミレニアムの調製機は目が飛び出るほど高い為、専らチヨコや最上級生の仕事であった。

 

「最後に、調達なんだけど……ねー! 何か足りなくなってなーいー!?」

「消毒液と包帯が残り4ダース! 消費予定21ダース!」

「わかったー! 買ってくるから残り全部詰めちゃってー!」

 

チヨコが薬事班のひとりに声をかければ、当然のように薬事班の生徒が薬品庫も見ずに在庫を言い当てる。

ハナエがぽかんとする中で、チヨコは鍵棚から車の鍵を出して笑った。

 

「じゃ、お買い物行こっかぁ!」

 

調達は医薬品の購入と、資金の確保である。

チヨコが担う中で、最も重要な仕事だった。




お読み頂きありがとうございます。
次回は2024/02/17 23:00頃の予定です
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